起床
三題噺もどき―ろっぴゃくろくじゅうご。
※吸血鬼さんは、味噌汁にパンという組み合わせが美味しいことは知ってるけど、ご飯派なので味噌汁にご飯の方が好き。蝙蝠くんはパン派。※
すこし重たい体を起こし、瞼をこする。
ピタリと閉じられた遮光カーテンは、外からの光を完全に遮る。
まだ明るいはずの外からは想像がつかないくらい真っ暗な部屋の中で、壁にかけられた時計を見やる。
「……」
体内時計というのは時に恐ろしく感じる。
うるさいのは苦手なので、アラームというものを使っていないのだが。
大抵こうして決まった時間に目が覚めるのは、体が“そう”設定されているからだろう。
まぁ、たまには寝過ごしたりすることもあるが、それは前日の自分の行いの結果だ。
「……くぁ」
思わず漏れたあくびを噛み殺しきれずに、口を開く。
そこから覗く鋭い犬歯は、私にとっては見慣れたものだが、人間が見たら驚くかもしれない。
まぁ見られることはそうそうないが、子どもなんかはよく気付く。大人よりも敏感なのだろう。色々と。
「……」
天井から下げられた鳥籠の中は、当然のように空っぽだ。
きっともう朝食の準備でもしているんだろう。
よくできた従者である。この時間の陽光は苦手だろうに、主人より早く起きて朝食の用意をして……私の頭が上がらないのは当然だ。主人ではあるがな。
「……」
アイツはそれなりに色々とできはするから、感心するよなぁ。
しないだけであって、私よりはかなり器用で優秀なので、家事と仕事の二刀流というものも出来ると思うのだけど……疲れるからしないのだと。仕事も家事もしている母親は凄いとたまに言っている。
まぁ、私の世話が己の仕事だと言う時はあるから、ある意味仕事はしている。そう考えると本当に母親というモノは凄いのだと思う。私のは除いてだが。
「……」
私も別に料理や家事が全くできないわけではないのだが、やろうとすると仕事を取るなという目で見られるのでやらないようにしている。私は私の仕事しかしない。
正直言うとたまに料理をしたくなる時があるにはあるのだが、まぁ、そのタイミングも最近はないし、動くなら休めと言われるので大人しくしているのだ。
「ふぁ―……」
またひとつ、あくびが漏れる。
ついでに、掌を交差させて、天井に向けて伸ばす。
ぐ―と、力を入れると背中が一気に伸びたような気がして心地がいい。
もう少しいい布団にした方がいいのか……たまに寝て起きたのに体が痛むことがあるのだ。何がよくないのか分からないが。
「……」
未だに布団の中に入っていた足を引っ張りだし、勢いそのまま床に置く。
ここ最近は寝苦しい日々が続き、パジャマも夏仕様になっている。
着やすさを重視した短パンに、寝る時だけではあるが半袖を着ている。
風呂上りは冷えるといけないと言われて、薄手の長そでのTシャツである。
「……」
よく見れば太もものあたりに短パンの裾の跡が残っていた。
気づかなかったがそれなりに暴れたのか、布団の上はかなり荒れている。
今日は久しぶりによく寝たつもりではあったが、寝苦しかったのか、それとも変な夢でも見たのか。まぁ、きっと暑かったのだろう。
寝具ももう夏仕様にした方がしいのだろうか……悩みどころではある。
一応、シーツだけは夏用に変えたんだが、あまり変わらないか。
「……」
まぁそのあたりは今後の天気やアイツと相談しながら決めればいいだろう。
どうやら、このまま暑くなりそうな感じだし、雨が降ったりすれば変わるかもしれないが、それも多少という所だろう。
あぁ、でも梅雨時期は昨年どうしていたかな……覚えていない。
「……」
まぁ、いいか。
それもこれも。
とりあえずは、動くことにしよう。
「……」
外からは小さな足音や笑い声が聞こえる。
リビングの方からは、何かの調理音。
―つられて、くぅと小さく腹が鳴いた。
「……」
今日の朝食は何だろうか。
その前に、外の様子でも眺めに行こう。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「朝食は味噌汁と、パンかご飯どちらにしますか」
「選べるのか、珍しい」
「……パンにしておきますね」
「ご飯にしてくれ」
お題:太もも・二刀流・夢