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迷い

 ヒルデの帰還後、誰が決めた訳でもなく、都市を挙げた宴が始まり、一昼夜の間人々は大いに騒ぎ飲み明かすこととなった。

 そしてその翌日、ようやく一息ついたヒルデは執務室にラルフを呼び寄せた。

「お前の仕業だな」

 ラルフはにやけ面で「何がだ?」と問い返す。

「昨日の盛り上がりようのことだ。目を疑ったぞ。何も得られなかった戦いにあれほど人が熱狂するのは異常だ」

「あまり自分を卑下するものではないぞ、我が主よ。あの熱量は紛れもなく我が主の活躍あってのものだ。俺のやったことと言えば、主人の奮闘を少し熱く語ったくらいだ。皆、食い入るように聞いていたものだ。――そうだ。昨日の吟遊詩人はどうだった?本人は自信作だと息巻いていたが」

 ヒルデは頭痛でもするかのように頭を抑えた。

「あれはお前か……。聞いていて、鳥肌が立ったぞ。美化され過ぎだ。口を閉ざしたい気持ちを抑えるのにどれだけ苦労したか」

「くっく。あの時のお前の顔は見物だった。しかし、仕方あるまい。面白いものというのは得てして真実を誇張したものだ。むしろ、今後のことを思えば望むところではないか?」

 するとヒルデは拗ねたように小声で反論する。

「……聖女クラウディアは言い過ぎだ。聖女なんて柄じゃない」

「なら女神にでもなるか?」

 そのからかいにヒルデは答えず不機嫌な顔で黙殺した。

 その後、ヒルデは先の戦いについての話題に移した。粗方事情を話したヒルデは最後に尋ねた。

「どう思う?」

「悪くない結末だろう」

 ラルフの答えは簡潔だった。

「その理由は?」

「逆に言えば、少ない軍勢でこれほどの成果はないと思うがな。過去の聖戦の成功例は数えるほどしかない。戦う以前に失敗することもあったくらいだ。むしろこれ以上は欲をかき過ぎというものだ」

 それ以外にあるか、と言わんばかりにラルフは不思議そうな目で見返した。しかし、当のヒルデは考えるようなそぶりで口元に手を当てる。

「どうした?」

 そうラルフが問うと、ヒルデは首を横に振って、

「いや、なにも。お前の言う通りだ」

 と言った。意味深に話題を振っておきながらあっさりしたもので、それで話は終わりとなった。

 部屋から出た後ラルフは独りごちた。

「確かめたかった、というところかな」

 今回の結果が間違いでなかったのか。もっと言えば、自身が下した決断や選択に間違いがなかったのか、である。

 ラルフの答えは先にヒルデに伝えた通りである。足を引っ張る味方がいて、少ない手勢の中であれだけの戦果を出せたのは奇跡と言っていい。それは本人も分かっているのだろう。だから素直に頷いた。

 だが、それでも聞いた理由は――

「その優しさゆえ、か。名も知れぬ兵士の犠牲を想うとは今どきの貴族らしくもない」

 口にして、今更なことだと口元を緩める。だからこそ忠誠を誓ったのだ。

「いい迷い方だな」

 戦争は当たり前だが、犠牲を伴うものだ。そしてその犠牲の多くは民であり、兵士である。その犠牲を積み重ね、最後に立っていた者が勝者となるのである。

 それを忘れ、目先の勝利に喜ぶような人間は次の戦を安易に望み、そして更なる犠牲を必要以上に生み出し、やがてその犠牲の多さに耐えかねて自滅する。

 戦の天才が起こす勝利の数々は美酒にも似ている。勝利の酔いが節度を失わせるのである。

 その点、民や兵の犠牲を忘れず、そして厭う気持ちがあるヒルデにはその手の心配はしなくてもよさそうだ。そのようにラルフは安心した。

 だが、一方ラルフはこうも思った。ヒルデの目指す先は絶対に戦いを避けては通れない。戦争の犠牲を嫌いながらもしかし、それを使わなくてはならない。彼女の優しさから生じる戦争への罪悪感はこの先ずっと付き合うことになるのだろう、と。

間違えて次の話を投稿してしまいましたのでまとめて割り込みします…

すみません

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