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帰路③

「申し訳ありません。逃がしました」

 ヒルデたちが襲われた場所から少し離れた見晴らしの良い広場。フードを目深に被った男が恐懼して己の失態を報告した。

 数十人ものならず者を集めたにもかかわらずたった七人にいいようにあしらわれ、取り逃がしたばかりかこちらの被害は甚大。フードの男は顔を青ざめさせながら、主の反応を待った。

 報告を受けた主――フランツ・バイエルン伯爵が、陰気な顔を僅かにしかめた。だが、分かりやすい表情の動きはそれだけだった。

 事務的な口調で「ならば、仕方ない。撤収するとしよう」と言う。

 あまりにあっさりとした言いようにフードの男が目を見張らせた。バイエルン伯が続けて言った。

「今回の件について報告をまとめておけ。どんな情報も漏らさぬようにな」

 そう言ってバイエルン伯は背を向けた。それ以上問わぬ、ということでもあった。

 フードの男は驚いたものの、すぐに撤収の準備を始めた。下手に反応して、主人の気が変われば一大事である。

 バイエルン伯の傍に控えていた家臣の一人が主に尋ねた。

「よろしいのでしょうか。失敗に終わってしまいましたが……」

 ただ失敗に終わらせていいのか。そう言いたげな家臣にバイエルン伯は億劫そうな目を向けた。

「待ち伏せていた場所には現れなかったのだ。仕方あるまい。むしろ接触があっただけまだよかったというものだ。――それに今はヒルデ・シューマッハの力を確かめることが第一だ。殺せればそれに越したことはなかったが、どうしてもというほどでもない」

 不思議なことを言う。殺すために賊をあれだけ手配しておきながら、力を確かめるためとは一体なにか。まさかヒルデの剣技のほどを知りたいわけでもないだろう。家臣は尋ね返した。

「というと?」

「ペーター・シューマッハ殺害の件の裏にあるのは何か。ヒルデを助力した者が何者か。それが知りたい。五年間ろくに人と交わらなかったヒルデ・シューマッハが独力で成し遂げるには不可解な点があまりに多いからな……」

 独り言めいたことを言って、バイエルン伯は先を行った。

 なおも聞きたげな顔をした家臣だったが、それ以上は聞くな、という無言の言葉を発するバイエルン伯に質問を諦めた。

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