思い出
行ってくる、と父は言った。どこかと言えば、王都である。そこで戦勝記念パーティーが行われるのだ。主賓は父だった。
大貴族であり不敗の名将として世界に名を馳せていた父は先だっての戦いでも見事に勝利を収めて見せた。その名将の輝かしい勝利の数々に対して、改めて何か特別な形で報いるべきではないか。そういった声もあり、王は父を労うため家族も招待して大々的に式典を執り行うことを決めたのである。
ただ、間の悪いことに出発の前日に私は風邪をひいてしまった。無理矢理一緒について行こうとしたのだが、当然家族に反対され、結局大人しく留守番する他なかった。
恨みがましく睨むと父は私の髪を優しく撫でて仕方ないと宥めた。帰りに何か土産を買ってこようと慰める。
そんなものどうでもいい、と小声で言い返すと、父は困った顔をした。それが少しおかしくて笑おうとすると、思わずむせて咳き込んでしまう。
すると、母が背をさすって、気づかわし気な顔で言った。すぐに戻ってくからゆっくり休むのよ。
心配し過ぎだと言うと、母は首を振った。あなたはいつも嘘をつく、熱があっても平気だと無理ばかりするじゃない、と私を咎めた。図星だったので言い返せず、押し黙るしかなかった。
母は、本当のことを言うと残りたかったのだけど、とやはり心配そうな顔で言う。王の招待を欠席しては非礼でしょう、と私が答えると、子供らしくないことばかり言って、と呆れたように笑った。
最後に二歳年下の弟がいつもの人懐っこい笑顔で、行ってくるねと手を振った。私も手を振り返し、恥じぬよう振る舞いには気を付けろよと姉として注意をした。真面目な弟は素直に頷いた。
屋敷から遠ざかっていく三人を窓から見送る。ただ羨ましくて、しかし気にし過ぎるのも何となく癪で私はカーテンを閉めたのだった。
初投稿です。テンポ遅めですが、良かったらご覧ください。(戦争が始まるのは大分後です)
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