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 辺境伯夫人 アネット様へ

 

 この度は式に出席も出来ず、満月の往診にも参れず、誠に申し訳ない。

 老体にシュトガルは遠すぎるという訳では決してありません。

 王立医術院の知り合いから、月酔(つきよい)病の原因が分かったかもしれない、との火急の知らせがあり、仕方なく王都に行っておりました。王都には旧友も多いゆえ、毎晩食事に誘われまして、中々帰れなかったという次第。

 しかし、満月の往診をサボっ……残念ながら見送ったのは、怠惰からではありません。

 月酔病の原因と治療法が、驚くべきものだったからです。

 いや、盲点でございました。

 まさか満月の夜にむけて、血液がどんどんと過多になっていく病だとは。治療法としては、瀉血(しゃけつ)。つまり血を抜くことになりますね。

 じゃんじゃん抜いてもらって構いません。

 さて、何はとは言いませんが、ご夫婦は仲良く過ごされておりますでしょうか。

 どうも噂によると、シュトガル辺境伯は吸血鬼だそうですが、はは、まさかそんなことはありませんよね。

 庶民というものは、全く迷信ばかり信じよります。

 もし、次の往診が必要ないくらいにアネット様が回復していらしたとしたら、それはきっと新婚でお幸せだからでしょうな。決して、辺境伯が吸血鬼なのではないかとは、申しておりませんぞ。

 万が一、次の満月の往診は不要だということでしたら、遠慮なくお知らせ下さいませ。なんせ老体を引きずってシュトガルまで赴くのは、中々に骨ですからな。


 優秀な友達を持つ、平凡な医師より


 



「~~~~~~‼ あの医者~~~~~‼」


 新月の夜、書斎のソファで手紙を読んでいたアネットは、怒りに全身を震わせていた。

 手紙を破り捨てかねない勢いだ。

 

「アネット、どうした? なにか困ったことが?」


 書き物机で帳面に目を通していたルーカスが、顔を上げてアネットに声を掛ける。

 

「ああルーカス。大丈夫よ。ちょっと怒りで血が煮えたぎりそうになっただけよ」


「へえ、飲んであげようか?」


「いえ、結構。今日は月に酔う夜じゃないもの」

 

「そうか……」

 

 そう言ってアネットは立ち上がり、手紙をくず入れに捨てる。

 それから、少し拗ねた様子のルーカスの元に歩いていくと、その耳元で囁いた。


「一番おいしい満月の夜に、たくさん飲んでちょうだい」


 と。


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