表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/57

お出掛け



「魔獣が多い....ですか?」


本邸に呼ばれた私たちは、グレフルール公爵とともに、アーサーからの報告を受けていた。


「ああ。原因は分かっていないんだが、騎士団の被害も倍以上だ。今までにも、魔獣の討伐数の増減はあったが、ここまでではなかった」


アーサーが私を見る。


「量産は出来ないと聞いているが、あのお茶を可能な量、騎士団に卸して貰うことは出来ないだろうか」


分かっている。公爵邸にお世話になっている身で、断ることなんて出来ないってことは。それに、役に立つなら協力したい気持ちも、勿論ある。だけど.....ポーションに関する利権絡みの揉め事が起きそうなんだよー。怖いよー。

話を黙って聞いていた奏多が、口を開いた。



「商会を作るので、出資して貰ってもいいですか?」

「...そうか。そうだな、分かった。出資しよう」


ポーション市場にケンカを売る事になる、私のお茶を守る...というより私を守るため、商会を作りたいと奏多は言った。グレフルール公爵家から、野草茶が卸されてるというよりも、グレフルール公爵家が後ろにいる商会から販売された方が、公爵家にも利点はある。


公爵と話し込む奏多。どうやら、商会を作る方向で話を調節している。私は、少し冷めてしまった紅茶を飲むと、アーサーに言った。


「傷薬、体力回復、魔力回復、状態異常解除。この効能があるお茶は分かっているんですけど、どの程度、効果があるのかが分からないです。それと、原料になる野草を育てないといけないので、もう一度、あの森に行きたいです。あ、他に野草がいっぱい生えてそうなところがあるなら、そっちでもいいんですが......」


アーサーは、目を見開いたまま、私を凝視していた。


「あの.....?」

「君たちは...いや、なんでもない」

「?」





次の日、私と奏多はこの世界に来てから、初めてのお出掛けをした。馬車を貸してくれると言ったが、公爵家の紋章が付いた馬車なんて目立つことこの上ないので、謹んで辞退した。しかし、中心街まで歩いていくには、時間がかかりすぎるというので、護衛の方に、乗り合い馬車の乗り場まで、馬に乗せて貰うことになった。



初お馬さん。高くて怖かった。



商業ギルドで商会登録をして、店舗を探す。十歳でもギルドに登録は出来るようだが、店舗を購入する手続きには保証人が必要になるため、公爵邸で執事見習いをしている、エリオさんにお願いした。

これから、候補の店舗を三軒ほど見ていくようだ。


買い物でもしていたら?と言う奏多に、私は首を横に振る。公爵邸で離れた場所にいるのは平気だったけれど、街中で奏多と離れるのは、まだ怖かった。



「おいで」

と奏多の差し出す手を、ギュッと握った。



「お茶なんだけど、メイドのリーナさんに淹れて貰っても、効果が出たよ」

「葵が淹れなきゃ効果が出ないってなったら売り出せないもんな」

「奏多兄が淹れても効果は一緒かな?」

「祈りっていう追加効果は、聖属性だからじゃないか?」

「闇属性効果、ありそうじゃない?」

「呪いのお茶とか?」


クスクス笑いながら歩く。

店舗は三軒とも、馬車の入れない、場所にあるようだ。

真ん中に大きな噴水。そこから放射状に四本の道が通っていて、道と道の間は、色々なお店が軒を連ねている。ハンギングバスケットや鉢植えで花が植えてあり、とても華やかだ。

噴水の周りでは人々が思い思いに過ごしている。走り回る子供たち。ベンチで本を読んでいる老婦人。噴水に腰かけている子。見回りをしている騎士。治安は悪く無さそうだ。

一軒は噴水の周りにあり、他二軒は放射状に伸びた道にある。


奏多は、広場から北側に伸びた道の、広場から二軒目にある店を選んだ。以前は飲食店だったようで、テラスもあった。一階は店舗と水回りと個室が二つ。二階は仕切りのないワンルーム。三階は個室が二つとバルコニーがあった。



「お茶は、騎士団に卸すだけじゃないの?」

ここに商会を作るとしたら、間違いなくカフェがメインになりそうな間取りだ。

「認知度を上げた方が、手が出しにくくなるからな」

「あ。確かに、秘密裏に消しづらくなるかも」


契約書を交わし、内装に手を入れるため工事の依頼をし終わると、大分時間が過ぎていた。

お腹が空いてきたので、商会予定地の近くのお店を、見て歩くことにした。


公爵邸で食べるご飯は、美味しいんだけれど、舌が肥えた日本人には少し物足りないという、テンプレ状態で、やっぱりそろそろ日本食が欲しいな。


「屋台で買ってみるか」


奏多の目が光る。分かる。分かるよ。ジャンクフードが食べたいよね。目指せB級グルメ!


噴水の周りににある広場に出ている屋台を廻る。

奏多兄のお気に入りは串焼き肉。味が濃くて美味しい。なんのお肉なんだろう。

私はピタパンサンドみたいな料理。野菜がいっぱいで美味しい。

食べ歩きしながら、周りを調査。


噴水から、西側に通る道は、職人町みたいな感じ。家具が売っている店もある!後で覗いてみよう。

南側に通る道は食べ物屋さんが沢山ある!どんな食材があるか見てみたいな。

東側に通る道は、宿屋が立ち並んでいた。宿屋でお酒を飲むのが一般的みたいだから、夜は近寄らないようにしよう...。

そして我らが北側は、服飾関係が多い通りだった。おばあちゃんがレース編み得意だったから、私もそれなりに出来る。材料があるか、また見てみよう。


噴水広場のベンチに座り、周りをよく見ると、貧富の差に気づく。ボロボロの服を着て座っている子供。

イメルバに出会えた私たちは、幸運だったのだろう。


視界の中で、走っていて転んだ子供が泣き出した。とっさに走って近づき、立たせてあげる。今の私と同じくらいの背丈の子だ。


「ぐすっ。ありがとう」

「怪我してない?」

「うん。だいじょうぶ...痛っ」


足踏みをしようとした少女は、足首を押さえてうずくまる。


「ひねったのかな?そこのベンチに座って冷やそう」

「それより家がすぐそこだから、家まで手を貸してくれる?」

「うん。分かった。ちょっと待って。兄に支えて貰った方がいいから呼ぶね」


そう言って、少し離れた場所でエリオさんと話してる兄を見ると、こちらを見て笑って手を振ってくれた。


「お兄さん、話してるみたいだし、すぐそこの角の家だから、あなたが連れていってくれる?」

「う、うん。分かった」

強引に話を進める彼女にびっくりしたけど、奏多の目が届くところだからと、聞き入れる。

彼女の腕を支え歩き出そうとしたとき、左手首をグッと掴まれた。


「え?」


振り向くと、ずっと噴水に腰かけていた子がいた。



「いっちゃダメ」



そう言って見つめる目は、片側だけ青かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ