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魔法のある世界


赤い炎がゆらゆら揺れる。



第一異世界人、発見!

と、テンションを上げる暇もなく、びしょ濡れの美女をあられもない姿にしてから、兄曰く、センスのまるでないシャツを着せて、暖まった軍服を腰に掛けて、今に至る。

美女の着ていた衣服は、焚き火にいちばん近い木の枝に、力いっぱい絞って干してある。ごめんなさい。多分もうドレスとしては再起不能な気がします。

私も着替えろと言われたけど、私用のセンスのないシャツは、美女に更に掛けてある。

奏多は近くで薪になりそうな木を拾ってくると言って、森の中に行ってしまった。

私は、湿った服が肌にまとわりつく不快感に襲われながら、ボーッと揺れる炎を見ていた。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。

今日の自分を思い出して、ハッとする。



「そうだ!あの本は?」



知らない場所にやってくるキッカケになったと言っても過言ではない、奏多兄から取り上げた本!

ガサゴソとバッグを探す。



「あった!.....は?」



今日の私のバッグには、本は一冊しか入っていないはずだ。でも取り出したその本の表紙は真っ白だった。



「....うん。落ち着け私」



もう一度カバンを探るが、やはり他に本はない。膝の上に置いた真っ白い本をもう一度見る。



「やっぱり白いーーーーーーー」



読書家の性なのか、異世界転移をしても「自分の身に起こるとは!」とは思うものの、どの物語に近いんだろうとか、どういう使命があって連れて来られたんだろうとか、どこか現実ではない、本の世界に浸ってるときと、そう変わりないように感じている自分がいた。



「キッカケが本だったなら、あの物語の中に入ってしまったのかとも思ったんだけどな...」



と、ふと呟いた自分の言葉に「それだ!」と思い付く。

本の世界に入ってしまったから、本が真っ白になったんじゃない?これから起こることが書いてある本なんて、実在したら困るもん。この仮説はきっとあってる。



「葵、寒くない?」



そう言いながら、大きめの枝を数本抱えた奏多が戻ってくる。



「奏多兄、ここがどこだか分かったかも!」

「え?」

「見て!この本」



奏多に白い本を見せながら、先ほど考えた仮説を奏多に話す。



「うん。そういう可能性もあるなぁ。じゃあ、俺たちみたいな銀髪の子供とか登場したのか?」

「!....それはしてない....」

「うーん。本の中には入ったけど、聖女のストーリーとは関係ないのか?」

「あ、そういう可能性もあるね」



奏多は、新しい薪をゆらゆら揺れる炎の中に放りこみ、私から白い本を受け取りつつ、私の後ろに私を抱え込むように座った。


「奏多兄、これはラブラブカップルの座り方です」

「葵が大人しく着替えないからです。諦めなさい」


奏多兄の足の間に挟まった私は、奏多兄の体温に包まれて、肌寒かった背中が少しだけ暖まる。

パラパラとページをめくる音と一緒に、どこからか鳥の鳴き声の様なものが聞こえる。




「中も何も書いてないな」



私は本を受け取り、バッグにしまう。


「もし、あの本の世界に入っているのだとしたら、魔法がある世界なんだけど」

「俺らも使える可能性があるってことか」

「どうしよう。チート能力とか持ってたら!」

「どういう魔法が使える世界だったんだ?」


私は思い出す。

良くある、火・水・土・風・聖・闇という属性があって、聖女は「聖」、聖女と結ばれる王子様は「火」というベタな感じだった。基本一人一属性で、王子様は火のレベルが高く、火の上位である炎の魔法も使えるという設定だった。呪文があって唱えていたけど、聖女はイメージだけの無詠唱だった。

魔獣が涌き出てくる扉があって、その扉は聖なる力がないと閉められなくて、聖女は王子と一緒に扉を閉める旅にでる。そんなストーリーだった。


「ステータスは見れないの?」

「聖なる力を持っていると鑑定出来るんだよ。この世界の人は教会で見て貰うんじゃなかったかな」

「鑑定!......ダメか。俺は聖属性じゃなさそうだな」

「あはは。奏多兄は聖属性っぽくないし。聖と闇はものすごく少ないはずだよ」

「葵もやってみろよ。鑑定」

「分かった。.....鑑定!.....え」


目を閉じて、自分の胸に手を当てて、鑑定と唱えた私が、そっと目を見開くと



「アオイ・セト」と書かれたプレートが現れていた。



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