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第一話

 それから月日が経ち、俺はルキウス・ベリルとアリア・ベリルの息子として、またベリル家の跡取りとして勉強と修行の日々を送っていた。


 父さんからはマフィアのこと、レオニードファミリーのことなどを学び、母さんからは礼儀作法を教わっている。


 また父さんの伝手で剣と銃、そして護身術や格闘術の講師から教えを乞うようになっており、中でも僥倖だったのは剣の師匠が前世で言うところの日本……しかも侍がいた頃の日本のような国の出身であった事だ。


 つまり我が剣術の師匠は刀を使い、俺もまた師匠の勧めで刀を使うこととなった。


 その師匠曰く、どうやら俺は刀が刀剣類の中で最も相性が良いらしい。


 確かに師匠が修行用にと渡してくれた刀は驚く程によく手に馴染んでいた。


 また転生してから気づいた事だが、どうやら俺は相当目が良いらしく、他では目視で確認できない程離れた距離を見ることが出来た。


 そのお陰で銃を使う際はスコープ無しで目標を捉えることが出来る。


 その事に銃の師匠が〝ずるいなぁ〟と愚痴ていたのは今でも覚えている。


 よく見えるので格闘術においても相手の動きがよく分かり、避けることに関してはもはや達人レベルだと格闘術の師匠にそう言われたっけ?


 まぁまだ筋力については子供故に心許無いので未だに師匠達に勝ててはいないけどな。


 学業に関しては前世から勉強は割と好きな方だったので苦に感じることなくメキメキと知識を吸収していった。


 知識というのは生きる為の武器にもなり、物事を知っているか否かでこれからの人生に大きく関わってくる。


 あまりにも飲み込みが早いからか父さんと母さんは〝天才だ!〟と喜んでくれていたっけ?


 しかし俺は正直、この〝天才〟という言葉が大嫌いである。


 確かに〝天才〟というのは最上級の褒め言葉であるが、俺としては今までの努力を否定するような言葉としか受け取れなかった。


 俺は天才などでは無い……人一倍、努力をする事を惜しまないだけなのである。


 それに……死に物狂いで努力しなければ、ロゼリアの結末を変えることなど無理に等しいだろうからな。


 そんな日々を過ごしていたある日、不意にロゼリア……ロゼが我が家に訪ねてきた。



「まぁまぁ、これはこれはロゼリアお嬢様!本日はようこそおいでくださいました!」


「こんにちはベリル夫人。リドはいますか?」


「リドなら確か今は剣の修行をしているはずです。呼んできましょうか?」


「その必要は無いよ母さん」



 たまたま休憩時間中だった俺が姿を現すと、ロゼはあからさまに表情を明るくさせながら俺の名を呼んだ。



「リド!」


「こんにちはお嬢。今日はいったいどうなされました?」



 ロゼは一瞬不機嫌そうな顔になるも、直ぐに笑顔を浮かべて訪問の理由を述べ始めた。


 いやいや、皆がいる前ではお嬢と呼ぶことにすると決めたはずなんだが……。



「今日はリドと一緒に遊ぼうと思って♪︎あっ……もしかして難しかった?」


「あ〜……え〜と……」



 俺は訊ねるようにして背後にいた剣の師匠、〝サクヤ・イサナギ〟に顔を向けると、彼女は無言で頷いた。


 サクヤは先程も説明した通り〝ヤマト〟という国から来た女性剣士である。


 女性とは思えぬほどの剣の腕前を持っており、またそのスタイルの良さや美貌から隠れファンが多いという。


 ちなみに母さん以外の女性がいることで父さんと危ない関係に発展するのではないかという疑問が起こったが、父さん曰くそれは無いという。


 というのも昔、父さんから〝絶対に母さんだけは怒らせるな〟と言われた事があり、理由を訊ねてみると過去に一度だけ母さんを怒らせてしまった事があったという。


 その理由とは、まだ父さんが母さんと結婚したての頃に部下達に誘われて娼館へ訪れ、娼婦と一晩を過ごしてしまったらしい。


 それを知った母さんは激怒し、厨房から持ち出してきた包丁で父さんを刺そうとしたという。


 すんでのところで使用人達に抑えられ事なきを得たらしいが、抑えられている間も母さんは〝ルキウスを殺して私も死ぬ!〟と叫び続けていたとか。


 それから一年以上口を利いてくれなくなり、寝室も別々に……半ば別居状態が続いたところで限界を迎えた父さんが謝り倒してようやく許してくれたのだとか。


 それ以降、父さんは母さんに頭が上がらなくなり、母さん以外の女性には目もくれなくなったらしい。


 その話を聞いた俺は当時の父さんを反面教師として、将来結婚した際は浮気はしないと心に誓ったのだった。


 そういうわけで父さんとサクヤが間違いを犯すことは限りなく無いに等しい。


 それにサクヤ自身、かなりの硬派らしくそのような不義は働く気は無いのだとか。


 彼女もまたその話を知っているらしく、当時の父さんの事を〝最低だ〟と言っていたっけ?


 父さんがその言葉に地味に心にダメージを受けていたのも今では良い思い出だ。


 まぁそんなわけで、そのサクヤから許可を得た俺は車椅子を押してロゼと共に散歩へと出かけた。


 ロゼの案内に従い厳しい修行による筋肉痛に耐えながらもロゼの車椅子を押してゆくと、とても見晴らしの良い丘へと辿り着いた。


 吹き流れる風が随分と心地よく、ロゼは車椅子に座りながらその風を受けて気持ちよさそうにしていた。



「ここは私のお気に入りの場所なの。初めてお母様に連れてきて貰った時から好きなのよ」


「なるほど……確かに景色もいいし、何より風が気持ちいい」



 そんな感想を告げると、ロゼは満足そうに笑みを浮かべた。


 それから暫く二人で風に当たっていたのだが、不意にその風が僅かに強くなった。


 もしかしたらこの後、天気が崩れるかもしれないな。



「そろそろ戻るか」


「え〜?もうちょっとだけ駄目?」


「びしょ濡れになりながら帰りたいならどーぞ」


「う〜……それなら仕方ないわね」



 不満そうにするロゼを連れて帰り始めた俺……するとその時、どこからか見られているような感覚が襲い、周囲を見渡してみると茂みに何やら人影のようなものを視界に捉えた。



「……」



 ロゼの従者やうちの使用人ならば、わざわざ茂みに隠れる事など無い。


 俺は徐ろに石を掴むと、それを茂みの方へと向けて全力で投擲した。


 茂みの中から鈍い声が聞こえてきたが、俺は構わず車椅子の持ち手に手をかけると急いでその場から走り出した。



「ちょっ────リド?!」


「すまん、ちょっと飛ばす」



 ガラガラと車椅子を押して走るが、なにせ道が悪い……車輪が小石に乗り上げる度にガタガタと揺れ、ロゼは振り落とされまいと必死にしがみついていた。


 次第に背後から男達の声が聞こえ始め、それは徐々に俺達に近づいていた。



「くそっ……ロゼ!」


「えっ?きゃっ────!!」



 車椅子を捨ててロゼを抱き上げて再度駆け出す。


 車椅子を押すよりは早いがこちらはまだ子供……追いかけてくる男達に距離を詰められていた。


 そして乾いた破裂音の直後に左肩付近に鋭い痛みが襲う。


 どうやら男の一人が銃を撃ち放ったようだ。



「リド!」


「ちょっと静かに……気が散る」



 俺が撃たれた事に気づいたのだろう、心配そうにこちらに声をかけてくるロゼを静かにさせ、俺は構わず屋敷へと向かって走り続けた。


 その間にも男達はこちらへ銃を撃ってくる。


 そのうちの数発が俺の頬や脚を掠めてゆくが、それでも気にせず走り続ける。


 この世界に転生して視覚だけでなく聴覚や嗅覚、味覚、触覚といった五感が強化されているお陰か、弾丸が空気を切り裂く音で弾丸の軌道を予測し、なんとか避けている状況。


 そうしてようやく屋敷の門が見えた事で安心してしまったのか、俺は遂に足に弾丸を受けてしまった。


 痛む足に顔を歪ませながらも門の前へと辿り着き、俺は大声を上げた。



「開けてくれ!!!!」



 その声が聞こえたのか門の扉がゆっくりと開き、そこから一人の人影が勢いよく飛び出す。


 その人影は俺の横を通り過ぎる際、聞き覚えのある声でこう言った。



「よくぞお嬢様を守り抜いた。偉いぞ」



 俺はそのまま通り過ぎてゆく人物に顔を向けることなく小さくこう呟いた。



「頼みます……サクヤ師匠」



 そうして門の内側へと飛び込んだ俺はそのままロゼを抱いたまま倒れ込んだ。


 途中、体勢を変えたのでロゼが地面にぶつかることは避ける事が出来た。



「お嬢様!!」


「途中、やむを得ず車椅子を捨ててきました!お嬢のことよろしくお願いします!」



 駆けつけてきた使用人にロゼを任せ、俺は他の使用人によって部屋へと運ばれる。


 その際にちらりと門の外を見れば、サクヤが追ってきた男達を切り伏せている光景が映っていた。


 彼女に任せておけば後は大丈夫だろう……もしかしたら聴取を行うために一人くらいは生かしておくと思うしな。


 そうして運ばれてゆく中、俺は痛みにより気を失うようにして瞼をゆっくりと閉じたのであった。






 ◆






 私……ロゼリア・レオニードはリドの屋敷に運ばれた後、用意されていた客室にて一人、ベッドに横たわりながらこの屋敷の使用人達に運ばれて行ったリドの事を想っていた。


 リドは誰かに雇われたのだろう追っ手達に撃たれてしまい、彼を診た医師の話では命に別状は無いとの事だった。


 それでも私は心配の余り、今すぐにでも彼のいる部屋へと行きたかった。


 今は動かないこの足が恨めしい。


 その悔しさにベッドの上で歯噛みしていると、コンコンとドアのノック音が鳴り、お母様が部屋へと入ってきた。


 どうやらルキウスから連絡を受けて来たらしい。


 お母様は私の無事を確認すると、ふっと微笑んで身体を起こした私の隣へと座った。



「ルキウスから聞いた……大変だったね」


「私よりもリドが……」


「うんうん。彼にとって君を守ることは当然の事だ。けれどロゼの心配も痛いほど分かる。リドと会ったらちゃんとお礼を言わなくてはね」


「うん……」



 お母様の顔を見て安心したからか、それともお母様の言葉に感動したからなのかは分からないけれど、私の目から涙が零れ落ち始める。



「お母様……私、強くなりたい……リドを守れるくらいに……」


「う〜ん……守るべき相手に守られるのはリドが嫌がりそうだけれどね」


「そうでしょうか?」


「そうだと思うよ?でも、将来このファミリーを背負って立つのならば、部下を守りたいというのは必要な事だとも言える」



 悲しげな表情となっていたのだろう……お母様は私を励ますかのように数回頷きながらそう言っていた。


 しかし、続けて〝けれど〟と繋げてこう話した。



「マフィアの世界は弱肉強食……まさに〝殺るか殺られるか〟の世界だ。力さえあれば良いという訳では無い。今、自分が持っている力をどう上手く使うかが大切になってくるんだ」


「どう上手く使うか……ですか」


「そう。力を持て余せば要らぬ損害を生み、かといって力がなければ何かを成すことなんて出来ない。今、自分には何が出来るのか?何かをした事によってどのような結果を生むのか?常にそれを考え続けなければならない。それがボスというものだ」



 お母様はそう言って私の頭を優しく撫でてくれた。



「さて……リドは既に目覚めているから、顔を見に行こうか?」


「はい!」



 私は元気よく返事をする。


 するとお母様が手を鳴らし、セラが車椅子を押して部屋へと入ってきた。



「一緒に行きたいのは山々なんだが、私は少し用事がある。一人で大丈夫かい?」


「大丈夫です!」



 そんな私の返事に安心したのか、お母様は後のことをセラに任せて先に部屋から出ていった。


 私はセラに手伝って貰って車椅子へと座ると、リドがいる部屋へと向かうのだった。


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