08王国の思惑
エティーさんに来てもらい、王国の動きを聞くことにした。
とはいえ、王国への義理もあるでしょうから、話したくないことは話さなくて結構です。
エティー「どこまで話すかで忠誠心を試す・・と言ったところですか?」
???
雫「瑪瑙はそんな器用なことできないから安心してよいぞ。言葉通りだ。」
エティー「そうですか・・とはいえ、軍人など駒でしかありませんので詳しいことはわかりませんが・・」
エティー「王国の方針としては、謀反と反乱に分け、まずは反乱を叩くというのが私の聞かされたやり方です。」
うちは謀反になるのかな・・あれ?
エティー「そうなんです。この地を攻めることだけは他と違う動きをしています。」
エティー「恐らく高官クラスの誰かが計画を無視した都合をねじ込んだのかと・・」
雫「・・」
目をつけられないよう大人しくしてたつもりだったけど、何かまずったかな?
雫「わからぬことを気にしても仕方ないぞ。これからどうするつもりだ?」
手違いの可能性もあるでしょうし、王国とはできるだけ敵対しない方向を考えています。
領民の幸せが大切であって、政治ごっこをしたいわけではありませんから。
エティー「(・・私は、こんなのんびりした者に負けたのですか・・)」
雫「(特殊な兵の使い手だからな。温厚だが決断は早く度胸もある)」
エティー「(見かけによりませんね)」
反乱討伐は順調でしたか?
エティー「最初は順調でした。思ったより反乱軍が弱くて・・それで、隊を分けスピードをあげることになりました。」
リスキーな手段をとりましたね。とはいえ王国が強ければそれもありだろうけど。
エティー「良し悪しありました。攻略に時間がかかるようになったり・・ですが、全体を見れば討伐のスピードが上がったのは確かです。」
エティー「反乱軍の中にも強敵がいることもわかりましたし。」
強敵?
エティー「ここからひとつ領地を間に挟んだ西の方で結成された反乱軍なのですが、ここがめっぽう強いです。」
エティー「人心掌握に長け多くの若者を仲間に引き込んでいて、王国軍が攻めたら裏をかかれ大敗したそうです。」
エティー「魅力あるリーダーに、頭のいい参謀がついているとのこと。」
うちもリーダーと参謀がほしい。
雫さんとエティーさんがやってくれないかな。
雫「分隊とはいえ王国軍を大敗させるとはただ者ではないのう。」
エティー「はい。最初はそれでもごり押しでいけると思ったそうです。反乱軍は弱い義勇兵が大半でしたから。」
エティー「しかし反乱軍はゴーレムを使役して、王国軍をなぎ倒していったそうです。」
雫「ゴーレム?」
ゴーレム!?
え、もしかして、そのリーダーと参謀って女性?
エティー「はい。心当たりが?」
・・・・同じ村の出身者かと・・幼馴染と、幼馴染の親友です。
俺は、村での出来事をふたりに話した。
そんなわけで、借りていたゴーレムをとられて行方知れずになっていたわけです。
雫「借りものを奪われて罰とか受けたりしなかったのか?」
全然。悪魔王さんは仕方ないって言ってくれました。
それどころか、ゴーレムを取り返すための兵を貸してくれたり、子々孫々まで貸してくれるって言ってくれたりしました。
エティー「ちょっと・・信じられないです。何か悪いことさせようと企んでいるに違いありません。」
相手の心の内はわからないよね。
でも、何もしてくれない善人より、助けてくれる悪人の方がマシだ。
雫「・・」
まぁ、悪魔王さんも超神さんも助けてくれるし悪人でもないけどね。
そもそも人?なのだろうか。
エティー「なら瑪瑙殿は幼馴染と対決するつもりですか?」
返してと言って返してくれるとは思わないからね。
でも急ぐつもりはないよ。俺の個人的な問題だから。
領民優先!
・・
・・・・
夜。
こんこん、こんこここん、こんこん。
雫「その合図・・母上のお庭番の柚月か?」
柚月「はい。王国より伝言です。」
柚月「そちらへ軍を向かわせたのは王族を狙う将軍の目論見だった。」
柚月「王国の意思ではない・・と。」
雫「そうか・・」
柚月「それと、ゴーレムを使役する反乱軍を討伐しろとの命令です。」
雫「間に王国の領地があるが?」
柚月「地方の領主は私腹を肥やしてばかりです。討伐して役人を丸ごと再編成しても構わないそうです。」
雫「・・わらわは便利屋ではないのじゃがな。」
雫「ここの者たちを自由に動かせるわけではないのでどうなるかわからぬが、とりあえずやってみるかのう。」
柚月「ありがとうございます。」
柚月「あと王より・・体に気を付けて、と・・」
雫「わらわはもう子供ではない。心配は無用じゃ。」
雫「だが・・心遣い感謝する。」
柚月「伝えておきます・・ところで、その、エティーは・・」
雫「ああ、お主はエティーと親友だったな。」
雫「案ずることはない。エティーは無事じゃ。」
雫「今はわらわと一緒にこちらで働いておる。」
柚月「そうでしたか。よかった・・」
雫「あとで会うといい。ああ、領主には見つからぬようにな。」
雫「ここの領主は若い女性が大好きだからのう。」
柚月「かしこまりました。では失礼します。」
闇に溶け込むように、柚月の気配が消えた。
雫「・・王国が手こずった反乱軍の討伐とは・・どうしたものか・・」
・・
・・・・
色々情報を集めていると、このままではジリ貧になっていくのがよくわかる。
国力が違いすぎる!
やがては王国軍が本気で攻めてくる・・その前に力をつけないと。
?「こんにちは。」
誰か来た?はーい。
?「はーい、お元気?」
かわいらしい女の子だ。
・・いや、この声・・・・超神さん!?
超神「大正解♪」
わざわざこの様な田舎までお越しいただけるなんて・・
もしかして、俺なにかやらかしました?
超神「いえ、悪魔王があまりにゴミすぎるからちょっとお節介に・・ね。」
え?
超神「ゴーレムを取り戻すために空間兵を借りたんですって?」
はい。
これでゴーレムを完封です!
超神「でもそれ、ゴーレムと1対1でしか成り立たないんじゃない?」
・・え?
超神「その子、反乱起こして軍隊持ってるんでしょ?他の兵がゴーレムのサポートに回ったらうまくいくかしら?」
・・・・確かに、空間兵は攻撃力と射程に長けているけど、守りはいまいち。
他の敵兵に狙われたら危険・・
超神「私がゴーレムより体力や攻撃力の多少劣るキメラを渡したのは、あなたの成長を期待してのこと。」
超神「与えられた力だけで敵を倒しても、あなた自身が成長したことにはならないわ。」
超神「力の差が大きすぎても辛いわよね。だから、多少劣る程度のキメラを貸したのよ。」
そ、そうだったのか!
俺はそのことに気付かなかった。なんて愚かなんだ。
超神「悪魔王みたいなバカの甘言に乗ってはいけないわ。あれは爪が甘いの。」
超神「近いうちに話が進展するわ。今のあなたでゴーレム兵のいる反乱軍に勝てるかしら?」
う・・む、難しいかも・・しれません。
超神「もっと早く気付けたら対策もとれたのにね・・でも悪いのは全部悪魔王よ。」
超神「そのために私がここへ来た。これを使いなさい。」
魔法板だ!これにはどんな兵が・・
超神「攻撃しても反撃しても相手の動きに制限をかける恐ろしい特殊能力を持つ・・バジリスク。」
バジリスク!?
両生類タイプでその恐ろしさはドラゴンに匹敵するとも言われるあの!!!
超神「特殊能力が厄介なだけで、ドラゴンの方が圧倒的に強いわよ。」
超神「とはいえ果てしなく高い体力は必ず役に立つわ。」
超神「キメラとバジリスクを中心に敵兵を引き付け、離れたところから空間兵で攻撃する・・なんていうのはどうかしら?」
完璧です!ゴーレムを倒すイメージがはっきりと浮かびます!
超神「それと、悪魔王は寿命を10年要求したんですって?」
はい。9割とか言われていた頃よりだいぶ減りました。
超神「あなたそれでいいの?一般的に、男性は女性より寿命が短いわ。」
超神「ただでさえ早く亡くなりやすいのに、あなたは愛する人を置いて先に逝ってしまうのよ?」
俺もいずれ結婚したら、相手のことも考えないといけないのか。
・・それどころじゃなかったから、全然考えてなかった。
超神「私がなんとかしてあげるわ。もちろんあなたの寿命を奪ったりなんかしない。」
え?じゃあただでバジリスクやキメラを借りることになりませんか!?
超神「いいのよ。大切なのは、私を信じること。」
超神「悪魔王などという格下なんかを信じてはいけないわ。」
な、なんか俺だけすごくおいしい思いをしている気がしますが。
超神「みんなが幸せになる(ただし悪魔王は除く)それが大切なことよ。」
超神「あなたの大切な命を削るなんてよくないこと、代償なんて必要ないの。」
超神「まずはあなたが幸せになって。私のおかげで幸せなあなたを見るだけで、私も幸せになれるわ。」
超神さん・・俺、世界一の果報者です!
俺は涙を流しながら、超神さんにひざまずいた。
・・
・・・・
超神さんは、近いうちに話が進展すると言ってたけど、俺としてはレインやクーさんと戦いたくない。
北へ進むと王都があり、西へ進むとレインとクーさんの領地。
どっちも敵対しないよう、東や南へ領地を広げようと思う。
東の方が収入面で安定していると思うけど、南は海があるんだよね。
海は漁業や交易ができて、収益の他にも物資の輸入ができる。
こんこん。
はいどうぞ。
雫「失礼するぞ。今後のことで相談なのだが・・」
俺もそのことを考えていたところです。
東か南に領地を広げる予定でいます。今のままだとジリ貧でしょうから。
雫「(妥当な案じゃ。本来ならその方がよいのだろうが・・)」
雫「そのことだが・・西を目指すつもりはないか?」
西?レインやクーさんのところ?
雫「お主からゴーレムを奪った相手だ。」
雫「奪い返されるのではと、こちらに敵対してくるだろう。」
雫「敵が強大化する前に叩いた方がいいと思うぞ。」
・・村が滅びた時、俺は何もできなかった。
力のない自分が惨めでしょうがなかった。
でも悪魔王さんがゴーレム兵を貸してくれて、俺は力を手に入れた・・なんでもできるようになったと思ったんだ。
・・それは間違いだった。所詮は借り物の力でしかなく、ゴーレム兵をとられた俺はまた惨めな人間に戻ってしまった。
雫「そうだ、そのお主からゴーレムを奪った者たちが近くにいるのだぞ。」
・・レインとクーさんも、同じだと思うんです。
力がなくなれば、惨めな毎日が待っている・・誰も助けてくれない惨めで苦しい日々が。
ゴーレム兵をとったのも仕方ないと思います。誰だって、惨めな生活なんて嫌ですから。
雫「・・」
返してもらうのは、みんなが幸せに暮らせるようになってからでいいと思うんです。
力のない者同士が奪い合うのは違う気がします。
雫「そうか・・わかった。」
雫「お主の考えは正しいと思うぞ。」
雫さんは、部屋から出て行った。
・・レインやクーさんは、俺がゴーレム兵を取り返しに来ると考えて敵対してくるだろうか。
どうして、人間は争うんだろう?
・・
・・・・
雫「・・困ったな・・」
領主「お、雫ちゃんどうしたのかな?困り事?」
雫「ああいや、そういうわけではないのだが・・」
領主「こほん、オレでよければなんでも相談に乗るぞ。ダメ元で話してみるがいい。」
雫「いや今後のことで、西に領土を広げていった方がよいと思ってのう。」
雫「だが瑪瑙は東か南へ侵攻したいそうなのじゃ。」
領主「西っつーと、簡単にだが話は聞いてるぞ。瑪瑙と同じ村の出身者が反乱を起こしたとか。」
雫「瑪瑙から奪ったゴーレム兵を使役しておる。」
領主「なーるほど、よし!オレが瑪瑙を説得して来てやろう。」
雫「え?」
領主「ははは、こんな時のための領主だ。任せておけ。」
雫「ああ・・感謝する。」
・・
・・・・
領主「はははどーん!瑪瑙いるか?」
瑪瑙ならひとりいます。
領主「ふたりいたらこえーよ!」
領主「それより西へ侵攻するぞ!」
西?
領主「瑪瑙、お前はうちの看板として色々やってもらってる。」
領主「そのお前が、借りた物を奪われても気にしないなんてうわさになってみろ!」
領主「そりゃもー明日からみんな強盗になって奪いまくりな世界になるぞ。」
さ、さすがにそれはないのでは?
領主「甘い!甘すぎる!」
領主「お前は人々の模範とならなければならないのだ。」
領主「悪いことをしたら正す。それがお前のためであり、相手のためでもあると思わないか?」
そ、そうですね。
領主「だとしたら西へ進み、お前からゴーレムを奪ったやつらに正義を教えてやるのだ。」
領主「なに、悪いようにはならん。なぜなら・・お前が悪を望まないからな!」
信用してくださるのですね。
・・わかりました。西へ進むことも考えておきます。
領主「5分で片をつけろ。」
それはちょっと無理です。
・・
・・・・