26不穏な王国
本拠へ戻ると王国への要求はできあがっていて、既に柚月さんが持ち帰った後だそうだ。
ミミット「しばらくは王国の様子見でしょうか?」
クー「戦いずくめでしたから、休息も必要です。」
王国は要求を飲みそう?
クー「ミークルーガーがいる以上、飲むしかないでしょう。」
それなんだけど、王国は策なしってわけじゃないと思うよ。
レイン「どういうこと?」
雫さんの方が詳しいと思うけど、ミークルーガーに対抗する方策は王国にないんだよね?
雫「ああ。もう封印石もないし作れぬ。」
じゃあ・・安全を度外視した危険な対抗方法もない?
雫「・・」
もしくは、研究中で効果が安定しないものとか。
雫「ないわけではない。」
レイン「もうちょっと説明して。」
王国はずっとミークルーガー対策を研究していたんだよ。
だけど、安全確実に効果が出るのは封印石くらいだった。
・・つまり、危険だったり不確実なものならあるってこと。
雫「いくつかある。例えば、命の石を使うやり方。」
それはどういうの?
雫「巫女の力を器となる石へ封じ込め、それを封印石に変えるやり方。」
雫「ただし巫女が犠牲になるのと、封印石の強さは犠牲になった巫女の力次第。」
最初からヤバいのだった。
・・でも、今の巫女は雫さんと、そのお母さんだけなんですよね?
王族だしそのやり方はしないはず。
雫「そのため本来は王家と巫女の一族は分けなくてはならなかったのじゃが・・」
自由な結婚をしたために、やるべきことができなくなってしまったのか。
自由が束縛を生む不思議な話だ。
クー「自由も過ぎると紐が絡まるようにがんじがらめとなります。」
クー「正しい規則による運用が物事をスムーズにするのです。」
レイン「兵士も自由にさせるより隊列を組ませた方がいいものね。」
自由は非効率ってこと?
クー「自由とは無形のこと。つまり形がない状態です。」
クー「それゆえ得意分野が存在せず、何をやらせても無駄が生まれそれなりになります。」
クー「ここに人が介入して規則を設けると、特定のことに強く特定のことに弱い有形に変わります。」
クー「無形は有形に弱く、有形は放置すると無形に戻ります。」
うん、わからん。
どれくらい本を読めばクーさんみたいに頭良くなれますか?
一応村にいた頃は、クーさんが取り寄せて村に置いてくれた本を読んだりしてたんですが・・
クー「人は他人にはなれません。」
クー「そして真の智者は新たな法を究め世を正すものです。」
???
・・で、どうすればクーさんみたいに頭良くなれますか?
雫「今の話は・・本を読んで学ぶのは子供の学問であり、それで何かを悟った気になるのは間違いである。」
雫「本当の意味で頭が良くなりたいなら、本に書いていない新たな学問を研究して世のため人のために役立てましょう・・という意味じゃ。」
雫「そして新たな学問とは誰も到達していない論理に解を求めることであり、未踏の論理なら他人にはなれぬ。」
とりあえず・・目指すところがまるで違うってことがわかりました。
雫「とはいえ、新しいことを見出すにはこれまでの学問を身につけねばならぬ。」
雫「お勧めの本がある。あとでやろう。」
ありがとうございます!どれくらいで読めそうですか?
雫「とりあえず20冊あるから、1日1冊で20日あれば十分であろう。」
半年くらいで読めたらいいなぁ。
レイン「話を戻させてもらうけど、ミークルーガー対策はあるってことね。」
レイン「他にはある?」
雫「19年前は国宝石を使い封印石を作った。」
雫「変な話、そこらの石ころでも封印石は作れる・・が、効果はお察しじゃ。」
雫「強大な力が込められた石が必要・・普通なら。」
レイン「奥歯に何か引っかかったような言い方ね。」
レイン「もっと端的に言って。」
雫「ミークルーガーは6体に分かれる。」
雫「従来の6分の1程度の力が込められた石を6つ用意すれば同等のことが可能じゃ。」
質より量ということか。
レイン「それは作れる?」
雫「・・・・宝物庫を覗いてみなければわからぬ。その辺の石では無理じゃ。」
雫「19年前にそれを知っていたかどうか・・」
19年前は戦ってないから6つに分かれることも知らず、その方策をとらなかった可能性があるか。
もしそうだとしたら宝物庫に封印石の素材となる石があるかもしれない。
レイン「他には?」
雫「そうじゃのう・・母ならもっと知っておると思うが・・」
じゃあ、ミークルーガーじゃなくて、封印石に影響を及ぼすことってできますか?
雫「というと?」
俺が呼べばミークルーガーが出て来てくれますが、それを封じたり。
ミークルーガーと違って封印石は人間が作ったものでしょう?
そこまで大変じゃないかもって。
雫「いや、かなり複雑な力で維持しておる。」
雫「それをどうこうするのは簡単ではない。」
・・女神像に似た女の人がすごかっただけ?
雫「・・とはいえ、まったく干渉できぬわけでもない・・」
雫「・・そうか、移し身があった!」
移し身?
雫「封じたものを別の封印石に移すことが可能なのだ。」
雫「これを使えば瑪瑙に何かあってもミークルーガーは復活せぬ。」
雫「天寿を全うしても問題ない・・もちろんミークルーガーを使役できなくなるが・・」
レイン「多少弱くても6つの封印石を用意できれば瑪瑙がミークルーガーを使えなくなるわけね。」
レイン「王国が欲しがりそう。」
雫「そういうことじゃ。ただし封印石の完成、および使用には巫女が必要となる。」
雫「それに制御石も必要じゃ。封印するだけではミークルーガーに封印石を破壊され徒労に終わる。」
雫「王国がそれを知れば母を王都へ呼び戻すであろう。地方にいるなら王国は知らぬということになる。」
クー「・・他に、巫女はいませんよね?」
雫「わらわと母だけじゃ。なにか気になることでも?」
クー「以前聞いた話では、血によって巫女が生まれる可能性がある感じでした。」
クー「なら、巫女の一族を出て一般人になった者の子孫から巫女が生まれるかも・・と。」
雫「可能性はある。しかし王国が知ればわらわの耳にも入ると思うが・・」
クー「王国の動きはおかしいです。」
クー「こちらが要求してくるとわかっていれば、ご機嫌取りのひとつくらいするでしょう。」
クー「なのに使者をよこして仕事の話をしただけ・・こちらを恐れていません。」
雫「わらわも思っておった。」
雫「王である父は・・」
こんこん。
このノックはメイドさんだ。
メイド「会議中すみません。王国から柚月様が参られました。」
ならいったん会議は終わりにしましょうか。
クー「いえ、ここで王国の対応を聞きましょう。」
ミミット「そうですね、気になるところです。」
わかりました。メイドさん、柚月さんをこちらへお連れしてください。
・・
・・・・
柚月「柚月でございます。」
どうぞ座って楽にしてください。
ミミット「早速ですが、王国はこちらの要求をどうされるつもりでしょうか?」
柚月「はい。ただちに取り掛かると準備を始めております。」
柚月「しかし王国中の役人を調べる大作業。期間だけ心配とのこと。」
柚月「経過をこまめに報告いたします故、日程の調整はお許しください。」
レイン「意外と素直ね。拍子抜けなくらい。」
いいことかと。
雫「柚月、ひとつ聞きたい。父・・王はどうしておる?」
柚月「はて、どういう意味でしょうか。」
雫「以前お主には言ったと思うが、あれは中々の子煩悩でな。」
雫「任務が終わったのにいつまでも帰らぬわらわを心配せぬなどありえぬ。」
クー「ふむふむ、王は子煩悩・・」
それ、メモする意味ある?
柚月「いつも通り・・ではありますが、時折おかしなことを言う時があります。」
柚月「”必ず巴を救い出せ”とか・・」
レイン「巴?」
雫「わらわのことじゃ。雫は偽名で母の名でな。」
レイン「あとですっごく面倒なことになりそうね。」
・・ならこれからは本名で呼びましょうか?
雫「今まで通りでよい。というより雫の方がかっこいいからこっちがいい!」
巴もいい名前だと思うけどなぁ・・画数の多さがかっこよさだと思ってる?
柚月「では私もそう呼ばせていただきます。」
柚月「・・私のような身分では王に声をかけることもできません。」
柚月「殆ど大臣が間に入りますので。」
クー「怪しいですね。物語でも大臣が悪役な場合も多いです。」
物語の結末はどうなりますか?
クー「大臣は黒幕に殺され、主人公が黒幕倒してハッピーエンドです。」
じゃあ俺たちもそうなるかな。
誰が主人公かはわからないけど。
ミミット「さすがに物語と現実は違うと思いますが・・」
マーユ「雫様が一度王国へ戻られればすぐ解決するのではありませんか?」
ですね。
柚月「それは危険です!大臣が手をこまねいているわけがありません。」
柚月「雫様へ危害を加え、これまでの行いを隠すかと・・ここは私にお任せください。」
柚月「必ず機会を作り王へ真実を伝えてみせます!」
柚月さんの言葉に、反対する人はいなかった。
あとは放っとけば終わるのかな?
・・
・・・・