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24王国と交渉


王国から使者がやって来た。


柚月「王名を奉じて参りました。柚月と申します。」


雫「柚月、お主が使者か。」

お知り合いですか?


雫「これまで王国の命を持ってきたのも、この柚月じゃ。」

雫「以前は母の下にいたが、母が安全のため王都を離れたことから今は大臣の下で働いておる。」

雫「そしてエティーの友人でもある。」


エティー「使者として参られた以上、私事を挟むことはできません。」

エティー「私のことは気にせず対応してください。」


そうは言っても人の縁は簡単に無視できないでしょう。

柚月さんも肩の力を抜いて気楽にしてください。


柚月「お気遣い感謝します。しかし任務をせず帰れば罰を受けます。」

柚月「仕事の話をさせていただけると嬉しく存じます。」


そうですか。では早速話を聞かせてください。王様から何を言われて来たのですか?


柚月「はい。瑪瑙様の力は天下一でございます。王国に対抗する力はありません。」

柚月「しかしながら私たちは同じ王国で生まれ育った者ではありませんか。」

柚月「私たちが争うは外国の益でしかありません。」


柚月「国家万民のため、争うのではなく話し合いで問題の解決をしましょう。」

柚月「民と民が争うのは悲しきことです。」


うーん・・兵法とか覚えようとはしているけどまだよくわからないです。

えっと、これはどう解釈すればいいの?


クー「ミークルーガーが怖いので、王国に有利なやり方にしろと言ってるだけです。」

クー「私たちはおろか民にも益はありません。この様な態度では王国を滅ぼすしかないでしょう。」


雫「争うのはいつでもできる。」

雫「わらわたちは、王国が民を慈しむようになってもらおうと進撃をここで止めておるのだろう。」

雫「王国を滅ぼすかは話し合いをしてからでも遅くはない。」


レイン「天が与えるものを受け取らなければかえって咎を受けるわ。」

レイン「私たちは王国に王手をかけている。それなのに勝ちをとらなければ逆に私たちが王手をかけられてしまうわ。」


う・・これは・・


ミミット「雫殿の言ってることが正しいと思います。」

ミミット「争わずに解決できるなら民も安堵するでしょう。」


マーユ「王国の言い分は信用できません。」

マーユ「無視してこちらの都合を押し付ければ王国の罠にはかからない・・瑪瑙様どうなさいました?」


いや・・その・・


クー「レインが本気で怒っているんですよ。」

クー「レインが怒ると瑪瑙は石のように固まるんです。」


ミミット「怒る?そうは見えませんけど。」


あーその、たぶん、王国は俺たちが苦しいときは無視したのに、今になって都合が悪くなると綺麗事を言うのが気に障ったのかと・・

レインは口だけの人を嫌うから・・みんなは勇敢で行動力があるし初めて見ると思うけど・・


ミミット「瑪瑙殿が怒られているわけではないでしょう?」

クー「無駄ですよ。昔からずっとこうですから。」


マーユ「怒られたことがあってトラウマになっているとかですか?」

クー「いえ、レインが瑪瑙を怒ったことはありません。」

クー「他の人が怒られているのを見てこうなっただけです。」


レイン「別に怒っているわけじゃないわよ。」


クー「レインが怒鳴る時は本気で怒っているわけではありません。」

クー「本気の時は・・静かに怒ります。」

クー「ただ、他の人には怒っているとわからないと思いますよ・・私も瑪瑙の反応を見るまで気付かないくらいです。」


レイン「だから怒ってないって。」


まぁ、うん・・話を続けましょう。

俺のことは気にしないで・・


雫「お主はどう考えているのだ?」


えっと・・王国は信用できない。

とはいえまだ何も要求していないのに滅ぼすわけにもいかない。

だから少し試そう。クーさん、王国へはどんな要求をする予定なの?


クー「まず前提ですが、要求はひとつずつ行います。」

クー「まとめて出せば、王国に都合の悪いものはやらず、やったとこだけ声高に成果を主張するでしょう。」

クー「王国が口先だけなのはレインの態度でわかりますよね?」


は、はい。


クー「ついては、悪徳役人の罷免と罰を要求します。」


クー「仕事をしない者、賄賂を受け取る者、公平に刑罰を裁定しない者、王国の命を聞かぬ者。」

クー「民を悪く言う者、約束を守らぬ者、脅威を防がぬ者、うわさ話で民を惑わす者。」

クー「仲間を信用しない者、民から搾取する者、民に乱暴を働く者、手柄を横取りする者。」

クー「民同士を争わせる者、機密を漏らす者、王国の調査に協力しない者、外国と内通する者。」

クー「給金に不満を言う者、怪しきを調べない者、報告をしない者、民を脅迫する者・・長いので文書で渡します。」


あ、ちょっと寝てた。


クー「ひとつでも違反する者は死罪にしてください。」

柚月「死罪は厳しいと存じます。」

クー「では王国を死罪にするしかありません。」


柚月「しかしすべてを同じ罪とするのは不公平ではないでしょうか。」


柚月「例えば王国の命が常に正しいとは限りません。民のため、ひいては王国のために命を拒否する必要もあると思います。」

柚月「民のために命を聞かぬ者と、外国と内通する者を同じ罰にするのは正義の行いではないでしょう。」

柚月「正義が欠ければ忠義の士は役人になろうとしなくなります。それは民の不利益となります。」


柚月「またこれは後だしの刑罰です。」

柚月「事前に内容を交付しないのは役人の対応を改めるためではなく、罰するためのルールです。」

柚月「これもまた正義ではなく忠義の士はやって来なくなります。」


柚月「最後のチャンスをお与えください。」

柚月「資質無き役人は変え、資質ある役人に厳しく守らせます。」


それならいいんじゃない?


クー「いいえ、誰も罰を受けなければ、一時の改善にしかなりません。」

クー「悪しき事に罰を与えなければ悪しき前例となり、ほとぼりが経てば元の悪徳役人に戻ってしまいます。」

クー「罪には罰を。これは王であろうと奴隷であろうと同じように受けなければなりません。」


クー「王国は他人に罰を与えるのを当然だと思いながら、自分たちへの罰から逃げています。」


クー「そもそも敵のいいなりになるのは下策です。ただのひとつも要求を変えてはいけません。」


クー「50年前に人が犯した罪、100年前に人が犯した罪、1000年前に人が犯した罪。」

クー「それらを調べていけば、必ず今と同じ罪がいくつも見つかります。」

クー「未来の王国のためと思うなら、悪しき連鎖を断つ機会と思ってください。」


クーさんも負けてない。

というか、どっちも正しいことを言ってる気がするんですが・・なんで正しい意見同士が戦うの?


雫「お互い正論を言ってるのであり、正しく見えるだけじゃ。」

雫「そして、絶対的な正しさは大抵存在しない。」


・・ん?

意味が・・わからない。


雫「人を殺すのは悪いこと。では、なぜ戦争で人を殺す兵士を罰さない?」

徴兵されただけでは?


雫「ならば徴兵するわらわたちが悪人となり、厳罰相応となるか?」


魔物が村を襲っても、山賊が親を殺し村を滅ぼしても誰も助けてくれない。

何もしなければ俺たちが殺されてしまう!


雫「では不幸な者は戦争を起こして良いのか?」

雫「未だかつて不幸な者のいない世界はない。ならば常に戦争が起きるであろう。」

雫「違うと言うならお主は罰せられなければならぬ。」


雫「そして戦争により更なる不幸な者が生まれる。」


雫「人は完璧な存在ではなく定められた規則を完璧に守ることはできぬ。」

雫「100%正しい支配者も未だかつていなかった。」


雫「人は未来永劫戦争と平和を交互に繰り返すだけ、それが理となるが、正しいか?」

・・正しくは、ないかと・・


雫「ならどこが間違っている?わらわが今した話は現実の出来事じゃぞ。」

・・わからないです。


雫「絶対的な正しさがない以上、正しく見える論・・正論になる。」

雫「絶対的な正しさ・・理想は神に求めよ。わらわたちは、正しく見える意見の中から、より正しい意見を拾わねばならぬ。」


・・み、みんなはどう思う!?


レイン「王国に死を。」

レイン!


レイン「・・わかったわよ。」

レイン「お互いの意見が出たのなら、そこからいいとこどりした案にするのがいいわ。」

レイン「ただしそれをまとめるのはこちら側ね。」


レインは・・村では若者のリーダー役だった。

だから、俺やクーさんより責任を感じているんだ。

王国を敵視するのは責任を果たせなかった贖罪・・


力がないときは仕方なかったが、ミークルーガーがいるなら・・

俺が王国を滅ぼさないのが不満なんだろう・・


ミミット「先に民を安堵させた方がよいのではないでしょうか?」

ミミット「悪徳役人を罰するなど王国に任せればいつ終わるかわかりません。」


クー「先ほど言った通り、王国へは一度にひとつの要求しかしません。」

クー「そして民の窮乏は穴の開いたバケツのようなもの。」

クー「先に穴(悪徳役人)を直さなくては、いくら水をいれても(民の安堵をしても)意味がありません。」


クー「役人は言うでしょう。いくらお金があっても民を安堵するには足りないと。」

クー「当然です、公開できないような使い方をしていますから。そして民は救われぬままです。」


ミミット「わかりました。ならば一刻も早く悪徳役人を罰してもらいたいものです。」

クー「期限を厳しく設けます。だめならこちらでやるしかありません。」


マーユ「私は使者殿の言葉に一理あると思います。」

マーユ「不意打ちで重罪にはすべきでないでしょう。」

マーユ「後出しするなら罪を軽く、罪を重くするなら事前の交付をしなければなりません。」


マーユ「私は役人と民の橋渡しをする両親の手伝いをしてきました。」

マーユ「そこで知ったこと、それは役人とて民であり人間であり、私たちと同じだということです。」

マーユ「民への慈悲は役人にも与えなければなりません。」


んー・・無罪放免にするって話とは違いますよね?


マーユ「はい。まずは役人の言い分と、民の言い分を聞いてください。」

マーユ「そして正しく裁いてください。もちろん口のうまい人が逃れられるようでは困ります。」

マーユ「口下手な者、脅されている者、仕返しを恐れ言えぬ者、利を受け取り言わぬ者・・すべてを考慮しなければなりません。」


クー「反対です。時間がかかり過ぎます。」

クー「多くの人が苦しみ反乱が起こるようになってしまった今、丁寧さより早さが求められます。」

クー「それにマーユさんのやり方は優秀な裁定者が大勢必要になります。」


クー「馬鹿でもできるやり方が理想でしょう。」


すごいこと言うなぁ・・まぁバカでもってことは、誰がやっても同じ結果になるってことだよね?

人生左右することを、やる人によって結果が変わるやり方されたらたまらないな。


柚月「・・見事に皆様バラバラですね。」


いつもこんな感じですよ。

えーと、エティーさんは意見ない?友人が使者として来てくれてるんだし。


エティー「瑪瑙お嬢様が言った通り、人の縁は簡単に無視できません。」

エティー「他の方の意見が出ていますので、私情を挟まないために意見しないのが一番です。」


柚月「お嬢様?」

柚月さんが目をまんまるくして俺を見る。


気にしないでください!


柚月「男性、ですよね?」

はい、見たままです!気にしないでください!!


柚月「・・ちらっ。」


ふぁ!?

柚月さんが服のボタンを外し襟の部分を引っ張り、胸の谷間をアピールした。


柚月「釘付けになるところを見ると、男性で間違いないようですね。」

クー「やっぱり悪徳役人は一族郎党まとめて死罪にします。」

柚月「え!?」


ドドドドドドドドドドドドドドド

ズドドドドドドドドドドドドドド

ドドドドドドドドドッドオドドドッドドドドドドドオッドオドババンッッッ


領主「お、おい、ここでえちえちハプニングが起きなかったか!?」


あ、お帰りなさい。

ハプニングは終了しました。


領主「そ、そんな・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

領主「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

領主「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ・・」


領主「おかわり!」

それはちょっと・・


領主「お、新しい子いるじゃん。しかも・・ふへへよくやった!」

領主「さあ瑪瑙、オレの素晴らしさをこの子に教えてやれ!」


うちの領主様です。

村が滅びた後、当てもなくさまよって空腹だった俺に食べ物を恵んでくださった大変慈悲深い方です。

しかも誰かもわからない俺をここへ置いてくれて、領主の仕事を全権任せるほど人を信用できる素晴らしい方です。


領主「はははいいぞ。その調子でもっとオレの素晴らしさを教えてやるんだ。」


はい。

機を見るに敏。王国のやり方では領民を救えないと判断すればすぐに独立する決断力と実行力。

メイドさんや雫さんをはじめ、優秀な人が仕官を求めればひと目で採用を決めるほど見る目のある方です。


領主「いやあ、本当のこととはいえ褒められると恥ずかしいものですなあ。」

領主「王国のやり方は前々から疑問に思っていまして。」

領主「まあ、あんなちんけなとこは早々に痛い目遭わせてやりますよ。任せておくがいい!」


雫「・・」


領主「ところで瑪瑙くん、新人の子を紹介してくれないか?」

いえ、新人ではなく王国の使者さんです。


柚月「柚月です。お会いできて光栄にございます。」


領主「おおおい!王国を超非難しちゃったじゃないか!」

いや、まぁ、すみません。


雫「それで、逃げ出した者がなにしに来たのだ?」

領主「逃げ出したわけじゃなく、あれをああしてこれをこうして・・まあ色々やってたんだよ。」


エティー「それを誰が信じますか?」


領主「・・おい瑪瑙、お前はちゃんとわかってるだろ?こいつらに説明してやってくれ。」

あ、すみません逃げたんだと思っていました。


領主「うおおい!」


10倍の敵兵がやって来て、雫さんとエティーさんが籠城するって聞いた時・・

逃げてもいいんですよって思っちゃったんです。

思ってしまったなら仕方ありません、領主様が逃げたとしても責めることはできません。


柚月「(瑪瑙様は何か脅されているのですか?)」

雫「(あれはただのお人好しじゃ)」

柚月「?」


柚月「瑪瑙様、その方は領主にふさわしくない方ですよ。」

え?突然なにを?


柚月「税の着服に民への横暴なふるまい、商人への見返り要求・・これだけではありません。」

柚月「王国はこの男の行動を問題視して罰しようとした矢先に独立されたのです。」


それは知ってますよ。それが何か?


エティー「え?」

クー「え?」

レイン「・・」


雫「知っておったのか?」


領民のみなさんから”領主変わったの?”と何度も聞かれましたから。

さすがに事情くらいは知ろうとします。


柚月「ではなぜこの男を罰さないのですか?」

柚月「悪徳役人そのものではありませんか。」


役というのは、その人にふさわしいものでなければなりません。

小人しょうじんに大役を任せれば失敗しますが、それは小人が悪いわけではなく任命者の責任です。

大人たいじんに端役を与えれば才を持て余し害を及ぼしますが、これも任命者の責任です。


領主様の才は地方の役人程度では足りなかったのです。

これは王国が領主様の才を見誤ったことが原因。

なぜなら、独立した後に飛躍したことを考えれば火を見るより明らか。


領主様の人を見る目。決断力。

大いなる才能を小さく評価すれば災いも起きます。

それを個人の責任にすることは、王国の責任逃れでしかないのです。


柚月「ぽかーん。」

領主「お前頭おかしい。」


あれ!?

えーと、領主様がそう言うのなら・・じゃあ今までの罪に対する罰を与えればいいんですね。


領主「いや待て待て!」


領主「確かにオレは罪深きことをした。だがいつも胸の奥で何かがささやいていたのだ。」

領主「本当にそれが本意か?・・と。」

領主「きっとこれは天命だと悟った。だからお前に仕事を委ね自分自身と向き合うことにしたのだ。」


その結果、今があるということですね。


領主「よくぞ気付いた!だが、人の領域というものは驚くほど狭い。」

領主「更なる高みを目指すのであれば・・瑪瑙、お前も覚悟しておくがいい。」

領主「言葉に表せられぬほど苦難の道だ。」


あ、俺は別にそういうの求めていませんから大丈夫です。

がんばって端役の仕事をして生活できればそれでまぁ・・みんなみたいな輝かしいステージは俺にはちょっと・・


領主「・・お前、さあ・・王国と対等以上の勢力にしといて何言ってんの?」

あれ?俺がおかしいの?


レイン「ええ。」

クー「はい。」

雫「うむ。」

エティー「間違いなく。」

ミミット「さすがに・・すみません。」

マーユ「おかしいです。」


柚月「・・変わった・・方ですね。」

雫「お人好しじゃ。」


・・

・・・・


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