21エティーさん
エティーさんに優しく・・優しさ・・どうすればいいんだろう?
仕方ない、いつも通り行き当たりばったりで行こう。
進んだ先に答えがあるはず!たぶん!
こんこん。
瑪瑙です。エティーさん起きていますか?
返事は・・数秒して返って来た。
エティー「ああ。今ドアを開ける・・」
ドアが開いた。
そこには・・下着!?
いや、寝間着姿のエティーさんがいた。
エティー「どうぞ。」
入室を促される。
・・は、入っていいのだろうか。
こんな無防備な姿をして・・お邪魔します・・
な、なにもしなければ大丈夫だよね?
・・
・・・・
エティー「粗茶ですが。」
エティーさんは肩と足が殆ど見えている黒いネグリジェを着ていた。
いつもの肩肘を張った強気な姿とは違い、儚げな妖精のよう・・
というか、超かわいい。
エティー「すみませんこんな姿で。」
エティー「ですが・・いつもの格好は・・する気が起きなくて・・」
い、いえいいんですよ!
事情は聞きました・・お辛いですよね。今は休んでください。
エティー「・・ありがとうございます。」
エティーさんは柔らかな表情で笑った。
な、な、なんて可憐なんだ!
例えるなら深窓の令嬢・・なんで軍人してたのか疑問でしょうがない。
というかなんでだろう?
エティーさんはどういった経緯で王国の軍人になったのか聞いてもいいですか?
エティー「・・私は王国の商家に生まれました。」
エティー「昔は気が弱かったんです。」
エティー「いつも男の子からいじめられてて・・」
・・好きな子をからかうやつかな?
エティー「見かねた両親が棒術道場に連れて行ってくれて・・」
棒術道場?
エティー「棒は剣のように振るうことも、槍のように突くこともできる。」
エティー「多くの武器と似た特徴があり、棒術から基本の型を覚えれば他の武芸にも転向しやすい。」
エティー「あと比較的安全。」
それは重要だ。
エティー「棒が折れれば槍のように鋭くなり、槍が折れれば棒のように扱うこともできる。」
エティー「また落ちている棒も武器にできる。」
エティー「戦場で不意の事態が起きようともすぐに使えて便利なのだ!」
エティー「武器を使わぬ格闘術も棒術と似た型があり、棒術はあらゆる武術に影響を与えている。」
エティー「これは古くから棒が利用されていたからであり、長い歴史を重ねて発展してきた由緒ある武術である証。」
んー・・
エティー「大人の身長より長い棒の扱いもあれば、子供より小さな棒の扱い方もある。」
エティー「相手が刃物を使う場合の戦い方、殺さず相手を制圧する戦い方、多くを学んだ。」
エティー「そして入手の手軽さから身分に関係なく習う者は多く、友と呼べる者もできた。」
エティー「棒術と出会って私は変われたのだ。」
エティー「もっと多くのことを知りたかった私は師匠から軍学も学ぶようになった。」
エティー「運よく私に合っていたのだろう。才能を評価され軍に推挙してもらい、軍団を率いる立場にまで取り立ててもらえた。」
すごい饒舌だ。
好きなこと、なんだろうなぁ。
エティー「・・軍に入隊したことを聞いた両親は不安そうだった。」
エティー「危ないことは男の人に任せて、あなたは安全なところで綺麗な服を着て幸せに暮らせばいいと言われた。」
エティー「軍でも多くの人に同じことを言われた。一生幸せにする、不自由はさせない、だから家にいてほしいと。」
エティー「だが私の好奇心は止められなかった。」
エティー「これが私の幸せだと信じて疑わなかった。」
エティー「勲章をもらい、年上の男性部下から恨まれ、女性から奇異の目で見られ、王侯貴族と交流するようになった。」
エティー「王国ではジーフォとあだ名されるようになった。」
ジーフォ?
エティー「グレイフォーリナー(GRAY FOREIGNER)灰色の異人。」
エティー「頭の部分だけくっつけてジーフォ。」
エティー「頭のいい変人という意味。」
俺も村では弱虫瑪瑙って言われたりしたけど、どうして人は他人を評価したがるんだろうね。
それも悪い評価をしたがる。
エティー「他人を無能と評価すれば、相対的に自分が有能だと思える。」
エティー「他人を悪人と評価すれば、相対的に自分が善人だと思える。」
エティー「無能や悪人は攻撃してもよいと考える者もいる。そいつらは攻撃を正当化するために他人を悪く評価する。」
ひどい話だ。
エティー「逆もある。」
エティー「他人を有能と評価するのは、そいつに面倒事をやらせようと企んでいるから。」
エティー「他人を善人と評価するのは、そいつを無償で働かせようと企んでいるから。」
人間はひどすぎません?
エティー「必ずそうというわけではない。」
エティー「身を守るために相手を褒めることもあれば、諫めるためにけなすこともある。」
エティー「結果を見ればいい。お前は褒められた結果どうなった?けなされた結果どうなった?」
エティー「お前にとって良かったのか、褒めたりけなしたやつにとって良かったのか、そこが違う。」
・・悪口言われて俺にとっていいことはなかったかな。
エティー「私もだ。」
エティー「私を悪く言う者たちは団結して絆が深くなっていたようだがな。」
あー、ありますねそういうの。
それに大勢に悪く言われると、真実かどうか関係なく落ち込んじゃいますよね。
俺の時は・・レインがそいつらぶん殴ってくれて収まりましたが。
エティー「私は雫様が気を遣ってくれた。」
エティー「無くなりはしなかったが、親身になってくれた。」
無くならなかったんですか?
エティー「2,3人地方に飛ばされて少し改善されたが、違う理由でまた始まった。」
エティー「何人飛ばされても無くなることはなかった。」
地方に・・そいつらが反乱起こしてたりして。
エティー「ははは、それは全部鎮圧したくなるな。」
エティーさん・・笑ってくれた。
エティー「・・」
あ、また暗く・・
エティー「話を聞いてくれてありがとう。」
エティー「気持ちが楽になった。」
悲しそうな笑みだ。
・・伝説の魔物がいても、女の子ひとり笑顔にできないなんて・・
俺が守ってあげたい!どうすればいいかわからないけど・・
エティーさん!
エティー「はい?」
雫さんが知人を通してエティーさんの家族を救うって言ってましたけど・・
俺もできる限りのことをします。
必ずエティーさんがここへ来て良かったと思えるにしてみせます!
どうすればいいか全然思いつきませんが!
エティー「最後のは余計です。」
すみません、王国へ突撃して全破壊は雫さんに却下されてしまいましたので。
ミークルーガーがいても・・ただの脳筋にしかなれなくて・・
エティー「・・瑪瑙殿は、兵法書を読んだことはありますか?」
ないです。
エティー「では、兵法にはどんなイメージを持っていますか?」
戦いの勝ち方?
エティー「いえ、兵法は”負けない方法”が書かれています。」
勝つのと違うの?
エティー「勝てば周囲はより大きな期待をするためやることが増えます。また負けた側からは恨まれます。」
エティー「負ければ大切なものを奪われます。誇り、人、命さえも。」
エティー「負けるのは論外。しかし勝っても良いとは限らないのです。」
そういや連勝してもお金が足りなくなって大変だったなぁ・・
エティー「はい、必要ない戦いは避けるのが一番です。」
エティー「戦えば民が犠牲になり金銭物資は失います。勝っても負けてもです。」
エティー「王国が戦いを避け私たちに戦わせ続けたのは兵法に則った正道です。」
王国は大兵力を隠し持ってたよね。
戦いを避け資金を貯め続けてたってことか。
エティー「兵法の通りなら、王国が優勢のはずです。」
エティー「しかし実際は瑪瑙殿が戦いの鍵を握っている・・なぜだと思いますか?」
・・運が悪かった?いや違うよねさすがに。
エティー「正解です。運が悪いと兵法通りやってもうまくいかないのです。」
・・え?えー!?
エティー「兵法には、勝てない戦いはしないともあります。」
エティー「しかし王国は勝てない戦いを仕掛けました。」
エティー「兵法書に書かれていることは状況によって正しくも間違いにもなります。」
エティー「すべての状況を思い通りになどできませんから、最後は運でしかないのです。」
エティー「これは”悉く書を信ずれば則ち書無きに如かず”と言い、本に書かれていることを鵜呑みにするのは、本を読まないより良くないという意味です。」
エティー「常に状況に応じて対応を変化させなければなりません。」
エティー「本に限らず、他人の言葉も同様です。言われるまま従うだけではいけないのです。」
エティー「さて、瑪瑙殿は自身を脳筋と言いましたが、その通りです。」
やっぱり・・ですよね。
エティー「遠征はうまくいかない戦い方のひとつです。」
エティー「力に頼り機(天の時)を知らなければ、機を知る者に負けます。」
エティー「ミークルーガーは強力ですが、それですべてがうまくいくわけではありません。」
うん、実感しています。
エティー「ミークルーガーと正面から戦って勝てる者はいません。」
エティー「しかし物事はままならず・・これは、他人に振り回されているからです。」
エティー「瑪瑙殿は、他人の言葉を信じすぎです。」
エティー「強大な力も、欺かれ不利な方へ誘われ力を発揮できなくされたら役に立ちません。」
エティー「物事はうまくいった場合といかなかった場合があります。」
エティー「成否の両方を考えなければいけません。その上で実行するか決めるのです。」
難しいです。
エティー「さらに相手も同じように成否を秤にかけて物事を決めます。」
エティー「常に相手はこちらを惑わし不利な状況に誘おうとしていると思って間違いありません。」
エティー「瑪瑙殿は嘘を見破り真実を見極め相手を罠にかけることが求められます。」
あの・・みんなのまとめ役・・代わってください・・
俺なんかよりエティーさんの方がうまくやると思います・・
エティー「ここは・・王国とは違う。」
エティー「私が若かろうと、女だろうと、見た目なんかで評価されない。」
エティー「それはあなたがリーダーだからだ。」
うちは誰がリーダーになっても外見で評価したりしないと思いますが。
エティー「いや、それは他の者たちが若い女性だから、若い女性に偏見がないだけだ。」
エティー「瑪瑙殿は態度や言葉の端々から、誰に対しても礼儀正しく素直で好意的に評価しているのがわかる。」
エティー「優しい人だと誰もが思うだろう。」
も、もしかして俺、リーダーに向いてる!?
エティー「まったく向いていない。」
ふぁ!?
エティー「従は主を恐れなければなりません。敵を恐れてはいけません。」
エティー「もし従が主を恐れず、敵を恐れれば戦うことを嫌がり主の命を聞かなくなります。」
エティー「敵より主の方が恐ろしいからこそ命令に従い、臆病者も命を懸けて戦うのです。」
エティー「瑪瑙殿は・・優しすぎる。」
雫さんも王族だけど優しい人だよ。
優しいのは、いけないこと?
エティー「いえ、優しくなければ善なる者は心服しないでしょう。」
エティー「ですが優しいだけでは悪なる者に騙されてしまいます。」
エティー「敵は・・味方の中にもいます。あなたの目の前にも・・」
それって・・エティーさんが敵ってこと?
いやそんな、王国と敵対してでも本拠を守ってくれたでしょう?
エティー「王国に従えば瑪瑙殿の信を失い私や雫様の言葉はあなたに届かなくなる。」
エティー「そうなれば、王国攻めを止める者はいなくなる。」
エティー「王国と戦うは王国を守るため、そして此度の謀はクー殿によるもの。」
クーさん?
・・そういえば、今回だけクーさんは王国より外国攻めを主張したっけ。
エティー「クー殿は私と雫様を意思決定から遠ざけようと画策した。」
エティー「雫様は、それを見破り逆に瑪瑙殿の信用を得ようと動きました。」
エティー「あの方は優しさだけでなく、虚実を見破り利害得失を把握し機微をわきまえています。」
雫さんが来てからとんとん拍子にうまくいって領地増えたけど、なるべくしてなったんだなぁ。
エティー「領地は資源の量を決め、資源は人口を決め、人口は戦力を決め、戦力は勝敗を決めます。」
エティー「多くの領地を有し、これを安定させれば戦う前に勝利が見えるのです。」
なるほど、安定も必要なのか。
エティー「安定しなければ無駄な支出も増え逆にお荷物になりますから。」
なるほど・・・・うーん難しい。
味方も疑ったりしないといけないんでしょ?みんな敵?
エティー「私たちと瑪瑙殿は、主従より利害関係と言えます。」
エティー「利があるから味方なわけで、利がなければ敵になるでしょう。」
じゃあ優しさを捨てて厳しくした方がいい?
エティー「それは長所を捨てて短所を得ようとしているのと同じです。」
エティー「ただの横暴な人になってしまいます。」
エティー「飴と鞭のように、優しさと厳しさを両方持ってください。」
うわぁ難しいぃぃぃ。
エティー「瑪瑙殿は優しすぎますね。少し捨ててもさしたる影響はないかと。」
コマンド > 捨てる
捨てる > 優しさ
・・いやコマンドってなんだよ。
性格を変えないといけないのか・・ん?性格は天性のものでは?
エティー「教育でも性格は変えられますよ。」
エティー「毎日浴びるようにお酒を飲み、女遊びをすれば、真面目な人も堕落します。」
ダメ人間製造方法かな?
エティー「簡単なところから始めましょう・・私は、雫様がクー殿の計を逆に利用したことを漏らしてしまいました。」
エティー「悪い子です・・罰してください。」
エティーさんが・・寝間着の裾を持ち上げた。
寝間着に隠されていた布が・・俺の目が釘付けになる。
エティー「優しさで許してはいけません。厳しい罰で喘がせてください。」
喘がせる!?
それは、やっぱり・・そういうことだよね?
き、厳しさを得るためには仕方ない・・これは恋愛じゃないからいいよね?
ふと顔をあげエティーさんの顔を見ると・・
顔を真っ赤にして怯えた表情をしていた。
・・エティーさん。
エティー「はい。」
顔、真っ赤ですよ。
つまりこれは、エッチなことで俺を籠絡してミークルーガーをコントロールしようという雫さんの計画だ!
エティー「・・」
これが虚実を見破るってことなんですね!
なんかちょっと楽しいです。
エティー「・・そこは鋭くなくていいんですよ。」
え?
いやまぁ、こういうのはもっとこう、いい雰囲気のところで気持ちを盛り上げてやりたいですよね。
エティー「・・」
おしゃれなお店で雰囲気に酔いながら、甘い愛をささやくような。そういうのいいよね。
エティー「ふふ。」
あ、やっぱり変かな。
俺のいたところは小さな村だったからおしゃれなお店なんてなくてさ、何言ってんだお前って感じだったんだよね。
まぁキャラじゃない?
エティー「(話し過ぎてしまったが・・似ているからか・・棒術を習う前の私に・・)」
エティー「いえ、おかしくないですよ瑪瑙お嬢様。」
お嬢様!?
エティー「お昼はホットケーキにしましょうか。バターにたっぷりのハチミツをかけたあまーいのですよ。」
なんかエティーさんの見る目が変わった気が・・男として見られていない?
まぁ笑顔にはなったからいいのか?こういうのは兵法だとどう判断されるんだろう?
兵法「戦争に勝っても目的を果たせなければ意味がなく、戦争せず目的を果たすのはいいこと。」
ならいいのかな?目的を達成?した?・・のかな?
兵法「あとリア充は死ね。」
兵法はそんなこと言わない!
・・
・・・・