18ミークルーガーの影響
さっきのマーユさんにはびっくりしたなぁ。
あれは恋愛体質というやつだろうか?
ん・・部屋の前に雫さんがいる。
あれ?珍しくミニスカートを履いている。どきどき。
雫さん何か用ですか?
雫「瑪瑙・・いや、用というわけではない。」
雫「ただ少し不安なのじゃ。」
不安?
雫「お主もわかるであろう。誰もが大なり小なり欲を持つ。」
雫「他人を押しのけてまで欲を通そうとすれば誰かが不幸になる。」
雫「だが他人に気を遣いすぎると自分が何もかも我慢するだけ・・それも不幸なのだ。」
雫「すべての人が幸せになることなどありえぬ。」
雫「過去の歴史を見ても不幸な人のいない世の中はない。」
雫「では誰を犠牲にする?もちろん最小限の犠牲で最小限の不幸であることが望ましいのは確かだ。」
雫「それを・・お主が決められる立場になったのだ。」
そういうのは・・えーと、頭のいい人が決めればいいと思います。
最小限の犠牲で最小限の不幸というのは、俺には荷が重いと言いますか、まぁ荷が重いです。同じこと言った。
雫「なら・・王国に任せてもらえぬか?」
雫「王侯貴族は学に励み切磋琢磨しておる。」
雫「ただ今は、それで得た力を誤った方向に使っているきらいがある。」
まぁ、うん。
雫「組織はいずれ腐敗する。その時はお主なら喝を入れられる。」
組織はいずれ腐敗・・なら、俺たちも・・・・?
俺は・・正しい道を進めるのか・・?
雫「不安そうな顔じゃな。」
雫「無理もない、お主が王国から受けた仕打ちは察するに余りある。」
雫「憎いだろう、恨みたくなるだろう。だが・・」
雫さんが俺のすぐ目の前に来た。
手を伸ばし・・俺を優しく抱きしめる。
雫「その憎しみは、わらわにぶつけてくれ。」
雫「わらわがすべて受け止めよう。」
し、雫さん?
雫「この程度ではお主の苦しみは癒せぬかもしれぬ。」
雫「だが、それでお主の気が少しでも晴れるというなら・・わらわはなんでもしよう。」
なんでも?
なんでもしていいの?
というか雫さんって王族じゃないの?そんな人になんでもしていいの?
雫「お主のしたいことをしてよいぞ。」
ふわあああああ。
俺は生まれて初めて体に電撃が走った。
抱きついた雫さんの身体も、ミニスカートから見えるしなやかな足も、あああたまらない!
欲しい!雫さんのすべてが欲しい!
いや落ち着け・・俺は・・自分の欲望のために・・王国から独立までしてがんばっているわけじゃない。
みんなが幸せになれるように・・だから・・俺が、自分の欲にとらわれちゃいけない・・
俺は、優しく雫さんを引き離した。
雫さんが王国も民も大事にしていることがよくわかりました。
俺のことも気を遣っていただいて・・俺も、みんなのためにがんばっていこうと思います。
その、雫さんも幸せになってほしいです。
だから・・俺のために雫さんが犠牲になんてならないでください。
雫「・・わらわでは魅力が足りなかったかのう?」
そ、そんなことないです!
雫さんは、とても魅力的な女性です!
雫「ちょっと意地悪な質問をした。すまぬ。」
雫「お主の顔、真っ赤じゃぞ。」
ふあああああああ!
雫さんは去って行った。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
雫さんを俺のものにしたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
なんで断ったんだ俺はアホかあああああああああああああああああああああああああああああああいああああああああああああああああ
・・
・・・・
ふー、火照った身体に風が気持ちいい。
まだ雫さんの感触が残ってるよ・・女の子の身体って魔法みたいだ。魅了されちゃう。
レイン「あら、珍しいところにいるのね。」
あ、レイン・・うん、ちょっと風に当たりたくて。
レイン「少し顔赤いわよ。風邪ひかないようにね。」
気を付けるよ。
・・雫さんも魅力的だったけど、レインもすごいよな。
スラっとしてて、出るとこ出てて引っ込むとこは引っ込んでて・・
村の男は大体レインのこと好きだったんだよね。
ちなみに、クーさんは一部の男から熱狂的に好かれてた。
全員玉砕してたけど。
レイン「もしかして、目覚めた?」
何が?
レイン「瑪瑙が私を見る目、いつもと違うわ。」
え!?
レイン「そうねぇ・・女を見る目ね。」
図星をつかれて俺は動揺した。
え、えーと、まるでいつもは女性として見ていないことにならない?
それはそれで失礼なような。
レイン「そうじゃなくて、わかるでしょ?エッチな目で見てる。」
わっしょい!わっしょい!わっしょい!わっしょい!
うわああん全部バレてるぅうぅ。
レイン「新人にあてられて発情しちゃった?」
まぁその通りなのと雫さんとのでちょっとまぁ・・うん・・まぁ・・
レイン「そんな瑪瑙もちょっと新鮮ね・・私が相手してあげよっか?」
ふぁ!?
レイン「瑪瑙には2回も助けられたわね。賊と、反乱軍の時。」
う、うん。
レイン「おかげでね・・私、まだ男を知らないの。」
いきなり俺の胸が高鳴った。
レインの側にはいつもクーさんがいた。
レインはみんなから頼られていたし、他の男と付き合う暇があるようには見えなかった。
だけど・・村のみんながレインのことを好きだってわかってた。
・・レインがその気になれば、こっそり男と付き合うことくらいできたんじゃないかって・・
だからずっと・・俺なんかじゃレインには釣り合わないって・・自分に言い聞かせていた。
でも違った。
レインは俺のすぐそばにいる。
手を伸ばせば届く距離にいる。
レイン「瑪瑙が私の最初で最後の男にならない?」
レインが俺の腕の下に手を入れた。
でも抱きしめるわけでもなく、すぐ目の前にいるだけ。
もどかしさからレインに手を出したくなる。
今がチャンスだ!!!
いや待つんだ。さっき雫さんの時にどんな結論出した?
自分の欲望に溺れることなくみんなを幸せにしてこう、だろ?
綺麗事を言いながら欲望を優先するのか?そんな汚い人間になるつもりか?
俺は・・俺は・・・・・・
レイン「・・少し性急過ぎたわね。」
レイン「いつでもその気になったら襲い掛かっていいわよ♪」
レインはウィンクして去って行った。
・・ダメダメだなぁ俺。
せっかくレインから歩み寄ってくれたのに・・
もしかして、俺ってゴミくずなのでは?
・・
・・・・
あまり・・眠れなかった・・
眠れなくても仕事はしないといけない。
では外国へ攻めるのは、レイン、クーさん、ミミットさん、マーユさん、あと俺。
ここ本拠を守るのは、雫さんとエティーさん。
決まったことの確認と、みんなから出た要望の是非を考える。
・・あれ?
かなりの物資を持って行くことになっていません?
これは・・クーさんからの意見だ。
クー「外国への遠征は長距離かつ広い範囲を攻略しなければなりません。」
クー「国内戦とは異なる戦い方が必要です。」
ミークルーガーを出せば解決!・・というわけじゃないのか。
・・俺はクーさんを見た。
他の人よりひと回り小柄な身体。
身体の凹凸もあまりないが、整った顔立ちと表情は・・俺たちと同じ大人のものだ。
一部の男たちがクーさんに熱狂的になっていた気持ちもわかる。
俺がその気になれば、クーさんも俺のものに・・
エティー「長期戦を予定しているのであれば、逐次補給する方が良くないですか?」
エティー「大量の物資は保存に苦労しますし、敵に狙われやすくなります。」
・・俺はエティーさんを見た。
王国の軍人でお堅い格好と表情をしているが、よく見ると普通の女の子だよなぁ。
かわいらしい感じ。胸も・・ごくり。
もしかしたら年下かも。若いのに優秀な人だよね。
俺がその気になれば、エティーさんも俺のものに・・
クー「補給物資を安全に運べるか怪しいと思います。」
クー「賊や魔物に狙われる危険が大きいです。」
クー「どちらの方法もリスクはありますが、瑪瑙の近くに置くのが一番安全です。」
夜襲されて食料を燃やされるパターンもあるよね。
・・それも守るなら・・ミークルーガーさん1日24時間体制で働かされちゃう!
ミミット「物資に余力はありますか?」
ミミット「外国にも苦しむ人たちがいます。」
ミミット「その人たちも救うべきです!」
・・俺はミミットさんを見た。
いつも民優先の優しい人。その優しさは顔立ちにも出ている。
芯の通った人は魅力的だよね。
というか・・俺の周りの女性はみんな魅力的なのはなぜ?選んでいるわけでもないのに。
俺がその気になれば、ミミットさんも俺のものに・・
クー「多めに持って行くので余力はあります。」
クー「ただし、無制限に施しをすればすぐに底を尽きます。」
ミミット「持って行く量を増やしましょう。」
エティー「待て!既に限界ギリギリの量だぞ。」
え?そうなの?
本拠にはもっと残した方がよくない?
雫「そうだのう。残る側としても物資が少ないと出来ることが限られてしまう。」
レイン「外国への遠征は重要課題よ。」
レイン「なんとしても成功させないとね・・これは、王国からの指示でもあるんでしょ?」
雫「それを言われると弱い。」
マーユ「え?王国の指示で動いているのですか?」
レイン「そうよ。王国の無茶を聞いてあげているの。」
マーユ「え!?王国の領土を切り取っているのに王国が指示を出してそれを聞く?」
言葉にすると意味不明なことしてるよね。
・・俺はみんなを見た。
みんなそれぞれ魅力がある・・俺は・・みんな・・欲しい。
俺だけのものにしたい。
どうして俺は今までみんなの魅力に気付かなかったんだろう・・?
レイン「瑪瑙?顔が青いわよ。」
あ・・ちょっと・・気分が悪くて・・
雫「なら休むといい。部屋まで連れて行こう。」
だ、大丈夫・・えーと、自分で行けるから。
クー「続きはこちらで進めておきます。」
クー「結果はまとめて書類にしますので体調が回復したら見てください。」
ああ、ありがとう・・
俺は部屋を出た。
・・
・・・・
俺はどうしてしまったんだ?
ミークルーガーを・・力を手にしたらもう民のことなんかどうでもいいと・・思うように・・なってしまったのか・・?
俺が・・こんな醜い人間だったなんて・・・・
悪魔王さん、超神さん・・いませんか?
客間を捜すも誰もいなかった。
メイド「どなたかお捜しですか?」
メイドさん・・
文句も言わずそこそこ広い屋敷をひとりで綺麗にしてくれている。
それにかわいい。
ああいや、もしかしたら知った顔がいるかなと思って・・
客間のドアを開けまくったんだ。
メイド「・・普通いないと思いますが・・」
ですよね!
メイド「そういえば今度は外国へ遠征だと聞きました。」
メイド「すごいですよね!これがうまくいったら王国より広い領土になっちゃいますね。」
メイドさんも俺のものにしたい。
毎日楽しいことしたい。欲のまま行動したい。
俺は・・俺が幸せを求めてもいいじゃないか!!!
メイド「瑪瑙様?」
はっ!・・ああいや、なんでもない。
ちょっと外を散歩してくるよ。
メイド「はい、行ってらっしゃい。」
ここにいると自分を抑えきれなくなりそう。
これが・・本当の俺なのか・・
・・
・・・・
当てもなく歩いても問題が解決するはずもなく・・
むしろよこしまな感情が強くなるというか・・
誰から楽しもうか選ぼうとしちゃってるよ俺!
大地主「瑪瑙さん・・頭ぶんぶんして虫でもつきましたか?」
虫じゃないですが何かが憑いたのかもしれないです!
あー大地主さんこんにちは。
大地主「こんにちは。」
・・大地主さんは、苦労されて来たんですよね?
大地主「一人前の人間になるための教育が、ダメ人間にされる逆教育を受けましたからねえ。」
大地主「苦労というより、王国に未来を殺された気分ですよ。」
ですが今は大地主として・・周りからは成功者に見えると思うんです。
大地主「そのせいで誰も私を救おうだなんて思わないでしょう。」
大地主「むしろお金があるなら他人を救えと言われる始末・・だだだ誰も、わ、私を・・救わないのに・・」
・・もしかして、無理やり支援させてましたか?
大地主「いえいえ。それはこちらから声をかけたでしょう?」
大地主「瑪瑙さんたち若い人が活躍、それも迅速に魔物退治をしてくださるのを見て、力になりたいと自分から思ったからですよ。」
大地主「私はお金を出すことしかできない年寄りですから。」
そんな!それに年寄りと言うほど年をとっているようには見えませんが。
まだ・・60くらいでしょう?
大地主「61になりました。」
大地主「6歳の頃に国がテストケースとして始めた庶民向けの学校教育を受け始めましたから・・55年経つんですね・・」
大地主「ずずずずっと・・地獄だった・・今も・・い、生きているのが辛い・・」
大地主「それなのに私を苦しめている王国は今でものうのうと・・憎い、苦しい・・」
あの、どうすれば大地主さんを救えますか?
大地主「さあ・・地獄が始まってから55年・・・・55年分の苦しみをどう補填すればいいかなんてわかりません。」
大地主「できるなら返して!私の人生を返して!」
先生から暴力を受けたりしたんでしたっけ?
その方に復讐とか・・
大地主「生きていれば110歳くらいですね。」
・・無理そう。
大地主「瑪瑙さんみたいな若者は気にしなくていいんですよ。」
大地主「責任というなら、私と同世代か上の世代の人がとるべきものですから。」
でも・・あ、な、なら、王国は・・倒さないといけないですよね?
大地主「そんなことありませんよ。」
大地主「王国への憎しみは私怨ですから。瑪瑙さんたちが私の私怨に付き合う必要はまったくありません。」
なんか・・すみません。
どれが大地主さんの本心なのかわからないです・・
大地主「全部本心ですよ。」
大地主「王国やこの社会、人への憎しみも本心。」
大地主「世の中が良くなってほしいと思うのも本心。」
大地主「瑪瑙さんたちの活躍も心から応援しています。」
大地主「全部私なんです。嘘偽りはありません。」
なんか、難しいです。
大地主「正義も悪も、人の心に存在するものです。」
大地主「弱きを助け強きをくじきたいと思うこともあれば、他人の物をうらやましいと思うこともあります。」
大地主「他人に優しくしないといけないと思いながら、貧乏人には関わりたくないと思うこともあるでしょう。」
大地主「それが人間なんです。」
・・・・わかる。
俺が今そうなっている。
民を救うために活動しているのに、自分の欲を優先させたいと思っている。
あの、そういう時はどうすればいいでしょうか!?
大地主「どうにもなりません。人は悪の誘惑に勝てるとは限らないのです。」
大地主「ですが、心の赴くままに行動するのは野生動物と変わりません。」
大地主「最後の最後で自分の意思を貫けるよう、自分の支配者になるのです。」
自分の支配者・・
大地主「お腹が空けばイライラもします。」
大地主「もし大らかな心を持ちたいなら、食生活が乱れはいけませんよね。」
大地主「睡眠不足はあらゆる能率を下げます。」
大地主「より高い成果を望むのであれば、よく眠れる環境を作りましょう。」
大地主「あなたはどんな人になりたいですか?」
大地主「そのために必要なことをひとつひとつ積み上げていくのです。」
大地主「ひとつやれば全て改善すると思ってはいけません。時間をかけて自分のすべてを掌握しましょう。」
おお!では大地主さんも実践して・・?
大地主「ええ、壊れた傘をずっと使い続けています。」
壊れた傘・・?
大地主「傘は、少し骨が曲がった程度なら直せます。」
大地主「しかし直さず使い続けると、骨は折れ布は破け直しようがなくなります。」
大地主「・・人間も同じです。壊れた人間をそのままにすると、直(治)せなくなります。」
ふむふむ。
大地主「それにより王国の仕打ちを決して忘れることはありません。」
大地主「壊れた傘は私と同じ・・もう直らない壊れたもの・・」
大地主「私には王国に復讐する理由がある!私を化け物にしたのは王国だ!!」
俺も山賊に村を滅ぼされ家族を殺された!だけど王国は何もしてくれなかった!
俺にも王国に復讐する理由があります!
大地主「化け物になる前は・・苦しくて苦しくて・・死にたかった・・」
大地主「ですが、自分が化け物になると気分がすっきりします。」
大地主「どうやって復讐しようか考えるだけでとても気分がいい!」
俺も化け物になりたいです!
大地主「あ、無理になる必要はないですよ。」
大地主「瑪瑙さんは、自殺を考えたりしますか?」
・・いえ。
大地主「ならまだ早いですね。」
大地主「死の影が見えたらこちらへ来てください。その時は歓迎しますよ。」
というか、いきなり素に戻りましたね。
大地主「・・死ぬよりマシって程度ですからね・・」
大地主さんは、苦笑いをした。
・・
・・・・
自分の支配者に・・か。
俺は屋敷に戻った。
マーユ「あっ、瑪瑙様!」
クー「体調悪いのに外へ出かけたと聞いて心配しました。大丈夫ですか?」
ありがとう。もう大丈夫。
クーさんとマーユさんの組み合わせは珍しい。
マーユ「お辛いなら、私が一緒に添い寝しますよ♪」
マーユさんが抱きついて来た。
クー「マーユさん!(激怒)」
ありがとう。でもまだやることがあるから。
俺はマーユさんを引き離した。
マーユ「あれ?」
クー「瑪瑙・・雰囲気変わりました?」
いつも通りだよ。じゃあ仕事してくる。
俺は自室に戻った。
マーユ「・・今の瑪瑙様タイプかも。」
クー「は?」
・・
・・・・