13金策、大地主さんの過去
雫「いわゆる継戦能力というやつじゃな。」
雫「兵や兵の武具、食料、薬、兵器や拠点の製造力、そして何かと必要な資金。」
雫「これらを戦時中でも滞りなく用意できてこそ、継戦能力があると言える。」
レイン「お金があれば全部解決できるわよね。徴税する?」
ミミット「いけません!民の心が離れてしまいます!」
レイン「金持ちから徴税すればいいでしょ。」
エティー「そんなことをしたら、お金を持ってよそへ逃げてしまいます。」
エティー「上流層、中間層、下流層すべてがいてこそ国家経営は安定する。」
うーん、何かいい方法はない?
クー「内政に力を入れるのが一般的です。」
クー「しかしこれは、平時から行うのが普通です。」
クー「鉱山の発掘、特産品の開発も同様です。時間がかかります。」
クー「どこからか支援をもらうか、資金を持っている敵から奪うしかないでしょう。」
大金持ってて超弱い敵がいればいいのになぁ。
クー「都合のいい敵はいませんので、支援してもらえる相手を探しましょう。」
クー「どの道、今後のことを考えれば時間のかかることもしなければなりませんが。」
じゃあ支援者探してきます。
・・
・・・・
お金出してと言って、笑顔になる人はいない。
まぁ俺もお金出してと言われたら、えーって言いたくなる。
大地主「おや瑪瑙さん、ひとりですか?」
ええまぁ。あーいつもありがとうございます。
大地主さんには、これまで定期的に資金を提供してもらっている。
雫さんが仲間になって、やって来た魔物退治した辺りだから・・もう長いこと支援してもらってるなぁ。
お礼状とかしないでって言われてるからか、殆ど何もお礼できてないような。
大地主「うわさで聞きましたが、外国が絡んできているとか?」
はい。外国が来たらもっと大変なことになってしまいますから。
必ず食い止めます!
大地主「では本拠で作戦会議中といったところですか。」
・・えっと、お恥ずかしい話ですが・・資金繰りに奔走しているところです。
大地主「資金不足・・ですか?」
まぁ、はい。
さすがにただで兵士として働けとか、ただで物資をよこせとか言うわけにはいきませんから。
大地主「それでしたら、私がお金を出しますよ。」
ええ!?いやでも、今までもずいぶん支援していただいているのに・・
大地主「今を逃せば外国の侵入を許してしまうかもしれません。」
大地主「この国を、国民を守ってください。お願いします。」
大地主さんは深々と頭を下げた。
えええ、大地主さんお金出して頭まで下げるとか、何もいいことないでしょ!
えっと・・わかりましたから顔をあげてください。
大地主さんは聖人かなにかなんだろうか?
・・
・・・・
大地主さんから資金提供してもらい、早速西の反乱軍討伐に出発した。
西の反乱軍と対峙・・なるほど、クーさんの読み通り神聖兵は少ない。
作戦は?
クー「時間がかかると外国が援軍に来てしまいます。」
レイン「短期決戦ね。最初から全力で行きましょ。」
出し惜しみは無しだ!キメ・・あれ?キメラさんどこ?
ミミット「雫殿が乗って敵陣へ向かわれましたが。」
え?
ミミット「あとエティー殿がバジリスクに乗って敵陣へ・・」
え!?
レイン「ノーマルは私が借りるわね。」
え!?いやいいけど。
クー「なら私は空間兵を使います。」
あ、はいどうぞ。
ミミット「・・ノーライフ借ります。」
どどどうぞどうぞ。
えーと・・騎兵さーん!
騎兵「敵陣行ってきまーす!」
えー待ってー俺も連れてってー!
もしかして、俺必要ない?
・・
・・・・
―――――
ここまでのあらすじ。
外国の支援を受けた反乱軍と対峙した瑪瑙たち!
瑪瑙以外の活躍で見事勝利を収めた!
―――――
間違ってないけど悪意しか感じられない。
・・
・・・・
領主「まったく、金が足りなくて外国の介入への対策が遅れたとは、たるんでるぞ!」
すみません・・
外国の支援を受けた反乱軍を倒し、本拠に戻って領主様へ状況を報告した。
それで怒られた。
領主「お前はよくやっている。だが、組織の拡大と共にやるべきことも増えていく。」
領主「独立した当初と同じようにやってはうまくいかないだろう。」
領主「だがお前が成長した証でもある。これからも励むといい。」
は、はい!ありがとうございます。
領主「んで、金はなんとかなったんだな?」
はい。大地主さんが出してくれました。
領主「あーあのじじいかあ。オレが金を出せと言った時は断ったんだよなあ。」
領主「お前とはウマが合うのかもな・・で、何を要求された?」
いえ何も。
領主「いやいや、見返りがあるから支援するんだろ?」
領主「オレのとこに来るやつは・・ああいや、領主の地位を要求されたら断れよ。」
俺の一存で決めらないことは受けませんよ。
領主「それでいい。まあ金だけ出して口を出さないやつは上客だ。手放すなよ。」
客ではなく、仲間だと思っていますが。
領主「安全なところから金を出すだけで、危険なことは他人任せ。」
領主「そんなやつは仲間じゃねーよ。」
そうなのかなぁ・・人にはそれぞれ異なる役割があると思いますが。
その役割に大小や貴賤はないかと。
領主「みんな楽なことだけして大きな見返りを望むもんだ。」
領主「甘やかすといくらでもつけあがるぞ・・お前の優しさは時に欠点だな。」
俺の周りの人は全然そんなことないような・・
領主「で、ちゃんと上客にはお礼状や付け届けしてるんだろうな?」
大地主さんからは、そういうの嫌だからしないでくれって言われてるんですよね。
領主「じゃあ何してるんだ?」
特に何も。
領主「ぶぁっかもーん!言葉通り受け取ってどうする!」
領主「そういうやつは特別な扱いをしてやらないとすぐ機嫌を損ねるぞ!」
そ、そうなのですか?
領主「お前はまだまだだな・・よし、そいつの自尊心を満たしてやろう!」
領主「慰労会の開催だ!お前はじじいを招待しに行ってこい!」
はい!
・・
・・・・
瑪瑙を大地主の元へ派遣した領主は自室に戻った。
シェフ「領主様、食事の用意ができました。」
領主「ご苦労。メニューはなんだ?」
シェフ「希少部位のみを使ったローストビーフとシチュ―(高い)」
シェフ「この時期にしか採れない天然まつたけの土瓶蒸し(高い)」
シェフ「しらすおろし(個人的な好み)です。」
領主「お前の好みでオレの飯を作んな!(しらすおろしむしゃむしゃ)」
領主「もっと高くて珍しいものを作れ!(しらすおろしおかわり!)」
領主「金はいくらでもある。予算は気にするな!(しらすおろし待ち)」
シェフ「かしこまりました(しらすおろし好きなくせに・・)」
・・
・・・・
俺は大地主さんのところへ行った。
うーん・・なんかこういうの苦手。
・・えーと、大地主さんのために慰労会を開こうと領主様が提案してくれまして。
大地主「・・そういうのは苦手なんですよね。」
大地主「大勢の人がいるところとか、人口密度の高いところとか、何時間も他人といるのとか。」
ひとりでいるのが一番気が楽ですよね。
大地主「ええ。ですからその話はなかったことにしてもらえませんか?」
わかりました。領主様にそう伝えておきます。
・・
・・・・
領主「ほーん。で、あっさり引き下がったと?」
本人の嫌がることをしてもいい結果にはならないと思います。
領主「お前なあ・・そいつは特別扱いされたいけど、善人でいたいっていうバカなんだよ。」
領主「会を開いてちやほやされれば”やってよかった”と思うに決まってる。」
領主「でも自分のために会を開いたなんて思われたくないわけよ。」
そうなんですか?
領主「善行ってのはな、公表しづらいもんなんだ。」
領主「救われたやつはよくても、今もなお救われないやつが苦しむんだよ。」
領主「”あの人は救われたのに、どうして私は救われないの・・?”ってな。」
領主「ま、救われた側のお前にはわからんだろうがな。」
領主「だから体裁として、こっちが無理に誘ったってことにしないといけないんだ。」
領主「ほらもう一回行ってこい!バカの扱いは大変なんだ覚えとけ!」
は、はい!
・・
・・・・
俺は再び大地主さんのところへ行った。
うーん・・なんかこういうの超苦手。
・・えーと、大地主さんには是非とも慰労会に参加していただきたいわけでして・・
大地主「上司に何か言われましたか。」
まぁそんなところです。
大地主「慰労会の内容は?」
飲食したり、スピーチしてもらったりでしょうか。
大地主「・・・・あまり、期待に沿えるようなスピーチはできませんけど。」
支援していただいていることに対する慰労会でしょうから、その話をすればいいと思いますけど。
苦しむ民を救うために支援していますとか?
大地主「そういう綺麗な理由で支援しているわけではないので・・」
え!?
私欲でやってるようには見えませんけど・・見返りとかまったくないでしょう?
大地主「人にはそれぞれ事情がある、程度ですかね。」
大地主「人間の本質なんてみんな変わりません。」
よくわかりませんが、まぁ大丈夫ですよ。
勉強の場ではないんですし、なに話したって問題ないかと。
大地主「・・そうですか。では参加しましょう。」
ありがとうございます・・無理言ってすみません。
大地主「気持ちはわかりますよ。」
大地主「上司に無茶言われたことなら私もありますので。」
今は地主さんだから、前職かな?
・・
・・・・
慰労会が開催された。
こういうのはどうも苦手。
大地主「私もです。食事はひとりに限りますね。」
はい。
あ、そろそろスピーチの時間です。
大地主「あまりいいスピーチはできませんが・・」
領主「よーっす。お、じじい生きてたか。」
領主様!?失礼ですよ!
大地主「はい。中々死ねないものです。」
領主「講演なんてどうせ誰も聞いてないから好きなこと言えばいいぞ。」
領主「女の子はべらせてうはうはしたいとかでもOKだ!」
それはどうかと思います。
大地主「道義に反することはよくないですよ。」
領主「オレがいいって言ったらいいんだよ。」
領主「どんな講演でも構わん!オレが責任をとってやる!」
おお、領主様かっこいい!
・・
・・・・
大地主「紹介に与りました大地主です。」
大地主「何分こうした場は苦手ですので、とちっても許してください。」
大地主「さて、では私がなぜこちらへ支援をしているかという話をさせていただきます。」
大地主「私は王都より少し北にある地方都市で生まれました。」
大地主「もう50年以上昔でしょうか・・国が学校教育というものを始めたのです。」
大地主「今でも王侯貴族にしか普及されていませんが、当時実験的に庶民向けの教育も行われていたのです。」
大地主「当時6歳だった私は抽選で選ばれ、学校教育に参加することになりました。」
大地主「そこは・・地獄でした。」
大地主「授業中によそ見をしたから、配膳中にふざけたから、道具を持ってこなかったから。」
大地主「係をちゃんとこなせなかったから、宿題をやって来なかったから、集合に遅れたから・・」
大地主「あらゆる理由で教師から暴力を受けました。」
大地主「教師の暴力は、成長すると共に鳴りを潜めました。」
大地主「次に待っていたのは、同級生による地獄の日々でした。」
大地主「バカにされ、私の使った物を”汚い”と捨てられたり、無視されたり。」
大地主「どんなに混んでいても、私が使ったトイレだけ誰も使わなかったり。」
大地主「背も低く、成績も優秀ではありませんでしたが・・私はなぜそんな仕打ちを受けなければならなかったのでしょうか。」
大地主「顔が悪かったから?他人よりすね毛が早く生えたから?気が弱かったから?」
大地主「私がどんな罪を犯したのでしょうか。どんな罪があればこんな仕打ちが正当化されるのでしょうか。」
大地主「私は学校へ行かなくなり、病院へ行くようになりました。」
大地主「外で学生を見かけるとそそくさと逃げるようになりました。」
大地主「仲良さそうにしている男女の学生を見かけるとうらやましいと思いました。」
大地主「私も・・あんな楽しそうな生活を送りかった。」
大地主「病院の治療が終わり、私は働くようになりました。」
大地主「しかし・・私はもう、まともな社会生活が送れなくなっていました。」
大地主「他人といるのがどうしようもなく苦痛なのです。」
大地主「何時間も他人といなければならない環境は、気が狂いそうになります。」
大地主「心が・・どんどん荒んでいくのが・・自分でわかるようになりました。」
大地主「どれくらい前でしょうか・・昔もこういった、お酒のある食事会がよくありました。」
大地主「参加するのが当たり前、お酒を飲むのが当たり前、自腹なのが当たり前・・不幸にも、私はお酒も苦手でした。」
大地主「嫌な上司にお酒を強要され、いつも途中でトイレへ駈け込んでいました。」
大地主「お酒は飲めば慣れるとか、人付き合いが苦手なのはみんな同じだとか言われ続け・・生きるのが・・地獄でした。」
大地主「6年働きました。そして辞めました。」
大地主「お酒に慣れることはありませんでした。今もお酒は全然だめです。」
大地主「それから25年とちょっとでしょうか。実家にこもるようになりました。」
大地主「私が受けてきた仕打ちを知ってか、両親は私を受け入れてくれました。」
大地主「ですが・・私が50を過ぎ、両親が歳を取ると、このままではいけないんじゃない?と両親が言うようになりました。」
大地主「知ってるよ!今さらなんだよ!!もう・・どうすればいいんだよ!!!」
大地主「私だってこんな大人になりたくなかった!こんな人生嫌だった!」
大地主「結婚して、子供を作って、家庭を持ちたかった!」
大地主「でも無理なんです。他人と長時間一緒にいられないんです。友人も恋人も作れません。」
大地主「この辛い地獄で覚えたのは、それを表情に出さないことくらいでしょうか。」
大地主「・・誰も・・年老いた醜い私を助けてくれない。ずっと助けてほしかったのに、ずっと苦しんでいたのに!!!」
大地主「憎い、憎い、この世の中のすべてが憎い!」
大地主「みんな殺してやりたい。私がどれだけ苦しんできたかお前たちにも味合わせてやりたい!」
大地主「毎日どうやって人を殺すか、そんなことばかり考えていました。」
大地主「変化が訪れたのは、両親が亡くなってからでした。」
大地主「亡くなった両親の遺産。住んでいた家を売った私は、違う世界へ行きたいとさまようようになりました。」
大地主「・・でも無能って辛いですね。長旅すらできないんですよ。」
大地主「たまたまこの地で良さそうな土地が安く売られているのを見つけた私は、無駄にたくさん買ってしまったんです。」
大地主「自分で管理できないからと貸し出すようになったのが・・地主生活の始まりですね。」
大地主「運よく生活は安定し、それなりに稼げるようになりました。」
大地主「ですが・・私は今でも疑問に思うんです。」
大地主「国の始めた学校教育・・そこで私は他人と接するのが苦痛になりました。」
大地主「何のための教育だったのだろうか。私を苦しめても国はのうのうとしている。」
大地主「誰も助けてくれない。この社会が憎い。」
大地主「たまに・・昔はよかったと話す人がいますが、私には良かった時代なんてないんです。」
大地主「今でも苦しい・・みんな殺してやりたいと思っています。」
大地主「・・・・いつか私は人を殺すでしょう。」
大地主「ですがそれは・・国の仕打ちに対する結果なんです。」
大地主「”居は気に移し、養は体に移す”と言われます。」
大地主「住む場所や地位、環境がその人の心に影響を与え、飲食(栄養)が体に影響を与えるという意味です。」
大地主「王国から見捨てられ救われない私が社会を憎むのは自然なことなのです。」
大地主「地主として成功した私を救おうという人はいないでしょう。」
大地主「いえ・・もはや私も救いを求めていません。」
大地主「復讐!それこそが私の望み!この手で・・みんな・・殺してやる・・」
大地主「・・私の心は化け物になってしまいました。」
大地主「ですが、若い方々を私のような化け物にしてはいけないと思うんです。」
大地主「そのための支援です。」
大地主「王国から独立して魔物や賊を退治する瑪瑙さんたちを見て、この人たちなら人々を救える・・そう思えました。」
大地主「・・私はもう手遅れですが・・私みたいな化け物を生み出さないために、精一杯支援していくつもりです。」
大地主「どうか・・みなさんは幸せになってください。ご清聴ありがとうございました。」
・・・・えーと、みんなびっくりした顔をしている。
もしかして、ヤバい蓋を開けた?
領主「誰だあいつに講演させたバカは!」
レイン「鏡いる?バカが映ってるわよ。」
領主「ふふふ、いつ見てもイケメンだな。」
鏡は耐えられず割れた。
・・
・・・・