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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

中年非正規会社員が不思議な店で魔術書を買ったら、その本にメモ書きが、その通り実行したら異世界に飛んだけど。そこはマジで実力主義の世界だった

作者: 田中まもる

 俺はラノベが大好きで、とくにモフモフ系で癒される物語が好きだった。俺は学校を卒業後、アパレル会社に就職して、そこの会社で、自分でも営業をよく頑張ったと思う。しかし会社の業績は上がらず、ある日出勤すると倒産と書かれた貼り紙が扉に貼ってあった。その後、俺は、正規社員を目指して就活をしたが、最終面接には進めるのだが、正規社員と採用するには業績を見てからという理由で、しばらくは非正規で採用されては、三年で雇い止めに合うということを繰り返していた。


 アパレル会社が倒産後、俺はどこの会社でも名前を呼んでもらえず、バイト君と呼ばれたいた。俺は自分のことをバイト君という名前だと思うことにした。ある日バイトの帰り、いつもと違う道で帰りたくなった。俺は決まったルートでないと気持ちが悪いはずなのに。その日に限って違う道でどうしても帰りたくなった。


 ガス灯ぽい灯りが灯っていた。その灯りの近くには西洋アンティーク風の古書店があった。俺はふらふらとその店に吸い寄せられる様に入ってしまった。


「お客さん、初めての顔だね」


「面白い店だなって思って、会員制の店みたいだし、直ぐに出ます。値段も俺の給料では買えそうにないし」


 一冊、数万円だ。俺の手持ち現金は数千円。デヴィッドカードが使えたとしても、口座には十万円くらいしか入ってない。


「お客さん、この本はいらないか? ぼろぼろだし廃棄処分品なので安くするよ」


 店主が私に手渡したのは魔術書だった。確かにぼろぼろだし、ページもかなり抜けている。


「幾らですか?」


「お客さんなら千円で良いや」


 本との出会いは一期一会だし、俺はこのぼろぼろの魔術書を買った。



 ワンルームの部屋に戻ってぼろぼろの魔術書を読んだ。炎の呪文「リアクター」と言ってみた。何も起こらなかった。水の呪文「アクワ」何も起こらない。土の呪文「ガイス」やはり何も起こらない。当たり前だ。本物の魔術書が千円なわけがない。あちこち抜けているので、それを抜けていない部分を読んでは、ジグソーパズルのようにはめ込みなんとか意味が通るようにした。それなりに遊べたから買って良かったと思いたい。明日の昼と夜の飯がカップ麺になったけれど。


 本文ではなく前の持ち主が書いたメモ書きに目が止まった。今の生活が本当に嫌ならこの呪文を唱えるべしと。


「アルサルバクラ、ナクサクバクタ、ウルシムカライ」と俺は唱えた。突然俺は目眩がした。ヤバい。最近まともな食べ物を食べてなかった。極度の貧血だ。俺は闇黒世界に引き摺り込まれる。俺は死ぬのか?


 俺は、どう見ても中世ヨーロッパの広場の真ん中に立っていた。ぼろぼろの魔術書を持って、スーツ姿でそこに立っていた。言葉は分かるし、看板の文字も読める。


 おそらく俺はワンルームの部屋で貧血を起こして倒れているはず。俺には友人も家族もいない。会社の人間で俺のことを知っている人間は人事係だけだろう。しかし、アルバイトが無断欠勤をしてもクビにして終わり。後は家賃が滞納になってから誰かが見に来てくれるだろう。二か月は先だな。


 周囲から視線を感じる。貧血で倒れるとこんなにリアルな妄想を見るのだろうか? ともかく多くの人の視線から逃げたい。俺は路地を目指した。



 路地に逃げ込むと、露出の多い服を着たお姉さんが声をかけてきた。どことも一緒だなぁと少し安心した。


「ねえ、変な服を着ているお兄さん、お金持ってる?」


 俺は財布から千円札を数枚出した。


「お兄さん、紙なんか出して鼻でもかむの?」と言って女は軽蔑したように笑った。


 俺は硬貨を出してみた。


「見たことのない銅貨だね。これは銀貨かしら?」


「仕方ない、その変な服で良いわ。脱いでくれる」


「断る」


「あっそう、脱がしてあげて、殺しても良いけど服は汚さないようにね」


 俺の前後から下卑た笑いを浮かべた男が二人現れた。


「リアクター」とつぶやいた。俺の周囲に炎が幾つも浮かんで回り始めた。男たちは驚いたようだ。しかし一人の男はその炎の輪に突進した。男の着ていた服に火がついて男は全身火ダルマになっている。もう一人の男がナイフを取り出した。


「アクワ」と俺はつぶやいた。水が勢いよく飛び出しナイフを投げようとしていた男に直撃して、鈍い音が聞こえた。露出の多い服の女はナイフを持って跳躍した。


「ガイス」とつぶやいた。女は、突如目の前に現れた土壁に激突してのびていた。


 俺は広場と逆方向にゆっくり歩いている。まだ俺の周りに炎が回っている。どうすれば消えるのだろうと思いながら、魔術書を見たら、あるページが光っていた。そこにはディスペルの文字が浮かんでいた。


「ディスペル」とつぶやくと炎は消えた。


 路地から出ると俺は一人の騎士に声をかけられた。「魔術師殿、お見事です」


「失礼しました。私はこの国の騎士団に所属する騎士でクラインと申します。盗賊団との攻防戦見事でした」


 このクラインと言う男は俺のことを見ていたのか。可哀想に助けてやろうとかって思わなかったのだろうか?


「俺はバイトだ。見ていたのか?」


「途中からでしたが、なかなか勢いのあるアクワでした。魔術師軍にスカウトしたいのですが。どうでしょう?」


 宿なし、金なしの俺にとっては願ってもない話だが、身元不明の俺を雇ってくれるのだろうか? まあダメで元々だな。


「良いだろう」


「即答とはありがとうございます。色々条件をつけられるのではと思っていました」


 条件をつけても良かったのか。しくじった。


「では、バイト殿、王城までご同行願います」



 王城の裏門にある小さな兵士詰所に、俺は連れて行かれて水晶玉に手を置くように言われた。


「前科はなしです。通って良い」と鼻眼鏡をかけた俺と同じくらいの役人が偉そうに言った。あんたはこの仕事で何年飯を食ってきたのだろうか? 俺と代わってほしい。



 クラインは俺を塀に囲まれた訓練場に連れてきた。真ん中に線が引かれていた、ドッジボールでもするのだろうか? 俺は自慢じゃないがドッジボールでボールを当てられたことが未だかつてない。


 ローブを深く被った、宇宙大戦争だったかに出てくる正義の味方みたいな人が五人出てきた。俺とは反対側に行ったので、相手方だろう。ドッジボールをする雰囲気ではなくなった。


 俺の陣地にも同じローブだけど明らかに相手方よりも布地が薄いローブをやはり深く被った人が四人出てきた。俺のチームメイトのようだ。


 花火が上がった。開始の合図なのだろう。チームメイトは土魔術で土塀を築いた。防御戦に徹するようだ。俺は相変わらず立ったまま。


 俺が何もしないからか、明らかに雑魚だからか俺に対して、相手方は攻撃を仕掛けて来ない。土塀の一番薄いチームメイトを集中的に攻撃している。他のチームメイトはその隙に攻撃するのかと思っていたら、さらに守りを堅くした。


 最初に集中攻撃を受けた魔術師は自らの土塀が倒れて埋まってしまった。次に薄い土塀の魔術師が攻撃されている。各個撃破だ。俺はそれをただ見守っているだけ。四人目も埋められた。俺の番がきた。


 相手方魔術師から「ファイエルン」という呪文が聞こえたので、なんだろうと思ったら魔術書が光っていつも通り「ファイエルン」の文字が浮かんだ。


「ファイエルン」とつぶやいたら、例えるなら散弾銃だろうか、小さな火球が相手方を撃ち抜いてあっという間に五人全員を倒してしまった。


 チームメイトは土から掘り出されて訓練場から医務室へ運ばれた。相手方の魔術師たちは担架で運ばれて、こちらは医務室ではなく別のところに運ばれて行った。


 クラインが「おめでとう、君は正規の魔術師に採用されました」と言う。


 俺が正規採用ってヤバい込み上げてくるものがある。これは貧血で倒れて見ている夢なのに。もしかしたらこのまま死ぬかもだから良い夢を見させてくれてありがとうって言いたい。



 ローブを目深く被った魔術師が俺のところにやってきて、「これから会議があるのでついてくるように」と言った。俺は魔術師の後ろについて会議室に入った。


「諸君、国王陛下より命令が下された。あの無礼な北の魔女の討伐である。今回の入れ替え戦は不慮の事故で欠員が四名出たものの、有力な新人が加入した。来週の月曜日早朝出陣する。諸君の健闘を心から祈っている。神の祝福があらんことを」



「君の名前は何かな? 僕はシャインと言います」と若い魔術師が俺に声をかけてきてくれた。このクルーのリーダーさんだろうか?


「俺はバイトです」


「バイト君か、入団早々気の毒なことになったね」


「シャイン先輩、どう言うことでしょうか?」一日でも早く会社や店に入った人のことを俺は常に先輩と言うようにしている。そう言われて怒った人はいない。


「シャイン先輩は恥ずかしいよ。どう見てもバイト君の方が年齢が上だと思うから、シャインさんと呼んでください」


「シャインさん、気の毒なことってどういうことでしょうか?」


「一つ目の理由、これまで二度討伐部隊が出陣したけれども、二度とも敗北した」


「二つ目の理由、北の魔女の根城に行く途中にドラゴンの渓谷を通過しないといけない。ドラゴンは魔力に反応するので、必ず戦闘になる」


「三つ目の理由、北の魔女は不敗神話を持っている。生まれてから一度も負けたことがないらしい」


「僕たちは来週の月曜日にそこへピクニックに行く。過去二回ピクニックに行ったけれど、ここに戻って来られた魔術師は百人中三十人弱」


 全滅ではないのか、だったら俺は大丈夫かもしれない。と理由はないがそう思った。


「戻って来られても、その魔術師たちは役立たずということで全員クビになった」


 早々に失業か、次の仕事を探さないといけない。やはり俺は夢の中でもついていない。



 月曜日の早朝、俺たち九十六人は出陣をした。訓示していた人は魔術師ではなく、魔術省の偉いさんだったので出陣はせず見送りだけをしてくれた。


 魔術部隊の割には全員徒歩だ。しかも敗北するのがわかっているからか、士気も低く、とぼとぼ歩くという表現が適している。


 ドラゴンの渓谷が見えてきた。ドラゴンは大きい。俺は怪獣映画が大好きなので、表情が緩んでいたらしい。シャインさんが「バイト君、嬉しそうだね」と声をかけてくれた。


「ドラゴンを見るのが初めてなんです」


「僕も初めてだけど、恐怖で足が震えているよ」


 魔術師部隊に指揮官はいないようで各自の判断で動いている。誰一人ドラゴンを攻撃する人はいなかった。そっとドラゴン渓谷を抜けようと隠れながら進んでいる。俺はシャインさんの後ろを金魚のフンのようについている。それが一番安全なような気がしたから。


 魔術師数人がドラゴンに見つかった。魔術師たちは豆鉄砲のような火球を放っていたけど、あっさり喰われていた。魔術師がいるのがわかったせいでドラゴンたちの動きが活発になった。シャインさんは岩の割れ目に体をねじ込んだ。俺もシャインさんのマネをして岩の割れ目に体を入れて、ひたすらじっとしていた。



 夜になってドラゴンたちが巣穴に戻るとシャインさんが岩の割れ目から出てきた。生き残った魔術師は三十人程度だった。


 北の魔女の根城に行く者と、北の魔女の根城以外のところに行く者、二つの選択肢をシャインさんが、生き残った魔術師たちに提案をした。シャインさんと俺は北の魔女の根城に行くことにした。別に討伐する気持ちはないのだけれど、北の魔女の根城を見てから逃げても良いと思ったからに過ぎない。


 魔術師部隊はここで解散して各自の行きたいところに行くことになった。


「バイト君も物好きだね。僕の後についてくるなんて」


「勘ですかね。シャインさんと一緒にいる方が生き残れそうな気がします」



 北の魔女の支配領域に入ったようで、見渡せる限り雪と氷の世界で北国って感じがする。


「シャインさん、北の魔女の根城とやらはどこにあるのですか?」


「さあね。そこまで辿り着いた人がいないから未知の世界です。だから僕は見てみたいのです」


「バイト君は魔力を感じられますか?」


「魔力の感じかどうかはわかりませんが、あっちはヤバいって感じがします」


「僕もあちら側から強い魔力を感じます。そのヤバい感じは魔力を感じているのだと思います」


 俺たちはそのヤバい感じがする方向に進んだら、突然周りが真っ白になった。雪崩に巻き込まれたらしい。


「シャインさん、大丈夫ですか?」と声をかけた。返事がない。近くに魔力の気配もない。相変わらずヤバい気配は感じる。さっきより強く感じる。


「リアクター」俺の周りをブンブン炎を回して雪やら氷をとかしながらヤバい感じがする方向に進んだ。腹が減った。こっちの世界にきてから飯を食っていない。


 なんの説明もなく渡された雑嚢ざつのうを探ってみたら携行食らしきものを見つけた。丸薬ぽいが一つ口に入れた。味はしない。とりあえず腹はいっぱいになった気分にはなった。


 あれはどう見ても城に見える。ヤバい感じが肌を刺すぐらい感じる。微かだがシャインさんの気配も感じる。北の魔女さんがどうでるかは知らないが、シャインさんとは袖振りあうのも多生の縁だし、助けられるものなら助けたい。


「ごめんください。北の魔女さんいらっしゃいますか? そちらにシャインっていう人が来てませんか?」とちゃんと挨拶と訪問目的を告げた。


 城の門が開いた。女の子が一人立っていた。メイド服を着て俺に対してお辞儀をしていた。俺も慌ててお辞儀を返した。


「私はバイトっていう駆け出しの魔術師です。シャイン先輩が雪崩に巻き込まれてしまい、はぐれてしまいました。なんとなくですが、このお城にシャイン先輩がいる気配がしたので、本当は訪問予約をすべきだとは思ったのですが、連絡手段が思い至らず、直接来てしまいました。すみません」


「あの方のお連れの方でしたか。はい雪崩に巻き込まれて埋まっていたのを私が助け出しました。ただ、頭を強く打ったようで意識が戻っていません」


「バイトさん、失礼しました。私はケイトと申します」


「シャイン先輩に会えますか?」


「もちろんです。どうぞ意識が戻るように名前を呼んであげてください」


 俺は小さな部屋に通された。ここは使用人用の部屋だ。シャインさんが頭に包帯を巻いて寝台に横たわっていた。痛みがあるようで、時々うめき声がする。痛み止めの魔術ってないのかと魔術書を見るとヒールって文字が浮かんでいた。


「ヒール」とつぶやいたら、シャインさんがうめき声ではなく、寝息を立て始めた。


「バイトさんて駆け出しってご自分で言われる割に中級魔術が使えるのですね」とケイトさんが不思議そうな顔で言う。顔が近いです。僕は女性に対する免疫がありません。


 俺は若い頃アイドルの追っかけをしていた時代があった。別に黒歴史などとは思っていない。その時の俺は輝いていたと逆に誇りに思っている。ケイトさんの雰囲気が、そのアイドルに似ていたので、思わず握手してくださいって言いそうになった。


「バイトさん、シャインさんが意識が戻ったらどうされるのですか?」


「僕はシャイン先輩にくっついてシャイン先輩と一緒に旅に出るつもりです」


「バイトさん、あなたたちって北の魔女の討伐でここに来たのではないのですか?」


「上の命令はそうですけど、不敗の魔女さんに挑む気持ちは初めからありません。誰も見たことのない北の魔女様のおうちを見に来ただけです。中にも入れてもらえたので、目的達成です」


「私の理解が正しければですね。あなたたちは命の危険を冒して北の魔女のお城を見に来ただけってことで良いのでしょうか?」


「はい、観光目的です」


「あなたたちって本当に物好きですね」


「そうですね。本当に物好きだと思います」


「北の魔女の城に入ってどう思いましたか?」


「案外、温かいです」


「温かいですか?」


「冷え冷えしているのかと思ったのですが、なんとなくですが温かいです」


「初めてそんな風に言われて、ちょっと嬉しいです。それでですね。シャインさんですが、頭を強く打っているのでしばらくここから動かせませんよ。バイトさんはどうされます」


「シャイン先輩の意識が戻るまでここで仕事をさせて貰えると嬉しいのですが」


「下働きで良いですか?」


「はい、頑張って働きますのでよろしくお願いします」


「変わった方ですね」


「夕食の準備をするので野菜の下ごしらえをお願いします」


 俺は調理場に連れて行かれて野菜の下ごしらえをした。バイト経験の豊富な俺は手際良く、終わらせてしまったので、大根に似た野菜を薄く皮を切って、薔薇の花を作ってみた。人参に似た野菜も切れ目を入れて、花に見立ててみた。


「まあ、可愛い」とケイトさんに喜んでもらえて俺は、正規社員にはなれなかったけれど、バイト経験もけっこう役に立つと思ったのだった。まあ、貧血で倒れている俺の夢ではあるけれど。


「それでは、バイトさんに今日のメインディッシュの雪ウサギを捕まえてほしいのですけど」


「僕、捕まえるのは大丈夫だと思うのですが、雪ウサギの皮を剥いだり、お肉にしたりはできません!」


「あなた、魔術師ですよね。人を殺したりする方がウサギの解体ができないっておかしくないですか?」


「そうなるんですよね。でも、今はできないです。もちろん覚える気持ちはあるのですが、なんか可哀想な気がして」


「ウサギの下ごしらえは私がします」とケイトさんに呆れられた。


 俺の世界ではお肉は切り身になってパックに入っているのが普通だから。豚の皮を剥がしたり、鶏の毛をむしって内臓を取り出したりは誰かがやってくれていた。夢だけど、この世界にいる間には鶏ぐらい潰せるようになろうと思う。


「バイトさん、イェティーに会ったらすぐに逃げるか隠れてるかしてくださいね。イェティーには魔術が効きませんから」


「了解です」


 俺は城の外に出た。一面真っ白で雪ウサギとやらは見えない。それとイェティーだっけ、俺、イェティーとかいうモンスターを見たことがない。ともかくモンスターを見たら逃げたら良いか。


 雪ウサギの気配を感じたいと願ったら魔術書が光って文字が浮かんだ。サーチと。

俺は「サーチ」とつぶやいた。感覚が広がって行く。川だろうか生きものが流されているのがわかった。人のような感じがする。俺はその方向に向かった。



 人間の子が川の中に浮かんでいた。俺は川に入り子どもを助けた。理由、ただそこに子どもがいたからで十分だろう。


 抱き上げた。毛皮を着ているので、体温はある。死んではいない。俺は「リアクター」とつぶやき炎で俺とその子を温めた。意外にも水の中の方が温かった。水から上がった時が一番寒かった。


 あれ、俺って囲まれているかも。俺はいつの間にか寝ていた。リアクターの炎が俺たちを温めてなければ凍死していたと思う。


 俺を囲んでる人たちは全員当たり前だけど毛皮を着ている。スーツ姿の俺が変なだけ。この一張羅のスーツだけどクリーニングの魔法で常に清潔なのは言っておきたい。人間見た目が九十パーセントだから。絶対に清潔感を失ってはいけない。


 子どもの母親だろうか? 炎をもろともせず、俺に近寄って来た。俺はその人に子どもを返した。笑顔になったような気がした。母親は大事そうに子どもを抱えて炎の外に出て行った。次に村の偉いさんだろうか? 指を指している。村に来いと言っているようだ。どうなるかわからないが、行ってみることにした。俺は立ち上がって、同じように指を指したら、偉いさんは頷いていた。


 俺はお酒やら焼肉らでもてなされた。テントに入れて言われたので、テントに入ったら毛皮が敷いてあった。俺はその毛皮に抱きついて寝た。起きたらそれは毛皮を着た女性だった。その女性はかなり機嫌が悪かった。俺は女性への免疫がない。俺の嫁は二次元なので許してほしい。


 偉いさんから雪ウサギとか色々な物をもらった。なんとなくだけどまた来いよと言われている気がした。わからんけど。


 お城に戻るとケイトさんが仁王立ちで怒っていた。子どもを助けたら村の人にもてなされたこと、お土産をもらったことを話したら、呆れられた。


 シャインさんはまだ意識を取り戻さない。しばらくここに厄介になるのだけれど、北の魔女さんはどう思っているのだろうか? 敵意がないのはわかっていると思いたい。


 ケイトさんの作った雪ウサギのシチューは美味しかった。




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