溺没
肉体が弱体化しているスサノオが耐えられる筈もなく、上半身を強打された勢いでぐるぐる回転して地面を転がって行く。
ルーシーは後方にあった木に打ち付けられる様に止まり、スサノオは地面を転がっていく抵抗で滑るようにして止まった。
「っヵァ、、、」
共に被害は甚大だ、腹を殴られ木に背中を打ちつけた事により肺の中の空気が全て吐き出され、呼吸がうまく出来ず声にならない。
自分の体の事もだがスサノオの容体も重体の為、一刻も早く回復魔法をかけなければならない。
しかしながら呼吸もままならす術言も唱えられない、他に媒体となる様な物もない。
胸に風穴の空いた巨大猿がゆっくり立ち上がる、心臓から少し外れていたのであろう、風穴から血が滴り落ちているがその量は少ない。
巨大猿は近くで転がっているスサノオに向かって歩き出した。
その足取りは重く、決して無事ではない事が見て取れるが致命傷には至っていない様だ。
「・・・」
仰向けに倒れたまま血を吹き出しているスサノオは動き出す様子もない。
巨大猿がスサノオの目の前まで歩みより右腕を大きく振り上げる。
振り上げた反動と腕の重みを使い、留めを刺さんと思いっきり振り下ろされた。
必死に声を上げようともがくが抜けたような空気音しか出ない。
もうダメだと思い、目を瞑った。
本来なら聞こえてくるはずの人体が潰れるグチャと言う音と勢い余って地面を叩く衝撃音が聞こえてくるはずだがそれが聞こえてこない。
沈黙に違和感を感じ目を開けると薄水色の光に包まれたスサノオが地面から手のひら一枚分浮いた状態で立ち上がり、振り下ろされたはずの腕を掴んでいた。
「・・・なっ・・何が起こっているの?・・」
静寂の中、呼吸が戻り声が出るようになったルーシーは声を漏らした。
ひ弱そうな身体からは想像できない、細腕で鉄塊の様な一撃を受け止め、尚且つ掴まれた腕を振り解こうとする巨大猿の力に微動だにしていなかった。
すると掴んでいた部分が曖昧になり、解けるようにして少しづつスサノオの腕の中に飲み込まれていく。
爪が指が肘が徐々に飲み込まれていく。
肩まで飲み込まれ、巨大猿が暴れて絶叫するが飲み込むスピードは落ちない。
頭が飲み込まれたところでピタッと巨大猿の動きが止まった、身体を制御する部分が失わられ絶命したのだ。
あまりの光景に思わず吐きそうになり、口元を手で覆う。
動かなくなった巨大猿はあとは着実に飲み込まれていくだけだ。
それはまるで”海で溺れ、海面へ出ようともがいた末に息たえ、海底へと沈みゆく”そんな風に見えた。
「ふぅ、『ヒール』」
回復魔法を自分に使い、スサノオの近くへ恐る恐る近づく。
巨大猿を完全に飲み込んだスサノオは輝きを失い再び仰向けに倒れ込んだ。
「スサノオ!」
不思議な様子が収まったので駆け寄って膝をつく。
回復魔法を掛けようとしたがあるはずの”傷”がなくなっていた。
着ていた服は破れ、地肌が見えていたが傷跡はもちろん、出血していた血液もなくなっていた。
「スサノオ・・・、貴方は何者なの?・・・」