降臨
2度目の転送。
短期間に2度も飛ばされる奴は初めてだろう。
1度目の光に包まれ飛ぶ感覚は悪くなかったが2度目の闇に飲み込まれ落ちていく感覚は気持ちの良いものではない。
西洋の地獄とやらに引きづり込まれるのも同じなのだろうか?などと考えていたら着地した。
「兄上も強引なものだ・・」
ぶつくさと不満を漏らしながらも立ち上がる。
すると眼前には晴れやかな空と広大な新緑の大地が広がりその先ににかすかに海が見えた。
山頂にでも降り立ったのだろう、ゴツゴツとした岩場の上に立っていた。
「はてさて、どうしたものやら」
生き残れとしか説明がなく、どうすればいいか分からず、少し考えた末に一つの結論に辿り着く。
「考えてもわからんのだから、面白い方に進めば良いか」
この男、馬鹿である。
力任せに生きてきた結果がこれだから仕方がない。
とりあえず山から降りようと思ったが普通に降りるのも面白くないなと思い両手を握り合わせ頭の上に振り上げ、足元の岩に向かって振り下ろした。
岩は砕け散り地震を持って山が崩壊し楽々下山した、と言う結果を想像していたが現実はそうはいかなかった。
「ぐわっ・・・なんじゃこりゃ」
岩は少しも様子を変える事もなく、手の方が血塗れになった。
月詠によって肉体を変えられて神であった時の力はなくなっていたのだ。
「忘れておった、なんと貧弱な体にさせられてたものだのぉ」
天災と恐れられていた時であれば山を砕き、大地を割るなど造作も無いことだったが今は岩すらも割れない。
「まずはこの体で出来ることを知らねばな」
そう思い、開けた場所を探し山を下る。
少し降りた所に樹木の生えていない草地があった、ここでチェックを始める。
「人間とはこれほどに弱きものだったのだな・・・」
降りてくる途中に気づいたことがあった。
まずは脚力、木を飛び越えるなど出来ず、せいぜい腰の位置までしか飛べず、自分の身長より高い所から飛び降りたら着地の衝撃で足の方が負けて激痛が走る。
次に腕力、両の腕の力を使っても体を持ち上げることもできないし石ころも握り潰せなければ、木を叩き折ることもできなかった。
「あと確認することといえばあれじゃな」
素戔嗚の最大の権能、天災、全てを薙ぎ払う海洋の力。
目の前に手を翳し、高天原でやったの様に水を発射しようとしたが出たのは蛇口を捻ったくらいの勢いの量だけだった。
「なんと・・・、これだけか・・・」
最大の強みさえ失われてしまいショックと、これまでの負傷もあり、仰向けに倒れ込んでしまった。
「我はどうやって生き残れば良いと言うのだ!兄上!」
喪失感と疲労感が混じり合い、意識が薄れていった。