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8 ヒロミの『結』

 とはいえ、文化祭本番まではあと一日しかなかったので、私は寝る間も惜しんで、ラストシーンを書き上げた。

それが、これである。

 【激しい闘いの末、クレイは何とかヴァルベスを剣で打ち倒した。

剣で。

しかしヴァルベスの一撃を受けたエリーナは地面に倒れ、その胸からは薔薇(ばら)のように赤い血が流れ出ていた。

 「エリーナ様ぁっ!」

 さっきは取り乱したあまりに名前を呼び間違えてしまったクレイだったが、今度は正しい名前を呼んでエリーナの上半身を抱き起こす。

しかしエリーナは(すで)に意識がなく、呼吸をしているのかさえわからない。

 「くそっ!くそぉっ!祖国を守れても、愛する人を守れない騎士に何の価値があるのか⁉私の命を投げ捨ててでも、この人の命は守らなければならなかったのに!」

 そう叫び、(くちびる)をかみしめるクレイ。

その表情は自分への憎悪(ぞうお)にあふれ、今にも目から血の涙が流れ出しそうな気配すらあった。

 と、その時だった。

 クレイの()に、クレイの()に、倒されたはずのヴァルベスが起き上がり、いつの間にかクレイとエリーナの前に立ちはだかっていた。

 「なっ⁉ヴァルベス!まだ生きていたのか⁉」 

 そう声を上げ、剣を手に取り、剣で戦おうとするクレイ。

しかし目の前のヴァルベスにもはや闘志はなく、(ふところ)から真珠のような白い玉を取り出し、それをクレイに差し出した。

 「これは、我が王家に代々伝わる奇跡の宝珠(ほうじゅ)だ。これを口に(ふく)み、愛する者に口移しで与えれば、その者に奇跡が起こると言われている。私の命ももはやこれまで。私を打ち倒した貴様への敬意の印として、この宝珠を与えよう」

 クレイがそれを受け取ると、ヴァルベスはその場に(くず)れ落ち、最期の命の炎を燃やしつくした。

クレイはヴァルベスに言われた通り、その宝珠を口に含み、もはや生気のないエリーナの(くちびる)に、口移しで与えた。

 するとエリーナの全身が神々(こうごう)しくも優しい光に包まれ、少しの間を置いて、彼女の目がゆっくりと開いた。

そして二人は再び熱い口づけをかわし、深い愛と、固い絆で結ばれたのであった。


 この後、王子を失ったザナトリアは撤退(てったい)し、ドレスタニアに再び平和が(おとず)れた。

そしてクレイとエリーナは晴れて夫婦の誓いをかわし、クレイはドレスタニアの次期国王となり、エリーナとともにおだやかに国を治め、いつまでも仲むつまじく暮らしたという。

騎士と姫様 完】


 「うゎあああん!凄くいいラストシーンだったよぅ!」

 「泣けたッス!マジ泣けたッス!」

 次の日の部室。

私が寝る間を惜しんで書き上げたラストシーンの原稿を読んだトウ子とアカネは、そう叫んで私に抱きついた。

二人は私の書いた原稿に大層感動しているようだが、当の私は、正直複雑な気持ちだった。

だって、そこに行く過程があまりにもエロかったし、クライマックスはガチの格闘少年漫画だったから。

それを無理矢理感動的なラストシーンで締めくくりはしたけど、果たしてこれでよかったんだろうか?

これで天道院会長に認めてもらえるのかしら?

とにかく心配と不安しか湧いてこないけど、今はとにかく眠く、これ以上頭が回らない。

なので私はトウ子とアカネに抱きつかれたまま、眠りに落ちたのだった。

 ぐぅ・・・・・・。



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