5 トウ子の『承』
トウ子に原稿を渡してから四日が過ぎた。
その間トウ子は学校を休み、お話を書く事に寝食も忘れて没頭していたらしい。
その心意気は認める。
ただ、トウ子が書き上げた原稿を読んだ私が感じた事は、ザックリ説明すると、次の一点に尽きる。
エロい。
そう、エロい。
エロいんだよコンチクショウ。
なので私はその事を問い詰めるべく、放課後にトウ子を部室に呼び、机にトウ子の原稿を叩きつけて声を荒げた。
「ちょっとトウ子!あんたの書いた原稿を見せてもらったけど、何よこれ!エロいじゃないの!あれだけ注意したのにどうしてエロい方に話を持って行ったのよ⁉」
それに対してトウ子は、全く何の事か心当たりがないというような調子でこう返す。
「えぇ~?全然エロくないよぉ。ヒロミちゃんに言われたように、エロいシーンは入れずに、それでいてエロい言葉や表現も使わないでお話を書いたんだよ?それなのにそんな事を言われたら、トウ子困っちゃうよぉ」
「何が『困っちゃうよぉ』よ!まずタイトルからしてエロいのよ!何よこれ⁉
【第二話 開かれた王女のアワビ】
何がアワビよ!馬鹿なの⁉タイトルで何てモノ開いてくれてんのよ⁉」
「開いたのはアワビだよぉ。何もエロい事はないよぉ」
「そんな屁理屈はいらないのよ!それに第二話の一行目も何なのよ⁉
【クレイはエリーナを、人気のない草むらに押し倒した】
何一行目からいきなり押し倒してるのよ⁉クレイとエリーナにいきなり変な事させてんじゃないわよ!」
「変な事じゃないよぉ」
「変な事じゃなかったら何なのよ⁉」
「相撲です」
「アホか!何で話の冒頭から相撲とってんのよ⁉」
「決まり手は『押し倒し』です」
「うるさいわよ!決まり手なんか聞いてないわよ!しかも次の行で更にエロい事になってんじゃないの!
【クレイはエリーナのドレスを脱がせ、スッポンポンにした】
エリーナがスッポンポンにされちゃってるじゃないの!こんなのダメでしょ!」
「だって相撲は、裸でするものだから」
「だから相撲じゃないでしょこれは!誰が見ても変な事してると思うでしょうが!」
「それはヒロミちゃんが変な事ばかり考えてるからだよぉ」
「考えとらんわ!それにこの行は何なのよ⁉
【この後クレイは、エリーナをおいしくいただきました】
何よこのお笑い番組で食べ物を使った企画の時に出る言い訳がましいコメントみたいなヤツは⁉」
「エリーナのアワビは、それはそれはおいしかったんだよぉ」
「やめなさい!しかもこの次のクレイのセリフは何よ⁉
『エリーナのアワビは、味の満塁ホームランやで』
グルメレポーターか!しかも何で関西弁なのよ⁉」
「いやぁ、どうしても言わせてみたくて」
「クレイは絶対にこんな事言わないわよ!これじゃあお話がブチ壊しじゃないの!私はね!この部分でクレイとエリーナが、周囲に悟られないように愛を育んでいく様子を書いて欲しいって言ったのよ!それが何でいきなりエリーナを草むらに押し倒して訳のわからない関西弁を口走ってるのよ⁉」
「で、でもでも、この後はちゃんとあらすじ通りにお話を進めてるよ?スパイの男の子もちゃんと登場させてるし」
「そうね!でもこのお城に侵入した男の子をクレイが捕まえるシーンはおかしいでしょ⁉
【クレイは怪しい少年を捉え、人気のない草むらに押し倒した】
草むらまた出てきた!あんたどんだけ草むらが好きなのよ⁉」
「たまたまだよぉ」
「そんな訳ないでしょ!しかも次の行はどういう事⁉
【クレイは自分の舌を少年の口の中にねじこんだ】
あんた男同士で何て事してんのよ⁉」
「これは男の子がお城に侵入した目的を白状させる為、つまり口を割らせる為にこうしたんだよぉ」
「だからって文字通り口を割らせるのはおかしいでしょうが!しかも男同士よ男同士!こんなの絶対おかしいでしょうが!」
「おかしくないよ!そういう愛も存在するんだよ!」
「今はその話はいいのよ!それでこの後の行もおかしいでしょ!
【この後クレイは、少年をおいしくいただきました】
またいただきおった!もうやりたい放題だなオイ!」
「でもこのおかげでスパイの男の子は、ザナトリアの悪事を白状するんだよ?」
「何でよ⁉私はクレイが男の子の良心に訴えかけて説得して、ザナトリアの悪事を聞きだすって説明したでしょうが!それがどうして草むらに押し倒して無理矢理聞き出してるのよ⁉」
「無理矢理じゃないよぉ。双方合意の上でいただきました」
「そっちの話はしてねぇわよ!もう何なのよこれ⁉結局エロい話になっちゃってるじゃないの!これじゃあお話がメチャクチャだわ・・・・・・」
私はそう言って机の上に顔を突っ伏した。するとそのやり取りを背後で聞いていたアカネが、私の肩に手を置いて言った。
「大丈夫ッス!トウ子ちゃんはちゃんと部長のあらすじ通りに話を進めてくれたじゃないッスか!ここからは自分の出番ッスね!最高のクライマックスを書いて見せますよ!」
そう言って鼻息を荒くするアカネ。そう、ここからのお話は、アカネが担当するのだ。