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ひめみこ 第二幕  作者: 転々
第四章 女子中学生になるために
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夏休み

 中学校が夏休みに入ると、美貴の友達が頻繁に『勉強会』という名目で顔を見せるようになった。

『格』の制御訓練に、部外者を近づけるわけにはいかない。そこで、昌の義姉のマンション――リフォームの間、昌たちが住んでいたマンション――の一室で行うことになった。

 場所の『お礼』として、知子の調理実習の成果も置いていくことになっている。

 訓練が水曜日や金曜日――定時退社デー――に集中するのは、義姉の女子会がここで行われるためだ。

 特に、金曜日が必ずという辺り、義姉の結婚はまだまだ先になりそうだ。




 今日も、料理が冷めるのを待ちつつ『格』の制御訓練をする。


 知子も、自分の意思である程度『格』を制御できるようになってきた。と言っても、せいぜい弱・中・強の三段階で維持できるという程度で、昌ほど細かく、あるいは指向性を持たせるといったコントロールはまだまだ難しい。

『格』への対抗も相手に合わせるのではなく、相手を上回る『格』で『力づく』といった段階だ。

 それでも、知子の『格』は筆頭比売神子である沙耶香に比肩する。昌以外では訓練に付き合うことも難しい。


「知子ちゃん、お疲れ」


「今日もありがとうございます」


 知子は『成果』の入ったタッパを持って帰宅する。




「ただいまー」


 玄関には家族のものではないサンダルが一組。美貴の友達だ。

 やはりリビングに美貴と友達が居る。勉強会と言いながら、二人はゲームに興じている。


 知子は挨拶を交わすと、保冷バッグから冷蔵庫へタッパを移した。


「今日は何を作ったの?」


「たまご巾着(きんちゃく)。半熟卵じゃなくて、具がたくさん入って卵がつなぎになってる方。

 半熟卵のだと、熱燗いきたくなっちゃうんだって」


「昌さんって、お酒好きなの?」


「うーん。飲んでるのは見たこと無いけど」


 知子が『血の発現』を迎えたとき、昌は既に妊娠しており、禁欲生活に入っていた。母乳による子育てが終わるまでは、お酒を口にするつもりはない。




「昌さんって、あの、プラチナブロンドの?」


 美貴の友達が口を挟む。

 知子としては、十歳ほど離れた昌とここまで頻繁に会うのは、不自然だと思っている。美貴はそういうこと、何も考えていないのだろうか? と、心配になる。


「遠目にしか見たことないけど、妖精みたいな人だよねー」


「そうそう、一緒に買い物したことあるけど、この世の人とは思えないよねー」


「え? 一緒に?」


 知子を置いてきぼりにしたまま、美貴と友達は『昌さん』で盛り上がる。そして、知子が検診の帰り――『格』の訓練も検診で通している――に、料理を習ったことまで言う。


 わざわざ言わなくてもいいのに。


 知子は心の中で毒づくが、美貴はどこ吹く風だ。


「何、作ったの?」


「たまご巾着と、おひたし、です」


 本当は、もっと作っているが、検診の帰りに作ったにしては不自然なので、美貴との会話に出た料理だけを言う。が、中学一年生が料理というだけで感心しきりだ。




「知子、病院でも、昌さんにも勉強見てもらってたのよね」


「うん、まぁ」


 その流れで、美貴は知子と初めて顔を会わせてすぐの頃に、一緒に買い物へ行ったことを話す。

 美貴はあまり気にしていないようだが、知子としては、時系列に矛盾が出ないかヒヤヒヤするところだ。三月の段階では、一緒に暮らし始めていないことになっている。


 美貴の友達は、昌とお近づきになりたい、と言うより、出来ればショッピングを一緒に、ということらしい。




「でも、昌さん、お腹も大きくなってきたから、一緒に買い物は難しいと思うよ。今日だって、たまたま日程が重なったからだし。

 それに、生まれたら生まれたで、慌ただしいと思う……」


「だよねー」


 知子の、やんわりとしたお断りに、美貴も相づちを打つ。さすがに、この話題はマズいと判断したようだ。




 知子が「勉強の邪魔しちゃ悪いから」を潮に、勉強に戻る。

 対外的には、昌と直接の接点があるのは知子だけだ。美貴は知子を通じてということになっている以上、知子が常識的な理由で難色を示せば、引き下がらざるを得ない。




 知子は部屋に戻るが、やはり手持ち無沙汰だ。『勉強会』という体裁である以上、リビングで映画やゲームというわけにはいかない。

 本当なら、美貴の友達とも交流した方が良いことは判っているのだが、それもなかなか難しい。


 ノートPCを起動し、ヘッドフォンを着ける。ヒマなときは動画鑑賞、或いはWeb小説やマンガだ。


 こういうものを無料で楽しめるってすごいことだ。


 知子はそう思う。自身は神子という立場上、こういった媒体に出ることは出来ないが、少し興味があるのも確かだ。小中学生の『なりたい職業』ランキングでも上位に入っている。


 自分は将来、どんな仕事をするんだろう?


 知子はぼんやりと考える。

 彼女が知る神子や比売神子は……、沙耶香は看護師、光紀は県職員、残り二人の面識の無い比売神子は、教員や団体職員している。全般的にお堅い職業だ。


 無職なのは先代の比売神子様と昌さんだけかぁ……。あ、昌さんも妊娠で大学を休学中か。他の神子たちも、大学受験に向けて勉強しているし。


 知子は自身が働く姿を、女性として働くという姿をイメージできないでいる。この姿になって半年足らずでは、それも仕方がないことではある。

 しかし、高校生として進学について考えたこともある彼女にとって、イメージすら出来ないことは、どこか苛立ちを覚えさせられることでもあった。


 CM映像が終わり、本編に戻ったことで、知子は意識をそちらに戻す。途中で挟まれるCMが面倒だが、これによっていろいろな費用が賄われている。テレビ番組と同じだ。

 そして、一般人でも撮影や編集機材をそろえられるようになっている現在、マスコミ以外のメディアからも創作物が発信されるようになった。


「自分には関係ないけど……、テレビタレントとか、漫画家や小説家も大変だろうな」


 一握りのトップクラス以外は、まずは膨大な量の無料コンテンツと勝負しなくてはならないのだ。




 そういったことを考えていると、どうにも動画サイトに集中できない。知子は、PCの電源を切ると、学校から渡された課題を解き始めた。


 自分には、どんな仕事が出来るんだろう? 今度会うとき、昌さんにもその辺のこと、訊いてみようかな。

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