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ひめみこ 第二幕  作者: 転々
第四章 女子中学生になるために
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合宿に向けて

 合宿に未だ参加していない知子(ともこ)は、(あきら)の前で『格』の制御を学んでいる。が、なかなか(はかど)らない。以前、昌が指導した滝澤(たきざわ)(まい)がかなり早くに身につけられたことと異なる。


 思えば昌自身も、ある程度の制御ができるまでに三ヶ月以上を要した。

 知子が訓練を始めたのは四月に入ってからで、実質一月ほど。しかも家族とともに過ごしたゴールデンウイーク中は、ほとんど訓練できていない。


『格』が()いほど、制御も難しいのかな?


 昌はそう考えてもみる。沙耶香(さやか)さんがどの程度の期間で制御できるようになったか訊いてみるのも良いだろう。


 現状、知子の『格』は、宗像(むなかた)高桑(たかくわ)の両比売神子よりは上だが、沙耶香よりも一段落ちる。潜在的にはもう少し上のように見えるが、そこまでは発したことが無い。

 オン・オフはできるから、少しずつでも合宿に参加した方が良いのだろうか? 昌自身が、制御がほとんどできない状態でも、少しずつ参加していたことを考えれば、知子の参加が早すぎるということはないだろう。




「昌さんの全力って、どれぐらいですか?」


「いままでに知子ちゃんが出した最大の、倍ぐらいかな?

 でも、知子ちゃんの最大は、沙耶香さんの上を行くと思うよ。

 私には今ひとつ、全力を出し切れてないように見えるんだよね」


 いっそ、知子が対抗できるギリギリまで『格』をぶつけてみて、限界に達する感覚を経験させても……。昌は考えたが、実際のところ、知子の『格』は現状でも比売神子として十分だ。高めることより制御できることの方が重要だし、それ以上に重要なのは、知子自身の人生だ。


 その日の訓練はそこまでとし、昼食を食べに出る。

 やはり、人目のあるところで、女性としてふさわしい振る舞いをする訓練だ。これをできないと、いろいろ問題だ。




 昼食後は勉強タイムになる。未だ柔術の訓練は始められていない。もっとも、この部屋では武術訓練とはいかないし、まして昌は妊娠中で指導できるはずもない。


 知子は高校一年生までの復習をする。主に英語と数学だ。特に英語はかなり実践的なものになる。

 既に、言葉遣いのきれいなもの――ディズニーアニメとか――ならば、知子は字幕無しでも、かなりのところまで聞き取れる。




「昌さん、すごいですね」


「こう見えても、一応、国立大学に合格してるし。

 それに、比売神子として神子たちの学習指導をしてたから、その蓄積が大きいんだ。ほぼ毎年、傍用問題集を一問残さず解いている人なんて、高校教師か塾や予備校の講師だけだと思うよ」


「そういうレベルなんですね」


 知子は『オリジナル』と書かれた問題集を見やる。去年はB問題にも難儀したし、発展ともなると、手も足も出ないものもあった。


「今からやっとけば、大学を受験する頃には、普通の入試問題で解けない問題なんて無くなるよ」


「普通じゃない問題は?」


「本当に考えさせる問題とか、解けないことを前提にしたような問題は、滅多に出ないよ」


 そういう問題はごく希だ。そもそも、大学入試は満点を取る必要が無い。




 そう言う昌も、直接の受験指導は一時より少ない。

 昨年度は、主に中学時代の同級生相手の勉強会。今年度も中部東海地方の神子に受験生はいない。それでも、関西地区の神子のために模範解答は作ったし、二度ほど指導もしている。

 来年度は、昌が初めて指導にあたった、舞が受験生だ。


 それ以後に現れた神子の指導にはほとんどタッチしていない。第一子の妊娠以後、新たな神子とはせいぜいが学習指導のみで、比売神子らしいことはほとんどできていない。




「この間教えてもらった料理、大絶賛でした」


 知子が嬉しそうに報告する。

 それ以来、切り干し大根やヒジキの煮付け、煮浸しなどが、北川家の定番メニューになったことを誇らしげに話す。


「良かった。教えた甲斐があったよ。

 自分が作ったものを、家族が美味しく食べてくれると、それだけで嬉しいよね」


 昌も嬉しそうに返す。そして「今度は洋食メニューでも」とも。グラタンやハンバーグ、シチューやステーキなど。

 ホワイトソースをダマにさせないコツや、肉は低い温度で一時間以上湯煎してから焦げ目をつけると美味しいとか。知子としては、肉料理に興味があるところ。でも、牛スネ肉のシチューは要らない。


 父親が引き継ぎを終えて引っ越しする日は、ステーキを作ろうと計画を立てる。まずは焼き方――加熱の仕方――の習得が重要だ。初心者はサイコロステーキが失敗しないらしい。


 知子は、さっき昼食を食べたばかりだというのに、お腹が空いてきてしまった。




「知子ちゃん、そろそろ短い時間から、合宿に参加してみる?」


 表面的には行動を繕えるようになってきたし、『格』の制御もある程度は可能になった。少なくとも、不用意にそれを発することは無くなった。

 そろそろ女性としての人間関係を作る時期だろう。今のままでは中学校編入に不安が大きい。


「うーん」


 知子は少し迷う。

 未だ、家族以外の女性と接点を持つことに躊躇(ためら)いがある。


「いきなり、泊まりとかは無いよ。主に勉強と合気柔術の練習。基本は日帰りだよ。日帰りは、どっちかというと私の都合だけど」


「じゃぁ、短い時間からで」


「それじゃ、沙耶香さんに連絡しとくね。日程が決まったら教えるよ。基本、私か沙耶香さんと車で移動になるけど」


 その日は、知子の意思確認をするに留め、昌は帰宅した。




 昌は候補地を思い描く。無難なのは岐阜か名古屋、三重あたり。伊勢神宮あたりを観光しても良いし、ナガスパは……、妊婦にはまずいか。優乃(ゆの)がもう少し大きくなったら、アンパンマンのテーマパークに行くのもいいだろう。


 帰宅後、沙耶香に連絡を取る。


「沙耶香さん。一歩前進です。

 一応、短時間から合宿に参加させてみます」


「結構急ぐわね。大丈夫かしら」


「私も京都に行ったのはそれぐらいでしたよ。今回は短時間で泊まりも無しで。

 それに、できれば光紀(みつき)さんと早めに顔合わせをさせたいんです。彼女なら、きっと知子ちゃんの力になってくれますから。

 正直なとこ、中学校に編入する前に、ある程度分別の付いた女性と交流させときたいんです」


「それもそうね。じゃぁ初めは近場でやりましょうか。貴女もあまり移動しない方が良いでしょうし」


「それでお願いします」


 知子の合宿参加は、三重県の伊勢。土曜日の一日で、午前は柔術の練習。沐浴と昼食を挟んで、午後からお伊勢さんを参る。

 移動は昌、光紀と自動車でということになった。これは主に、昌の体調を考えてのことだが、光紀が知子を観察する時間を設けるという意味もある。無論、彼女の出自は伏せたままだ。


 昌は知子に日程を伝えた。

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