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草木愛ずる姫君  作者: 高田 朔実
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「おい、作戦はうまくいってるのか? 目的を忘れたわけじゃないよな?」

「わかってるよ」

「この間、二人して雨の中楽しそうに自転車漕いでただろう。その後、またもや大事なミーティングをさぼった。どういうことだ? お前、まさか俺達を裏切ってるわけじゃないよな」

 どれだけハードなサイクリングだったか知りもしない奴に、そんなことを言われる筋合いはない。僕はあれから、二日間筋肉痛が続いたのだ。リーダーは僕のことなんて何もわかっていないのだ。

「野いちご摘みに行ってたんだよ。いちごを濡らさないために、必死だったんだ」

「お前、野イチゴ摘みに行てったのか?」

 リーダーの顔色が変わった。面倒くさい奴だ。

「ああ。悪いか」

「悪いさ。お前、何で俺を誘ってくれなかった? 俺が野いちご大好物ってことくらい知ってるだろ」

 リーダーのあまりの幼稚さに、開いた口が塞がらない。

「おい、お前まさか知らなかったのか? No3」

 とNo2。

「知るかよ、そんなこと」

「あーあ、リーダー泣いちゃうよ」

 何言ってんだ、と思ったが、リーダーは本当に涙ぐんでいた。どうしちゃったんだ? こいつ、大丈夫なのか……。

「連れて行ってくれなくてもいい、なんで俺に分け前をもってきてくれなかったんだ。お前それでも俺の友達か。見損なったよ。まったく、あんな女のどこがいいんだ」

「あんな女なんて言うなよ、有泉さんだろ」

「何ムキになってるんだ?」そう言ったリーダーはもう涙目ではなかった。「おい、No3、いや、平林幸三、お前にとって一番大事なものはなんだ?」

「そんなの決まってるじゃないか」

「言ってみろ」

「ミッションだ」

「そうじゃねえだろう」

「じゃあ、なんて答えれば満足なんだ?」

「ミッションの前に、俺等だろう。友情だろう」

 リーダが何を言わんとしているのかがわからなくなってくる。

「だから、友情を大事にできないような無理なミッションなんて、やめちまえ」

「そもそもリーダーの立てた計画じゃないか! 僕は初めから乗り気ではなかった」

 リーダーは疑わしそうに僕を見る。

「なんで僕が一番損な役回りを受けて、それでこうまでも追い詰められないといけないんだ? もっと冷静になれよ」

 リーダーは何も言わない。

「そんなに僕のことが信じられないんなら、もういい。今回は降りさせてもらうよ」

 そういい残すと、僕は隠れ家を後にした。

 ついさっき、陽子とも気まずい別れ方をしたばっかりだった。

二人で歩いていたときに、有泉とすれ違った。有泉は軽く微笑んで会釈すると去って行った。それを見た陽子は「あなたたち、できてるんじゃないの?」などと言い出したのである。

「なんでそうなるんだよ」

「じゃあ、あの勝ち誇ったような余裕たっぷりな態度は何よ」

「知るかよ。ふてぶてしいだけだろう。それにあの人、人間にはあんまり興味ないみたいだぜ」

 だって僕は、自分がダンゴムシ以下だと思うことすら度々あるのだ。植物と比べたら……そんなの考えるまでもない。

「だったら、気難しいはずのあの人が、なんであなたとだけは上手くやってるわけ?」

「上手くやってるだなんて。僕はリー…、成吉君に命令されて、仕方なく園芸部に奉仕しているだけだ。それに有泉さんは、水遣り要員欲しさに僕を追い出さないでいるだけだ」

「どうだかね」

「お前、どうしたんだよ。今まで成吉君達には嫉妬しても、他の女の子と一緒にいることについてはとやかく言わなかっただろう」

 陽子は急に立ち止まった。

「本当は、とやかく言いたかったわよ。でもいちいちそんなことしてたら、みじめになるだけじゃない。本当は芳子さんや早苗さんやミーちゃんなんかといちゃいちゃしてたときにも、いろいろ言いたかったわよ!」

 なんてみみっちいんだ。陽子が言った女の子達は、講義の課題等で一緒に行動していただけであり、断じて浮気のようなことをしていたわけではない。少しは有泉の冷静さを見習ってほしいものである。

「じゃあなんで有泉さんには嫉妬するんだ」

「あなた、いつからあの人をさんづけで呼ぶようになったの?」

「一応、部長だし」

 彼女は俯いた。

「あの人とはもう会わないで」

「だから、これは成吉君のためだって言ってるだろう。僕は別に有泉さんと本気で仲良くしてるわけじゃないんだよ」

「そんなこと、思ってないくせに」

「だったら僕にどうしろっていうんだ」

「私と別れるか、あの女と別れるか、どっちかにして」

 なんでこうなってしまうのか、僕にはさっぱりわからない。何も言うべき言葉が思い浮かばない。

「あの人と別れるまで、もう私には会わないで」

 去っていく彼女を、僕は追いかけることができなかった。






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