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草木愛ずる姫君  作者: 高田 朔実
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「なんだ? 一つと言わず、もっと言えよ! 遠慮するな!」とリーダー。

「さっさと言って、さっさと行って」

 とわかりにくい返答をする有泉。

「ライブはまだ終っていないんじゃないの。あれは、中断されたんだろう?」

「屁理屈言って!」

「そうだそうだ!」

 有泉とリーダーの声が被る。

「だからさ…、君たち、一緒にこの部室使ったら?」

 何たる爆弾発言。一瞬、みんなの息が止まる。

「ふざけないで!」

「ふざけるな!」

 再び二人の声が被る。

「いいじゃない。見たところ、リーダー、フォルクローレに使うもの大して持ってないしさ。場所とるものは、今のところギターだけだろう? 有泉さんだって、一人で一日中部室使うわけじゃないだろうから、週に数日、一時間くらい貸してやれば、彼も気が済むんじゃないか? そんなに大した練習もしてないしさ」

 どさくさに紛れて、なんてこと言うんだ、宴会部長。リーダーは大声で何かを訴えたいようで、大きく息を吸い込もうとする。そんなリーダーを制して、宴会部長は続ける。

「それにさ、現状を鑑みると、部員増やして学生課対策しといた方が無難だよ」

「学生課対策? なんだ、それ」

「この学校には、学生課の抜き打ち検査ってもんがあるんだな。

 リーダーも知ってると思うけど、陰ながら園芸部を守っていた学生課の職員が、この春移動になったんだ。園芸部室を狙うサークルは、他にもいるよ。仲田さんの後ろ盾がいなくなった今、園芸部をここから追い出すなんて書類二、三枚で何とかなる。ちょっと頭の回る奴が本気になったら、一週間もかからない。

 有泉さん、この一件は氷山の一角に過ぎないんだ。今後、こういういかれた奴らがわんさか乗り込んできたら、君の生活は今以上にかき乱されることになるぜ」

 な、なんだか宴会部長、やたらと賢そうなこと話しているぞ? というか、学生課を仕切っていた園芸部OBの名前まで知ってるようだし、それにどさくさにまぎれて僕達のことをいかれた奴ら呼ばわりしてなかったか?

「そんなの絶対いや! 私発狂しちゃう!」

「そうだろう? この辺で手を打っておいたほうが賢明なんじゃないかな。この三名と、で、俺も名前だけ貸すから四名になる。そうしたら部員五名ということで、部の存続条件は、とりあえず満たしたことになる」

「仕方ないわね」

 あんなトラブルがうそのように、問題は円満に片付いてしまった。有泉は、長期休暇中の水遣りを手伝うことを条件に、僕らに部室を練習場所として使うことを許可した。

 酒井氏、君は宴会部長なんてやっているのはもったいない。君には是非ともわがサークルの交渉部長になってほしい、僕に変わって! ああ、でも君の本質は臨時会員。まあ、仕方ないか。

「酒井君」

「宴会部長。打ち上げが終るまでがミッションです」

「失礼。宴会部長、もしかして、僕達の三週間は、すべて無駄だったのか?」

「まあ、いいんじゃない」

 否定でも肯定でもない。

「君だったら、どうしてた?」

「さあ、最初からもっとスマートに交渉すれば、今の条件でいけたんじゃないかと思うけど。でも、仕方ないよね。リーダーも有泉さんも偏屈者だから、こういう面倒なことして懲りないと、気がすまなかったんじゃなの。いるよね、そういう人って」

 さり気なく上から目線だが、まあいいか。

「まあ、マンドリン部としてはただで毎日ケーキが食べられたから、よかったよ」

「あのケーキ、そんなに美味しかったの?」

「え? 食べてないの?」

「つまみ食いすらさせてもらってない」

「…今更だけど、君達ってさ、どういう関係なの…?」 

 宴会部長の質問に、ぼくはとうとう答えを見つけることができなかった。


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