初夜の翌朝
あちこちと身体が激しく痛む初夜だった。
お母様が言ってらしたこととは違った。
「優しくしてくださるから」
これには「どこが?」と返したい。
朝の光がカーテンの隙間から射しこんできている。街路樹に止まっているスズメの鳴き声がさっきから大きくなってきた。
屋敷の前の道を馬車が行き交う音が聞こえているので、もう起きるのが遅い時間ではないだろうか。
けれどルタがまだ声をかけてこない。
昨夜は本当に大変だったわ。
初夜というだけあって、何もかもが初めての夜なのね。
ものごころついてからは、同じベッドの中に他人がいたということがない。
マイルズが布団に入って来た時に、自分があんなに緊張するとは思ってもみなかった。
彼のほうも緊張してたみたいだけど。
いやに何度も「すみません」を連発していたわ。
確かに暗闇の中では、どこに何があるのかよくわからない。
あちこちにぶつかっているうちに、皮がむけていた私の足首を踏んづけちゃったのよね。
私がこらえきれずに「痛っ!」っと言ってしまったのが悪かった。
マイルズは、その声を聞いて飛び上がっちゃったもの。
夫婦の行為というものも、話に聞いていたより痛かったし。結婚式で疲れていたことと相まって、終わった時には精魂尽き果ててすぐに寝てしまったわ。
それに……
ミリアは横で寝ているマイルズの顔を見つめた。
まつ毛が赤じゃなくて金色なのね。とっても長いわ。
朝の光がまつ毛の上に乗っかりそう。
あら、薄くなってるけど鼻の上にソバカスもあるみたい。
お母様は「ことが終わると殿方は自分のお部屋に帰って行かれます」とおっしゃっていたんだけどなぁ。
ミリアの腰に置いてあるマイルズの右手が、いやに重たく感じる。
もう起こしてもいいのかしら?
服を着たいし、顔も洗いたいんだけど……
「あなた……ねぇ、マイルズ」
「ん?……んんん?」
ミリアが夫の身体をゆすると、マイルズはやっと目を覚ました。
明るいところで見たら目の色は緑色だわ。茶色だと思ってたんだけどな。
どうやらマイルズの目は濃い深緑だったようだ。
朝の光の中では、緑色の部分だけが薄く透き通って見える。
その目の焦点がだんだん合ってきてミリアの姿を捉えると、これ以上ないぐらい大きく見開かれた。
「おわっ」
マイルズは慌てて起き上がったのだが、するりと掛布団がめくれてしまった。ひんやりとした朝の空気が身体を包み、その時初めて、自分が服を着ていないことに気づいたらしい。
トカゲのように素早く布団から這い出たマイルズは、ベッドの下に落ちていたガウンを拾うと、前の方を隠してじりじりと後ずさっていき、ドアの前でくるりと向こうを向いて、バタバタと音をさせながら隣の部屋に帰っていった。
その時マイルズの広い背中と形のいい真っ白なお尻が、ミリアの目に焼き付いた。
なるほど、こういう滑稽なことになるから、殿方は夜のうちに帰って行かれるのね。
ふふ、でもいいものを見せていただいたかも。
ミリアの胸元もはだけていて、形のいい胸がマイルズの目に入っていたのだが、そのことにはまったく気づいていないミリアだった。