3話 店長さんは味は十人十色と感じました
オアブスーパー山田店では、開店前に商品を棚に並べ終えた。
店長はモップ掛けをする店員の邪魔にならないよう気を使う。客が一人もいない店内を見て回る。
アイスクリーム売り場の前で立ち止まっていた。
「金目鯛ポタージュ金と味アイスクリーム? どんな味だろう」
ポケットからワイヤレスマイクを取り出した。店内放送をする。
「みんな、『金目鯛ポタージュ金と味アイスクリーム』、事務所の冷蔵庫にあるの、一個づつ食べてください」
事務室で一休憩する店員たちは、汗を拭っていた。冷凍室から『金目鯛ポタージュ金と味アイス』手に取り、口にする。
《マズい》《おいしくない》《個性的な味で私には分からない》
異口同音に呟く。
10時。それは、オアブスーパー山田店、開店の時間だ。
軽やかな店内放送の音楽と供に、開店まで外で待ち、汗だくになった客たちが、次から次へと、アイスクリームコーナーに集まる。
バニラやチョコ味は、開店1分で売り切れだ。後から来たお客たちに選択の余地はない。『金目鯛ポタージュ金と味アイスクリーム』も売り切れた。
その日の夜。店長は扇子で自分を扇ぎながら、注文の電話をかけていた。
「金目鯛ポタージュ金と味アイス。すぐに売り切れたよ! 明日もたくさん持ってきてね。後さ、今日の納品、200個運ぶって言ったじゃないですか」
「すみません。ちょっと手違いがありまして、明日は必ず200個納品します」
ニコヤカ堂の営業は、満足顔で受話器を置く。「金目鯛ポタージュ金と味アイスクリーム」なら、確実に200個そろえれるのだ。
つまり、冷蔵倉庫の邪魔モノであった。
次の日も、その次の日も暑かった。『金目鯛ポタージュ金と味アイスクリーム』は、オアブスーパー山田店では、どんどん売れていった。