卒業!そして……
同時投稿はここまでです、あとは登場人物紹介のみです。
日は明けて、決勝戦の日がやって来た、さっき初めて聞いたのだけれど、相手はただの平民らしい、最近王都にやって来て、常識を知らないところを見せてみたり、洒落にならない攻撃を平然とぶっぱなしたりと、まぁ罪を犯していないから捕まえられないだけで全体的に秩序を乱してくれちゃってるらしい、なんでも時折「僕は勇者だから」とか言ってみたりとか、要はイタイ奴だな、分かった。
決勝戦用の特設ステージに立つ、広さは昨日より随分と広いかな?足元の感触からして昨日よりも随分と硬いようだ、これなら吞天でも一撃位は持つかも知れない。
何を使おうかな、少しわくわくしながら相手を待つ、そして出てきたそいつを見た瞬間、一瞬思考が乱れた。ほどほどに平べっためだけれど整った顔立ち、黒髪に黒目、細っこい手足……まぁいいか、出揃った以上魔装を展開する。
『目を覚ませ、力を捧げよ。春川、秋雨』
チラリと相手を窺うとにやにやとこちらを見ながら魔装を展開し始めた、何が面白いんだか、同時に展開するのが様式美だと聞かなかったのか見なかったのか学ばなかったのか……
『勇者たる我が手元に来たれ!ホーリーブレイド!』
……んんっ分かった、こいつ邪神に騙されてる系のやつだ、多分蘇生して力だけくっつけてそのまま送り込まれたか、哀れな奴だ。
「降参するなら今のうちだぞ!僕が使うのは本当の聖剣だ!今はまだ名を明かしては貰えていないが、それでもお前を倒すくらいの力はある!」
……へぇほぉふぅん、なんか面白くなってきた、本当に聖剣なら完全に力を明け渡すレベルでしか契約しないし、初めから名は伝える、そんな中途半端に力を与えるのは堕剣だけだ、精々光属性の堕剣といったところか。話しかける気には余りならないけれど、こいつ面白そうだ。
「ふぅん、腐っても貴族位の僕にお前呼ばわりしてくれたことはまぁ見逃そう、ここは学院だから、その聖剣モドキもまあいいや、なに使おうといいんだよ。けれども、僕を倒すだなんて大口叩くのは、感心しないな」
ううん、久しぶりに身内以外と口をきいた、意外と話せるものだな…いやいつも話しかけてくれるシルビア様々といったところか。
明らかに苛ついた様子で開始とともに突っ込んでくる、速さ、ほどほど、初速、まあまあ、加速、それなり……こいつは思った以上に頭が悪いかもしれない。タイミングを合わせて両方の剣を聖剣モドキに叩きつける、割合当然の事なのに何故か認識してる奴が少ない事実として、双剣を使うやつはただの長剣を使うやつより力が強い、いくら双剣が長剣より短くとも刃渡りが半分以下しか無いなんて事はそうそう無いしつまり2本合わせた重さは長剣よりも重いって訳で……まぁ要は聖剣モドキは吹っ飛んだ。
咄嗟に4、5通りの追撃方法を思い付くが取り敢えずは見逃す、やけにドヤ顔で聖剣モドキを送還…なるほど、さっきまでのはいわばオモチャでこれがまともな武器か。
勇者君(笑)が詠唱破棄で手元に出した魔装は……さっきの聖剣モドキだった。寧ろ驚いた、これで意表を突けるなんて思っているのか?いや寧ろ意表を突かれた事を思えばさっきのドヤ顔も…演技?
沼にハマりかけた思考を頭を振って戻す、突っ込んできた勇者君(笑)!今度はうん?射程ギリギリで立ち止まって?突きの構え、嘘だろなんでこんなのがここまで上がってこれたんだ……戦慄を覚えながらも突きを最低限逸らし一歩踏み込む、一歩下がる、踏み込む、下がる、キリが無いなと思いながらも付き合ってやると唐突に大きく距離を空けてきた。
「ここまで長引かせたのが運の尽き!お前もまた僕の必殺技の前に散れ!『聖龍破』!」
うーんなるほど?確かに龍系の魔法をこの短時間一人で準備出来るなら脅威かもしれない、けれど春川と秋雨の持つ特性は魔力を蓄積と放出、その蓄積方法は魔法を喰らうこと。魔法に対して与えたダメージに依存して魔法を喰らう、ただの便利な双剣ではないのだ。
纏わせた風を解放して加速する、後手に回るとか、縛りがあるだとか関係無い、セムナント王国に我らあり、建国以来ただの1度も外敵の侵入を許して来なかった辺境伯の力、見せ付けてやる。一息に距離を詰め、聖龍を斬る、跳び、跳ね、中空すらも蹴りつけて。最大まで昂った風は触れるだけで切り裂く事が出来るまでに至る。一人で聖龍を囲み、全方位から斬りかかる、反応は許さない、追随するなんてあり得ない、最速の風に切り裂かれ、みるみるうちに聖龍は消え去った。
チラリと貴賓席を見ると父上が掌に小さな風龍を浮かべていた、流石分かっていらっしゃる……今度あれのやり方教えて貰おう。
消滅した聖龍の居た所を見て茫然とする勇者(笑)とまた距離を取り、止まってやる。さあ見さらせ、これが本物の、『龍』だ。
結論だけ言うと、顕れた暴力そのものにより、決勝戦用のステージはズタズタに切り裂かれた、僕とその足場だけが無傷ななか、勝者はゆっくりと告げられた。
これから学院に戻りそのまま卒業、らしい。なんでも例年は優勝が決まったそのままの流れで特設ステージの上で卒業するらしいのだが、今年は特別だとか、いいね、特別とか大好き。
卒業式が終わったら1ヶ月ほどの休みを経て学園に入寮する、そもそも学院が学園の附属だそうで、試験なんかも何も無かった。変わるのは全寮制になることくらいか、リリィ一人を連れて寮で暮らしていくことになるだろう、精々5年ほどの事だ。
ぼんやりと考え事をしている間に卒業式は終わった、ここにいる全員が学園へ入るのだ、情緒も何もありはしない、ただの儀式のようなものだ。
夜、シルビアとともに庭に出た、うちの庭はやけに広いからゆっくりと散歩するにはちょうどいい。ゆっくり歩いて、気持ちを決める事も出来る、初めてこの庭が広くてよかったと思った。
星空の綺麗に見える四阿で立ち止まる。無粋な雲は今朝の内に吹き散らしてやった。
キラキラと星の輝きを宿す瞳に吸い込まれそうになる、こんなにも美しい人が僕の婚約者なんて、本当に良いのだろうか、この幸せを彼女に伝えるため、僕はこれから、彼女に愛を伝えようと思う。
学院での生活も本編に組み込もうかとちらっと思ったりもしましたが別に大したことは起きていないので省略します、一応起きたことと言えば……
1年目、他の貴族家(辺境伯以上)と初めてまともに会話する
2年目、両親が末っ子の妹を作る
3年目、風龍、2属性発動等、1部の高等技術を習得
位ですかね