本選!
どうも僕は時間をかけすぎていた上に誰かが絶妙に道連れをしてくれていたようで、つまりは土の辺境伯も本選に残ってしまった。全くもって面白くないと思いながらも一戦目の相手を見る。
水の侯爵家の娘さんか、短杖の魔装を構え、こちらを見ている…けれど少し腰が引けているかな、余り寄ってやるのは可哀想かも知れない、長杖を発現し構える
『目を覚ませ、力を捧げよ。沙羅』
魔法を撃ち合う構えを見せたことで少し緊張が解れたみたい、なら楽しんで、盛大に撃ち合わなくちゃ。
始めの合図と同時に大量の初級魔法が無詠唱で撃ち込まれる、さては開始の前から魔法の構築を始めていたか、反則だけど気にしない、一瞬遅れて撃ち出した魔法はほぼ中央でぶつかった、まだ少しこちらよりかな?様子を窺うとちゃんと次の魔法の展開まで終わっていた、いいねいいね、魔装の特性差の都合上こちらの方が威力は高くなりやすい、最もそれで綺麗に相殺しあうんだから属性の特性差は大きい、こちらの方が魔法そのものが速いからこそほぼ中央で相殺出来た訳だけど。
さっきよりも少し溜めの大きな魔法を撃ち合う、また相殺、今度は完璧に中央、彼我の距離30Mに対して相殺された位置が動いたのは10Cほど、誤差と言ってもいい距離だけれど、気付いて居るだろうか?
魔法は相殺し合う、属性の相性差で毎回10Cずつ向こうに相殺点はずれていく、要はジリ貧なんだけど、正直そこまで待つことは出来ない、だからここからはいかにして魔法を当てるかの戦い、彼女もそれを分かって居るのか少しずつ魔法構築を隠蔽し始めてる、その努力は買おう、けれどするべき事はそうじゃなかった。
僕は魔法構築を隠したりしない、中規模魔法の構築の中に小規模な魔法を仕込む、ほらこれで5Mも相殺点が移動した!
そこで水壁は悪手だよ、ほら大規模魔法を構築できてしまった、作った魔法は風竜、けれどここにいくつの魔法を仕込んであるか分かるかい?答えは中規模魔法3つとそれぞれに小規模魔法2つの計6つ、これが魔法!そしてこれこそが!風の辺境伯の魔法、諸々の都合上見せるのは風竜までだけれど、とくとご覧あれ、風竜の一撃。
二戦目に当たったのはまた土の辺境伯、面白味も無いので一撃で沈めようか、発現する魔装は突撃槍、利き手に盾を持つ、僕の唯一の守りの魔装だ。
『目を覚ませ、力を捧げよ。尖塔』
右半身を前に、左半身を後ろに、右膝を突き出し、左足はやや伸ばす、盾は右腕全体をもってして構え左の突撃槍本体には力を込めない、この独特の構えが僕にとって最堅の構え、風は突撃槍に纏わせる、やっぱりまた鎚で来た、こうしてあからさまに守っていても、奴が土の辺境伯を背負う以上正面から以外に攻められない、だから僕は、一撃でこいつを沈められる。
雄叫びを上げ、盾に叩き付けられた鎚をなんとか受け止め、後ろに溜める、力を受け流し、左半身に溜めていく、そして限界まで溜まったその瞬間、僕は攻撃に移った、正面には鎚を振りかぶった土の辺境伯、故にこれはどちらが一撃を先に加えることが出来るかだけが問われてる、そして僕は、速さに関して決して負けはしない。右手を振り抜き、体を捻る力の一助にする、左半身のバネを解放して、突撃槍を突き出す、少しばかり速く、相手の中央を貫けた、僕の勝ちだ。
今日最後の試合だ、明日は優勝者だけを決める、だから今日は残りの全てを吐き出し尽くせと、そういうことらしい。明いては火の公爵家、相性はすこぶる悪い…と思われている、だからこそここで使おう高等技術、未だほんの少し混ぜ込むのが精一杯だけれど、今この場においてはそれがひどく大きなアドバンテージになる。すぐに対処してくるだろう、でもそんな時間は与えない。
『目を覚ませ、力を捧げよ。吞天』
身の丈を遥かに越える刀身は、大きく、分厚く、重い。宿した属性は風、そこにほんの少しの水、2属性発動…の雛型だけれど、今は十分、先手を取った一撃で叩き潰せる。
ん?僕にシルビアは相応しくないから、俺が勝てばシルビアは俺の物にしてやると?ハハハ、叩き潰してやる
吞天の持つ特性は狂化、発動時間が長ければ長いほど正気を失わさせる代わりに、絶大な身体能力をもたらす、さぁ、早く早く早く早く!
始めの合図が出る、よくここまで我慢した自分、オーソドックスな長剣を構える、関係無いね、吞天を振りかぶり、全力で振り下ろしてやった。
舞台は砕け、土煙が立ち込める、振り下ろす直前に舞台装置が発動したのは見えていた、火の公爵サマが飛ばされた方を見やると、濡れていた、これ以上の名誉を失えば自棄になることはもう見えきっていたので、見なかったことにしてやった。