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〜 鐘が鳴る 〜 第一部 第七話

 ☆第七話


 ◆白馬の王子様!?


 学園内の街並みに荷物の山が微妙なバランスを保ち人ごみの中を動いている。

「ねぇ! チッチ。次はあの店に入りましょうよ」

「ロザリア、もう持てない……まだ買うのかなぁ?」

 チッチの両腕には買い物を済ませた荷物の山で、既にいっぱいと言う言葉をとっくに超えている。

「なに言ってんの? まだまだこれからよ!」

「う――ん。でも、そろそろ北塔にアウラを迎えにいかないと」

「なによ! やっぱりアウラの方がいいの? 私が嫌い?」

「ロザリアは嫌いじゃないなぁ」

「じゃあ。好き?」

「う――ん。好きかなぁ、どちらかと言えば」

 ロザリアは満面の笑みを浮かべた。

「チッチ? もう少し付き合ってくれたら……いい事してあげる!」

「いい事? ってなに?」

 ロザリアは、荷物でいっぱいになった腕に豊満な胸を惜しげもなく押し当てた。チッチの抱えている荷物が大きく揺れ今にも崩れそうになる。

「おっとと、なにかやわらかい感触を腕に感じるなぁ」

 チッチが絶妙なバランス感覚でその危機を乗り切った。

「はい! 今は(・・・)ここまでね。後は買い物終わってぇ――夕食の後でね! きゃっ!」

 チッチが妙技を駆使して持っていた荷物がバッサバッサと音を立て崩れ落ちた。

「そんなに急かさないでよね。……うん、もぅ――、チッチたらぁ……気が早いんだからぁ……」

 ロザリアは、チッチをに上目使いに視線を送った。

 チッチは学園の外を碧眼の眼を鋭くしアウラが放牧に向かった方角をじっと見詰ている。

「チッチ……どうしたの?」

 チッチとロザリアの周りには山程あった荷物が散乱していた。

 ロザリアの声はチッチに届いてい様子だ。

「ねえぇ? チッチどうしたの? 具合でも悪いの? それとも……待ち切らないのかなぁ? チッチのエッチ!」

 ロザリアの腕を振り切りチッチは突然、街の馬駅に向い走り出していった。

「ちょっと! チッチ――! 馬駅に何を! まさか……きゃっ! 王都の三ツ星宿に行くのね。もうチッチたらぁ、せっかちだぞぉ」

 チッチの後を追って来たロザリアが隣で頬を挟み浮かれた声を上げた。

「アウラがあぶない」

 チッチが学園の外を鋭い視線で睨んで呟いた。

「はぁ? チッチ? 何言ってんの突然……あの子は大丈夫よ。お兄様がアウラは魔術の天才だって言ってたから、魔物たちに襲われても平気でしょ?」

「分からない。魔物の気配じゃないけど……疼くんだ。循鱗が」

「循鱗? なにそれ?」

「アウラと俺の絆だ。もしアウラを襲っているものが魔物じゃなくて傭兵や賊の類なら急がないとアウラの身があぶない」

「アウラの身が危ない? それ本当なの? 魔物より弱いでしょ傭兵や賊なんて」

「そうでもない。人は非力でも賢くて強い。アウラが魔術を使ったとしても逃げきれない。それにアウラには人を殺すなんて事出来ない」

 

 馬は馬駅で借りられるが、貸し馬をしている馬駅の多くは街並みの外にある。

 近くの店に生徒たちが馬で乗り込んだ際、馬を繋いでおく為の馬屋をチッチの碧眼が捉えた。

「見てくれよ。マドリーヌ。僕の愛馬を、ペガサスより気高くユニコーンより猛々しい僕の白馬できみを楽園へとエスコートさせてくれないか? さあ! 今宵愛の楽園へ旅立とうじゃ――」

「チッチ! 馬」

 ロザリアが手綱を握ると、するりと跨った。

 短いスカートの布地は捲り上がり、その中身が露わになっている。

「ロザリア!」

「なによ! こんな時に、急ぐんでしょ!」

「パンツ見えてる」

「だまれ変態!」

「そんなに大きな声で怒鳴らなくても……」

「アウラが危ないんでしょ? よく分からないけど……アウラは私の親友なの! チッチも急ぎなさい」

「はい……注意しただけなのになぁ……へ、変態って……」

 スカートを履いて馬に跨ったロザリアの姿が、あられえもない状態になっていて、人眼を集めている事を教えたつもりだったチッチは、がっくりと肩を落とした。

 

 兄のランディーからチッチの事をよく聞かされていた。

 チッチの気配を感じ取る力は、並みの人間ではない、と。

 その感覚は、野生の獣そのものだと聞いている。

 何時も、ぼや――っとしているチッチが、こんなにも顔引き締めている様子をロザリアは見た事がなかった。

 

 ――何かが起きているに違いない。


「きみ! それは僕の愛馬、ラブリ―ン号だ!」

「はっ? あんたねぇ、愛馬ってんなら、もっとましな名前付けてあげなさいよ。急ぐからこれ借りるわね」

「ロザリア? パンツ見え――痛っ」

 ロザリアの爪先がチッチの脇腹に入った。

「まだ見てたの? あんたは! アウラが危ない事が分かってんなら、何時までも見てないであんたのローブ貸しなさいよ」

 ロザリアはチッチのローブをむしり取って膝に掛けた。

「行くわよ! 早く乗りなさい」

 更にロザリアが捲くし立てる。

「ロザリアは残ってくれないかなぁ」

「チッチ? あんた何を……」

 何時もと違うチッチの碧眼は、見詰める物全て貫いてしまうんじゃないかと思う程に鋭い眼光を放っている。

 何時もの笑みを浮かべているチッチの碧眼は何処にも無く、笑っていない。

「はぁ――、早く乗りなさいよ……アウラは私の親友。放っておけないわ。チッチの邪魔はしないから、私も連れて行って! それが駄目なら今、私に出来る事は何?」

「俺を学園の外まで連れていってくれ。その後は大人しく待っていてくれるとうれしいかなぁ」

「……分かったわ。もう――! 早く乗ってよね」

 チッチが後ろに跨るとロザリアは馬の腹を蹴り、引き絞っていた手綱を緩めた。

「あぁ! 僕のラブリ―ン号……」


 ロザリアの馬捌きは見事な物で人が行き交う街中を巧みな手綱捌きで無人の野を疾駆させるかの如く馬を走らせた。

 北塔を横目に矢のように走り向け外壁のアーチを潜って学園の敷地の外へと飛び出した。

 チッチは『気配を探る』と言って馬を止めさせ飛び降りた。

「チッチ! なにを!」

 チッチは右眼に捲かれた包帯を取り外し、アウラが向かった方向を凝視し始める。

 ロザリアがチッチの前に出ようとした時、怒鳴り声が上がる。

「見るな! そして戻れ……学園に」

 チッチを覗き込もうとしたロザリアに口調を強めた。


「ごめん……チッチ、その右眼……」

 ロザリアは見てしまった。

 チッチの右眼を――。

 真紅の眼光の中で細める縦長の瞳にロザリアは戦慄を覚えた。


 チッチはアウラの向った方向を念入りに見詰めた。

「見つけた」

「チッチ……馬を」

「必要無い。ソルシエールが母さんのから預かっていた角笛を渡してくれたから」

 チッチは、腰に下げていた太く長い棒状の角笛を手に取った。

 角笛に唇を付けるとゆっくり大きく息を吹き込んだ。


 ロザリアの耳には角笛の音色は聞こえていないようだった。

 チッチが角笛から唇を離すと一陣の風が流れて止んだ。

「久しぶりだなぁ、神速馬(スレイプニル)。お前の力を借りたい」

「ふん! 久しぶりに呼び出しておいていきなり力を貸せだと小僧」

 ロザリアは眼を丸くしていた。

 その馬の……馬と言うべきなのかは分からない。

 前脚四本、後ろ脚四本、計八本の脚を持つ純白の巨大馬。

 馬体は普通の軍馬の二倍程もあるかと思われた。

「お前の脚でないと間に合わないかも知れない。後で人参やるから俺の頼みを聞いてくれ」

「ふん! 俺は乗り手を選ぶ……だが、人参……ドラゴンの角笛で呼ばれた以上、お前の母との義理を果たさなければならない。特別に載せてやろう。乗れ! 小僧」

「ありがとなぁ」

「小僧! 言っておくが、決して人参の誘惑に負けたわけではない……人参」

「チッチ……? どういう事? その馬……ドラゴンて何?」

 チッチは、左眼の碧眼を反らして微笑みを向け、右眼の炎のような赤い眼は瞼で薄くして微笑みの意を伝えた。

「この事は内緒だ。詳しい事が知りたいならランディーに聞いてくれ」

 チッチはスレイプニルに飛び乗ると誇らしげに揺れる(たてがみ)を掴んだ。

 チッチは、これから向う方向をスレイプニルに伝えるとまるで風のように巨大馬は消え去った。


 ロザリアは茫然とチッチを見送るしかなかった。

 チッチは確か山羊飼い……ロザリアの脳裏に原典に記されている記途が浮かび上がる。

『山羊飼いは魔物を扱う』

「チッチ……貴方何者なの?」

 ロゼリアは、チッチの向かった方向を見詰め呟いた。


 アウラは、恐怖に震える身体を必死に動かし杖を捜した。

「こいつ震えてるぜ。怖がらなくてもいい。喰ったりはしないさ。頂く事には違いねぇがな」

「「あはぁはぁは」」

 傭兵たちが薄い笑みを浮かべながら近付いてくる。

「来ないでぇ――! いやぁぁ――!プラムぅぅぅ――! プラム――ぅぅぅ」

 傭兵たちがアウラの細い桃色の髪を鷲掴みに掴み引きずり起こした。

「いやぁぁ――! 痛い、やだ、やだぁぁ――、チッチ――」

 紫水晶に瞳は、潤み今にも溢れそうな程涙を眦に蓄えた。

「はぁ――なぁ――してぇ――ぇ! 触らないでぇ――、チッチ――! たすけてえぇ――」

 傭兵たちが必死に逃れようとするアウラに群がった。

「へへぇへ。()っまってもいいんですかい? お頭」

「ああ、構わんが羊の確保が済んでからだ。まずは食糧の確保が優先だ。女はその後、楽しめばいい」

「この犬はどうしやす?」

「犬の肉は旨い。赤犬だないのが残念だがな。そいつも捕まえろ」

「しかし、この娘は別嬪だねぇ――。まぁ、ちと青いが楽しませてくれよ。お譲さん」

「い、いやぁ、放してぇ」

「それは出来ない相談だ。胸がかわいそうな娘たが、我慢するか」


 ――ぐさっ!


「よく見りゃ肉付きも悪いな。俺りゃ――もっとぽっちゃりとした方が好みなんだ。この際だ女ならいいか」


 ――ぐさっ! ぐさっ!


「贅沢を言うな。まだガキでしょんべん臭い小娘だが女にゃちげぇねぇ。しかし、色気のねぇ身体つきしてんなぁ、好きな男に愛想つかされるぞ」」


 ――ぐさっぐさっぐさっ!


「こいっはぁ、若いし別嬪の上玉だ逃げねぇように縛っておけよ。お楽しみは後回しだ」

「「へぇ――い」」


(絶対……泣かないもん! 涙はチッチにしか見せない宝物なんだもん!)

 アウラは、眦から涙を拭うと一瞬の隙を見せた。

 男が掴んでいる手を噛むと震える足を地面から引き剥がすように駆け出し転がっていた杖を掴んだ。

「痛てぇ、何しやがんだぁ――このガキ! 殺すぞ」

 恐怖を振り払いアウラは集中した。

 短縮法を用い魔術を行使する為に。

 『俺は、お前以外の奴に討たれてやるつもりはない。だから、お前が俺以外の誰かに討たれる事は許さない』

 そして、チッチとの約束を守る為に……。

(解ってるよ。チッチ……だから、私はあなた以外の誰にも討たれない)

 からん♪

 震える手で杖を振り鐘の音を鳴らした。

 アウラの周囲にゆっくりと空気が流れ出し速度を増していく。

 やがて、小さな竜巻がアウラの身体を纏った。

 アウラが纏った竜巻に近くの傭兵が弾き飛ばされた。

「こいつ……本物の魔術師!」

「本物の魔術師は、初めて見るな。とっくの昔に滅んでいると聞いていたが生き残りがいたのか」

 傭兵の頭らしき人物がアウラを鋭い目で見た。

「おもしろい。お遊びは終わりだ。絶対に捕まえろ」

 アウラが杖を振り鐘を鳴らす度に竜巻から鋭い風の刃が乱れ飛んだ。

 しかし、相手は百戦錬磨の傭兵たち。

 戦闘などした事もないアウラの攻撃は的を外れ、明後日の方向に飛んでいく。

 当てずっぽうな攻撃を傭兵たちは、難無く読み切りあっという間にアウラの背後を取った。

 アウラの杖を間合いの長い槍の柄で絡め捕り、天高くアウラの杖を弾き飛ばした。

 杖を失くせばアウラは、ただの女の子に過ぎない。

 あれよあれよと言う間に囚われ縛り上げられ地面に転がされた。

 プラムは、何とか逃げ回っているようだったが、アウラに近付く事が出来ず傭兵に向かい低い唸り声を上げていた。

 傭兵たちがアウラを再び囲み始めようとした。


 ――その時。


 一陣の風が数人の傭兵を薙ぎ倒し通り去った。

「なっ! なんだ。こいつの魔術か」

 過ぎ去った風が急速に方向を転換しアウラの方に向かって来た。

 アウラは思わず眼を閉じた……が、弾き飛ばされると思った風はアウラの傍でピタリと止まった。

 眼の前に悠然たる姿を現したのは八脚の巨大馬。

 その巨大馬の馬上から、アウラを囲んでいた傭兵の一団にもの凄い勢いで白銀の鏃が付いた小汚い何かが発射された。

「痛ぇ、急に止まるなよぉ――。俺が間抜けみたいじゃないかぁ」

「何人か、道ずれに出来たじゃないか。小僧」

 巻き込んだ傭兵の一団から良く知る間の抜けた声が聞こえて来る。

「……チッチ」

「アウラ。待たせたなぁ? 助けに来た」

 チッチが強打した尻を撫でながらアウラに近付いた。


 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございます。<(_ _)>


次回をお楽しみに!


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