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〜 選択 〜 第四部 第六話

 ☆第六話


 ◆それぞれの選択 前編


 ――それは油断だったのだろうか。


 魔人を倒し張り詰めていた緊張感を緩ませ互いに名乗りあっていた。

 初めにチッチだけが気配を完全に消していた魔術師の存在に気付いていて魔術師に対し反応した。

 その直後、アイナも禍々しい強大な魔力を感じたようだ。


 ――それは動揺だったのか。


 チッチはアウラの悲痛な訴えに動きを止めた。

 アウルが無数に発生させた風の刃が一瞬動きが鈍ったチッチに向かい襲い掛かる。

「チッチ! 危ない!」

 アイナの叫びに反応しチッチは身体を捻り刃をかわす動作を取ったが、完全にはかわし切れずチッチの顔面をかすめ通り過ぎていく。

「お願いチッチ! 止めて――、弟と……アウルと戦わないでぇ!」

 そして、アウラの声に一瞬チッチの身のこなしが止った際、風の刃のまともに喰らう。

 シュベリクの危機が去って気を緩めていた面々の瞳には、地面に倒れるチッチの姿がゆっくりと流れ込んで映し出している。

 顔面の右側辺りからは、赤い鮮血が吹き上がり斬り落とされたブルーマールの映える白銀の髪の毛が、ぱらりと宙に舞った。

 ほぼ同時にチッチの全身から吹き出す鮮血に赤く染まりながら、ひらひらと宙を舞い上がる。

 チッチが地面に伏した後を追うように赤く染まり切った白銀の髪が自らの血に染まった重みで、ぼとりと重々しく身体の近くの地面に落ちた。

 チッチの全身から流れ出す鮮血が地面に赤い血溜りを作り出す。

ゆっくりと広がり乾いた地面を染めていく。

「チッチ――!」

 アウラは悲鳴混じりの声を上げた。

「山羊飼い」

 ランディーは呆然と呟いた。

「チッチ」

 アスカは叫びチッチを呼んだ。

「右眼包帯!」

 アイナは我を忘れて声を上げた。

 うつ伏せに倒れているチッチにアウラたちが駆け寄ろうとした時。

 からん♪ 魔術師の鐘を響かせ、アウラが鋭い眼光を向けている。


 ――威嚇。


 魔術師は唇を僅かに吊り上げチッチの下へ近付き出した。

 駆け寄ろうとしたアウラとアイナを除く四人は臨戦態勢を整え足を止めた。

 対峙しているのは魔人を十体も呼び出し平然と屈強の名も無き赤の騎士団の前に姿を現す魔術師だ。

 戦闘後、それぞれの力は消耗していて迂闊に魔術師に手を出す事が出来ない。

 力を持つ者だからこそ、分かる相手の技量。

 四人は、それを知りながら戦う姿勢だけは崩さない。

 しかし、魔術師は魔人を倒す際の戦闘で一気にそれぞれの持つ力を解放し消耗し切っている事を知り尽くしているかのように平然と歩みを進めている。


 アウラとアイナは禍々しい魔力に恐れ警戒心からその足を止めていた。

 アウラの手には何時もの節くれた杖が強く握りしめられている。


 ――チッチの傍に一刻も早く行きたい。


「やれやれ……こいつのお陰で苦労して遺跡から掘り出し集めた魔人が台無しだよ。あのお方にどやされるかな?」

 魔術師がチッチの傍まで近付くと石ころでも蹴飛ばすようにチッチの身体を足蹴にしながら口走った。

 アウラは、その光景を見ながら薄らと滲む程、唇を噛みしめ杖を更に強く漕ぎり締めた。

「この辺り一帯を更地にする方法は、いくらでもあるけど、まだ時ではないと言う事かな? それに……二つ目の目的だった姉さんを連れていけば、お咎めも無いかも知れないし……それに見た事のある金色髪の人も……これで二人。あの時は銀髪の人に奪還を許してしまったけど」

「「あっ! お前はあの時の……ランスを連れて行った魔術師!」」

 どうやらシオンとアイナはアウルと言う魔術師と面識がある様子だ。


 ――チッチ……ごめんね。


 アウラは、チッチを助けられない悔しさと目の前にいる魔術師の姿で現れた死んだと思っていた弟に魔術を行使出来ない板挟み状態の自分にもどかしさと戸惑いが心を潰していくように感じていた。

「何してるですぅか! このままでは右眼包帯が」

「……分かってる……分かってるけど……私には……」

 恐らくチッチは循鱗の力を使い過ぎている以前の時にように。

 チッチが自力で封印を解放する姿はもう見たくない。

 しかし、そう思いながら動けない悔しさと生きていた弟に魔術を向けられない歯がゆさの混じる表情を浮かべるアウラにアイナが声を掛けた。

「あなたの気持はなんとなく分かるですぅ……でも、このままでは本当にあの右眼包帯の命は何れ消えてしまうですぅ。そう遠くない時間の内に……一刻も早く治癒しないといかんですぅ」

「大丈夫……大丈夫……チッチには特別な……」

 アウラは自分に言い聞かせるように言い掛け言葉を呑み込んだ。

 そんなアウラにアイナが一瞬、微笑み掛け厳しい表情に変えた。

「シオンたちの消耗は激しいですぅ。それは魔術を解除(デスペル)していた私たちも同じですぅ……でも右眼包帯は、それでもあの魔術師に気付き倒そうとしたですぅ……自分も消耗していたですぅのに」

「それは……アウルは、チッチたちの敵だから……」

「ちがうですぅ! 右眼包帯は魔術師があなたを狙っていた事に気付いたから、アウラちゃんを守る為に魔術師に向かって行ったのですぅ」

「そんなこと……」

「あの魔術師が言ってたですぅ? 第二の目的はあなたを連れて行く事だ、と……ぴやぁ――! 良く考えたら……アイナもですぅー!」


 以前にもアウラは連れ去られチッチに助けけ出されたが、何が目的で連れ去られたのか定かではかった。

 アウラの手にした禁術書か、或いはアウラの魔術解読、解析の才を欲してか。

「姉さん、僕と一緒に来てくれないかな? カリュドスには父さんも母さんもいるから僕たちの理想に協力してほしい。姉さんの力が必要なんだ。理想を叶えて、また家族一緒に平和に暮らそう。そして、もう二度とグリンベルの悲劇のような事が起こらない平和な世界で」

 アウルが問い掛け、言葉を続けた。

「今のあんたたちでは僕を倒す事は出来ない……分かるよね? 今日の所は姉さんとついでに白金髪の人を渡してくれれば僕は引くけど、まぁ他の人たちはどうするか知らないけどね」

 アウラの心が大きく揺さぶられる。

 無論、アウルが言う理想などに興味はない協力する気も毛頭ない。

 大体の察しは付く、アウルは“国境無き楽園の使者(アイゼンガルド)”を名のる言わば革命軍なのだろう。

 何時の時代も自由という名の蜜のように甘い言葉を囁き、世界の全てを手中に治めようと企む独裁者はいるものだ。

 しかし、アウルの言うように本当に父と母が生きているのであれえば、アイナの生まれたカストロス王国を滅ぼしてから長きに渡り戦火を広げ、次々に西側諸国を属国として取り込み国土と軍事力を拡大したカリュドス帝国にでも、何処の組織であろうとそこがどんな所だとしても会いに行きたい。

 死んだと思っていた弟アウルは、酷い火傷を負いながらもこうして生きてアウラの目の前にいる。

 父と母が生きていても不思議ではない。

「姉さんが僕と一緒に来てくれるならシュベルクの街もここにいる皆さんもこのまま見逃してもいいよ」

 心揺れるアウラにアウルが追い打ちをかける。

 アウルの歳でどれ程の魔力を手にして、どれだけ強力な魔術を得ているかは正直疑問が残る。

 だが、名も無き赤の騎士団と他国の屈強の戦士を前に威風堂々姿を曝せる魔術師が、どれ程存在すると言えるだろうか。

 アウルから感じる禍々しいまでの気は尋常ではない。

 シュベルクとみんなを救えるなら……チッチを救えるなら……アウラは決意した。

「私は――」

「オレンジと桃に――! 板挟み? あれ?」

 アウラの声と決意を掻き消すような声が張り上がった。

 地面に伏していたチッチが突然、ゆらりと立ち上がる。

「チッチ!」

 アウラは、チッチの立ち上がる姿を見て思わず名を呼んだ。

「右眼包帯……」

 アイナは、チッチの露わになっている右眼を見て絶句した。

 虫の息だったチッチが突然息を吹き返し跳ね起き瞬時に距離を取った。

 その一瞬を、シオンにレイグ、ランディー、そしてアスカが見逃すはずはない。

 瞬時にチッチと魔術師の間に割り込み立ちはだかった。

 アウラとアイナは、こめかみの辺りから血を流しているチッチの傍に掛け寄った。

「チッチ! 大丈夫?」

 アウラは、ハンカチを出すとチッチのこめかみの傷口にあてがった。

「傷、酷いですぅ?」

 アイナがチッチの怪我の様子をアイナに尋ねた。

 アイナは静かに首を振った。

「かすり傷程度です」


 ――そんなはずはない。


 アイナの判断では、あの出血量からしてその傷は頭蓋の奥。脳にまで達していたに違いないと思われた。

 守護者ギルドにいれば、大怪我を負ったガーディアンの手当をする事にも慣れている。

 確かに瞼の上など、少しの切り傷でも派手に血が流れる場所もあるが、風の刃はチッチの右眼を通り抜けるように、こめかみを切り裂いていった。

 致命傷だと思っていた。即死していてもおかしくはない。

 アイナはチッチの傷口を覗き見た。

 確かに血は滲んでいるが、切り傷程度の跡が残っているだけだった。

「癒しを司る水の精霊 辺りを取り巻く風の精霊よ 汝、古の盟約により 我の命に応え、彼の者を癒せ」

 アイナは魔法の詠唱を口ずさんむ。

 チッチの傷に眩い光の粒が集り傷口に吸い込まれるように消えていく。

 傷口は、みるみる塞がれ全ての光りの粒が消えた時には綺麗に傷痕は消えていた。

「……今のは?」

 アウラは狐に摘ままれたような顔で、その光景を見ていたがチッチの傷が消え去った後、アイナに尋ねた。

「精霊魔法ですぅ」

 アイナはアウラの耳元で小声で答えた。

「精霊魔法……魔術ではないのですか?」

「何と言うですぅかぁ……魔術の基になったものですぅ……それより今は」

 アイナは、そう言うと魔術を行使する構えに入った魔術師の方に翡翠色の眼をやった。


 To Be Continued

最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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