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〜 選択 〜 第四部 第五話

 ☆第五話


 ◆宿命の出会い


「何が起こっているというのだ。いったい」

 ランディーが率いる名も無き赤の騎士団とアウラ、それに金色髪の少女は魔術師の後追ってきた場所には漆黒の炎に包まれた異形の魔物……というより遠い昔、世界を救ったとも世界を滅ぼしたとも様々に記述されている神話の魔人にも似たゴーレムの姿を眼前に捉えていた。

「……あれが私が組み立てた魔法陣から創り出され続けている魔物なのですか? ランディー様……」

 アウラは、その異形と呼ばれる十体もの巨人を呆然と見据えてランディーに問うた。

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。確かにグリンベルの街が焼かれたあの日、街に転がっていた残骸はあれに似ている。しかし、魔法陣を守護している異形の魔物はあれではない。なんとも形容し難い様々な異形の形をしているのだよ、私の知る限りだがね」

 ランディーが何処か不可思議さと曖昧さの残る答えを返した。

「あれは……遺跡のゴーレム……ちょっと違いますぅ」

「あれを知っているのかね? 貴女は」

「……わたしには詳しい事は理解出来ないのですぅが、あれに似た物は近隣国々の遺跡で眠ってるそうですぅ。ラナ・ラウルにも幾つか遺跡があり、その遺跡から次空間魔法を用いてあれを呼び寄せる事が出来る人物を知っているですぅ」

 白金髪の少女は最初の異形の魔人の事を得意げな顔をして両の拳を肩の高さまで上げ人差し指を、ぴょこんと天に向け立て得意げに話した。

「魔法? 魔術の事ですか?」

 イリオンでは聞きなれない言葉にアウラは聞き返した。

「魔法は魔法ですぅ。あなたの言う魔術とは私たちの国で言う理論魔法の事だと思うですぅ」

「その遺跡から、あれを呼び出せる人物とは誰だね」

「私といた野郎ですぅ。名前はシオン! あっ! シオンというのはですねぇ――! ラナ・ラウルの守護者(ガーディアン)ギルドの人間で戦士としては、超ぉ――優れた力を持ち強いのですぅが得体の知れない記憶喪失者で鈍感でエッチぃ――くせに晩熟(おくて)な、まったくどうしようもない野郎なのですぅ」

 天に向け立てたままシオンの事を話していたが話している内に、むかむかし来たのか次第に表に現れている深い緑色の瞳を細め口を尖らせ表情を変えた。

「何を話てるんだぁ?」

「「きゃぁ!」」

「な、ななんか下から声がしやがったですぅ」

「はっ!?」

 アウラは溜息を吐くと両膝をしっかり閉じ両手をその膝の間に滑り込ませスカートの生地を押さえた。

「純白シルク、紐」

「……遅かった」

 アウラは毎度の事に呆れた顔で切なげに呟いた。

「どうしたのですぅ?」

 おどおどしながら白金髪の少女がアウラに尋ねた。

「スカート押さえてください。手遅れだと思いますが……一応」

「スケスケレース」

「へぇ? わたしのパンツ?」

 顔を合わせて話していた美少女の間からチッチがひょっこり顔を出す。

「スケスケ? ……ですか……はぁ」

 白金髪の少女は、なんだか良く分からないと言った顔をした。

 顔を赤らめたアウラが少女の耳元に顔を近付けると小声で伝えた。

「そうですよ……し、下着の事です。それにしてもスケスケですかぁ……私も頑張ったのに」

 アウラは、がっくりと肩を落とした。

「おのれぇ――! 右眼包帯男!」

 白金髪の少女は怒り顔を赤らめ、慌ててスカートの裾を押さえた。

「なあ、ランディー? 今、異形の魔物と戦っているのは誰なのかなぁ」

「異国の守護者(つわもの)だ」

「そうか、強いなぁ、あいつ」

「それで魔法陣は見つかったのかね?」

「いや、見つからなかった。怒るか?」

「お前たちに見つけられなかったものを誰が見つけられると言うんだね」

「よく分かってるじゃないか、ランディー」

 何時も間にか、ランディーの傍らに立っていたアスカが肩を叩いた。

「な、なんと! 凶悪な悪魔の果実を装備してるですぅか! あの女……ミルさんと同等……それ以上ですぅ」

 白金髪の少女はアスカの胸元を見て驚愕した。

「あれは……チッチ曰く、デカパイン伝説と言う代物らしいですよ」

 アウラはそう言うと、はたと気付き白金髪の少女に尋ねた。

「あの! お名前は? 名乗るのが遅れてすみいません。私はアウラ・ヴァジニティーと申します。アウラと呼んでください」

 アウラは、緊迫している街の様子を気にしながらも恭しく一礼し自分の名前を名乗った。

「わ、わたしはアイナ……アイナ・デュラン・ミラ・カストロス……ですぅ」

 白金髪の少女は覚悟を決めたかのように一度大きく息を吐き唇を固く結んだ後、アウラ以上に洗練された一礼を恭しくし、これまで誰にも名乗った事のない全ての名を口にした。

「カストロス? 亡国の姫君……」

 ランディーが驚きの表情で呟く。

「何を、こそこそ話しているんだ? 俺たちも行くぞぉ」

「でも私たちは、あれを呼び出した或いは創り出した魔術師を追って――」

 アウラの心情を読み取ったかのようにアイナは言葉を被せた。

「あの魔術師はあの場にいるですぅ」

 異形の魔人とシオンが交戦している場所を刺した。

「いくですぅよ! 大丈夫ですぅ! シオンは人を(あや)めたりせんですぅ。それだけの技量を持ち合わせているですぅよ」

 心配そうに戦場を見つめるアウラにアイナが微笑み掛けた。

「わたしたちも、しゅっぱぁぁっですぅ!」

 既に戦場に向かったチッチとランディーの後を追い残った騎士団と共にチッチの後を追った。


「くそ! 装甲に耐熱処理はしてあると思ったが、その上から更に魔法で耐火対策まで施してあるとはな、俺のとっておきの魔法だぞ! まだ完全に使いこなせてけどな」

 シオンは唇を噛みしめた。

「装甲にダメージを与えられなくても内部の配線を焼き切ってやろうと思っていたんだが、耐火処理と併せて冷却処理も施してやがる」

「シオン! 手伝ってやろうか?」

「レイグ!」

「依頼人には安全な場所に移って貰った。ミルの次空間魔法でな」

「で、あれは援軍か? 出来の悪いゴーレムが向かって来てる。この国の騎士団……あれは!」

 ランディーたちがこの場に向かう少し前、魔法陣から創り出した土のゴーレムを従えた国軍がランディーたちの騎士団より先に戦場に到着した。

「まぁ、この国は魔法後進国だ。あれに期待するのは止めておこう」

 レイグはそう言うと炎の魔剣を構えた。

「剣に宿りし炎の化身よ その力 今 解き放て」

 レイグが口上を延べ剣に宿る炎の化身、炎の魔人(イフリート)を解放する。

「さて、摂し三千度を越える炎、受けてみるがいい。鉄の融解温度に達する炎を味あわせてやろう」

「無駄だ……俺のダークネスフラムも完全なら三千度を超える。今の俺には二千度が精一杯か」

「妖精がいないと本来の力も出せんとはな」

 二人が、口論を楽しんでいるとイリオンの魔術師が創り出したゴーレムが異形の巨人に近付く。

 異形の巨人が背中に背負っていた筒状の物を肩口に構え、シュパンと酒瓶に醗酵したガスがコルクを抜いた際に出すような音を立て筒先からは煙の尾を引いた砲弾がゴーレムに向かい飛んだ。

 砲弾をまともに受けたイリオン軍のゴーレムは弾着と共に炸裂し砕け散った。

「あらら一撃かよ! あれじゃ術式の書かれた札も文字ごと粉々だぜ、再生出来そうもないな、あれでは……にしても持たせた武器にも御丁寧に耐火耐熱処理を施してやがったとは……通りで誘爆しなかった訳だ」

「仕方ねぇ、剣で斬ってみるか? 雷撃系の魔法も試したがECM加工もしっかりしてやがった。ラミネート加工もな。恐らくこいつを呼び出した魔術師はカリュドスの手の者。向こうには、こいつらを整備出来るだけの施設と技術者がいるとしか思えねぇ」

 シオンは苦々しく顔を顰めた。

「シオン? 新しい呪文でも覚えたのか?」

 レイグが不思議な聞いた事のない言葉が混ざるシオンの話を聞いていて尋ねた。

「魔法じゃねぇ、デスペル魔法の専門家がこの場にいれば……いないとなると魔法は駄目だ剣で斬ってみるしかねぇ! 案外斬れるかも」

「そうかもな」

 二人は顔を見合わせ笑い合った。

「シオン―― 用意できたよぉ」

「遅せぇよ、リーシャ」

「でもいいの? 遺跡で見つけた最後の機体だよ? 一番まともに動かないし」

「この際、仕方ねぇ」

「うん? あいつらやられてるよ?」

 リーシャの言葉に目を凝らし異形の魔人をシオンたちが見た。

 巨大な蛇が魔人に巻き付き締め上げる。

 螺旋状に巻きつかれた魔人は、ギシギシと嫌な音を立て圧壊する。

 そこに少し遅れて白銀髪の少年と金髪の騎士、二人の少女と共に異形の魔人に向かい二人の少女が魔法陣の解除を行うと少年の鉈のような双剣が分厚いはずの装甲を破り穴を穿つ。

 刀身より長い範囲を切り刻んでいる。

「あれは……アイナ? なんでこんな所にいるんだ?」

「それに……あの双剣、どんな物質で出来ているんだ?」

「それは俺たちが持ってる剣も同じだろ?」

「まぁそうだけど……俺たちも」

 戦いに二人が加わる。

 シオンはフィノメノン・ソードを思う存分に振るった。

 シオンが斬りたいと迷いなく強く思えばフィノメノン・ソードに絶て(きれ)ない物はない。

 戦闘はこれまでの苦戦が嘘のように思える程、短い時間で片が付いた。


 異形の魔人の身体からは、もうもうと黒い煙と火花を吹上沈黙している。

「まぁ――たくぅ! シオンはアイナがいてやらんと、とんだ役立たずですぅ」

「うるせぇ! それよりあいつは」

 シオンが不機嫌そうな顔をしてチッチを睨みつけた。

「知らんですぅ! でも、この娘はアウラって言うですぅ」

 アイナと共にシオンに歩み寄ったアウラは恭しく一礼をすると改めて自ら名乗った。

「アウラと申します。シュベルクの街を守って頂きありがとうございました」

「いや、俺らは仕事上、奴らの足止めに来ただけだ倒したのは、あんたたちだから礼を言われても」

「いえ、あなた方がいて下さらなければ街は壊滅していたと思います」

「私は名も無き赤の騎士団隊長。ランディー・ハーニングだ。礼を言わせて貰いたい。きみたちのお陰で街は救われたありがとう。異国の戦士たち」

「ほら! チッチもお礼を言いなさい」

「何て言うかなぁ? まだ喜んでもいられないなぁ。操っていた魔術師の御登場だ」

 チッチの言葉にアイナも神経を研ぎ澄ました。

「魔力を感じるですぅ……強い魔力を……はっ! 魔人を復活させる? それとも新たに呼び出す気ですぅ」

 禍々しい魔力と伴に魔術師が姿を現す。

 「……」

 アウラは、魔術師の声と顔を見て言葉を失った。

「まさか、呼び出した魔人を壊されるとはね」

 チッチが間髪入れず魔術師に刃を向けた。

「チッチ! 止めてぇ――!」

 チッチの動きが、ぴたりと止る。

「弟なの……グリンベルで死んだと思っていた……私の弟アウルなの」

 アウラの縋るような紫水晶の瞳を見てチッチは構えた双剣を、だらりと下ろした。

「はっ! 駄目ですぅ! 右眼包帯!」


 ――その瞬間。


 からん ♪


 魔術の乗せられた鐘の音が響いた。


 To Be Continued

最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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