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〜 鐘が鳴る 〜 第一部 第四話

 ☆第四話


 ◆ちょっとどっきり! ちょっとウキウキ休日の朝


 学園休校日の朝。

「ふみゅ……ふぁ――」

 形の良い小ぶりな唇からかわいらしい息が漏れると細い白い腕を天井に向けいっぱいに伸ばした。

 細い桃色の髪が無残に跳ね上がり、紫水晶の麗しい瞳をふにふにと擦り薄く開けてぼんやり一点を見つめている。

 形の良い唇の上にあるかわいらしい整った鼻を手の甲で、ごしごし擦りもう一度大きな欠伸をした。

「ふぁ――」

 アウラは、ふわふわの天街付きの広いベッドから降りると朝日を遮る厚い布のカーテンを左右に開き留め具に掛けた。

 厚い布のカーテンの奥にレース状のカーテンを軽く開き、テラス付きの大窓に手を添え鍵をはずそうとした。

 鍵を掛けたはずの大間窓がゆっくりと開き出す。

「……あれ? 鍵……寝る前に締めたはずなんだけど……忘れてたのかなぁ……気を付けないと駄目ね。へへぇ」

 心地良い風が部屋に流れ込んでレース状のカーテンとアウラの桃色の髪と薄い夜着を揺らす。

 やさしい朝陽の差し込みがアウラの夜着を通り、華奢なアウラの肢体を浮かび上がらせた。

 

 ここは北塔よりも中央塔寄りにある牧畜士養成科女子寮。

 男子寮は北塔の近くに在り、かなりの距離がある。

 他の科も同様で男子寮は学園の中央より外側に近い所に建てられていた。

 牧畜士養成科の生徒や騎士科の男子生徒は中央塔まで共通授業を受けに来る際、乗馬を許されて馬で登校している者が多い。

 技術者養成科、商工人材養成科の生徒は技術者養成科の生徒が試作した乗り物を利用したりもするが、各塔には通学用に送り迎えの馬駅が在り、そこから馬車が定期的に出ている。

 休日も運行しており学園の生徒達は、それを利用して街に繰り出したり自前の馬で街に出たりとそれぞれ休日を満喫する。

 女子寮と男子寮の間に多彩な店などが立ち並び、それはもうちょっとした街並みであった。

 休日ともなれば出来上がったカップルが街で待ち合わせたり、わざわざ男子寮から女子寮まで自慢の愛馬を駆って迎えにくる男子生徒もいた。

 アウラは、洗面場に向かおうと薄い夜着の上から室内用のローブを羽織ろうと手を伸ばした。

「ママ、マシュマロ大好き! あれ?」

 アウラの寝ていたベッドの方から聞き慣れた目覚めの声が聞こえた。

「チ、チッチ! 何時の間に忍び込んだんですか!」

「さぁ? 寝ぼけてて、気がついらここで寝てた。あはぁはぁ」

「ちょ! あはぁはぁじゃないです! ここは女子寮ですよ! 誰かに見つかったらどうするんですか! と言うか……そんな問題じゃないような……人の部屋に勝手に入っては駄目じゃないですか! それもレディの部屋に、よ、よよよ夜這いなんて最低です」

「やっぱりアウラは綺麗だなぁ――」

 アウラは、怒鳴ったところでチッチの視線が向けられている事に気付いた。

「きゃぁ――! 何見てるんですかぁぁぁ!」

「何って、アウラに決まってる」

 アウラは、慌ててローブを引っ掴み薄い夜着に透ける華奢な身体を覆い隠した。

「ちょ! ちょっと……な、何してるんですか? こんな朝早くから! しかも私の部屋で」

「何って、昨日アウラが迎えに来いって言ってたから来た」

「そ、そうですけど……何時からこの部屋に?」

「今日になって直ぐ暗いうちから」

「……な、何も部屋まで忍び込まなくても……それも人が寝ている夜中に……」

 アウラは顔を赤らめ、更にチッチに確認した。

「い、何時から……そ、そのベッドに?」

「アウラが寝付いて直ぐなんじゃないかなぁ――真夜中だったから……アウラ遅くまで勉強してたようだし、魔術の勉強かぁ?」

「そ、そうですけど……か、鍵、どうやって開けたのです? おかしいな? 鍵はしっかり締めて戸締りしたのになぁ?」

「まぁ長い間、旅をしてたからなぁ、いろんな人に会って様々な事を学んだかなぁ」

「駄目ですぅ! 学ぶ事は良い事ですけど、学ぶものは選んでください!」

 アウラは捲くし立てるように言うと言葉を一度切った。

「あ、あの――、着替えようと思うのですけど……えと、部屋から出て貰えません?」

「俺は、別に構わない。気にせず着替えればいいじゃないかぁ?」

「わ、私が構うの! 私が気にします。ちょっと部屋の外で待っていてください」

「う――ん。分かった。部屋の外で待ってる」

 チッチがそう言うと部屋の扉に向い歩き出した。

「ちょ! ちょっと、そっちはだめです! 誰かに見つかっちゃう」

「う――ん。なら外で待ってる」

 チッチは大窓の方に向きを変えテラスへと出て手すりに手を掛けた。

「ちょ、ちょっと! チッチ危ないですよ」

「大丈夫。ここから入って来たんだし昇れたから降りられないはずがない」

 チッチが手すりを一気に乗り越え、アウラの視界から姿を消した。

「チッチ――。ここ五階!」

 慌ててテラスに飛ぶ出し手すりから身を乗り出したアウラは、下を覗き込んだ。

「チッチ――。大丈夫?」

「五階は……ちょっと……きつかったかなぁ」

 チッチは暫くの間、その場に蹲っていた。


 女子寮を出てチッチが乗って来た馬に跨り北塔に向かう途中に広がっている。

 チッチは、ちょっとした街並みを前方に見ながら、北塔に向け馬を疾駆させた。

 二人が乗馬する馬に並走する形でプラムが着いて来ている。

 街には待ち合わせをしているのか、何時もの制服から余所行きの服で可愛く着飾った女子生徒や一息入れた後に、学園に向かうのか、制服を着ている女子生徒が噴水の前やカフェの外に置かれたテーブルに腰掛けたりしている姿が、あちらこちらで目立ち始めてきた。

 アウラというとチッチの前に両足を揃えて横向きに座り、素足の目立つ脚を投げ出している。

 埃除けのローブに付いたフードを深々と被っていて一見魔術師のようにも見えるが、纏ったローブの中には普段より着飾ったアウラの着衣が隠れている。

 アウラの頑張りが、疾駆する馬の切る風に煽られ時折、捲れるローブの合わせ目から覗く素足の露出度が物語っていた。

 捲れるローブを抑える手には、何時もの節くれた杖に括りつけられた鐘が小気味良い音色を響かせていた。

「今日は学園の外に放牧に出るんだろ?」

「う、うん……今年はシュベルクで一月後に行われる収穫祭で行なわれる催し物の家畜追いレースの開催会場になってるから、私も出場する事にしたんです。一月の間に出来るだけレースに向けて訓練して置きたいんです」

「近くの放牧地に行くにしても……何でスカート履いて来たんだ?」

「そ、それは……た、たまに、たま――にですけど、スカートやワンピースも来て放牧に行きますよ……近くなら……」

 そう言ってアウラは頬を膨らませた。

「それにしても綺麗な服だし、丈も短くないかぁ?」

 アウラは更に頬を膨らませ投げ出している両足を交互に振り始めた。

「だって……」

 アウラは俯き黙ってしまった。

 街の入り口付近でチッチが馬の手綱を引き綱を緩めた。

「そんなに短いスカート履いてくるから、馬を跨げなかったんだろ?」

「元から乗れないもん」

「短いスカートで横乗りしてるとパンツ見えるぞぉ」

「ローブ羽織ってるから見えないもん。それに膝より少し短いだけだもん! ちょっとだけ……」

「布地が、ずり上がって腿が見えてる。たま――に」

「纏ってるローブ押さえてるから見えないもん」

「放牧に出たら擦り傷や痣が出来るぞ」

「ローブしっかり纏うから大丈夫だもん」

「何を拗ねてるんだ? アウラ」

「知らない……、ねぇ……チッチはレース出ないの?」

「俺は山羊飼いだから」

「出れるよ。家畜を放牧しているなら誰でも出れるんだよ。馬でも牛でも豚でも鳥でも……家畜によって持ち点が変わるしやっぱり羊がメインだけど……山羊なら羊と同じ持ち点だったと思うよ」

「俺は生きる為に山羊たちと旅をした。山羊は粗食に強いからなぁ、レースには興味ないなぁ」

「そっかぁ……」

「一緒に出てほしいのか?」

「そう言う訳じゃ……興味ないなら仕方ないよね」

 アウラは微笑みを作ってチッチに向けた。

 

 チッチは、街の中心部に入ると馬を歩かせている。

「あっ! アウラにチッチ」

「ロザリア!」

「なぁ――に、これからデート?」

 ロザリアが目を細め意味深な口調で聞いた。

「アウラはこれから放牧だ」

 チッチが代わりに答えた。

「な――んだ。アウラ何時もより小奇麗な格好してるからてっきり……で、チッチも一緒に放牧に行くの?」

「俺は行かないかなぁ――。何処かで昼寝でもしてる」

「だったら……私に付き合ってほしいなぁ……買い物。あっ! 馬で遠乗りでもいいのよ。アレシアン湖なんてどう? いいでしょ?」

「う――ん。べつにいいけど……アウラを北塔まで送らないと」

「その後でいいの。ここで待ってるから」

「ロザリア!」

「どうしたの? アウラ怖い顔して」

「なんでもない……チッチも忙しいかなぁ――て思って……」

「昼寝するって言ってたよ?」

「そうだけど……」

「なら、いいでしょ? チッチ借りるわね」

「……」


 ロザリアは結局、チッチの馬に乗り北塔まで着いて来た。

 チッチの腰に腕を回し背中にべったり身体を押しつけ、しがみ付いている。

 背中に何かを感じているのか、チッチの顔がにやけていたのが、何だか無性に腹立たしかった。

 北塔の家畜舎前でアウラは頬を膨らませ二人を見送った。

「……だめなのに……チッチのばか」

 アウラは小さく呟いた。


 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


次回をお楽しみに!

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