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〜 選択 〜 第四部 第二話

 ☆第二話


 ◆異国の戦士


 ――シュベルク近郊南西部。

 青銅製の大砲が、ずらりと据えられた台車が隊列を成す最終防衛線。


 それらの指揮を執る先遣隊隊長は思いを巡らせる。

 近隣にある各駐留軍に増援要請の早馬をやったが、間に合わない事など火を見るより明らかだった。

 事態を知り既に召集された駐留軍は隊を成し先遣隊として第一陣、第二陣を向かわせ接敵し邀撃するも届く報告は各隊の全滅か敗走の報告ばかりだ。

 他の街から重い大砲を牽きながらシュベルクに到着するには、どれだけ急いでも丸一日以上掛る事は分かっている。

 早馬が駐屯地に到着し準備を急ぎ整えてシュベルクの街に援軍を寄こしてくれたとして、逸早く駆けつけてくれても、やって来れるのは比較的軽装の騎士隊が明日の開け方に到着するのがやっとだと思われる。

 幸い。収穫祭のお陰で各国の要人がシュベルクを訪れているという事もあり、同盟国の要人護衛で来ている戦士の力を借りる事が出来れば戦力は申し分ない。

 しかし、自国の要人護衛を優先すると思われ期待は出来ない。

 その間にも得体の知れない異形の魔物は、ナーンの駐留軍と先遣隊を道端に転がっている小石を蹴飛ばすくらいの容易さで軍の先遣邀撃隊を突破する。

 シュベルクを目指しその歩みを止める事はない。

 急ぐ事もせず、ゆっくりとその歩みを進めていた。


「見た事もない型式だな……」

 銀髪の少年が呟いた。

「記憶ないのによく覚えてるね?」

「殆どないけどな……。幸いお前と戦った時、戻った知識は少なくはないぜ」

「……そっか! エピソード記憶がないんだもんね! 記憶喪失と言っても何もかも忘れる訳じゃないもんね! 言葉とか知識とか」

 銀髪少年の肩口で小さな少女が自分の言葉に頷く。

「あれは俺の知っている型番には味方にも敵軍にもない……敵の新型か味方の物か、それとも別の代物か近付いて識別を見れば分かるかもな」

「ちょっ! 危険ですぅ――! それにお仕事の方はどうするですぅ?」

「今回、うち(ギルド)の選りすぐりが来てんだ。心配ねぇよ。一応、伝えてから調査に出るけどな」

 そう言うと銀髪の少年は仲間の下に向かった。

「まった――く! しゃぁねぇ奴ですぅ」

 折角、護衛の交代時間を利用して異国の街をデート気分で散策しようと思っていた矢先の出来事に金色髪の少女は、がっくりと肩を落とした。


「全軍! 砲撃しつつ後退! 撃退出来なくてもいい我々の方に誘導出来ればそれでいい。決してシュベルクには近付けるなぁ!」

 先遣隊の指揮を執る人物は苦々しい表情を浮かべ唇を噛んだ。

「我が軍の魔術師部隊は、まだ、あれの(・・・)準備が整っていないのですか? 隊長殿」

「我がイリオン王国は、魔術に関して他国に比べその知識も技術も遅れをとっている。秘密裏に魔術の研究と解析に取り組み始めたばかりだ。小さな魔法陣を準備するにも魔道書片手に四苦八苦しながら描くのがやっとなのだぞ! 禁術書の解読は進んだと言え、実戦投入は今回が初めて……仮に成功してもどれ程の戦果を上げられるかは分からん。野の魔物や他国の軍ならば精強の騎士団を持つ我が国だからこそ互角に渡り合い今日まで平穏な日々を送る事が出来てはいるがな」

 先遣隊の隊長は異形の魔物と対峙してみて初めて分かる。

 特殊な能力を持つ騎士団と言えども、この異形の魔物に果たして敵う事が出来るのだろうかと。

「我々の任務は異形の魔物の撃退。それが成らんと言うならば、せめてイリオン全土に散らばった騎士団が集結するまで、或いは魔法陣の完成まで奴らを少しでも足止めし時間を稼ぐ事だ」

 せめて、現在シュベルクに駐留している名も無き赤の騎士団でも援軍に来てくれたならばと思い隊長は首を振った。

 イリオン王国が魔術の力を手に入れつつあると他国に知れば、他国に脅威を与え兼ねない。

 そうなれば、漸く苦労し結んだ条約も水の泡となり兼ねないのだ。

 その為、魔術師が陣を整える間、何者も近付ける事の無いように名も無き赤の騎士団が監視と護衛に当たっているのだから、せめてイリオン正規軍の名誉と誇りにかけてシュベルクに滞在している各国の要人たちが少しでも遠く離れた場所に避難するまでの間、時間をかせがなくてはならない。


 ――と言ってもこちらの砲撃は死に物狂いで有効射程に入り異形の魔物に当たっても傷一つつける事が出来ない。


 それに比べ異形の魔物は、こちらの大砲の射程を軽々と凌駕する上に次弾の転送時間が無いのかと思われる程に続け様に連射してくる。

 先遣隊の砲撃は異形の魔物の随分手前の地面をえぐるだけ、それでも進路の妨害になれば時間は稼ぐ事は出来ると思っていた先遣隊の思惑も泡のように消えて行く。

 砲撃の効果は皆無に等しい。

 地面に出来た着弾跡の穴など気にした風もなく異形の魔物は歩みを続けていた。


「出来ました。しかし、この魔術は禁術の初歩の初歩です。果たしてこれで生み出すゴーレムで異形の魔物を止められるかどうか……」

 アウラは顔色を曇らせた。

「そいつでは無理だな」

「だよねぇ」

「あれらも何処かの遺跡から空間魔法を用いて呼び出したものだろうけど。あんたたちがゴーレムと呼ぶものを俺たちはよく知っている。あれらは俺が知る物より先に試作された無人のものだ」

 どこから名も無き赤の騎士団の監視する防衛網を抜けて来たのか、銀髪の少年と肩口に乗る妖精が現れた。

「チッチ……?」

 アウラが声のする方へ振り向くと銀髪の少年を見て思わず口から出た言葉に自分でも驚いた。

 すぐさま近くにいたランディーが腰に帯びている剣の柄を掴み刀身を少年の喉元へと突き立てた。

「何者……かね? きみは」

「早いねぇ――、流石は音に聞こえる騎士団の隊長さんだ」

 銀髪の少年は喉元に剣の切っ先が突き付けられているにも関わらず、眉一つ動かす事はない。

「褒め言葉と受け取っておこうか? しかし、流石と言うのはきみも同じ……我が名も無き赤の騎士団の防衛網を掻い潜り、あまつさえ気配も気付かせぬとはね」

 ランディーが硬い表情のまま唇を吊り上げた。

「そりゃどうも」

「きみを見ていると、ある人物の顔が浮かぶ。奴にも良く掻い潜られたものだ」

「そんな事は知らねぇが街に向かってる。あれだけど恐らく何処かの遺跡から呼び出したものだろう……と思う。だが、それにしては状態がいい。あんたらにどれだけの戦力があるかは知らねぇけど、一筋縄ではいかない相手だ。悪い事は言わねぇからあんたらも軍ごと、この場を引き上げる事を俺はお勧めするね! まぁ、誇り高き騎士が引くとは思わないけどな」

 銀髪の少年が背中に隠れ様子を窺っている金色髪の少女に言う。

「なぁ、あの魔法陣どう思う? ラナ・ラウルに仕掛けられている魔法陣だと思うか?」

「違いますぅねぇ……私は魔法陣の事は詳しくないですぅ」

「あれだけ強力な魔法を扱えるのにか?」

「私も一緒ですぅ――、魔法陣の系譜が違いますしそもそも私の魔法は――」

 金色髪の少女が何かを言い掛け口を両手で押さえ言葉を飲み込んだ。

「て、事は今や西の強国、カリュドス皇国……今は帝国か……西側の系譜か? あの国には遺跡の数も多いらしいからな……まだ決まった訳じゃねぇが」

 独り言のように話す銀髪の少年にランディーが声を掛ける。

「先程逃げろと言っていたが、きみたちはどうやって異形の魔物を倒すというのかね?」

「それは! 秘密だ」

「やれやれ、何処かの誰かと同じような事を言うな……なぁ、アウラ?」

「はい。そっくりです。ランディー様」

 アウラが驚きと共に銀髪の少年を見つめた。

「あれは俺たちが食い止める。俺たちにも俺たちの仕事があるからな! 共倒れはご免だ」

「要人護衛かね? 守護者(ガーディアン)

「まぁ、そう言う事になるか……そこでだ。あんたたちはあれを呼び出した術者を探し出してくれ、術者を倒せば、あれらも動きを止めるはず、強制的に魔法陣の力で動かしているようだった。確認済みだ間違いねぇ」

 銀髪の少年がそう言い淡いブルーの瞳を細め微笑みを浮かべた。

「まったく……その笑顔までそっくりだ」

 ランディーはやれやれと言ったように肩を窄めた。

「術者は恐らくゴーレムの見える範囲に潜伏しているはず。あんな物を呼び出した魔法なんて見た事がねぇ、うちにはその手のスペシャリストがいるが、その術式とも違うようだ」

「その魔法陣の確認に私の知り合いが調査に出ているはずだ。私の部下でもないのだがね。それが奴らの仕事だからな。もう直ぐ情報を持ち帰ってくれるさ」

「魔法陣を乱せば術は弱まるから見つけ出し乱してくれれば、こっちも楽なんだけど……そいつ置いてくから術者を探す時にでも役に立つと思うから……。だが、護衛を付けてやってくれ一応、そいつは一般人なんでねぇ」

「分かった。丁重にお預かりしよう」

 銀髪の少年は、そう言うと金色髪の少女を残しその場を後にした。

「では、我々も行くとしよう」

 ランディーの指示で魔術師たちの護衛と敵の魔術師捜索隊の二手に分かれ、ランディーの率いるゴーレムと術者の護衛隊にアウラと金色髪の少女が同行する事になり、その場を後にした。


 To Be Continued

最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。


次回もお楽しみに!

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