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〜 炎のレース 〜 第三部 第二話

 ☆第二話


 ◆待ち伏せ


 シュベルクを二人が出て半日も経たない内に山の麓まで辿り着く事が出来た。

 多くの者は混雑する街道沿いを行き、中盤から降り出す雨を予想し川の氾濫に備えた。

 万が一の大雨でレースが困難になった場合、短期間で出来るだけ多くの町を周り、確実に通過証明書を得てシュベルクの街に持ち帰る為に、出来るだっけ近くの東側の街か西側の街を先に周るだろうと、チッチはあたりをつけた。

 東西には通過を指定された街が三か所ずつあるのだから、万が一にも雨による長期の足止めを余儀なくされても最悪、期日までに三枚の証明書を手にしてシュベルクに戻る事が出来る。

 その後レースが困難を極めれば、誰が一番早くアーチを潜り証明を貰うかだ。

 賭けに出て危険を犯せばゴールは、おろか家畜を失い失格になる。

 それぞれの駆け引きや思惑が紙一重の所で交錯している事は必然的な事であった。


 怪我が完治とまではいかないアウラと荷物を大きめの山羊に乗せ、何事もなく荒野を抜けた二人の目の前には、難関となる切り立った岩肌と急な斜面が待ち受けていた。

 山の麓には小さいながらも森があった。

 崖を削り斜面を利用しながら、人一人がやっと通れるくらいの獣道が山肌を螺旋状に天辺を目指して延びている。


「あ……あの道を行くの? こんな軽装備で……」

 アウラは目の前に立ちはだかる山を、ぽかんと口を開け見上げていた。

 装備も野宿に備えた天幕と最低限の食料だけしか持って来ていない。

 後はロープ等の備品だけを出来るだけ少なく纏め、鞄に詰め込んで来ただけだった。


 アウラが四、五着の着替えをもう一つの鞄に詰めようとしていたら、チッチに取り上げられ少し喧嘩もした。

 そのくせチッチは大きな革の水袋を用意していた。

 チッチが言うには何がなくても水さえあれば生き延びる可能性が高くなる、だそうだ。

 アウラには、どう見ても持って行く水の量だけが多過ぎるように思った。

 アウラは年頃の女の子。何より野宿が続く事が予想されるレースだ。

 いくら放牧レースが過激と言っても立ち寄った街で宿を取る事になれば、誇りと汗に塗れた身体を洗い綺麗な衣服に着替える事くらいしたい。

 ちょっと浮かれているのは確かかも知れないかも……とも思わなくはない。

 逢引き気分は無くとも、少しくらいお洒落な服を持っていきたい。

 街の人たちの人目も多いのだから、それくらいは許してほしい。汚れたままの恰好でチッチの傍にいれない。

 年頃の女の子なんだから……。

 ちょっと御機嫌斜めだったアウラも今はそんな事など吹き飛んでいた。

 陽が沈む前にこの山を越え、チッチが一番に目指す街に辿り着かなければ、持ってきた食料は昼食で尽きるのである。

 チッチは北の二か所の街を今日の内に周り、三か所目に立ち寄る街に向かうつもりでいるらしい。

 いったい、どうやって行くのだろうか、とアウラは考えてみた。

 山道と言うものは荒野のようになるたけ直線的な造りはされてない。

 急な斜面に緩急のある勾配を付けながら、山の周囲を周るか蛇行させて造り、そして同じように下って行く。

 考えてみれば、距離のロスは迂回して街道を進むのと然程変わらないのではないかと思い始めていた。

「アウラ――! 置いてくぞ――」

 アウラはチッチの声に、ぴくんと身体を小さく跳ねさせた。

 チッチは目の前にある山の裾野に生えた小さな森の方へ向かい山羊を追い出していた。

 林道から山道に繋がっているようでそこから道に入り山を越えるつもりらしい。

「待ってください! チッチてばぁ――」

 アウラはチッチの背中を追った。

 鞍なんて物がない山羊の背中には、厚手の布を置き革をなめした物を敷いてはいても、長い時間乗っていたせいでお尻が痛い。

 痛むお尻を擦りながら、やっとの事で森の入口付近まで先を行っていたチッチの追いつき、ここまで乗って来た山羊に跨ろうとした時、チッチの腕がアウラを制した。

「誰かいる」

 一瞬、チッチの微笑みが消えた事をアウラは見逃さなかった。


 ――嫌な予感がする。


 森の根元の下草がざわついた。何か来る。

 そう思った瞬間。

 森の中から数十人の大柄な男たちが飛び出して来た。

 その手には斧やら鉈、中にはそれなりにあつらえられた良い剣を持ち、その刀身は既に剥き出しになっている。

「やれやれだなぁ」

 呑気な口調でチッチが言葉を続けた。

「待ち伏せかなぁ――それとも……」

 アウラも節くれた杖を構え、からん♪ と軽い音を立て響いた。

「そんな事は関係ない。山賊でも構わんさ」

「山賊ねぇ――、ご苦労なこった……誰が何時来るか分からないこんな所まで妨害要因を用意しておくなんて……よっぽどの事がないとするもんじゃないなぁ」

 チッチが白銀にブルーマールの映える髪の毛の耳元に手串を通した。

 ゆっくりと両手が下ろされ腰の近くまで下りて来ている。


 ――アウラの不安が加速していく。


 チッチが腰に差している大型のナイフを抜けば、あの日が再現されるだろう……。

 嫌だあんなチッチは見たくない。

「チッチ! やめて――!」

 思わずアウラは声を張り上げた。

「みなさ――ん! 山賊が出ましたよぉ――」

「えっ?」

 チッチは何を思ったのか、何時の間にか何時もの悠々閑閑(ゆうゆうかんかん)とした態度で声を上げた。

 山賊を名乗った者たちが現れた森の近くの林から、鎖帷子を身に纏い手には長い槍と腰には鞘に納められた剣が差さしている偉丈夫が二人現れ、その後を悠然と鎧付きの軍馬で闊歩し金色の髪の毛を上下に躍らせながらランディーが現れた。

「「山賊とはこれ如何に」」

 何処かで見た分身体がチッチとアウラ。それと待ち伏せをしていた山賊を名乗った一行の隙間に軍馬を捻じ込み、見事な手綱裁きで馬を制止させた。

「早かったじゃないかぁ、ランディー」

「それは、こっちの台詞だ。お前たちこそ馬も使わず、随分早いじゃないかね。危うく警備(・・・)の時間に遅れるところだった」

 ランディーが何時も鋭い金色の瞳を緩めた。

「遅れそうだったか? そいつは悪い事をしたなぁ?」

 チッチが問うとランディーが答えた。

「こっちは西の情報も探ってから来ているのでね。間に合っただけでも有り難く思え」

 そう言うと向き直り、男たちにランディーが金色の鋭い眼光を浴びせる。

 妨害工作の為に待ち構えていた男たちが後退りし始めた。

「山賊と……、聞こえたが?」

 数では勝っていても相手は戦闘の専門家。

 それも、戦闘の中で幾多の功績を残した者だけが、国王自ら叙勲を授けられた者だけが名乗れる騎士。

 妨害工作をしようとしていた男の一人が言った。

「軍や刑軍、それに騎士はレースの監視役を務めているはずだ! その騎士が、レース出場者に肩入れをするのは卑怯だぞ!」

「俺には、あの山羊飼いが山賊が出たと言ったように聞こえたのだがね」

 ランディーの眼光が男たちの抵抗する意志を奪い取っていった。

「「山賊行為は重罪ですな。隊長殿」」

「そうだな」

「「ここは我々二人に任せて、そこな少年と少女の保護をしてくだされい」」

「ああ、そうしよう。森の中には、まだ山賊がいるかも知れんしな……護衛していく。アサー! マイル、二人に任せるがいいか」

「「光栄であります」」

 妨害工作に来た男たちの半数以上は持っていた得物を地面に放りなげた。

「お前ら裏切るのか! 金はもう貰ってんだぞ」

 男たちの中でも一際、身体の大きな男が怒声を上げた。

「「やめておけ」」

 アサーとマイルが馬上から降り男たちの前に立ちはだかった。

 男たちの中には傭兵を生業にしている者も混ざっているようで、なかなかに鍛えられた身体は身に着けている着衣の上からでも見て取れる。

 アサー、マイルはどちらかと言うと騎士の中では身体の大きい方ではない。

 それを見て勝てると思ったのか、武器を捨てずに持っていた四人が二人に向かって得物を構えた。

 それを見たアサーとマイルは間合いを詰める。その武器を振るう暇を与えなかった。

 間合いに入るや否や長槍を蛇のように扱い相手の得物を絡め取った。

 それでも二人より身体の大きな男たちが素手で向って走った。

 アーサーとマイルにではなく、二人の後ろにいるチッチとアウラにだった。

 二人の脇を擦り抜けようとした瞬間、喉元に丸太がぶち当たったような衝撃が走ると宙を一回転した身体が地面へと叩きつけられ男たちは、もんどり打って地面に蠢いていた。

 男たちが二人の両脇を擦り抜け様とした瞬間。

 アサーとマイルの鍛え抜かれた鋼鉄のように硬い腕が両脇に伸び、男たちの喉元を捉えたのだった。

 二人は、ぴくりとも動かずこう言った。

「「隊長いかがだったでしょうか」」

「ああ、見事だった」

「「光栄であります」」

 アサーとマイルに見送られながらチッチとアウラ、ランディーは森の中へと入って行った。


 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


第三部 〜 炎のレース 〜 いよいよ開幕!


次回の更新もお楽しみに!

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