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〜 炎のレース 〜 第三部 第一話

様々に陰謀渦巻く中、放牧レースが火蓋を切る!


如何に失わず、如何に早く、如何に多く周れるか。


基本はシンプル。


チッチとアウラはレースを制する事が出来るのか!


そして…見え隠れする陰謀。


知恵、勇気、ハプニング?

  第三部 〜 炎のレース 〜


 ☆第一話


 ◆始まりの朝


 白い雲が流れ大きな音と共に青に空には白い煙の花が咲いた。

「ねぇ? チッチ? もうとっくにみんなスタートしてるのですよ?」

 スタート地点の隅っこに白銀の髪にブルーマールが映える少年が気持ち良さそうに寝息を立てている。

 少年の顔の傍でしゃがみんでいる少女が声を掛けた。

 細く長い桃色の髪を旋毛の辺りで紺のリボンで纏め、紫水晶の瞳が瑞々しい。

 両手を立て頬を上げ顔を三角にして呆れた様子でチッチの寝顔を覗き込んだ。

「これも作戦?」

「……内緒」

「なにをすねてるの? もしかして……衣装着て来なかったからですか?」

 アウラの服装は厚手の綿を若草色に染め上げた長袖のシャツ、踝の辺りまである若草色の厚手の綿のズボンにコルセットを兼ねるインナーベストは茶色。

 革紐で編み上る作り、腰の方から編上げられた革紐は胸元へと向かい編み上げられ最後に胸元で結わえるとかわいいリボンのように結ばれている。

 荒れ地にも耐えられる厚い丈夫な革製の編み揚げブーツに革の手袋といった、出で立ちのアウラの方にチッチが首を向けるとすぐさま逆方向の寝返りを打った。

「スタートは陽の昇り始めだったんですよ? こんなにのんびりしていていいの? チッチってばぁ」

 涼しい山の麓とはいえ、何時もの誇り除けのローブは陽も高くなり気温が上がり始めたので小脇に抱えられている。

「折角……仕立てたのに……見れないし」

「何が見えないの?」

 アウラは首を傾げた。

「何でもない……これじゃレース……やる気でない」

「こら! チッチ? 昨夜、約束したでしょ? 絶対に勝とうね、って! それにレースが終わったらゴニョゴニョ……て約束もしちゃったなぁ……はぁ――」

 アウラは、昨夜の約束を思い出し顔を赤らめ誤魔化すように言葉を続けた。

「プラムに誓ったあれは嘘だったんですか? チッチは覗き魔で変態でいやらしい所もあるけど、嘘は吐いた事ないでしょ? 私も魔術で補助するからね。がんばろ」

「……アウラはタフだなぁ。昨夜、あんなにも激しかったのに……それに衣装楽しみにしてたのに……衣装で二回戦……」

「誤解を招くような発言は止めてください! 昨夜、激しかったのはチッチだけです。進入した賊と警備の騎士さんみんな倒しちゃうから」

「だって、アウラとあんな事やこんな事出来ると思って頑張ったんだぞぉ! そのお陰で両手の拳は骨折したし……寝たら治ってたけど、衣装着てアウラと想い出の夜を過そうと思っていたのにさ」

 あの衣装を相当着てほしかったんだなぁ、と改めて強くアウラは思った。

 アウラは少し考え、たっぷり悩んでから答えた。

「わ、分かりました……総合優勝できたら、あの衣装着てでもいいよ……約束した事……の時に……はぁ――」

 実はアウラは、この時獣の耳が付けられたカチューシャだけは一応持って来たが、流石に街中の人目のある所で着けるのが恥ずかしく、肩掛けになっている鞄の中にしまってあった。

「本当に?」

 チッチの耳が、ぴくりとアウラの言葉に反応した。

「ほ、本当だよ? ……流石に気が向いたらでけど……」

 アウラは、苦笑を浮かべて小さな声で語尾は濁した。

 寝転んだままのチッチの拳が硬く握られ腰に引きつけた。

「約束だからなぁ! アウラ」

 再度、確認をするチッチを見てアウラはそんなに着てほしいのだと改めて思い、僅かに軽く頷いた。

「萌えてきた――! アウラ! 俺は断然萌えて来たぞ! 絶対にこのレース勝つから」

「チッチ? ちょっと、はしゃぎ過ぎです。それに……何となく……もえる方向性が違うような気がするんだけど……気のせいかしら?」

 アウラは顔を赤らめ俯いた。


 ――アウラは、チッチが萌えて来たを燃えて来たという言葉の違いと意味に気づかなかった。


「随分と余裕があるじゃないかね。頼もしい限りだよ」

 耳に掛る金髪をさわやかになびかせ、銀色に輝く鎧と肩当てから表地のビロードの布地に名も無き赤の騎士団のでも唯一、ランディーだけが縫い付ける事を許されている勲章が右肩に施され、裏地の血のように赤い布地には赤の騎士団が全員縫い付けている逆十字の銀刺繍が、ちらちらと見え隠れしていた。

「そっちはどうだ」

「まぁ、ある程度金貨を入れながら噂と言う情報操作でオッズは動かしている。山羊飼いになんて放っておいても誰も賭けやしないから、オッズは相当なもんになっている」

「で、例の方は上手く行ったのか?」

「フラング様が全財産を」

「足りそうか」

「正直、足りないがね。他にも手はあるんだろ? 山羊飼い」

「俺に聞くなよなぁ――、それをやるのは向こうの連中だろ?」

「まあ、そうだなぁ」

 小声で話す二人の会話をアウラは、きょとんとして聞いていたが、良く聞こえなかった。

 いったいチッチたちが何を企んでいるのか、アウラにはさっぱり分からない。

 最後にランディーがチッチに耳打ちをするとチッチの唇が吊り上がり笑みを浮かべた。


 チッチがゆっくりと立ち上がり、口笛を吹き周りで草を食んでいた山羊を集めた。

 チッチが選んだ頭数は二十頭。

 自分が連れて旅を伴にして来た山羊たちだ。

 数字的には不利な数字である故に、どれだけ早く周れるかが勝負の分かれ目となる。

 しかし、チッチは陽が昇り早々とスタートを切らず、惰眠を貪っていた。

 本当なら一番にアーチを潜り街の外に飛び出して行ってもいいようなもんだ。

 それを知っているからこそアウラはチッチに苛立ちを覚え気持ち良さそうに眠っていたチッチを起こそうと声を掛けたのだった。

「ねぇ、チッチ? これも作戦ですか?」

 どうしても腑に落ちないアウラは、チッチに聞いてみた。

 レースには、完全に出遅れている。今後どうレースを展開するのか、何も聞いていなかった。

「もう直ぐ分かる」

 スタートを切って街の外に出るアーチを潜る際、自分の番号と照らし合わせ日付と立派な花印を押して貰った証明書を貰わなくてはならない。

 正式にスタートした事の証明になる。これを最後に持っていなければ、いくら多く早く失わず、コースを周っても無効になってしまう。

 妨害は容認されていても違反は厳重に取り締まるレースだ。


 チッチは取り分け急ぐ素振りも見せず群れを進めていた。

 街の外に出るスタート地点のアーチの丸い天井部分が見え始めた頃、既に手続きの混雑は過ぎていて出遅れたが、証明書を貰う間に群れが混ざり分ける作業に手間取った者たちが頭を、かりかり掻きながら苛立ちを見せて手続きを行なっている姿が、ちらほらと見えるだけだった。

「ほら、空いてるだろ?」

 チッチの左目の碧眼は弓のように反れてアウラを見て微笑んだ。


 シュベルクの街を出ると東西南北に分かれ、シュベルクの近遠にある今回のレースの通過点に定められた街を周る事になる。

 今回のコースは、東に三か所。割りと近い場所に東の通過点が設けられていて、西に三か所。

 西の街には、ほぼ一日寝る間を惜しんで歩けば着ける場所にあり、西を周り切りシュベルクに戻ったとすれば早ければ三日を切る事も不可能ではない。

 南に二か所、シュベルクから真南に下った近い場所に一か所とそこから一日程、下った場所に北にある山脈から流れて来た川と東西距離はあるものの同じく北の山脈を源流とする川が集まりシュベルクの傍を流れている川が合流する事はないものの、すぐ隣り合って流れている。

 北に二か所、距離は何処よりも近いが、指定された街との距離はない。

 その街の近くに最南端の指定先の近くを流れる川が流れている。

 ただ足場の脆い道のない山を越え向かうか、大きく東西に迂回し丸二日程の距離を移動しなければならず、移動に時間を費やされるだけで無理をしてまで周る場所でもない。どのみち全てを周れた者など今までいないのだから、捨てる事もレース展開中の戦略の一つだ。


 チッチたちはあっさりと通過書を受け取り、淡々とレース開始の手続きを済ませる事が出来た。

「まさか……この展開を予想してたんですか?」

 アウラの視界には、まだ沢山の羊の群れを追うレース出場者たちが映っていた。

 チッチは何時もの笑みを浮かべている。

「内緒だ」

 チッチがそう言うと誰も向かっていない北の方へと山羊の群れを追い出した」

 道なき荒野が広がり遠くの方に目標になる山の天辺が僅かに見えている。

「チッチ、北に向かうのですか?」

「ああ、天気が崩れる前に北の二か所を周り、そのまま西周りで南下する。

「でも、あの山は岩肌が露出していって足場も脆く、数頭の羊を追って超える事が出来そうな獣道があるだけです。危険を冒してまで北に向かう必要は無いと思うのですが……」

「だから先なんだ。雨の後では越えられなくなる。必ず勝つには十か所全部周る事が一番確実な方法だ」

「ぜ、全部ってどうやって、長い歴史の中でも今まで誰も誰一人として出来なかったのに」

「俺は山羊飼いだ。荒れた土地を旅する事は慣れている。柵の中で羊を追う事に慣れた奴らに出来ない事をやって退けるだけさ」

 チッチは笑みを絶やさなかった。

「それに一番に北に向かえば妨害は少ない」

「でも、万が一誰かの刺客とかが荒野で待ち伏せしていたら……何時かみたいになっちゃうのかなぁ……」

 アウラは表情を曇らせた。


 ――血溜りの野で笑みを浮かべ立っていたチッチの姿を思い出す。


 あの笑顔が自分に向けられたものだと分かってはいてもアウラは嫌だった。

 血溜まりの中に立っているチッチの姿と微笑みが……。


「大丈夫だ。荒野の中、あいつらが俺たちを見付ける前に、こちが見付け出して上手くかわすつもりだけど……いざとなったら、その時はアウラを抱えて逃げる」

 チッチの微笑みをアウラは頬笑みで返した。

 何時ものアウラが良く知っている姿がそこにはあった。

「うん! そうしてくださいね。私のシュヴァリエ」

 アウラは、そう言うとチッチの腕に自分の腕を絡めた。

 

 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


第三部 〜 炎のレース 〜 いよいよ開幕!


次回の更新もお楽しみに!

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