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〜 英雄に誓を 〜 第二部 第一話 

第一章 第二部 〜 英雄に誓を 〜 始まるよ〜!


放牧レースを前に訓練に励むアウラと相棒プラム。

ある日、訓練にチッチを誘うアウラ、だがチッチに断られてしまう。

牧羊犬プラムと訓練に出掛けるアウラに……。

 第一章 第二部 〜 英雄に誓いを 〜

 

 遠い昔から、続けられている放牧レースがある。

 どれだけ失わず、どれだけ多く、如何に早く回れるか……。

 過酷なレースはシンプルである。


 ☆第一話


 ◆アウラの不安。アウラの憂鬱


 初夏に入り、いよいよ今回シュベルクが開催地で盛大に行われる収穫祭がまじかに迫って来ていた。

 収穫祭で一番の模様し物である放牧レースは、何時も熱狂的な程の盛り上がりをみせる。

 羊毛刈り、麦の収穫前に感謝と豊作を願い祭りが行なわれる。

 収穫祭が始まると様々な模様し物が始まるが、中でも放牧レースは人気が高い。

 放牧レースと言っても幾つかの競技に分かれていて、その中でも決められた拠点の街を周る放牧レースは過酷だ。

 妨害黙認という事がレースの過酷さを更に増させる事になる。

 放牧レースが始まるまで、他にも競技が行われる。

 決められた何種類かの木の棒が同じ規格で揃えられ、木の棒を投げて自分の牧畜犬に拾わせてくるという競技があるが、投げ方や距離、キャッチした時の高さなどで得点を稼ぐ競技や決められたコースで家畜を追い柵の中まで誘導する早さを競うものなどがある。

 アウラが出場するレースはシュベルクをの街を出て広野を巡り、予め決められたポイントとなる街や村を周り、通過証明書に判を貰いながら次々と家畜を追いながら周る証明書を集める放牧レースだ。

 周る街の順番は出場者の自由。

 連れて行く家畜別の優勝者と総合優勝者が決められる。

 賞金や副賞も出るのである。

 連れて行く家畜によって一頭当たりの持つ得点が違い、数は定められた数頭を連れて放牧をす事になる。

 期間は五日間、周る場所は十ヵ所。

 どれだけ早く、どれだけ多く、どれだけ失わずに周れるかを競う。

 初日の朝日が見えた時がスタートの合図。

 アウラは勿論、羊、山羊飼いなど中型家畜部門に出場するのだが、頭数制限は二十頭或いは、五十頭どちらか選べ一頭当たりどちらも無事にゴールした家畜に対して加点は二点。

 レース中、連れている家畜を一割失うと失格となる失った数の減点は二十頭の場合一頭につき五点、五十頭の場合二十点となっている。

 最初から多く連れてレースに出て連れ帰れれば有利だが、一頭に対する減点も多くレース展開次第では、逆に大きいなリスクとなってしまう、それでも五十頭連れて行く方が絶対的に有利なのは違いない。

 一ヵ所回る毎に二十点の加点があり、また早く戻った加点として五日目は加点無、四日目二十点、三日目四十点、二日目六十点、一日目八十点の加点となるが、また全てを回り切った場合に置いてのみ二百点の加点が加算される。

 尚、今まで十ヵ所全てを回り切った者長いレースの歴史でも、未まだおらずこれまで最高で二十頭で七か所、五十頭で五ヶ所が最高の記録として残っている。

 それだけ過酷なサバイバルレースという事だ。

 それぞれの家畜の群れを統制する技量とレースにおける作戦、そして、ライバルたちの行動、攻略方法の把握と読みが勝負の大きく関わってくるレースになる。


 アウラは、レースに備え十日程前にシュベルクの街に帰郷していた。

 レースが始まるまで、あと十日程、準備期間には十分な程時間はある。

 学園にいる時も時間ができれば長距離を歩く為の体力、自給力や足腰の鍛錬。羊たちを追う為の訓練と愛犬プラムと息を合わせ、十分な程こなしてきた。

 この一週間は身体に蓄積された疲労を取りながら、体力維持程度の軽い運動と最も重要なレース展開の作戦とレース当日に配布されるコース図に対処する為の予想とイメージトレーニングをしておく事と、どんなコースを選び作戦によって変わる野宿の旅具と食糧、水がどれだけ必要で無駄なく持って移動し何処で補給するのかを想定できる限り考える事に重点を置く事にした。

 シュベルク辺りの地形は、アウラの頭の中に入っている。

 しかし、アウラには妨害工作の予想に関しては見当の付けようがない。

 この手の事は、あの少年に聞こう、とアウラは学園を出る前、少年の姿を探したが見当たらなかった。

 ロザリアやロッカ、エリシャなど幾人かにチッチはどうしたのかと尋ねても一同は皆口を揃えて『知らない、最近見てない、何処かで昼寝でもしてるんじゃないか』と返ってくるばかりだった。

 人が少し旅に……旅じゃないけど、暫く出掛けるというのに見送りにもこないのか、と腹を立った。

 出発の日は言っておいたはずなのに……。何よ! と思い俯いた時、何故だか嫌な不安が胸を過ぎた。


 ――チッチが持っていた騎士勲章。


 あれは賊と化し村や商隊などを襲うようにまで成り下がった傭兵の一団を討伐した、と解釈され叙勲されたものなのか、それともランディーが上手く事の成り行きを説明し、それが国王を納得させ叙勲までさせたのか、私も一応小さな街だけど、それに家名も名乗ってはいないけど、これでも一応れっきとした貴族の養女であるからして、まがいなりにも領地のお姫様なのだから、その危機を救ったとなれば名誉を授けられてもおかしくはない……しかし、地位も低く一代限りとはいえ騎士勲章を叙勲されたという事は貴族の称号を得たという事になる。

 いくら何でも地方領主の養女を賊から守り盗賊に成り下がった傭兵の一団を退治たからと言うくらいで叙勲される程、騎士勲章は簡単に叙勲されるものではない。

 戦時に、その功績著しく平時にも王国の為に危険な任務をこなし勇ましい功績を積み重ね初めて叙勲されるものだ。

 今回の件に関して何らかの功を認められたとしても名誉勲章を頂ける程度だろう。

 アウラはチッチの差し出していた騎士勲章をよく思い出してみる。

 ランディーの幾つもの輝かしい功績を称えられた勲章と名も無き赤の騎士団の騎士勲章が胸の辺りに縫い付けられていてマントの表地がビロードの肩口には銀の刺繍糸で騎士を表す紋様が縫われている。

 他の騎士勲章とは明らかに違う、名も無き赤の騎士団の騎士勲章。

 チッチが見せてくれた騎士勲章も、他の騎士たちが付けている物とは明らかに違っていた事に今更ながら気付き、はっとする。

 ランディー率いる騎士団の任務が頭を過る。

 アウラの不安は頂点へと昇り詰めていった。


 ――翌朝。

 まだ窓の外は薄らと暗く陽が昇る前だ。

 「ふゅ――、むにゅむにゅ……」

 アウラの紫水晶の瞳の周りには黒い隈が出来ている。

 レースに向けての準備や作戦を考え、ましてやチッチの事が気に掛り余り眠る事が出来なかった。

 アウラは部屋着のローブを肩に掛けると洗面場に向かった。

 部屋に帰り着替えを済ませたアウラが、部屋の扉を開けると二人の人物が立っていた。

 一人は黒いモーニングに身を包んだ男性。

 一人はフリルエプロンの付いた黒いメイド服を着ている。

「「おはようございます。お譲様」」

 年の頃が七十にも届きそうな白髪交じりの男性と二十代半ばの女性が廊下の壁際に立ち深々と腰を折りアウラに一礼した。

「あっ! おはようございます。ベルモンドさん、トリシャさん」

「御食事の御用意は準備出来ております」

 フラングの執事のベルモンドが大きな食堂の扉を開いた。

「「「「「おはようございます。お譲様」」」」」

 扉が開くなり紺色のメイド服に身を包んだメイドたちが一斉に声を上げた。

「あ……あのぅ……その呼び方はよして貰えませんか?」

 アウラは俯き小さな声でそう言い言葉を続けた。

「私はフラング様との良縁で運良く養女にして頂いた田舎の街娘でぇ――、シュベルクの家名も名乗っていませんし……そ、そのお譲様と呼ぶのはお止め下さいませんか?」

「滅相もございません。そのような事、当のフラング様がお聞きになられたら、さぞ、悲しむでしょう。アウラお譲様が例え、本当のお譲様で在られても御養女で在られても、フラング様の娘様という事に何の違いありません。それに我々も皆、アウラお譲様をお慕い申し上げております」

 ベルモンドの言葉に皆が頷くと長テーブルの傍に控えていた一人のメイドがアウラを席へとエスコートした。

 

 学園の料理もなかなかの物ではあるが貴族の食卓は別物だ。

 長テーブルには朝から豪華な料理が大きなテーブルに所狭しと並んでいる。

 アウラは、もうすっかり慣れてはいるが、初めて見た時は何かとんでもない祭り事が始まるのではないかと腰を抜かした。

 フラングが遅れて食堂に入ると食事が始まった。

 長いテーブルで食事をするのは、フラングとアウラの二人だけで部屋の各所に従者が控えている。

 他の者は食事の進み具合を壁際で見ながらか控え、様子を窺がいながら料理を切り分けたり皿を取り換えたりしている。

「アウラ。今日も羊を追いに出るのかね」

 普段の行いから好好爺が滲み出ているフラングが、アウラの服装を見て尋ねた。

「はい、お、お父様」

 アウラはこの呼び方に余り慣れないでいた。もう、実の父と同じくらいの年月を過ごしているのにそう呼ぶ事に違和感と恥ずかしさがあった。

「アウラ……無理をする事はない。シュベルクを買い取ろうと画策する者たちから、この屋敷を守ろうと過酷で危険なレースに出ようとしているのではないのかね?」

「……」

 アウラは食事の手を止め下を向いた。

「確かに優勝者には多額の賞金が出る、それでも何とかなるものでもない。それに奴らは己の名誉を金で買ったのではないと世間に思わせる為、アウラを嫁にと言って来ておる」

 好好爺の老伯爵の顔に珍しく怒りの表情が浮かび上がっていた。

 老伯爵が表情を戻すとアウラに問い掛けた。

「アウラには、このような事もあろうかと思い私は今までお前にシュベルクの家名を名乗らせなかった。政略、権力争いに巻き込ませたくなかったのだ。許しておくれ、アウラや」

「そ、そんな! お父様! 私の方こそ頼る所もない天涯孤独になってしまった私を引き取ってくださり立派に育てて頂いた事に感謝しております。何を持ってしてもこの御恩に報いる方法はございません」

「それでレースかね? 私はお前の身が心配でならん」

「大丈夫です。元より羊飼いの家系に生まれ幼い頃から羊たちと伴に育ちました。この屋敷に来てからも羊の世話をさせて頂いてますから、必ず勝ってみせます」

 アウラは紫水晶の瞳を輝かせ拳を硬く握った。

「孤児の私に良くしてくださった、この屋敷の皆さんへのせめてもの恩返しです……確かに焼け石に水かもしれません……その時は……私、その者たちの策略だとしても……その者の嫁となってでも、この屋敷とシュベルクの名は必ず守ってみせます」

「アウラや無理はせんでもいい。お前も年頃の娘だ想い人くらいいるだろう。屋敷の事は良いからその者と駆け落ちでも好きなようにするが良い」

 フラングが豪快に笑うと周りにいた者たちも頷き、くすくすと笑い出した。

「そ、そんな……す、好き……想い人いません……」

 アウラは熟した林檎のように頬を染め俯いた。

「それは残念な事だ。うん? 喜ばしい事かな? レースの訓練も良いが気を付けて行くのだぞ。私は、これから収穫祭に参加する街と村を回らねばならん。収穫祭の初日には帰る」

「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ。お義理父様」

 アウラは老侯爵に近付くと頬の辺りに口付けをした。


 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


次の更新もお楽しみに!

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