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第七十八話「再会」

「ふぅ……」


 健司達と共に旅館に戻り、ようやく一息ついた。ここは俺の親戚が経営しているため俺は最初拒んだのだが……。


「……なるほどな」


 鏡に映る俺の顔は、俺の知らない誰かの顔になっていた。テュールさんの魔法の変身魔法のお陰で、俺の見た目は全く別の男子学生といったものになっていた。


 髪も深緑。少し大きめで気にしてた目も、細目……つーかほとんど閉じてるような見た目だ。


 髪質は変わらず固めだが、なるべく揃えていた元々の髪型と違い、すこし跳ねていて真ん中に分け目もできてる。


 これだけ違えば、たしかに別人と思うだろう……。


 洗い終わった顔をハンドタオルで拭いて、首にかけて洗面所を後にする。


「桜乃?」


 旅館の廊下にでて、桜乃とすれ違う。ほとんど無視に近い桜乃の反応が不思議になって俺は声をかけた。


「え……ど、どちら様ですか?」


 あー……そっか。この見た目だもんな。桜乃は考えこむとようやくテュールさんが説明したことを思い出し、手を叩く。


「あ、そっか。お兄ちゃんか!」


「ははは。こんだけ見た目違うとわかりづらいよな」


「本当に全然違う見た目だよねー。元の顔よりイケメンなんじゃない?」


「嘘つけ。こんな糸見たいな細なんて嫌だぞ……」


 そういうとケラケラと楽しそうに笑った。


「でも、その格好戻せるの?」


「解呪方法は聞いてる。だからまぁ俺の意思で戻せるけど、今の姿に変身はできないってことだな」


ちなみに、この旅館の人は当然俺のことを知ってるから、とりあえず“栗林晃巳(クリバヤシ テルミ)”と名乗ってる。……ってか桜乃のやつ、テキトーに名前つけやがって…………。


「それにしてもすごいねー魔法って。全然違う人みたいだよ」


「まぁな……」


 少し考えてみた。この魔法もそうだが、創造(クリエイション)についても、おそらくふつうの異世界なら難しい技術だろう。


 だけど、この世界では可能。そりゃそうだ。RPGツクレールなら変身魔法はアバターを変更すればいいだけ。創造(クリエイション)自体も絵さえあればいくらでもできる。


 ……そう考えればドラゴンが蚊のサイズだったのも、もはや簡単な話だ。設定を変更して絵と能力値を変更すればいい。


 ただ、まだ疑問点は残る。運命(ストーリー)の作成権が創造神に存在しない事だ。


 創造神に与えられた権限はツクレールのシステムでいうところではこうだ。


 1;キャラクターの作成。基礎ステータスの生成。


 2;道具、建物の作成。


 3;知識の設定の生成。


 4;その一部を違う形に改ざん。(偽証)ただし、再改ざんは不可。


 四番目の能力については、もしかしたら創造神の能力ではなくアトゥム個人の能力なのかもしれないが、実際には創造神としての能力の可能性が高い。


 だが……だったらなぜ再改ざんができない?


「お、お兄ちゃん?」


 ……いや、もしかしたら最初の神ゼクスは、創造神が本来持ってる能力を改ざんしているのかもしれない……まてよ……。


「ちょっとお兄ちゃん!?」


「……そうか……偽証の能力は本来ストーリーの改ざん能力だと考えれば辻褄があう……本来は何度も改ざんできると考えれば……いや、だとしたら最初っから偽証なんて能力を許すはずがないか……あるいは……できなかった?」


「ストーーップ!!!」


「ぬおっ!?」


 気がついたら桜乃に大きく腕を引っ張られていた。俺はバランスを崩してこけそうになる。


「うわっ!?」


 桜乃も勢いでそのまま一緒に倒れる。そして、俺は健全センサーが反応し一気に寒気がするのを感じる。




 時間がスローモーションになっていく。このままだと桜乃を押し倒しついでに胸を掴みかねない。





 思考が加速していく。健司との死闘と同じほどの死の戦慄。






 俺はその止まった時間の中で、桜乃を全力で避ける。ついでに桜乃も受け身をとってることを確認した。






 その止まった時間の中で、俺の目の前にいきなり小柄な銀髪の顔が現れる。







「いっ!?」


 その銀髪少女は抱きつき完全に俺を拘束してきた。


「タクミ……会えた……やっと」


 ……それだけならまだいい。


 その銀髪少女は何も身につけてない……完全に真っ裸だった。


「タクミに会う……ミッション達成……無銘、頑張った……褒めて?」


 ……うん。褒めるほどの余裕ない。


 なぜなら、過去のトラウマスイッチが押されるのと同時に、そのトラウマの元凶が狂戦士(バーサーカー)のごとく怒りをあらわにしているからだ。


「こんの…………ケダモノォーーーーーーーー!!!!!」





 ……いや、今回は俺が悪い。


 考え込んでたからとはいえ、女性陣が部屋で着替えているところに入ってしまったからだ。


 健全第一を心がけている俺が、不健全な事をしてしまった……完全に不覚だ。


 というか桜乃よ……お兄ちゃんが死にかけるほど殴った時の反省のお陰で、ギリギリ脳震盪するくらいを狙えるようになるのはどうかと思うぞ? お兄ちゃんそれ結構不安だぞ? 医学的には脳震盪も結構やばいんだぞ?


 それに……完全にロープで縛られているわけだが、縛る時の桜乃のニヤケ顔……ちょっとやばかったぞ? お兄ちゃん妹がそっちの趣味に走るのは感心しないぞ?


「無銘ちゃんも裸で抱きつかない!! もうちょっと恥じらって!!」


 と桜乃が無銘に叱りつけるが、無銘は全くわかっていない様子で首を傾げる。


「……未装備状態を裸装備と呼称する……裸装備はダメ?」


なんとか裸装備からTシャツ装備に変更してくれたおかげで、とりあえず目のやり場には困らなくなった。


「裸装備って……まぁいいか。とにかくダメ!! 男は狼なんだから」


「狼。検索……イヌ科イヌ属に属する哺乳動物。人間の男は狼のオス……理解不能???」


 完全にはてなマークが頭上に浮かび上がってる無銘に桜乃はオーバーに頭を抱えて首を振りながら唸る。


「えっと……無銘? だったよな。裸は不健全だから男になるべく見せないものなんだ」


「……不健全……ダメなこと……理解した。今度からなるべく見せないようにする」


 なんとか理解してくれたようで、俺は心底安堵する。


「ただいまですぅ…………ってうわぁ!? な、何事ですか!?」


 女神達が温泉から帰ってきた。和んでたペルの顔が一変して驚きに目を見開く。


「…………クズが」


 一方のテュールさんは完全にゴミを見る目……いや、それ以下の汚物、コールタール、得体の知れない気持ち悪い何か……そんなレベルで俺を見下ろしていた。


「いや!? 違うからな!? 俺の不注意もあるけどこれは事故のようなもので……」


「ちょっと……喋らないでいただけますか? 口臭で気持ち悪くなるのですわ」


「そんなに臭わないだろ!? こ、これでもきちんと手入れしてるぞ!?」


「そういう次元の問題ではありませんわ……存在事態が気持ち悪い……」


 その赤い視線と言葉がトドメとなり、ショックを受けて俺はがくりと首を落とす……。


「存在が気持ち悪い……そういう次元じゃない……ハハハ」


 さっきぶりに闇落ちしそうだ……。そうだよな……俺悪役だもんな……。


「ちょっとテュール先輩!! 大丈夫ですよタクミさん!! 口臭しないですから!! 汚らわしくもないですから!! ちゃんと健全ですからぁーーーーー!!!!」


 ペルの訳のわからない慰めで騒ぎになり、隣の男部屋で漫画読んでた健司も何事かとやってきて、あたりは騒然となり……それが数時間続いた。




「……本来は、あなたを無銘に合わせるつもりはなかったんですがね」


 ……彼女が、アトゥムの現在か…………。なるほど、確かに面影もある。が…………。


「アトゥムは現在三歳児の筈だ……どうしてこんな見た目になってるんだろうか?」


 無銘はどう見たって高校生くらいだ。だが、それについてはペルが答えてくれた。


「テュール先輩の変身魔法と同じです。アトゥム様とスピカさんが入れ替わったのなら、アトゥム様もまたスピカさんを演じている筈です……」


 あ……そっか。だから見た目はスピカと同等……スピカがもし黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)を超えたとしても同じ見た目になるってことか。


「しかし……最初の神はどうしてスピカがどっちかわかったんだ?」


「それは……おそらくフレイアさんの目です。彼女は相手のステータスを目で見ることができるから……」


「俺も最初そう思ってたんだがな……」


「え…………?」


 もし……もしもフレイアが実は最初の神を裏切ってるなら……彼女は本当の事を言わないんじゃないか?


 もしかしたら…………。


「無銘……聞いてもいいか?」


 無銘はコクリとうなづいた。


「お前の中に……何人いる?」


「え? お、お兄ちゃん。どういう事?」


 俺は桜乃の言葉を人差し指で静止させて無銘に言葉の続きを求める。


「……回答、三人」


「……間違いないか?」


 無銘はコクリとうなづく。


 三人……アトゥム……融合した俺の母ノルン……そしてアトゥムの擬似人格の無銘か。


 なるほどな……だからこの無銘は…………。


「ありがとう……これで全てが繋がった」


 俺は無銘の手を掴んだ。


「大丈夫……約束は絶対に守るよ」





 そうだ……俺は忘れてるんだ……。


 封印された記憶……いや、封印した記憶。


 そして、俺に上書きされた偽証の記憶……。


 そして……本物の切り札…………。




 手はまだある…………いや…………。





 あいつはここまで計算に入れてたってことか…………。俺が運命の(ストーリー・)破壊者(ブレイカー)を手に入れることすら予定調和……あいつにとっての必然なのか…………。







「……ペル、明日にでもティエアに戻れるか?」


「え? 私は大丈夫ですが……」


 チラリと健司を見る。


「僕も行く。ティエアが僕の故郷だというのなら、僕にとっても関係がない話じゃない」


「だからお前はゆっくり死に戻りしてろって」


 だが、俺の言葉を首を横に振って否定する。


「拓海……ティエアは確かにゲームのような世界だが、ティエアの住人にとってはそうではない。あの世界にとって僕は死んでるのかもしれないが、僕はあの世界を守りたい……」


 その健司の決意をテュールが後押しする。


「彼の安全は保証しますわ……たとえ自ら女神堕ちしてでも、彼は必ず現実世界に戻します。安心しなさい」


 その女神の決意に俺は根負けした。


「……いいのか? 自らそんな目にあう理由なんてないんだぜ?」


「ええ、この子がこんなに成長できたのがそのおかげなら……ワタクシも望むところです」


 ……テュールもやっぱりいいやつだな……いや。


 ってか、この世界みんな本当にいいやつばかりだった……。





 さぁ、行くか……。






 誰からも愛される、俺が望んだ異世界(クソゲー)へ––––––––。

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