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第七十六話「主人公」〜健司視点〜

「拓海……」


 親友は、あまりに醜い姿へと変貌していた。


 全てを破壊する修羅のように禍々しいオーラを放ち、顔は歪んだ笑みを浮かべている。


「さすがのペルの予想もハズレましたわね」


 ペルさんも黙ってしまった。


「あいつはそういう奴ですわ……まぁペルには予想出来なかったかもしれないけどね」


「私は……それでもタクミさんを信じます」


「目を覚ましなさい! あの男は……呪いに負けたのよ」


 さすがに僕も拓海を擁護出来ない。あいつは……自ら悪に落ちた。それ以外に説明などしようがない。


「お兄ちゃん……」


「だから早いうちに殺すべきだって申し上げたのですわ。……結城拓海には強大な呪いがある」


「…………」


 ペルさんは一切顔色を変えずに、真剣な眼差しで拓海の姿を見つめていた。


「その呪いが完全な形になる前に、殺してあげるべきだったのですわ……」


「––––––なんと言われようと、私は信じます」


 僕は、ペルさんの肩を叩いて前に出る。


「大丈夫だ。僕も拓海を信じる……」


「健司さん……」


 そうは言ったが……実際のところどこまで通用するか。


「コード解放……須佐男(スサノオ)


 その呪文とともに、僕の周りに焔と雷がまとわる。


「スサノオの力は炎雷(えんらい)……炎と雷の力。これで貴方も魔法が使えますわ」


 これで……僕にも魔法が…………。


 流れ込んでくる須佐男(スサノオ)としての記憶から、魔法の使い方を読み解いていく。


 ……前回は剣術としての戦いだった。


 だが、今回は互いに魔法を含めた力の全てを使える。


 本当の意味での全力と全力。


 ……ただ一つ悔しいのは……拓海は今、闇に落ちているという事だ。


 僕は……こんなお前と戦いたくなんてなかった……。


「お前の闇……僕の炎雷で撃ち抜いてやる」


「こいよ……ぶっ潰してやる」


 最初に動いたのは僕だ。


 四つの炎を雷のように不規則に飛ばしていき、その全てが一気に拓海を襲う。


「ひゃは?! おっせぇぞ!!」


 だが、闇をまとった暴風で、その炎雷は消え去る。


須佐男(スサノオ)の炎雷は雷のスピードと炎の破壊力あっての技……この程度じゃ話にもなんねーぞ」


「わかってるさっ!!」


 背後を取ったっ!!! 炎雷の力を足に纏わせた音速の走法……雷虎走刃(らいこそうは)。これならっ!!!


「ぐっ!!!」


 僕の上段からの一閃は、見えない盾によって防がれ勢いで仰け反る。そのバランスを崩したチャンスを逃さず、突風でさらに後方に飛ばされてしまう。


「エアリアルシールド……言ったろ? おせぇって」


 ……魔術も用いた戦いは、今回が初めてだ。いくら須佐男(スサノオ)の力があるとはいえ、場慣れした拓海に勝てるのか?


 いや……勝てるかどうかじゃない。勝つしかないんだ!


「おおおおおおぉぉぉぉっ!!!」


 咆哮し、もう一度突進する。防御される事も見越して袈裟で肩口を狙う。防御したところを炎で––––––––。


「なっ!?」


 う、動きが見えな––––––。


「グハッ!!」


 何が起きたのかわからない間に、柄頭が僕の鳩尾(みぞおち)にめり込み、失神しそうになりながら数メートル吹っ飛ばされる。


 飛ばされながらも剣を地面に突き立て、勢いを止める。立ち上がろうとするが、力が入らず膝をついた。


 強い––––––。


 今までの拓海とは、比べ物にならない。


「オラ、どうした? ……さっさと立て」


「……お前は」


 僕が完全に子供扱いだ。正直勝てる気がしない。いつもの拓海より、さらに大きな壁を感じる。


「クッソ弱えぇなぁおい……んな事で俺に勝てるとか思ってたのか? あ?」


 完全に優位にたった拓海は、その高みから見下ろすように下卑た笑みを浮かべた。


「フッ……そういや、お前。俺の家族を守ろうとしたみたいだなぁ? 親父に聞いたぜ」


 僕は、答えにならない喘ぎ声しか返せない。


「––––––なんならここで再現するかぁ?」


「なにっ……」


「ちょうど、その時の女がそこにいるしなぁ」


「え……?」




 ––––––––妹を殺意を込めて睨む拓海に……。




 ––––––––––––––ようやく、僕の殺意が芽生えた。




「タクミイイイイイィィィ!!!!!!」


 胴を狙った僕の刃は嫌味な笑みをこぼす、そいつの腑に届かなかった。


「チィッ!!」


 剣を捌かれながらも、息をつかせぬよう無拍子で連撃を放つ。


 拓海の防御が堪らず崩れた!! 突きで胸を––––––––ッ!!!


「バーカ」


「なにっ!?」


 いつのまにか、僕の刀は拓海の鞘に収められていた。


「ぐあっ!!!」


 そのまま蹴飛ばされて、再び距離が生まれる。


「もっと本気でこいよ……退屈しのぎにもなんねーぞ」


 ––––––––なんだ今の違和感は。


 よろめきながらも、再び剣を構える。


「……拓海……お前何を考えてる」


「あ?」


「こんな戦い無意味だろ。……別に僕はスピカ……いや早紀をどうこうするつもりはない」


 たしかに、拓海にとっては辛い話かもしれない……だけど、ここで争っても仕方ない。前世がどうだろうが、今の彼女の思いは尊重したい。……別に僕が彼女を奪う気はない。


「理由ならあるに決まってんだろ? ……俺が悪役っつーんならよ。主人公様の邪魔すんのが役目だろうが」


「そんな役割に何の意味がある!!」


「意味なんていらねぇよ……」


 その切っ先を僕の喉元を指して、ニヤリと笑う。


「俺がムカつくから壊す……そんだけだ」


 ……やはりこの拓海はおかしい。闇に落ちただけではない。それ以外の何かがある。


「……それは、お前の本心か?」


 そう問うと、返事は白鋼の刃だった。


 つば競合いになり、力負けして徐々に押し込まれていく。


「さっきからウダウダうるせーんだよ……殺されてーのか?」


 拓海…………それがお前の選んだ道なのか。


「……だったら、僕も全力でいく……全力で貴様を殺す!!!」


 その刃を押し返し、炎雷の力を僕の刃に込める。


「こいよ須佐男(しゅじんこう)。このクソゲーはテメェなんかに攻略できねぇってことを思い知らせてやらぁ!!!!」


 ……君は本当に……世界を殺そうとしているのか?


 ペルさんの気持ちを……本当に裏切るのか?


 数時間前……ペルさんが君を信じるといったその気持ちを…………。






 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 




 数時間前。僕達が泊まっていた旅館で、今後の拓海の扱いについて話し合っていた。


「……どうして、そう言い切れるんだ?」


 テュールさんは、拓海は悪に落ちると断言した。


「ティエア……いえ、アトゥム様が作った異世界にとっては運命という言葉の強制力は絶大ですわ。一度決められた運命には誰も逆らえない」


 ……そもそも逆らえてたら、こんな風に困ってなかっただろうしな。


「故に、結城拓海が何と言おうが、彼は主人公になり得ない。彼はこの事実を受け入れられず、闇に堕ちる」


 組んだ腕を解き、ゆっくりと立ち上がる。


「そうなる前に、あの男は殺すべきですわ。全てを呪い殺す前に……それでいいですわね。ペル」


 ペルさんはその言葉に、静かに首を横に振った。


「私は……あの人を信じたい」


 テーブルを叩く音が、旅館に大きく響く。


「いい加減にしなさい!! 私情を挟んでいる場合じゃないのよ!!」


「わかってます……でも、私はタクミさんを信じたいんですよ」


「ペル……あなたは」


「テュール先輩が言ってることはわかります……ですが、タクミさんには運命すら乗り越える力があるって……そう思うんです」


 テュールさんは歯噛みして、あくまで拓海を信じるというペルを睨みつける。


「これは遊びじゃないの。もし失敗すれば私達だけではなく、何人もの人間が死んでしまうことになるのよ」


「それでも……いえ、だからこそ、私はタクミさんに賭けます」


 頑なにタクミを信じるペルさんだけど、流石にこれは無謀な賭けだった。


「ペルさん……僕ではティエアを救えないと言うことですか?」


「そうではないですが……いえ、そう言ってるのと同じかもしれませんね」


「どういうことですの?」


 ペルさんは目を閉じ、ゆっくりと言葉を続けた。


「確かに主人公の存在は必要だと思います……ですが、それだけではダメな気がするんです」


「それだけではダメ?」


「私にもよくわからないんです……だけど……この世界にはタクミさんが必要だと思うんです。……私はこの感覚を信じたい」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 






 ペルさんがなぜここまで信じてるのかは正直わからない……だけど僕も、拓海を信じてみたくなった。


 正眼にかまえた剣が、いつのまにか顔を出してた月光を反射し、眼前の敵を照らし出す。


「僕は君を倒す……再び友として戦うためにっ!」





 ––––––––––––刹那





 僕達の(プライド)が重なり合った。

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