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第七十三話「記憶の術師」

「アーノルド? ……聞いたことねぇな」


 大体占い師なんぞ、魔導学院ならいくらでもいる。こんな近いところにいても、なんの儲けもないはずだ。ますます怪しい……。


 あたりはもうすでに暗く、道が整備されたとはいえ森の中。目の前のこいつが相当不気味なので、より気味が悪い。


「私は商売に来たわけではありません。あなたに会いにきたのです。カイン大臣」


 こいつ……過去の俺の知り合いか?


「しかし、本当に不思議だ……あなたは間違いなく悪の存在……それに身を任せれば、あなたは絶大な力を手にするというのに……」


「なにっ……」


 絶大な力……? 何を言ってるんだこいつは?


「あなたは、今自分の力を無理やり押し込めているようなもの……それではスサノオに勝つことはできません」


「……別に勝とうとは思わない」


 アイツは親友だ。アイツに勝ちたいなんて思ってない。


「嘘はよくありませんよ……」


「さっきからなんなんだお前は……嫉妬だの、嘘だの……適当なことばかり」


 そういうと、口が裂けてるんじゃないかと思うほど、口角を上げてにやける。下から覗き込むようにぐいっと迫るそいつを見て、不気味の悪さで思わずたじろぐ。


「本当にそう思ってますか?」


「……くっ!」


「ほぉーーんとうでぇーーすかぁーーー?」


 俺は……そんな事思ってない……。


 それを思うことは悪だ……。


 それは、俺ではない……違う……俺は違う……。




 ––––––俺はチガウ!!!




「あなたは……哀れだ。哀れな存在ゆえに哀れみを受け……それを呪う」


「うるせぇよ……」


「スピカさんや、スサノオさんの哀れみを受けて、腹が立っていたのでしょう?」


「だまれぇ!!!」


 俺はいつのまにか怒りに身を任せて、演習用の木剣をその男に振りかぶった。……だが、簡単にかわされてしまう。


「あなたは自分が悪役に生まれて来たことを呪った……まるで物語のヒロインと主人公のような二人の存在を呪った……しかし、それ故に感情の矛盾が生じてしまった」


 感情の……矛盾だと?


「あなたのその想いの源流は憧れ……物語の主人公に憧れる故、呪いきれず、悪にも染まりきれず、中途半端な存在になってしまった……ならば、悪に身を任せれば自分の想いを自由に解放できる……」


「……悪になれば……想いを自由に解放できる…………」


「そう……自分に素直になりなさい……」



 いやだ…………俺は…………。



「……まだ抵抗するなら…………あなたの過去の記憶を植えつけさせていただきますよぉ…………」




 オレハ……チガウ………………。




 チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ




「やめてくれぇーーーーーーー!!!!」










 俺は…………。


 そうか…………スサノオは、俺を…………。







 ……もともと、ゼクス様は全ての国を支配するつもりだった。


 そのための勇者だった……だが、その前にアトゥムのせいで戦争が終わってしまった。


 そのせいで、ティエアは統一力をなくし、さらにはマナの消失により軟弱になってしまった。たしかに平和の道を辿ることとなったが……そのかわり、全ての生物は軟弱になってしまった。


 ティエアの他には、いくつもの世界があると言う。その異世界が何らかの形でティエアを攻めて来たら…………。


 そのときのために、誰かが世界を支配しなければならない。ゼクス様の連合統一に賛同した一部の人間が、立ち上がり……創造神に反逆しようとした。


 そのうちの一人が俺だ……。


 もともと俺は大戦時代からゼクス様に仕えていた大臣だった……年月が経ち、老いてはいたが、ゼクス様のおかげで力を取り戻した。


 だが、そんな俺達を邪魔したのは、スサノオとスピカ……そしてコジロウだった。


 そのせいで、スサノオとその妻スピカ……そして俺の三人は、俺自身の呪いで幼児化し、ゼクス様は封印された。




 ……スピカはもともと俺の許嫁だった。


 大戦時、スピカはスサノオに奪われたのだ。


 そのせいで、運命の日まで、九十年近く、惨めな人生を送り……俺は老いていった。






 許さない…………。







 俺は…………お前を許さない………………。







「…………そうか、お前はゼクス様の……」


「はい……お側につかえさせていただいておりました。アーノルド=シュレッケンです」


 ……そうだ。連王アーノルド。……その正体、ゼクス=オリジン。


 俺は、連王時代の彼の元で大臣の職に付いていた。


 そして、こいつはその影武者……。完璧を求める故、自らの名すら捨てた男。こいつからしてみれば、むしろ光栄なことなんだとか……。


 …………くだらん。


「どうやら思い出せたようですね……カイン大臣」


「ああ……お陰で思い出せた……我が復讐のことを……」


 俺は…………。


「やほやほーー!! カイン君おひさー!!」


「……フレイアか」


 闇の中から陽気な戦の女神がやってきた。ツインテールをぴょんぴょんはねらせ、実に楽しそうにする彼女は見た目が全然変わっていない。……やはり女神だからだろうか?


「お、ちゃんと思い出しているねー。さすが偽アーちゃんキモいけどなかなかやるねー」


 フレイアは褒めてるつもりなんだろうか……? アーノルドも流石にイラッとしたようでキッと睨みつけている。


「……俺達の目的は、この世界の完全なる支配……」


「そそ。このRPG世界にまれに生まれる創造(クリエイション)の持ち主……そいつに現実世界の記憶を植え付けて、兵器を作ってもらうってわけだね」


 一番いいのは創造の持ち主が転生してくることだが……そう都合よくいないからな。


「でもいいのーカイン君? 下手すりゃこの世界の人間みんな滅んじゃうよ? ゼクス様けっこう頭のネジぶっ飛んでるからさ」


「…………そのどこに問題がある?」


「にゃははー!! ちゃんとあの頃のカイン君が戻ってきたねぇ……愛した女のためなら世界を破壊することにも躊躇しない……最強のエゴイスト、カイン…………ようやく君らしい言葉が聞けたよ」


「そうだな……」


 まったく……記憶がない間、俺は一体何を思ってたんだ?


 この世の摂理は常に、手に入れたものが勝者となる。


 そのために争い……奪い……負ければ失う。


 なのに、勇者なんぞに憧れるばかりに、大切なことに気づかないとは……。


 差別されるのは悪役だからではない……俺に力がないからだ。


 それを、事もあろうか差別を受け入れ、いつもニコニコ笑っていい人を演じ続ける。


 その結果……俺はこんなにも落ちぶれた。


 魔導学については、本来学年二位の実力のはずが平均以下……。剣術も本来は同等のはずのスサノオよりも圧倒的差がある。


 ……いい子ちゃんでは、手に入れられる幸せも手に入らない。


 悪役? そういう運命に生まれたのなら仕方ないじゃないか……。


 俺はただ……それに身をまかせるだけだ。


「……ゼクス様を解放する」


 その俺の言葉に、額に人差し指を突きつけ悩んでいるようなポーズをとりながらフレイアは答える。


「んー……ちょっと今は無理かな?」


「どういう事だ?」


「アトゥムが作った結界ね。ちょーっと厄介なんだよねー……」


「厄介?」


「そう。ちょーっと私だけでは完全な解除は無理そうなんだよねー」


 ……フレイアが言うのだから、相当なのだろう。


「ならば、なぜ俺の記憶を戻した……」


「うん。封印解除は無理でも、一瞬だけならゼクス様の操作権を復活できそうなんだよ。だから、スサノオを殺すために彼をある場所に誘導して欲しいんだー」


「……わかった」


「頼むよー。女神の仕事もさー。新人ちゃんが、ものすごーい方向音痴で大変なんだよー」


「新人? ……ああ、そういえばエルフの回復術師が最近女神になったんだったか」


 名前は確か……ペルセポネ=ハーデスだったか。


「そうそうその子。まーそのおかげで、カインくんに気軽に接触できたんだけどねー」


「……元エルフの女神か…………」


 まぁ、今は関係ない。まずは、どうやってスサノオをおびき寄せるかだな。

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