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第六十九話「再会」

「……ったた」


 こんなはずじゃなかったのに……。


「ったく無理しすぎだよー! なははー!!」


 ……いくつか技を成功させて調子に乗った俺は、得意技だったヨーヨーの軌道で月を描く技『シュート・ザ・ムーン』を決めようとした。


 だが、ヨーヨーは俺の顎に思いっきりアッパーカットのようにぶつかったあと、ついでとばかりに重力のまま俺のデコに激突。


 思いっきり顎を切った俺は、別のスタッフから笑いを堪えられながらも絆創膏を受け取り、「だ、大丈夫! お上手でしたよ!!」と励まされながらステージを去った。


「どうせ久々なんしょー? できないの当然なんだからさぁ! もっと練習してからやらなきゃ!!」


 と、これ見よがしに俺の失敗した『シュート・ザ・ムーン』を見せつけてくる。


「…………佳奈美。なんでゼクスに手を貸すんだ?」


 俺は不思議に思い聞いてみる。


「秘密かなー……ってか言うわけないじゃん」


 そう言いながらも、ヨーヨーを操る手は止めない。


「いいのか? この世界がなくなったらヨーヨーも無くなるんだぞ?」


「そん時はそん時! まさかオモチャ如きで世界を壊すのやめるとでも? かなみんことフレイアさんは、そこまでおバカキャラじゃないよー」


 ……本当にそうか?


 セナは姉の死に対して何かしらの考えがあるって所だろう。世界を破壊するほどの怒りの理由まではわからないが、そこに関連したものと言う事は察しがつく。


 だが、フレイアはどうだ?


 現実世界がここまで気に入ってるなら壊す理由もないのでは?


「……早紀は、お前がヨーヨーのチャンピオンだったってことは知ってるのか?」


「知ってるはずだよー。一応親友ってことになってたからねー」


「だったらなぜ彼女を利用する……」


「なーに? まさか友情なんかをアタシに求めてんの?」


「ちげえよ……ただ、お前だけはセナやゼクスとは違う。別の何かがあるような気がしたんだ」


「例えば、だれか人質にとられているとか期待してる?」


 実に愉快そうに笑う。だが、彼女の俺を見る目には狂気が宿っていた。あからさまな敵意に一瞬本当に自分の推理が正しいのかを疑う。


「別にアタシは早紀ちゃんが肉塊になってもどうってことないよ? 私の知る全てのものが壊れても構わない……」


「どうして、そこまで世界を恨む」


「だぁーから秘密だって! まぁどうしても知りたきゃ私を倒してみなってー」


 どうやらこれ以上何を聞いてもボロは出さなさそうだ。だから、俺は別の手に移る。


「お前は、本当に戦いたいのか?」


「やだなぁ……一応私、戦の女神だよ? 戦いが本業だって」


 戦の女神……か。


「どうにもそこが納得いかねぇんだよな……」


「……何が言いたいんだい? いい加減にしないと––––––」


「お前は本当に、戦の女神になりたかったのか?」


「っ!!」


 ようやく確信をつけたようだ……。彼女が操ってたヨーヨーもバランスを崩し、デタラメな角度で宙を浮くもなんとかキャッチする。


 ……どうにもこいつには違和感がある。


 そういうものだと言われてしまえば仕方ないが、こいつは言うほど戦い好きには見えない。


 戦えないわけではないことは知ってる。歴史を紐解くと彼女は元々、ティエアでは槍使いの戦士だったはずだから間違いはない。


 だが……彼女は戦いを常に避けていたように見える。


 例えば、ティエアでの女神として潜入していた時。彼女は、ペル達をいつでも狙えた筈だ。


 だが、実際には何もしていない。もし本当に完全にゼクス陣営なら、なぜ裏切ったついでにペル達を拘束しなかったんだ?


 ルールで殺すことができなくても、拘束することはできる。そんなのは子供でも思いつく作戦だ。ならなぜ彼女は何もしなかった?


 ……これがもし、脅されているだけということなら理解できる。


 彼女は、女神を守ろうとしているんだ。いや、もっと別の誰かを……。


「……仮に脅されているとしたら、どうするつもり?」


「俺達に協力してほしい……もちろんできる範囲で構わない」


 正直これは賭けだ。


 もし、彼女が本当に敵であれば……()()()()()()()()()


「あはははっ!!! 面白いこと言うねぇ……でもいいの? 裏切ったと見せかけて、後ろからグサリ! ……って展開も待ってるかもよ?」


「そん時は俺の見る目がないってだけさ……それに俺は一言も、お前を信じるとは言ってない。協力はしてほしい……だが完全に信用できないのはお互い様だ」


「正直者だねぇ……お世辞でも信じるって言わないかい? 普通さぁ」


「悪いな。俺にとってはアンタが悲しむより、早紀の命の方が大切なんだよ」


 すると、彼女は盛大なため息をついた。


「––––––ほい!」


「っと……なんだ?」


 何かを投げつけられた……受け取った手のひらを開くと小銭入れがあった。


「これを君が協力と思うかどうかは想像に任せるよ。残り少ない人生をこの世界で謳歌するための金と思ってもよし。君に協力するって意味と思うもよし」


 ……ここは、協力してくれる意味としておこう。


「ありがたく受け取っておくよ」


 正直、腹が減って困ってた。


「いえいえー。……あ、一応言っとくけど……慰謝料って意味もあるからね?」


「慰謝料? ……どう言う意味だ」


「さぁねー?」


 慰謝料? ……早紀の事か……いや、だったら慰謝料なんて言葉使わないよな…………っ!?


「お前まさかっ!! 俺の家族に手を出したのか!!」


「ごそーぞーにお任せしまーす!!」


「っ!! くそ!!!」


 俺は慌てて駅へ向かう。


 ……父さん……桜乃……無事でいてくれっ!!




「っ……これは…………」


 家に着くと、すでに警察によって入り口は黄色のテープによって塞がれていた。


「す、すみません!! 何があったんですか!?」


 警官に話しかけると訝しげに俺を見る。


「……君は?」


 思わず「この家のものです」と言いそうになったが、この世界では俺は死んでることになっているんだった。


「……この道場に通っていた者です……何があったんですか?」


「傷害事件だよ。道場主の結城幸村氏と結城桜乃さんが襲われたんだ」


「……嘘だろ……」


 間違いない……フレイアだ。


「二人はっ!! 二人は無事なんですか!!」


「……それが不思議なことに昨日退院された」


「え……」


「これだけの血痕だ。相当な被害だったはずなのだが、事実幸村氏は元気にされている。桜乃さんも退院後すぐに旅行に出かけられたそうで……こっちもわけがわからない状況なんだよ」


 ……ペルだ。よかった……ペルが治してくれたんだな……。


「一応事件性が高いから幸村氏に事情聴取をしていてね。そろそろ終わるかと……っと、終わったようだぞ?」


 げっ!!


 気がついたら親父が、俺を見ていた。


 まずい……どうしよう。


「––––––健司君じゃないか!!! いやー心配して見に来てくれたのか?」


「え……」


「医者が大したことないのに妙に心配してしまったようで大げさになってしまったが……。ほれ、この通りピンピンしているよ!! ああ、警察の方々もご苦労をおかけしました!!」


 ご機嫌に敬礼までしてみせる。どうやら本当に無事そうで、俺は心底安心した。


「あ……はい。だ、大丈夫なんですか?」


 まぁド派手に血をぶちまけたようで現場は血まみれだ。普通に見たらただの殺害現場だろうな。


「ええ、おかげさまで」


「は、はい……では私達は撤収しますが、また何かあれば」


 警官達は不思議そうな顔をしつつもパトカーに次々と乗り込んでいく。小声で「あの人どんだけ血が有り余ってるんだ?」「普通失血死しててもおかしくないよな?」などと話す声が聞こえてきた。


「……さて、健司君? ちょっと掃除、手伝ってくれないかい?」


「あ……ああ」




「なるほど……健司が恐山に……」


「ああ……ペルさん、テュールさん、無銘ちゃん……そして桜乃。皆健司君についていったよ」


 掃除の前に遅い夕食をとりながら、俺達はお互いの事情を話した。


「ってことは、親父ももう、ゼクスのことは知ってるのか?」


「ああ……正体不明の神……だが、それがまさか柏木君だったとはな」


 当然、道場主の親父は零を知っている。親父もまた、彼を可愛がっていただけにショックがでかいようだ。


「あの姿はおそらく偽りの姿だ……本来の姿とは似ても似つかないしな。神だからなんでもありなんだろうさ」


「だろうな……にしても、俺の心眼もまだまだってことかな?」


 親父はそう嘆くが、恥ずかしがることなんてない。俺だって全然読めなかったからな。


「そんなことはないさ。あいつは昔から掴み所がなかったからな」


 不意に、親父が涙ぐんでいる事に気付いた。


「だ、大丈夫か!? まだ傷が痛むんじゃ……」


「たわけ! ……泣いとらんわ!!」


「親父…………」


 傷は傷でも……心の傷か…………。


 無理ねぇよな。俺だってこうやって再会できるとは思わなかったんだから。


「お前なっ! ……もうちょっと静かに死ねや……遺骨ボロボロだったんだぞっ!!! 骨掴むの大変だったんだからな」


「はは……わりぃ……」


「桜乃は失神するし、母さんは泣きわめくし……お前の葬儀は大変だったんだぞ?」


「……悪かったって」


「……本当に……立派になったな」


「ああ……向こうでもいろんなことがあったからな」


 本当に……色々なことが……。


「とにかく、今日はうちで休め。すぐにスピカさんとやらを探さないといけないんだろ?」


「ああ……絶対に取り返さないといけないからな」


 俺は決意を拳に込めて胸元に添えた。


「…………お前の部屋、遺骨があるけど我慢しろよ!?」


「うげっ!!」


 お……俺の遺骨と寝るのか!?


「親父っ!! まだ納骨してなかったのかよ!!! 四十九日過ぎてんだろ!!」


「たわけ!! 墓なんぞ急に用意できるかっ!! うちはそれほど裕福じゃないんだぞ!!」


 まぁ確かに四十九日はあくまで目安で、それまでに墓に入れないといけないなんて法律ねーけどよ……自分の骨と一緒に寝る夜なんて嫌すぎる……。


「我慢しろ! お前ぇの骨だろ?」


「…………せめて遺骨だけはどっかやっていいか?」




 自分の仏壇の隣で眠る夜…………。




 気分最悪だ…………結局隣の廊下には俺の遺骨あるし…………ただでさえ早紀のことで気が立ってるのに……今日眠れるかな?

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