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第六十三話「クソゲーゴブリンは絶滅危惧種」

「せいやぁ!!」


 つば競合いとなった木剣のクロスした間から、その奥の緋色の瞳を見つめる。……うん。いい打ち込みだ。まだまだ荒いし、太刀筋もブレてるが勢いも思い切りもいい。


 元々が自信家な分、一度教えれば躊躇なく実践できる。……が。


「うわっとと!」


 少し力点をズラしてやると、面白いぐらいにバランスを崩した。その隙を見逃さず木刀を鼻先に向ける。


「はい。これで一回死んだな」


「うぅ……これでもダメであるか……」


「まぁ惜しかったな。お前はまだ、足腰の鍛え方が甘いんだよ。だからバランスの立て直しが遅い」


「むぅ……」


 だが、剣を小太刀に変える前とは比べ物にならないくらいに良くなった。今使ってるのは木剣ではあるが、正しい型で鍛えた分、技のキレもいい。……やっぱり、足りないのは基礎体力だな。


「よし。一週間ほど筋トレの量を倍に増やして、技の訓練を休もう。あと走り込みも追加だな」


「うげっ!?」


「なんだ? 文句あるか?」


「な、ないである!! これも強くなるため!!」


「フッ……」


 こいつ意外と素直なんだよな。……やっぱり、この前きちんと話し合ったのは無駄じゃなかった。


「じゃ、今からスクワットと腹筋を一万。あとランニングを猫獣人族の里を五周」


「うええぇぇ!? そ、それはいくらなんでも!?!?」


「はははっ! 冗談だよ……多分な」


「さすがに冗談にしてほしいである……今日すでに、その倍はやってるのに……さらに追加はキツイである」


「まぁ俺は、そのさらに倍はやってるけどな」


「師匠は化け物すぎである!!!」


 うーん。俺からすると余裕なんだけどなぁ……っと、こう言う考え方がいけないんだよな。


 こいつは今15歳。確かに俺は15の時には既に、俺の今やってるトレーニングくらいは出来るようになってた。


 しかし、それは同時に約5475日の経験の誤差が生じてると言うことだ。そこから更に遺伝や、骨格の差、親、財力と、いくつもの格差が生じる。


 ……一緒のはずかないんだ。俺とコイツは。だから俺の経験をコイツに当てはめるのは間違いだ。


 大事なのはコイツが今どれくらいの力があるか。そしてどうすれば育つかだ。


「うっし! じゃあ、ウォームアップ行くか!」


 ちゃんとデュランダルの疲れが取れたか見て、目を見て、行けるかどうか判断して……そうすればコイツはやる気があるんだから、必ず強くうなづくはず。


「はい! 行くである!!」


 よし……俺も、ちゃんと成長してる。




「……ん?」


 ランニングも半周を終えて、後方を見る。デュランダルの姿はなく、ちょっと早すぎたかと足を止める。すると、珍しく慌てた様子のアトゥムがこちらを発見し、走ってくる。


「た、タクミくん!!! 助けてぇ!!!」


 竹林の中で、創造神の叫び声がこだまする。その異常事態に俺も焦り出す。


「な、何があった!?」


 まさか、第二の襲撃が!?……って、よく考えたらアトゥムはこの世界では基本的に不死だ。襲われたところで心配はないはず……だったらなにから逃げてるんだ?


「まてぇーーーーーーい!!!」


 あれは……サタン?


「ひぇーーーーー!!! さすがに勘弁してくれーーーー!!!」


 こ、こんなに慌てるアトゥムは初めて見たぞ?! 俺の元にたどり着いたかと思うと、俺を盾にして身を隠す。


「ぜはー……ぜはー……き、きちんと責任を取るのじゃ!! お主のせいでもあろう!!」


「み、認める!! 認めるけどそれだけは無理!!! 絶対無理!!!」


「観念しろ!! もうお主しかおらんのじゃ!! なぁに一晩で済む話じゃろ。ちょっと犬にでも噛まれたと思って一つ」


「無理無理無理無理!!!」


 顔を真っ青にして顔をこれでもかと言うくらいに引きつらせる。首をちぎれんばかりに横にふる創造神を見て自体が読み込めないながらも俺はアトゥムをかばう。


「ま、まてサタン。なんなんだこれは……」


 いつもはムカつくくらい余裕を見せ、腹たつくらい偉そうなアトゥムが、まるで歯医者から逃げ出す小学生だ。……見た目二人とも小学生なだけに、やたらとそう見えてくる。


「もう諦めて素直に苗床になるのじゃ!!!」


「なえっ!?!?!?」


「いやああああぁぁぁーーーーーー!!!」


 ちょ、ちょっと待て!! なんなんだこの状況!? 苗床!?!? な、苗床ってあれだよな? 不健全でエロゲとかによく出てくる……ようするにエロいやつ??!!


 自分でも、あまりの不健全さにいつもの『健全第一』なんて言葉が出てこない。完全に反応できないまま、なおも魔王は追いすがる。


「こ、この女は破廉恥だ! 悪魔だ!! 悪虐非道だぁ!!!」


「そうだ! 妾は魔王なのじゃ!! だから諦めろ」


「ひぃーーーーー!!」


「ちょっとまてーーーー!!」


 ようやく意識を取り戻した俺は、開口一番悲鳴に近い声を上げた。




 ……なんとか二人を落ち着かせた。理由を聞くとサタンは、かなり意外な言葉を発した。


「少子高齢化じゃ」


「は?」


「魔族はいま、大きな問題に直面している!! それは少子高齢化じゃ!! この社会問題を解決するために育成費補助、子供手当て、学校等の設備を––––––」


 ……政治家か!! ……いや王なんて政治家みたいなもんだが、少なくとも異世界のしかも魔王が“少子高齢化”を気にするって!?


「待て待て待て! ……そ、そういう話なの? そういう政治的な話で苗床とか言ってたの?」


「何を言うておる! 少子高齢化は絶滅の危機じゃぞ」


「え?」


 すると、アトゥムは口を開いた。


「日本の少子高齢化もそうだけど、君達はこの問題を軽く見過ぎだ。恋愛は自由。結婚も自由。それは結構だが、自由の責任を考えなさすぎだ」


 意外にもアトゥムの口から出たのは、サタンの発言を肯定するものだった。


「労働人口低下は単純に労働力の低下にも繋がるのじゃ。そうすれば今度は食物を作るすべもなくなっていき、暮らすための最低限のライフラインも無くなっていく」


「子供を作るのに責任があるのは当然だが、作らないのにも少子高齢化を促進させているっていう責任が発生しているんだ。日本人は特にだが、明確な罪や罰則がないからってといって、その責任を放棄しすぎだ……。そこまでは僕も認める」


 ……ここまでの話を整理していくと、つまりはこういうことか。


「えっと……つまりは、魔族の中に絶滅危惧種がいるって事か?」


「ゴブリンじゃ」


 ゴブリン……よくゲームで出てくるハゲ頭で全身緑の小さな鬼か。


「要するにコイツは、僕をゴブリンの苗床にしようとしてるんだ」


「はぁ!? さ、さすがにそれはおかしいだろ!?」


 不健全とかいうレベルの問題じゃない。えぐいレベルのエロネタに、俺も顔が熱くなるのがわかる。


「確かに、いくらなんでも酷じゃと思う。じゃがのう、絶滅の危機に晒されてるのはコヤツのせいでもあるのじゃ」


「アトゥムの? ……一体何をしたんだ?」


 俺が聞くと、そのルビーの瞳をまぶたで隠し細い腕をくみながら魔王は長いため息をついた。


「この世界がアトゥムのデザインした世界なのは知っておろう? 当然魔族に関してもコイツが考えたものじゃ。なのに、ゴブリンに関しては男だけにしよったんじゃ!」


「な、なんでそんなデザインにしたんだよ」


「だ、だって仕方ないじゃないか。そうじゃなきゃゴブリンが村を襲う理由がなくなっちゃうじゃないか」


 両の指をツンツンとしながらイタズラがバレた小学生のように言い訳をする。まぁ子供を作るために村娘をさらうのはゴブリンあるある設定だし、元々この世界はゲームの世界だったからな。


「じゃが、魔族は力を失い、ゴブリンは村娘ですら倒せるようになってしもうた。まるで子供扱いじゃ」


「あー、それで子供を作れなくなってしまったって事か」


「今はレジーナの洞窟で五匹ほど隠れるように暮らしておる」


「もしかしてその洞窟って……」


「そう。水鏡の門がある洞窟じゃ」


 じゃあ、あのときサタンが言ってた用事って、この事だったのか?


「妾もいろいろ試したんじゃがな。じゃが、ゴブリンの性行為は要するに輪姦じゃ。その悪辣さはサキュバスですら逃げ出すほどじゃ」


 サキュバス……つったら色仕掛けで男を誘惑して、よ、ようするに不健全なことして力を吸い取っちゃうってあれだろ?


 ゴブリンより、ど直球エロネタなお姉さん系悪魔達が逃げ出すレベル……。


「うわぁ……」


 想像してみるが、どうも思考がついていかない……。だがまぁ、それでアトゥムに責任を追求し苗床になってもらおうとしたわけか。


「確かに僕の責任はあるよ? でも、だからってあんまりだろ!?」


「俺としても……流石にそれは困る……色々と」


 仮にとはいえ、彼女の母親が陵辱されようとしているのだ。流石に止める。


「ふむ……タクミ、お主。義理じゃが弟は欲しくないのか?」


 ズッコケそうになる。


「せめて人間にしてくれ!! ……それに、サタン。大事なことを忘れてないか?」


「ぬ?」


「こいつ、今何歳?」


「大丈夫じゃ!! ロリでもいける!!!」


 グッと親指を立てるが、そういう問題じゃない。


「こいつ……今、三歳だぞ?」


「何を言って…………あ」


 ……ようやく思い出したか。


「そうだよ!! 僕は今、時間遡行の呪いで年齢が逆行してるんだ。来年は二歳だぞ?」


 こいつの今の小学生くらいの見た目はあくまで仮の姿。実際の本体は三歳児。


「あああああああああ!!!」


 へなへなと力なく膝をつく魔王。


「三歳児だと、さすがに子供産めないだろ……。エグめのエロゲネタなら行為自体はあるかもしれないが、子作りという目的は達成しないぞ」


「……いや、可能性はある……三歳児でもアトゥムは神じゃ!! なんとかなる」


「ならないよ!!」


 そんな話をしていると、ようやく俺に追いついたデュランダルが大きく息を切らしながらやってきた。


「師匠ぅ〜〜〜〜……早すぎである…………」


「おう。ようやく来たか」


 ちょっと離しすぎたかな? ……まぁ以前に比べりゃだいぶ早くなった。


「タクミが師匠……じゃと?」


 目を丸くした魔王が、デュランダルと俺を交互に見つめる。


「うええぇぇ!!?? デュランダル博士が、タクミの弟子じゃとぉ!?!?」


「ん?」




「おい、まじか…………」


「とまぁ、これで当分絶滅の危機はなくなると思うのである」


 里の宿に戻った俺達の目の前に置かれた設計図。俺には何が何やらわからなかったが、明らかにデュランダルは普通の少年ではないことだけはわかる。


「数分で……人工子宮の設計図作りやがった…………な、何者だこいつ」


「ただの人工子宮ではないのである!! ゴブリンのストレス緩和のために快楽中枢への干渉も視野に入れており、VR空間で◯◯◯◯も×××××も思うままっ!! さらに学習装置も付いていて、近い将来ゴブリンの基本知能アップにも使える。つまりは、人間と同じ知性を持つことによって◇◇◇◇などしなくても、普通に魔族として恋愛も可能になるであるっ!!!」


 一部エグすぎて、聞こえなかったことにしてしまったが、ともかくこいつがめちゃくちゃ有能であることはわかった。


「これはすごいな……のう! サキュバスバージョンも作れるか? あれも淫魔じゃから色々と困っとるんじゃ」


「お任せである!! ついでだから、犯罪に使えないようにプロテクトも、おまけでつけとくであるよ」


「なにっ!? そんなことまでできるのか?」


「簡単である。被験者がVR空間を出たいと思った瞬間に、機械を強制終了させればいいだけである。その辺はブラックボックスにすれば改造品もでないで済むであるよ?」


「……おい、お前……何者だ?」


 少なくとも、ただのガキとはもういえない。明らかに何かしらの技術者だ。


「ん? ああ、これでもオレ、魔導学院最年少主席卒業者である」


 はああぁぁぁぁ!!??


「それだけじゃないぞ? デュランダルは、そのあと博士号も取り、魔族研究の第一人者になったのだ。まぁ、それでも剣士になる夢が諦められず、エルフの里に帰ったのじゃがな」


 うっそだろおい…………。いきなりの告白に俺は驚くが……それより重大な問題に別の思考が働いていた。


「えへへ……見直したであるか?」


「テメェちょっと待てやぁ!!」


「へ?」


「へ? じゃねぇ!! お前、昨日俺が話した目的を言ってみろ!!!」


「んー…………あ」


「そうだよ!! お前なら黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)超えられるじゃねぇか!!!」


 そう……それほどの技術者なら、そもそもエルフの里の協力など得なくていいのだ。


「あ……ああーーー……確かに可能ではあるのであるが……ちょっと無理なのだ」


「ど、どういうことだ?」


「あの坂を超えるためには、エルフの秘宝を使わなければダメなのだ……じゃないと魂の浄化を防ぐ手段はないのだ」


「マジかよ……」


 ……そうか。デュランダルはやり方はわかるができなかったのか……。


「わ……悪い。怒鳴ったりして」


「いや、恋人のためであるからな。熱くなるのは仕方ないである」


 ぐっ……そうなのだが……師匠の俺が諭されてしまった……なさけない。


「せめてペル様がいればよかったのであるが……あの方なら、魂が損傷するたびに回復できるから、擬似的にエルフの秘宝の効果を再現できるのである」


「ペルか…………」


 あいつ今、現実世界にいるんだよな? 健司に会うために。


「……それよりタクミくん……君はおかしいと思わないのかい?」


「ん? どうした? アトゥム」


「このマシンの技術……今デュランダルは確かに“VR”と言った」


「っ!? そ、そうだ。どうしてデュランダルがVRのこと知ってるんだ?」


 考えてみれば大変な問題だ。VRなんてもの、アトゥムがゲームシステムに組み込むわけがない。それどころかその手のシステムは本来現実世界の方が進んでる筈だろ?


 つまりは、この技術はアトゥム以外の入れ知恵の可能性が高いんだ。


「え? ……知ってるも何も……オレが作ったからであるぞ?」


「お、お前が作った?」


「そう、オレの天才的な発想によってVR技術の開発に成功っ!! 擬似世界の再現までできるオリジナルの装置である」


 違う……VR技術は元々現実世界での発明品だ。


「……なぁその発想、どこから思いついたのか教えてくれないか?」


「どこからって……銀髪のおっさんと話してたら、急にピーンと……あの人の名前なんて言ったっけ…………ああ、思い出したである!!」






 ––––––––––––––その名前を聞いた瞬間……俺達は戦慄した。






「アーノルドである!!」

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