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第六十話「クソゲーのエルフは裏切る」

 死の坂を超える方法……それ自体は存在している。


 死の坂を超える人物があらゆる魂の情報を消す理由……それは、その坂に存在する分解されたソウルプラズム……こっちの世界では霊気の影響による物だ。


 死体を虫がよってたかって食らうように霊気も、また死した魂を食らう。


 そうやって、消化、分解して、生産……つまり分裂して数を増やす。


 スピカの現状は魂のいたるところを食い荒らされて、それでもかろうじて生きているという状況だ。


 つまり、必要なのはスピカの魂を戻す事……そのためはまず坂を越え、現実世界からスピカをこちら側に戻さなければならない。


 そのために必要なのは、エルフの協力なのだが……。


「エルフ族は、あなた方に一切の強力はできません」


「え……な、なぜですかっ!!」


 森で囲まれたエルフの里の中に建てられた大きな木造の教会に、ディーの怒号が鳴り響く。それほどまでにエルフ族の長、エルサリオンの答えは驚くべきものだった。


「……君は自分が何を言ってるのかわかってるのかな? 一応、この世界の創造神が頼んでいるのに?」


 アトゥムもまた反論するが、半ば嘲笑するように返す。


「創造神……ですか。しかし、いかに創造神とはいえ、我々の里の方針に指図する権利を持っているわけではないのでしょう?」


「まぁ、そりゃそうだけどね……一応この世界のピンチなんだよ?」


「だからこそです」


「と、言うと?」


「はっきり言うと、今回の崩壊の危機。事の発端は創造神様が原因でしょう」


「…………」


 痛いところをつかれた……確かに今回の戦いの原因を作ったのは、おそらくアトゥムだ。


「……私共の情報網で、すでに最初の神……ゼクス様がお怒りになられた原因もすでに把握しております。そもそも、大戦を集結させたことが原因なのでしょう?」


「…………」


 アトゥムは否定しない。と言っても、言い訳しようもない。俺も、最初の神……ゼクスだったか。奴がプレイヤーであることに気づいてから、なんとなくわかっていた。


「でしたら、我々としても素直にあなた方に従う通りはありません」


「ずいぶん冷たいのね。そもそもエルフの里を守ったのはタクミじゃなかったかしら?」


「否定はしません……ですが、そもそも創造神殿がマナを奪わなければ、そこの小僧の力がなくとも脅威を撃退できたのでは?」


「マナを消さなければ大戦は魔族の勝利だったのでは?」


ディーの言葉にも動じず、むしろ鼻で笑いながら答える。


「確かにあの大戦は魔族優勢と聞いております……ですが、たかだか19年しか生きていないアナタが、あの大戦の事を詳細に語れるのですか?」


「はぐらかさないで。今は私の話をしているんじゃないわよ」


「そんな事をしてはおりません……ただの事実です」


「ぐっ……」


 言葉を詰まらせるディーの肩を叩き、アトゥムが話に割って入る。


「君達エルフ族の考えはわかったよ……でも、いいの? その考えは、いずれペルちゃんとも敵対する可能性もあるよ」


「心配いりません。エルフの問題は我々が解決します……では、お引き取りを」




 半ば追い出される形で里を後にして、溜め込んだ不満を爆発させるものが一人。


「むきぃーーーー!!! なんっなのあれ!!!」


「まぁまぁディーちゃん。落ち着いて」


「なんでアトゥム様は落ち着いてるんですか!! あーハラタツ!!」


 アトゥムも俺もディーの迫力に押されて苦笑している。……ってか。


「つーか、やっぱりこうなったかって感じだな」


「そうだねー。彼は頭デッカチだから」


 俺達の会話にディーが首をかしげる。その態度にアトゥムも俺も仕方なしとばかりに説明を加える。


「エルサリオンは最初の神に買収されたと見て間違いねーって事だよ」


「は、はぁ!? なんでそうなるのよ!! ゼクスの狙いは、この世界の滅びなんでしょ?」


厳密に言えば、この世界と現実世界だが……まぁどっちにしてもこの世界は壊れるだろうな。


「そんなの決まってるよ……ねぇタクミくん」


「ああ、決まってるな」


「「どうだ? 私に協力すれば世界の半分をお前にやろう」」


完全なハモりで俺達は答えてやった。


「き、決まってるの?」


 呆れたディーの目線も気にせず、お決まりのパターンに会話を弾ませる。


「ゲームの定番。ラスボスの勧誘だねー」


「そうだな……まぁこの場合、核でほぼ全生物死んだ状態のティエアを半分やるって意味だけどな。その部分は伏せてるんだろう」


 だいたい、核戦争後の世界なんて一時間生きられるかどうかもわかんねーけどな。


「本当にスピカはカクバクダン? ……そんな恐ろしいものを作れるの?」


「ああ。本人は作ろうとも思わないだろうけど、操作されてしまったら抗いようないからねぇ」


 それは、今までの世界崩壊でも証明されている。


 実際にアトゥムは何度も、世界を破壊するスピカの姿を見ているだろうし。


「……でも、その時スピカの意識はどうなってるのかしら」


「え……」


 一瞬意味がわからず問い返す。


「だって、これは洗脳じゃない。直接肉体を操作する力なんでしょ?」


 ……その言葉を聞いた瞬間、ぞくっとした寒気が襲った。


「……そうだね、意識は覚醒したまま自分の意思と反して世界を崩壊させられる。気絶なんてできない。目を伏せる事すら許されない。強制的に世界を破壊させられる……」


 次第に、精神が崩壊していき……壊れる。


 そんな仕打ちを、別の時間軸のスピカは受けていた。


「た、タクミくん……落ち着いて」


「は? 落ち着いてるよ?」


「……とてもそうは見えないわよ……まぁ私も同じ気持ちだけど」


 どうやら怒りが顔に出ていたようだ……今すぐにでも最初の神(クズヤロウ)をぶっ殺してやりてぇが……今は無理だ。


 一度、深呼吸をして心を落ち着かせる。


「すまなかった……もう大丈夫だ」


「気にしないでいいさ。……だいたい僕の方が怒ってるからね」


 アトゥムは、いつものように怒りを隠そうとしない。……いや、隠しきれないようだ。


 俺も多分同じような顔をしてるんだろうな……。


「……やめよう。このままだと勢いでエルフの里を襲いかねない」


「ははは……そうだね。僕らが殺すべきはエルフじゃない」


 最初の神……ゼクス=オリジン。


「さて、本当にどうするか……」


「そうね……エルフといえば、ペルちゃんがいるじゃない。しかも今は裏道(バックドア)なんて、ものすごいスキルも使えるんでしょ?」


ペルのことはアトゥムから聞いたが……まさか女神にプログラミング覚えさせたらこんなことになるとはなぁ……。


「彼女には彼女の役割がある。今は手が離せない筈だよ」


「だけど……これで裏道(バックドア)が使えるものはいなくなった。うちの陣営で使えるのはペルだけだからな」


 だから、正攻法で黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)を攻略しなくてはならなかったんだが……。


 完全に手詰まり……打つ手なしだな。


「かくごぉーーーーー!!!」


「うーん。どうしたものか……」


「え? ……いや、かくごぉーーーーーー!!!」


「うーん。こまった、こまった」


「いや、ちょっと!! 覚悟するのだ!!!」


「いやー、完全に手詰まりねぇ」


「ちょ、ちょっとまてぃ!! 我輩の攻撃を捌きながら、何悠長に話しているのだ!!!」


「……いや、その遅さ……ふざけてんのかなーっと思って」


 可哀想だから反応してやったが「がーーーん!!」とわかりやすいくらい落ち込んだ。……ってかあれ、切るつもりだったのか? 俺はともかくディーも戦闘型ではないアトゥムですら余裕でかわしているのに……。


 耳の長さからしてエルフだ。俺より二、三歳年下って感じで、ツンツンの金髪で、赤い瞳を威嚇している猫のように鋭くしていた。まぁ見た目の年齢はエルフなだけに参考にはならないだろうが……。


「むがぁーーー!! 我輩を誰だと思っておるのだ!!! エルサリオンが息子!! デュランダル=サイロスであるぞ!!!」


「はぁ……で? さっきからなんで、つけてたんだ?」


「ぎくぅ!?!? な、なぜバレたのであるか!?!?」


 いや、バレるって……木の陰から顔面九割くらい出てたし……。


 後ろを気にするふりしてあげても、数秒ワタワタしてから、ようやく隠れる……はっきり言って子供以下だ。フォルの方がまだマシなレベルだ。


「とにかく、デュランダル君だったか? ……俺がいいっていうまで伏せてろよ」


「へ? ぶげらっ!!!」


 戸惑うデュランダルを無視して、力づくで地面にデュランダルの頭部を押し付ける。


 そして、その直後。高速火球がデュランダルの頭部があった位置を通り過ぎる。


「ディー!!!」


「ウォーターシールドっ!!!」


 水の防壁が、次々と飛んでくる火矢を撃ち落としていく。


「くっ……こいつらまさか……風の加護!!」


 俺の風の加護で、防壁で止めきれなかった火矢の炎を消しさる。


「アトゥム!! こいつら森を焼き討ちにする気だ!!!」


「わかってるって!! 焼け落ちた分は僕が偽証すればいいんだろ?」


 俺達は、降りかかる火矢をかわしながら必死に逃げまわり……相手を撒いた頃には、すでに日は沈んでいた。

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