閑話「歪められた運命」〜健司視点〜
恐山に到着してしばらく……。
「…………ペルさん。一応花の女神なんですよね?」
「はい。花の女神ですよー?」
「…………絶対嘘だ」
でなければ、携帯も電波が届かない場所なのに電波を繋いでみたり、僕が修行している中、暇つぶしにゲームを二、三本作るなんてことできるわけがない。
「ペルさん……実は電子の神様か何かでしょ」
「そんなことないですよー。私がやったのなんて、中間地点を使って携帯の電波を拾いやすくしたり、エンジンと制作ツール使って簡単なゲーム作っただけですって。CGも音楽もフリー素材だけだし……でも、インターネットの世界はすごいですねぇ……みーんな自作で作る人とかいるんですよ?」
「お、おう。そうだな」
いやいやいやいや!!! 僕ですら今の話半分くらい理解できなかったんですけど!? 桜乃ちゃんもテュールさんも白目向いてるんですけど!?!?
「あーうん……ちゅーかんちてんすごいよね? ちゅーかんを、ちてんするんだよね?」
無理するな……桜乃ちゃん。ダウンロードの意味すら理解できていない君には難易度が高すぎる。
「そ、そうですわね……高密度魔力の生成は、ティエアでもスペシャリストが存在していますものね」
テュールさんは魔法と勘違いしているし…………。
ふと時計を見ると、結構いい時間になってきている。そろそろ準備をしようと立ち上がる。
「あら、もう行っちゃうんですか?」
「ええ。あと少し遅く行っちゃうとイタコ軍団とバッティングしちゃいますし……」
……おばちゃん軍団のラッキースケベで、からかわれるのはもうごめんだ。
「イタコさん達の修行は今日は休みだそうですわ。日曜日くらいゆっくりしてはいかがですか?」
うーん……まぁ確かに、ここにきてからずっと修行続きだったし……たまにはいいか。……しっかし。
温泉旅館に部屋がないからって女性三人と男性一人……同じ部屋。
スケベに対して狂鬼の番人がいるし……他の二人は女神なもんで、絶対に手出しはできないってのは間違いないが……。
「……どこ見てるんですか? 健司さん?」
彼女が持ってる木刀が……もはや金棒に見える…………。
「ど……どこもミテマセン」
って言っても仕方ないだろ……。
天然爆乳!! ペルセポネ!!! 電脳関係では、とんでもスペックの持ち主だが、それ以外はだらしない!!! そのせいか、浴衣が若干はだけてる!!! 朝風呂大好きらしく、今も若干濡れてて色気やばい!!!
知的豊乳!! テュール!!! ペルセポネほどではないが、十二分に大きいテュールさん!! 可愛いのに大人の色気もありとか反則!!! しかもボディーラインやばい!! モデル体型すぎるだろっ!!!
ロリ巨乳!! 桜乃!!! 胸がテュールさん並みのくせに背が低い!! 僕の好みを的確についてくるあたりやばい!! もう超やばい!!! 素振りの時の乳揺れだけでもスッゲー我慢してんのに、さらにここでは寝顔、風呂上がり、卓球!! 我慢できるわけねー……が多分手を出した場合、一番怖いのも桜乃ちゃんだ。
以上、僕の現在の苦悩である。
「まぁまぁ、そうピリピリしないでーまったりしましょうよー」
と、だらけ出すペルさ…………んん!?
「ちょ!!! ペルさん!!! 見えそうだから!!!!」
完全に服がはだけて中身が見えそうになるが、構わず眠ろうとする。
「だってぇ……ちょっとパソコンやりすぎて……目が疲れちゃったんですもんぅ……」
と、眠り出す。
「って!! ガン見すんなこのエロ魔人!!!」
「ほげっ!!!」
……この子、思いっきり木刀で頭叩きやがった……。
「……拓海の一件で反省したんじゃ…………」
「ちゃんと頭蓋骨割れないように手加減しましたっ!」
いや、軽く脳震盪するレベルは手加減と言っていいのか?
「ま、まぁまぁ……むしろエッチな気分になるのは健全な証拠ですわ……そこの無駄にでかいだけのおバカがだらしないだけですわっ!!」
っと、思いっきり花の女神の横っ面を踏みつける。
「ぶげらっ!! ちょ! テュールさん!! 今、顔踏みましたねっ!!!」
「手加減しましたわ……いいからダラダラしてないで“ぷろなふと”とやらを作りなさい!!」
「“プロテクト”ですよテュールさん! 要するに最初の神の干渉をできないようにするんです!!」
……異世界女神がプロテクトと来たか……。
「……思ったんだが、結局どういう風にするんだ?」
「前にも話しましたが、この世界はプログラミング言語を元に作られてます。アトゥム様は知らず知らずのうちに運命を作り、そこに最初の神は干渉していた。だから、ティエアの破滅の運命は切り替えることができなくなってます」
少しまとめると、こういうことだ。
アトゥムが知らず知らずのうちにストーリーを作り、その一部を最初の神によってすり替えられていた。
アトゥムも、最初の神も主人公と同じ”可能性“を持っているため、運命を動かすことができる人物だった。現にタクミは本来転生してからほとんど日もなく暗殺される運命だったそうだが、アトゥムの干渉により回避されている。
だが、それは最初の神も同じ。しかも、あっちのほうが世界構築の原理に詳しいため、運命の操作には長けているようだ。
そして同じ“可能性”を持ち、かつ神の加護がない主人公がティエアに現れると、その可能性を操作する絶対支配能力で操られるという仕組みらしい。
つまりは、可能性を操作する力を封じれば、こっちの勝ちということだ。
と、なるとスピカを女神にする方法もありそうだが、それは無理らしい。神になるには生きた年月も必要らしいのだ。現にテュールさんもペルさんも百歳を超えている。……見た目は僕達と変わらないけど。
「だけど……うまく行くのか?そんなので」
「一時しのぎにはなるでしょう……仮にプロテクトを回避する手段を見つけられるとしても、それまでに私達はティエアの全人類に可能性の力を与えるつもりです」
つまり現実世界とおなじ状態にする……ってわけか。
そうなれば、今の現実世界と同じで、最初の神は運命を操作することはできず、干渉も無意味だ。
いや、ある程度ルールづけがしやすい分、現実世界より強固なプロテクトになるだろう。
「そこから先は時間との勝負か……」
「はい……ですが、その部分については秘策があります。問題は今のところ、最初の神ゼクスがティエアを支配する前に、私がプロテクトを作れるかどうかにかかってます……」
「わかってるならサッサと作りなさいですわっ!!」
再びだらけてるペルを踏みつける法の女神さん。
「わかってるんですけどぉ!!! この世界のプロテクト系のプログラム難解すぎるんですぅ!!!! 参考資料ほとんどない状態なんですよぉ!!!!」
「……ん? ……いや、ちょっとまって……まさかとは思うけど……ペルさん、ウイルス対策ソフトとか解析しようとしている?」
「? ……ええ。そうしないと参考にならないじゃないですか」
…………ナチュラルにウイルスセキュリティ系ソフトを解析しちゃってんのかよこの人…………現実世界にいたら、ハッカーレベルだぞ?
「……すごいでしょ。うちのペルは」
こっそりと僕の耳元で囁くテュールさん。
「これでも女神になる前は落ちこぼれとか間抜けとか言われてたんですよ? ……だけど必至に努力して、回復魔法のスペシャリスト。そして今度は世界の理にすら手を伸ばそうとしている」
確かにすごい……周りの力や才能だけじゃない。そもそも、彼女にとって英語主体のプログラミング言語を覚えることは、相当な苦労だっただろう。
才能もあるかもしれないが、それだけでは片付けられない。
「私的にはもう少し、しっかりしてほしいところですけどね……まぁ、そこも含めて……認められたということでしょうね」
「女神……ペルセポネか……」
なんだか、彼女は本当に大物になりそうな気がする……。
「あ、そうだ!! 最近ちょっと面白いプログラム作ったんですよ〜!!」
「まった、あなたはぁ!! 寄り道ばっかりして!! もう少しまっすぐ頑張れないのですか!!!」
「ふぎぃーーーー!!! いふぁいでふぅ!!! ほっぺひっはらないでくらふぁいーーー!!!!」
……頑張ってるん……だよね?
「え? 前世占い?」
「そうです。私の魔法とプログラムを併用した施策一号です。これを使うと、その人の前世を知ることができるんですよ?」
「へぇ……ちなみにペルさんやテュールさんはなんなの?」
「私達には前世はありませんよ。だって、私達はアトゥム様に作られた存在ですから」
あ、そうか…………。
「ちなみに、健司さんの分見てみますか? って言っても、もう前世は判明してますけどね」
僕の分……須佐男のデータか。
「これが……」
須佐男……これが……。
赤い髪と瞳……鋭い目つきと鬼というより悪魔に近い二つのツノ。
だが……どこか僕に似ている……そして、何より。
「星井……早紀……」
「ど……どうして早紀さんがここにいるんですか!?」
賢者スピカ……ってかどう見たってこの子は……。
「まさか……早紀はスピカの生まれ変わりなのか!?」
「ありえませんっ!! そもそも早紀さんがいなければ、賢者スピカも生まれなかったはずっ!!」
そうだ……僕の場合はアトゥムの世界創生とは関係しない。だから未来から転生した須佐男と言われても納得できたんだ。
だが……星井早紀がティエアの住人だとしたら、因果が成立しない。彼女が星井早紀であるはずがない。
しかし……目の色は違えど、どう見たってこの子は星井早紀だ。
そして…………。
「…………偶然じゃない。……三人の運命は歪められていたんだ」
「結城拓海という……悪によって……」




