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第五十一話「死すべき幻影」〜健司視点〜

 時間は約一年前に遡る。


「君の友達を助けたくはないかい?」


 彼女は、たしかにそう言った。


 俺はそれにすがるように懇願した。彼が死んでまもない頃だったから尚更前が見えなくなっていたのだ。




「……ここは」


「そ、時詠神社。ま、私にゃお祭り以外に縁がないとこだけどさー」


「拓海を助ける方法がここにあるっていうのか?」


「んー。それはどうだろう? あくまで可能性に過ぎないかなー」


「どういうことだ?」


「歴史改変にもルールが存在するんだよ。いいかい? 君が過去を変えると必ず矛盾が生じる。その場合その矛盾を解消するための一時的な世界が発生してしまう。矛盾(パラドックス)世界(ワールド)っていうんだけどね」


 得意げに話す金髪少女。


「矛盾を解消するための世界……親殺しのパラドックスとか、そういう類の話か?」


「そうそう。親殺しのパラドックスは、”自分の親を自分が生まれる前に殺すとどうなるか“ってやつじゃん? その場合の答えは、矛盾を解消するための世界が一時的にできて、次第に自分自身が消えていく。これが親殺しのパラドックスの場合の解だね」


 僕が拓海を死なないように過去改変しようとすれば、その矛盾を解消するための世界が発生する。……そういうわけか。


「だけど、矛盾の世界で、さらなる大きな矛盾を発生させると、その揺らぎによって世界は元の世界……要するに過去改変前に戻っちゃうのさ」


「……大きすぎる矛盾を処理できずに、反射的に過去改変自体を無かったことにするというわけか」


「おお、理解が早いねぇ。まぁそういうことだよ。その揺らぎの主な発生原因は、過去改変を起こす元凶の死と過去改変に使用した魔道具の破壊だね」


 そう話すと、本殿の祠を開けて、中身を取り出す。


「そして、これがその過去改変に使用する魔道具ってわけさ」


 水色の鮮やかな勾玉を渡されて、僕は目を閉じる。ただでさえ胡散臭い話なのについていっていいのか?


「……本当に、僕が過去を変えられるのか?」


「おや? 自信がない?」


「と言うか僕は魔法の存在も信じちゃいない。今の話も、信じちゃいない」


「だろうねぇ……でも、ここはあの写真の通り信じてとしか言いようがないんだよねー」


「写真……」


 拓海が異世界転生している証拠の写真。


 彼女が言うには、この異世界に拓海がいるって事が拓海の魂が尽きていない証拠らしい。


 いわゆる運命論で消えた命でもなければ、寿命でもない。生きるはずだった証らしい。だから、ほんの少し改変すれば彼は生き返るそうだ。


 ……この女の目的は僕と同じ。友達の早紀を助けることだと言っていた。


「だが、なぜ僕なんだ? 僕には魔法はおろかその知識すらない」


「……そんなことはないんだよ」


「? ……どう言うことだ?」


「君は、死すべき(モータル・)幻影(ファントム)だからさ」


「……言ってる意味がわからない。どう言うことだ!?」


「まぁ、いずれわかるんじゃないかなー? それより、選択肢は君に預けたよ。アタシじゃ過去改変しようとした瞬間に死んじゃうから! んじゃよろしくー」




 そう言うことが一年前に起きた、そして数ヶ月間悩んだ末に、歴史改変を決行したと言うわけだ。


 だが、歴史改変は失敗。……それより、いくつもの謎ができてしまった。


 結局、東条佳奈美の目的はなんだったのか? 失敗したと言うのに、彼女は僕を全く責めなかった。それどころか、歴史改変をしても、彼女の当初話していた「友人の救出」は果たされなかったのだ。


 その友人はそもそも重病で、長くは持たなかったからだ。


 つまり、彼女にとって歴史改変されようがされまいが、ほとんど変化がなかったはずなんだ。


 だったら、僕になぜ歴史改変をさせた?


 そして、死すべき(モータル・)幻影(ファントム)とはなんのことだ?


 それにこの写真……彼女はどうやって手に入れたんだ?


 結局、いまだに多くのが謎になったままだ。




「…………」


 そんな僕の話を桜乃ちゃんも無銘も真剣に聞いてくれた。


「無銘。君は死すべき(モータル・)幻影(ファントム)について何か知らないかい」


「記憶検索……該当なし」


「そ……そうか」


 どうもこの子の言動に慣れない。……ってかどうにも胡散臭いんだよな。人なのに、わざとらしくロボットの真似でもしているかのような……そんな感覚。


「ともかく、一度今後の方針を明確にしましょう」


 桜乃ちゃんの言葉で我に帰る。


「あ、ああ」


 まず、第一目的は無銘をティエアに返すこと。


 そのためのキーワードは並行している異世界。東条佳奈美。そして、死すべき(モータル・)幻影(ファントム)


 とにかく、今、会うべきは東条佳奈美。あまり気乗りはしないが、無銘を元の世界に返すなら仕方ないだろう。


「とにかく、東条佳奈美を探す」


「そうだね……ん? ど、どうしたの? 無銘ちゃん!!」


 俺が振り返ると、無銘はとてつもなく恐ろしいものを見るかのようにブルブルと震えていた。


「ダメ……彼女……ダメ……無銘は接触できない!!!」


 立ち上がり、感電したかのように激しく痙攣をする。


「無銘っ!! しっかりしろ!!!」


「だめ!! ……エラー!!! エラー!!!! フレイアに会うことは禁止されている!!! エラー!!! エラー!!! え––––––––––」


 そのまま、糸がプツンと切れたように倒れた。


 それを抱きかかえると、再び高熱を感じて僕は困惑しながらも再びベットに運び込む。


 混乱する中で、腕の中の彼女がポツリと言葉にした名前に総毛立った。




須佐男(スサノオ)…………」




 ––––––––たしかに、無銘は僕に対して須佐男(スサノオ)と言った。


 僕が夢の中で出会った、もう一人の自分とやら。当然そんな夢の中の話なんて、僕は誰にも話していない。


 仮に寝言でも話していたとしても、それを僕の名前と認識することはないだろう。


「水汲んできたよ」


「あ、ああ。ありがとう」


 桶に組まれた水が僕の顔を反射する。


 波紋の中に映るのは確かに見慣れた顔のはずなのに、どういうわけか別の顔が見えてくる。


「……やっぱり、東条佳奈美に会うしかないんじゃないかな?」


「そう思うけど、やっぱりそれは出来ない。無銘のあの反応を見る限りじゃ……」


「……気持ちはわかるわ。けど……」


 そう、このままじゃお手上げだ。


 そんな時、僕のスマホに着信が来る。


「ん?」


 番号は非通知だ。どうにもタイミングが良すぎるような気がして、出るかどうかを悩む。


 桜乃ちゃんを一瞥すると、彼女も出るべきだと一つうなづく。恐る恐るだが、受話器のマークに指を添える。


「……もしもし?」


『……し……もし………っ!!』


 どうも砂嵐のような雑音がひどい。僕はその必死な声を聞き取ろうと片耳を閉じて聞き取る。


「もしもし? ……君は誰だ?」


『私の……を…………私のは……しを聞いて』


 少しずつノイズが晴れていく。その声になぜか聞き覚えがあった。


「もしもし? 君は誰なんだ?」


 息を飲みながら、もう一度尋ねる。


『私は……ポネ…………女神、ペルセポネです。神宮健司さん。あなたにお願いがあります』


「…………ペルセポネ?」


 まてよ……この子は確か矛盾(パラドックス)世界(ワールド)で拓海と一緒にいた……。


「待て待て待て!! 君は自分が女神というのか?」


『聞きたいことがあるとは思いますが、あまり時間がありません! 詳しい事情は数日後にまた連絡します!! 今はただ……私の言葉を聞いて、助けてください』


 その様子から、ともかく聞きたいことは山ほどあるが今は抑える。


「……わかった」


『あなたの世界に紛れ込んだこちらの世界の住人がいるはずです。まずは、彼女をしばらく守っていただけませんか?』


「守る? 誰から?」


『東条佳奈美という女性をご存知ですね?』


「ああ……まさか東条佳奈美が彼女の命を狙うと?」


『いいえ。まだ彼女は、その存在を知りません。だけど、いずれはわかるはずです。彼女に無銘さんが見つかってはマズイんです!』


「とにかく、佳奈美から無銘を隠せばいいんだな?」


『お願いします……彼女は、最後の切り札なんです』


「時間が許すななら、今度は俺の質問に答えて欲しい。死すべき(モータル・)幻影(ファントム)とはなんだ。無銘は何者なんだ? 君の世界でなにがあった? 拓海は無事なのか!?」


 震える声で問いただすも、聞こえてきた無情な砂嵐が冷徹にお互いの間を阻む。


『絶対お応えできるように最善を尽くします! だけど今は彼女を…………』


 そのまま会話は途切れ、無機質な機械音が鳴り響く。


 ……拓海。


 あいつのいる世界でなにかが起きている。そして、その影響は僕達の世界をも巻き込んでいる。


 眠っている無銘の頰に手を当てた。…………こんな小さな子が切り札。


 それがどういう意味かを知るには、もう少し時間が必要そうだ……。

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