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第四十七話「クソゲーヒロインの終焉」スピカ視点

 ––––––––私の存在はなんなんだろう?




 黒灰が漂う世界で、一歩地面を踏みしめる。




 ––––––––君はこの光景を知ってるはずだよ。




 そう、私はこの焼け野原を知っている。だけど知らない。


 なにかが私の足に引っかかった。見下ろすと、誰かの腕だった。その腕につけられている腕輪には見覚えがあった。


 エストギルドの受付嬢。ファレーナ。


 肩先からは消し炭となって存在しない。なのに、私はその光景に驚きもしなければ、泣きわめきもしない。


 ––––––––感情が停止してしまっている。




 ––––––––––––なぜ?




 お姉さんみたいで、すごく尊敬してたはずなのに……。まるで、感情がなくなって……壊れた自分を達観するように見ているようで、かなり奇妙な感覚だった。




 ––––––––––目を背けてはいけない。




 私は虚空に手を伸ばした。その先に光はない。




 ––––––––––君にその先を見る資格はない




 光を遮っているのは雲ではない。破壊の限りを尽くした死の灰だ。


 ふと不思議に思った。


 どうして私は無事なんだろう?




「そりゃそうだよ」




 ––––––––––––ああ、そうだった。



挿絵(By みてみん)




 この世界を壊した破壊神は……私だったんだ。








「ありがとうございます。ファレーナさん」


「いえいえ。これもお仕事ですから」


 私は伝票を受け取る。ビールの仕入れをしたので、その清算というわけだ。


「スピカさーん。お仕事おわりましたか?」


「あ、うん。もう終わるよ」


 ペルちゃんが覗き込んでくる。この後二人で買い物にいく予定だった。


「わぁ!! ファレーナさんどうしたんですかぁ!! そのステキな腕輪」


「ああ、これ。今日の朝もらったの。あの人の割にはなかなかのセンスね。気に入っちゃった」


「すごくステキですよ〜〜〜〜」


 確かにトランプのダイヤが連なったようなお洒落な腕輪だ。赤と金の見事な装飾が印象的だ。


「…………」


 だけど、その腕輪は見たことがある。


 昨日の夢で出てきた腕輪……私はその腕輪を見て、すぐにそれがファレーナさんのものと思った。


「っ! ……」


 あれは……本当に起きた事?




「うーん。夢でファレーナさんの腕輪をですかぁ」


「…………うん」


 ペルちゃんはパフェを頬張りながらも、真剣に聞いてくれた。


「最近怖い事ばかりですからね。考えすぎってことも考えられますよ」


「そりゃそうなんだけどね」


 どうもそうとは思えない。


「よしっ! こんな時はたっぷり遊びましょう!!」


「でも……」


 どうもそんな気になれない。あの夢のことが頭によぎってしまう……。


「本質的にわからない事を考えても疲れるだけですよ」


「え?」


「夢って考えてみれば、なんでも不思議なことが起きてすごく面白いんですよね。私なんか、ドーナッツの海に溺れ死にそうになったことありますよ。……おかげで、その日ドーナッツは食べれなかったんですけどね。たはは」


 なんともくだらない内容に、私達は同時に笑い出す。


「でも、だからといってドーナッツの海に私が溺れることなんてありません。ドーナッツには穴がありますしねぇ」


「あはは! そう言われてみればそうね」


「スピカさんの夢もきっとそうですよ。スピカさんが望んで破壊をしたなんてことありえません。まだ私がドーナッツに溺れる方が理解できますよ。きっと」


「……ありがと、ペルちゃん」


「どういたしまして! じゃあとりあえずドーナッツを食べに行きましょう!! 最近美味しいお店ができたそうですよ」


 そう言ってペルちゃんはすくっと立ち上がり走っていく。置いていかれそうなった私は「待ってよ! ペルちゃん」と言いながら慌てて追いかける。




 ……でも、もし望む望まないにかかわらず起きたことなら……私は……私でいられるのだろうか?




「はい……ええ、こっちは変わらないですよ? スピカさんも元気ですし……」


 ペルちゃんは、もはや恒例となった毎日のタクミとの電話をしていた。


 本当に便利だよなぁ……と感心しつつ私は会話の終わりを待つ。


「はい……うふふ……じゃあそわそわしてるし、かわりますね」


「そ、そわそわなんてしてないもん!!!」


 嘘だ。めちゃくちゃ楽しみだ。苦笑されながらもペルちゃんのスマホを受け取る。


「も、もしもし?」


『残念でした〜。ディーさんでした〜〜〜』


 …………怒りの、勢いで切りそうになった。


「……そういうのいいから」


『あ……あれ〜? ガチギレ?』


「い・い・か・ら・か・わ・れ!!!」


『わ……わかりました……』


 まったく……イタズラがすぎるわ。


『もしもし? わ、悪いな……どうしてもディーが声が聴きたいっていうもんで」


「もう……順番があるでしょ? こっちだって……その……た、タクミがいなくて寂しいんだもん……」


『うぐっ……す、すまん』


 うわーーーっ!! な、何言ってるの私!?!?


 寂しさが募りすぎて本音が隠せてない……ちょ、ちょっと落ち着こ。


『し、仕事は落ち着いたか?』


「う、うん!! 食材のストックも出来てきたし、あと二、三日でヴェスト出かける予定だよ」


『そっか……』


 あれ? タクミ寂しそうにしてる? ……もしかして……。


『んだよ! ディー!! からかうんじゃねぇ!!!』


 タクミのその叫び声を聞いて、私もペルちゃんの方を見る。……顔を真っ赤にしてニヤニヤしてて……うわーこっちはこっちで恥ずかしい。


「と、とにかくそういうことだから……そっちは何かわかったことはない?」




『とまぁこんな具合だ』


「賢者スピカかぁ……」


 ディーが賢者スピカを殺したってのはびっくりだったけど、洗脳を使う相手なら……そういう悲劇も起きてしまうかも。


「……どうも腑に落ちないね」


『だよな』


 どうやらそこは、タクミも同じことを思ってたようだ。


 アーノルドは、どうやって賢者スピカとスサノオを洗脳したのだろうか?


 現状わかっているのは、遺跡調査中に二人がディーに襲いかかった。ということくらいしかわかっていない。


「ディーには悪いけど……やっぱり遺跡に行くしかないんじゃないかな?」


『それは俺も考えた……だが、どうも違うような気がするんだよな』


「違う? どういうこと?」


『お前の考えはわかる。遺跡に罠や仕掛けがあって洗脳されるたってことだろ?』


「そうね。でもタクミは違うと思うの?」


『……多分違う。だいたい、それならディーも洗脳を受けてないとおかしい』


「あ、そっか……」


『どういう方法を使ったかはわからないが、ピンポイントで二人を洗脳している。しかも遠隔操作のようなもので』


「遠隔操作? どうしてそう言い切れるの?」


『そもそも、その時アーノルドは封印されていたからだ。少しの間だけ彼の封印が解けた形跡が見つかっているが、せいぜい数分程度。しかも、その場で移動した形跡もない』


「つまり、事前に洗脳していた……あるいは遠距離から洗脳を施した……って事ね」


『ああ……』


……だけど、それならば遠隔操作というのも微妙な説だ。


「だったら、ますます遺跡に仕掛けがある可能性が高いんじゃない?」


何かしらの仕掛けがあって、例えばゲームとかでいう”混乱“状態となって味方を攻撃したのでは? ……あ、でもアーノルドの洗脳がその程度なわけないか……。


『その後の調査でも、洗脳された人間はいない……なぜか賢者スピカとスサノオだけが洗脳されている』


 ……確かに考えにくいわね。アーノルドは今までの時間軸で何度も世界を滅ぼしている。それなら協力者が多い方がいいんじゃないの?


「……洗脳できなかった?」


『え?』


「洗脳できなかったって考えるべきじゃないかな?」


『洗脳できなかった……つ、つまりアーノルドは意図した人物を洗脳しているわけじゃないのか?』


「そこまではわからない……だけど、よく考えてみて? アーノルドはコジロウさんに封印されているのよ」


『っ!? そうか!! コジロウじいさんを洗脳しないのはおかしい』


「封印させた……そう考える事もできるけど、おそらくそうじゃない。コジロウさんを洗脳するには条件が足りなかったのよ」


 なんだ……何が足りない。


 頭に出かかっているのにわからない……。


 条件付きで強烈な洗脳魔法を使える……私はその存在に心当たりがある?


 だけど、結局その日散々話し合ったが、私達は答えに辿り着くことはできなかった……。




「お母さん。いる?」


 私は、結局答えが出ず、あの日慌てた様子で現れたお母さん……アトゥムに会いに来た。


 どうもお母さんは何かに気付いている。だけどそれを答えられないでいる。


 やっぱり、この人に話を聞かないと……。


 母さんの部屋の扉を開くと、その奥にいる存在に駆け寄った。


「っ!? 母さん!!」


 母さんは、とても酷い顔をしていた。まるで矛盾世界(パラドックスワールド)で絶望しきった時のように……。


「わかってしまった……何もかも……」


「わかった? なにかわかったの!?」


「ああ……アーノルドは……最初の神とか、そういう次元の存在じゃない。この世界の全てを思い通りにできる万能の神だったんだ」


「ど……どういうことよ!! きちんと説明してくれないとわからないわ!!! っ!?」


 母さんは……いきなり私を抱きしめた。


「よく聞いて……今から話すことは、あなたにとって、とても辛いこと……だけど、唯一の希望でもある」


「うん……」


「あなたは生涯……タクミ君を信じられる? なにがあっても彼を信じぬくことができる?」


 一瞬顔を赤くしたが……多分大切な事なのだろうと思い、真剣に答える。


「ええ……絶対信じ抜くよ」


「わかった……じゃあ、心して聞いて」


「……わかった」




「あなたは……これから死ぬことになる」




「え?」


「その運命は避けられない……僕……ううん、私も、その運命を変えることはできない」


「死ぬって……ど、どうして!?」






 そして私は、全てを聞いてしまった……。


 私はこれから死ぬことになる……それは確かに避けられないものだった……。


 アーノルドは……神とか、そういう次元の存在じゃない。


 あいつ……そして、この(破壊神)がいる限り、この世界に未来はない。


 私は……この世界の敵だったんだ……。







 こうして、私はこの世界から姿を消した。……この先に待つのは死。だけど彼のためなら、私はその道を喜んで進んでいける。




 彼なら、このゲームを……ゲームオーバーにできる。






 ハッピーエンドのゲームオーバーを……きっと見つけられるから……。私はそれを信じて死ぬんだ。







 精神……が……消えて……いく……。








 こわれ……て……。







 コワイ……な……。








 でも……こわ……く……ない…………。










 信じてる……からね……。

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