第三話サブストーリー ~スピカ視点~
サブストーリー ~スピカ視点~
「……ペルちゃんもう、タクミは帰ったし、マスターも実はもう先に帰ってるんだ……だからここにはもう、ペルちゃんと私しかいない」
静寂の中から、小さな嗚咽が響いてきた。
「年齢なんて関係ないよ。女神様だって、泣きたいときはあるもんだよ」
「えぐっ……でも私……ワダジぃ……ひくっ……女神なのに……なのにぃぃ~……うわぁーーーーーん」
子供の用に泣きじゃくるペルセポネをあやすように、私は頭をなでる。
「わかってる。みんなわかってるんだよ。ペルちゃんが頑張り屋さんってことはさ」
私も……頑張らないとだね……。
「お騒がせしましたぁ……ひぐっ……」
いや、まだ涙止まってないじゃない…………。
「ペルちゃんも大変だねぇ……落ち着くまで話でもする?」
「は、はいっ! 私、スピカさんのこともっと知りたいです」
「ん〜……私のことかぁ」
さて……どこまで話そうかな?
「……私は、タクミと同じ世界の出身って言ったよね?」
「ええ……」
元々中学生だった私は、病弱だったせいで友達が少なかった。
いつも貧血で倒れては病院に運ばれる日々……。運動なんてもってのほかだったし、仕方ないから家で一人遊びと料理ばかりしていた。
そんな私の唯一の親友は佳奈美くらいだった。
佳奈美は私と、とても仲良くしてくれて……彼女の趣味にもよく付き合わされたっけ?
あっちこっちに振り回されたけど、倒れそうになった時は看病してくれたし、家に引きこもり気味だった私にいろんな世界を教えてくれた。
お母さんも、昔作ったというゲームをいっぱいさせてくれた。
ただのRPG作成ツールで作ったフリーゲーム。ストーリーも、有名なRPGとは比べ物にはならなかったけど……沢山の愛情がこもっていた。
私は……その程度の幸せで十分だった。
だけど、私の病気は少しずつ蝕んでいって……ああ、私はこの病気に犯されて死ぬんだと思ってた。
だけど……。
「私は死んだ……何もできないまま……」
「スピカさん…………」
しかも、病気とはなんの関係もないところで……。
正直、人生を呪った。病死は仕方ない。もともと病気なのだから、まだ諦めがつく。だけど…………。
「……だから、私は新しい自分になりたかった。私の望んだこの世界で、精一杯幸せになりたい……そう思ってこの異世界に来た」
「新しい自分……」
そう……だから、私は自分の本当の名前を捨てた。
「新しい自分は、自分でもびっくりするほど健康だったから嬉しくなったよ。クエストにも何度か行ったんだよ!! ……まぁモンスターはものすごく弱かったけど」
「あはは……その辺はご容赦いただければ…………」
「タクミも大変だねぇ……まぁ、別の意味で無双できそうだけど」
それにしても……タクミかぁ……。
どこかで見た覚えがあるんだよねぇ…………。
「私の話もしたんだから、ペルちゃんの話してよ」
「わ、私の話ですかぁ!?」
「そうだよー。私だって話したんだからペルちゃんも話してよ」
「……そうですねぇ」
なんの話をすればいいか悩んでいるようだったから、私から質問をすることにした。
「女神って何人いるの?」
「え? うーんっとそうですねぇ……」
ペルちゃんの話によると、この世界の絶対管理権を持つ創造神。その下に女神が支えているらしい。
法の女神、テュール=ヴァイぜ。
戦の女神、フレイア=マルス。
花の女神のペルちゃんを含めてこの三人。それと、もともとは時の女神であったノルンって人もいたらしい。
なぜノルンさんが女神から外れたのかは、ペルちゃんにもわからないそうだ。
「へぇ……もっといろんな女神さんがいると思ってた」
「まだいっぱい作れるみたいですけど、アトゥム様が結構慎重な方なんですよねぇ……」
……まぁ安易に女神なんて存在作れるわけがない……ってことかな?
女神だったら色々権限もあるだろうし……簡単にはいかないのかもしれないなぁ……。
「ペルちゃんはどうして女神に……あら?」
ペルちゃんはすでに、うとうとし始めていた。
首ふり人形のように一定のリズムで睡魔が襲う。……仕事が残っているにもかかわらず、こっちまで眠くなってきそうだ。
「さてと……ペルちゃんを送りますか」
ペルちゃんを部屋で寝かせた後、私は改めて酒場の片付けを始めた。
「…………マスター。こんなところで寝ないでください」
と行っても、いつも通り起きる気配はない。
「いつもどおり起きないわねぇ……まったく」
受付の仕事を終えたファレーナさんが、頭を抱えながらも山盛りになっているお皿に向かう。
「あ、いえ。私が片付けますよ」
「いーのいーの。この酒場もエストギルド。ギルドの問題は私の問題でもあるわ」
と、有無を言わさず皿洗いを始めた。
ファレーナさんにやってもらってばかりではダメだし、私も皿洗いに参加する。
「タクミくんねぇ……なかなかいい子じゃない?」
「まぁ……いい人ではあるかな?」
「……狙ってるんじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
思わずお皿を落としそうになった。
「容姿も……まぁ悪くない。目つきはちょっと悪いけど、そこがキリッとしててよくない?」
「私は容姿だけで人を判断しませんっ」
んもう……恋バナ好きにもほどがあるわ……。薄紫の瞳が少し懐かしそうな瞳をしたので、私も少し聞き返してみる。
「そういうファレーナさんこそ、旦那さんとうまくいってるんですか?」
「んー。うちはボチボチかなぁ?」
「ボチボチって……ファレーナさん、またギルドのお仕事サボったんじゃ」
「ええー? なんのことかワカンナーイ?」
これは……まーた、サボってるなぁ。
「副業にばっかり力入れてたら、また怒られますよ?」
「大丈夫。今日のお仕事は、ちゃんと終わらせてきたから」
「威張るところじゃないですっ!!」
そうこうしているうちに、皿洗いは終わった。
「ありがとうございます。ファレーナさん。助かりました」
「いいのよこれくらい。……ねぇスピカ」
私は手に持ってる皿を置きながら、その赤紫の瞳を覗いた。
「……あなたを助けた人……早く見つかるといいわね」
私を……助けた人……。
「…………そうですね」
もしかしたら……もう見つかってるのかも……。
大した確証もないけど……やっぱり…………。