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第四十三話「クソゲー夫婦は超えられない」

「では、会議を続けましょう」


「「「…………」」」


 俺、スピカ、アトゥムの現実世界組は開いた口がふさがらない。こんなの見たことがない……いや、厳密に言えば何度も見たことがあるが……。


 まさに––––––––何という事でしょう!!


 異世界の会議室は、ペルによって一気に近代化。


 無駄に装飾の凝った中世ヨーロッパ風のデザインの会議室には、特大スクリーンで映されたペルのパワポ!相関図まで作ってものすごくデジタルで近代的っ!!


 ……パソコンだけならまだしも、ウンディーネの「水鏡の魔術」によって、モニターの映像は誰にでもわかりやすくプロジェクターのように大きく映し出されていた。


「……水鏡の魔術ってか、こうなったらもはや、ただの液晶だな。水だけに」


 本来“水鏡の魔術”他の空間の光景を水の中に映し出すものだが、霧の魔術との合わせ技で空間に映像を映し出しているそうな。


「その……現実世界とやらの技術はよくわからんが……なんというか、わかりやすいのう」


 といっても、映し出されているのは、さっき話した通りの内容を図式にまとめただけだ。


 アトゥムがRPGツクレールの世界を作った結果、異世界の創造神の敷居がものすごく低くなった。そのためすでに複数の創造神が存在している。


 そして異世界の設定は、割と融通が利くらしい。その観点から行くとアーノルドがルールガン無視で転生できるってのは非常にまずい。


「つまり、ワシらではかなわないほど絶望的な力の差を持った異世界人を転生させられると、大変な事になるわけか」


「––––––––それだけならまだマシなんだけどな」


 どう説明したもんかと悩んでいると、アトゥムが代わりに解説する。


「おにごっこはわかるかい?」


「え? あ、ああ。まぁそれくらいはわかるぞ」


 じいさんが困惑しながらも答える。


「おにごっこは、鬼に手を触れられると負けってゲームだ。シンプルでわかりやすいルールだけどRPGツクレールでは、それを模したゲームも作れる。その場合は鬼に触れられるとゲームオーバー……つまりは死だね」


「黒鬼か……」


 一時期かなり話題になり映画化までしたゲーム。このゲームも元々RPGツクレールの作品だ。そのゲームは、どうにかして鬼から逃げ続け、触れられないようにするってゲームだ。


 本来はホラーゲームで、鬼を倒すことが目的じゃない。そのため、黒鬼が無敵であっても問題がない。……だが、この世界に現れるとすれば、その無敵属性が、どの程度のものかわからない。


「おそらくそういう異世界を作ること自体は可能なんだろ? もしこの世界にそういう化け物が転生してきてしまったら……」


「鬼ごっこで負けた瞬間死亡……しかも相手は不死……なんて展開もありえるね」


「そ、そういうわけか……ふむぅ……」


 なんとか事態が飲み込めて頭を抱えるじいさん。対してウンディーネは納得できないように反論する。


「ま、まってよ!! それはあくまで、そのゲームでのお話しでしょう? いくらこの世界がゲームの世界でもそんな物理的に不可能なことが可能なの?」


「……今はその部分が未知って事が問題なんだ」


「あ……そ、そういうことね」


 そう、こればっかりは創造神でもわからない。特にアトゥムは神としてはまだ若いのだ。無理もない。


「現にRPGツクレールで同じような事をすれば触れるだけで殺す魔物をこのティエアに登場させることは可能だ。触れたらゲームオーバーフラグを立てればいいだけだから」


「最悪の事態を考えるなら、アーノルドはその黒鬼を、この世界に召喚する事が可能と思う方がいいじゃろうな」


 だが、同時に攻略できる可能性もある。……“黒鬼”にはRPGの戦闘はない。だったら、そこが攻略の糸口になるかもしれない。


 ツッコミどころは確かにある。触れるだけで殺せるなんて、物理法則どころか魔法的にもありえない類だ。そう行った全ての問題を超越した殺人が可能なのか? 仮に可能だとすれば、それは他人の作った異世界でも通用するのか?


 それにそんな化け物を召喚できるなら、なぜ、最初からやらない? 封印された後は仕方ないとしても……。


「ちょっとまて。それならなぜアーノルドを封印しておくんだ? そこまで問題なら……」


「アーノルドを殺せばいい。だけどそれは無理なんだ。神の加護によってね」


 神の加護……そういえば何度か問題となったな。


「神の加護はその人物が神、もしくは女神となった場合に自動的に付与される能力だ。効果は『死を含むありとあらゆるバットステータスを無効にする』ってとこかな?」


「ちょ!! なんだそのデタラメな能力!!」


「そりゃデタラメさ。神様なんだもの」


 いくら神様って言っても限度があるだろ……。


「でも……不死なんてできるの? この世界は確かにRPG作成ツールを元にしてるけど、原則として物理法則もあるんでしょ?」


 言われてみればそうだ。完全な不死なんて可能なのか?


「簡単に言うと、僕達、神の体は外部ストレージに常にバックアップされている状態なんだ。その神の意志でバックアップを停止することもできるけど、逆にそうしなければ、常にバックアップは行われる」


「つまり、神の意志とは具体的に『神に何かしらの異常があった場合、バックアップにあるデータを読み込んで復元する能力』って事か」


「そう言う事だね」


 なるほど、それならば事実上の不死はできるな。


「……ん? でも、それならお母さんは年齢の逆行によって死なないんじゃないの?」


「いや、その場合はバックアップの情報を上書きすることができない状態って思ってもらえればいい」


 パソコンで例えると、新型のパソコンで取った膨大なバックアップデータを、旧型のパソコンで移植できない……って事か。


「つまりは、僕のバックアップは残るが読み込めない……これが、僕を待つ死ってわけだね」


「……アーノルドの場合、タイムリミットなしで復活できるわけじゃな」


 なるほどな……おそらく一回目、二回目のループでは、捕らえるだけで問題ないと考えての行動だったんだろう。……今回のループで、この世界のルール等がはっきりしてアーノルドを殺さないといけなくなったが、すでに神の加護を持っていたというわけだ。


「正直封印もできるかどうか怪しかったけどね。どうも移動扱いになるらしいから、バットステータス扱いにならないらしい」


 なるほど……。


「アトゥムは、神となったアーノルドを殺す方法を知っているのか?」


「……いくつか候補はある」


 俺は息を飲んだ。軽く答えてしまったが、あくまでこれは神を殺す方法を話しているんだ。その思ったより壮大な話に体が震える。


「一つ目は僕自信が実証している。つまりアーノルドくんに時間遡行させる方法」


「あ、そうか」


 アトゥムも、それで寿命が発生している。それならば……。


「だがこれは不可能に近い。実際に時間遡行をするためには、アーノルドくん自身の意思が必要になる」


 時間遡行を強制的に行わせる方法は、今のところはないって事か……。


「次は降格。アーノルドくんを神にしたものの意思で、神の権利を剥奪する。この場合はフレイアになるけど、それも不可能だった」


「なぜですか?」


「おそらく、継承ではなく強奪(エクストーション)だったためだろうね。継承なら親子関係のようなつながりが発生するんだろう」


 俺は、その答えに違和感を持ったが言葉に表すことができなかった。……どうもなにかが引っかかる……。女神フレイア……か。


「そして、最後。これが一番の可能性だが……」


 一番の可能性と聞いて身構える。


「スサノオを復活させる」


「スサノオ……確か、じいさんの旧友で……」


「ティエアストーリーズ本来の主人公だ」




「主人公……ねぇ」


 宿屋の俺の部屋。スピカと二人、思いにふけっていた。


「なんか……とんでもない話だったね」


 ……神だけが見れる隠しステータスみたいな物があるらしい。その中で、世界に一人存在する唯一のステータス。主人公。


 そのステータスは、神の作った全ての事象を打ち消す事ができる。


 神の定めた運命(ストーリー)を乗り越える事ができる唯一の存在。それが主人公という存在だ。


 だが、主人公であったはずのスサノオはすでに死んでいる。おそらく、真っ先にアーノルドがスサノオを殺しに行ったのは、彼が“主人公”のステータスを持っていたからだろう。


「ショック?」


「わりとな」


 正直俺も期待されてんのかなーとか思ってたら……要するに俺のステータス高いから、スサノオが来るまでのつなぎって言われたようで……ちょっと悔しかった。


 本来主人公は、ある条件のもと継承する事ができるらしい。が、この世界の主人公はすでに死に、不在のまま時間が進んでいる。


「普通転生者って、主人公枠だと思うんだがな……」


 アトゥムの言っていた話だと、主人公であるはずのスサノオが死んだため、この世界がゲームオーバー。つまり崩壊へと向かっている可能性が高いらしい。


 ならばどうすればいいか。……方法は一つだ。


 主人公の死自体を偽証……いわゆる最初っから負けイベントだったという事にするわけだ。ゲーム的にはちょっと卑怯くさいけど、それで世界が救えるなら安いものだ。


 だが……その方法がわからない。蘇生する方法自体はあるそうだが、アトゥムは聞いても何も答えない。教えられないの一点張りだ。……どうもアトゥムは、スサノオ復活案に関して乗り気ではないような感じがするんだよな……。


「お前はどう思う? スピカ」


「そうね……そもそもスサノオさんって人がどんな人なのかもわからないし……」


「本当の主人公……スサノオ……か」


 ……そいつが主人公だとしたら俺は––––––何者なのだろうか?


「拓海」


 そんな不安そうな俺の心根を察したのかスピカ……いや早紀の声が甘く優しくなる。


「大丈夫だよ。きっと二人……ううん。私達だけじゃない」


「そうだな……じいさんに、ペル、ウンディーネにアトゥム……」


「フォルちゃんも忘れちゃダメだよ」


「はは……そうだな、フォルも大切な仲間だ……。みんなとならこの世界をきっと変えられるさ」


「うん……ところで拓海」


「なんだ?」


「いい加減この微妙な距離感なんとかならないかなぁ?」


 俺達はベットに腰掛けているのだが、やや大げさに離れている。……俺のトラウマスイッチが入らないように。


「ごめん! それだけは許してくれ!! いずれ慣れるから!!」


「はあぁぁ……なんでこうヘタレかなぁ……誰から進められるわけでもなく同じ部屋。二つあるベットのうち同じベットに腰掛けて薄着。……トラウマはわかってるけど、もうちょっと肉食になってもいいと思うよ? ……じゃないと、私に魅力がないみたいじゃない」


 俺はちらりと胸元を見る。一瞬吹き出しそうになったが、殺気を感じたので目を背ける。


「わ、わかってるんだけど……もう、そういう関係で普通なら肉体関係とかもってても、おかしくないって所まではわかるんだ……だけど……なんて言うか……その……」


「……そんなに怖いの? トラウマ」


 ずいっと早紀の顔が近づいてくる。鼻息が頰をくすぐり、なんとも言えない感触にたじろぐ。


「……こ、怖いってか……その……」


「なによ」


 上目遣い……ってかまつげ長い……目、こんなに大きかったんだ……。


「––––––––––ごめん……トラウマってのは嘘」


「嘘? どういう事?」


 首をかしげる仕草……上目遣いの顔がより一層愛らしくなる。


「なんか……は……恥ずかしいんだよ……悪いかっ」


「はぁ!?」


早紀は、呆れるを通り越して怒りまで来ているような声をあげた。


「な、なんだよ……その反応」


「拓海……あなたって……こっちが覚悟してたのがバカみたいじゃない」


「わ、わりぃ……」


 そっか……もうそういう関係なんだもんな……。


「今からでも……取り返せるか?」


「え? ……きゃ!!」


 ついに俺は、早紀を押し倒した。


 乱れた髪に……息遣い荒く上下する小さな胸……押し倒した勢いではだけた肌。


「……きゅ、急には……その……びっくりするんだからね?」


「急にじゃないだろ……そっちが誘ったようなもんだろ?」


「むぐっ……い、いいわよ……優しくしてよね……」


 これで行かなきゃ……男じゃないだろ!!


 そして、俺は早紀の口に……。


「タァーーーークゥーーーーミィーーーーーァ!!!」


 慌ててその声のする方に目をやる。


「ふぉ……フォル?」


 フォルは枕を抱えて、涙でぐしょぐしょになった顔で震えていた。


「オバケ怖いニャァ……眠れないニャァ……」


 俺は扉の先の廊下に目をやる……たしかに薄暗くてオバケでも出てきそうだ。


 すっかり二人の世界で、大人な雰囲気だった俺達は、どちらからともなく笑みをこぼす。


 ああ、子供ができたら多分こういう風になるんだろうなぁ……と。


「フォルちゃん。おいで。一緒に寝ましょう」


「ああ、俺達が一緒に寝てあげるから怖くないよ」


「にゃあぁーーーー!!!」


 恋人と、婚約者と俺……三人で寝る夜。文字にすれば、なんともいやらしくも見えるのに、なんて微笑ましい光景なのだろうか。


 まぁ、俺とスピカ……二人の関係は多分、スローペースで続いていくんだろうが……大丈夫だろう。多分。




 (あく)る日の朝食時。一線を超えていない俺達は、ウンディーネに「ヘタレ」だの「ビビり」だのメチャクチャになじられるのだった。

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