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番外編「その日現実世界では」~桜乃編~

「……お兄ちゃん。今日も報告するね」


 お兄ちゃんが死んでから()()()も経つのか……本当に月日はあっという間に流れちゃう。


 あの後、お母さんと……お兄ちゃんと一緒に事故にあった人のお母さん……二人とも行方不明になっちゃった。


 お父さん……いつも通りのフリしてるけど、だんだんやつれてきてる。


 私も……何とか学校に行けるくらいにはなったけど、心の傷はまだ残ったままだ。


「行ってくるね……お兄ちゃん」




 いつもの通学路……いつも通り遠回りのその道。


 この道なら、お兄ちゃんの死んだ交差点を通らなくて済む。


「あ……」


 健司さん……お兄ちゃんの親友だった人。


「おはようございます……健司さん」


「おはよう。桜乃ちゃん」


 今日の健司さんは、どうもすっきりしたような表情だった……。


「何かあったんですか?」


「なんでもないよ……そうか、桜乃ちゃんも、もうすぐ二年だね」


「そういう健司さんは大学生さんですね」


「まぁ、星陵のエスカレーター式だけどね」


 お兄ちゃんも生きていれば……大学生だ。


「よかったですね。楽に受験できて」


「えっと……一応ちゃんと受験するんだけどね」


 星陵の場合は学園生枠ってのがあるから、外部受験より有利なのだ。だけど、この人は外部受験でも普通に受かっちゃうくらい頭がいい。


「……やっぱりまだ拓海のこと気にしちゃう?」


「まぁ……多少は」


「多少ね……はは」


 嘘だ。まだ私の心に、思いっきり傷がついている。


「……拓海のことだからきっと……天国でも勇者になるとか言ってるんじゃないかな?」


「……言ってそうですね。全然平和なのに『平和なら、この平和を守る勇者になる!』とか言って」


「ああ、絶対言ってるな。……じゃあ、僕はそろそろ行くよ」


「ええ……」


 手を振って商店街のほうに歩いていく……ん?


「……学校とは反対方向」


 いや、卒業式終わったんだから別に悪くないわけだし……でも気になる。


 私はこっそり後ろをついていくことにした。




「って……何よここぉーーーー」


 という絶叫を、出来るだけ小声で叫ぶ。


 そういうのも健司さんのまじめな見た目とは、完全に場違いな場所。裏取引でもやりそうな、狭い路地裏だ。


 エアコンの室外機に身をひそめながらスマホをいじりだす健司さんを観察する。


「本当に一体何を……まさかっ!!」




 ~以下妄想~


「HEY! 例のブツはどこにあるミスター?」


「HA! 簡単には渡せねぇな! このWhite Powderは……」


「OK……ならばDUELで決着をつけよう……」


「OH……it's so COOL KID……」


「Ready? ……OK!! DUEL!!!」


 ~以上妄想~




「て……なんか唐突に、似非外国人的なカードバトル漫画みたいになったけど……」


 要するに麻薬とかそういう関係の……あ、誰か来た。


「––––––––––結局失敗しちゃったんだ……大したことないねぇ君も」


「すまない……早紀ちゃんを生き返らせることは君の望みでもあったのに」


 その言葉を嘲笑うような少女の声が聞こえた。


「私の望み? なんのことだい?」


「っ!? どういうことだ! 君がそう言ったから俺は過去を……っ!!」


「フッ……そう。そもそも早紀ちゃんはどうあがいても死ぬ運命なのさ……もともと私は、あの子の友達だってこと忘れてたのかい?」


「まさか……君は最初っから!?」


 怒りをぶつける健司さんにたいして、それでも余裕をみせる少女。


「なんにしても健司。君はもう用済みさ……もう君に出来ることは何もない」


「くっ……お前は何者なんだ!!」


「私は……かわいいかわいいJKだよん」


 その子は金髪のツインテールをふりふりと揺らしながら路地裏から出てきた。


「っ!!」


 目があった。まるで最初っから私が、ここにいたのを知ってたかのようにニヤリと笑う。


 だが、それも一瞬。気分よく鼻歌を歌いながら、雑踏の中に消える。


「な……なんなの!?」


 そのとき、地面を叩く大きな音がした。


「拓海……どうやらまだ俺の戦いも終わっていないらしい……」


「健司さん……」


 何がどうなってるのかわからずオロオロしている私は––––––––––––。




「東城……佳奈美っ!!」




 その名前だけを、心に刻み付けた。

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