第二十五話「神ゲーという名のクソゲー」~アトゥム視点~
~アトゥム視点~
気が付いたら、私は神になっていた。
実に下らない事だ。私が望んだ幸せなんて……この世界にはない。私が逃げただけの、空想の世界になんの意味がある。
……私の望んだ人はそこにはいない。ただ、無機質な効果音と、無機質な笑みを浮かべるだけだ。だけど、私ならその世界に命を吹き込めると知った。
だから、私は最初の神に望んだ。
私の世界ではなく、私の世界が存在するそれに、命を吹き込んでほしいと……。
その世界の名は「RPGツクレール」
そうだ、それはとても面白そうだ。多種多様な世界を枝分かれのように内包したその世界は、最高の私の遊び場となるだろう。
……そして、私の大事な“ ”を、きっと取り戻せるだろう。
––––––––––––––そう信じていた。
この世界の創造神となった割には殺風景な場所だった。
一面白の世界。何一つ存在しないこの世界で、ぽつんと私だけがそこにいる。
……ここが初期地点ってわけか。それにしても、この世界のルールは何だろう? 説明書もなし、まともなルールもわからないのにゲーム作れって無理やりすぎるでしょ……。
それにしても、おなかがすいた。カロリーメイツでいいから食べたい。
そう願うと、私の目の前で山吹色の箱が光と共に現れる。見慣れたそれを手に取り、一つ食べる。
それは、間違いなくカロリーメイツだった。しかも私の好きなチョコ味。……そうか。少し思うだけで物を作れるのか。
この調子で世界を作ってみよう。まずはそうだな……東の村、エストってのはどうだろう? そう思って、ちょっと休憩しながら村を作っていくと……なんだか楽しくなってきた。
村人はどんな人を追加しようか? 子供もやっぱり、いたほうがいいよね? ああ、種族も色々いたほうがいいよね。獣人族はどういう設定にしよう……? 動物なんだから、いろんな種類がいて当然だよね?
ああ、猫獣人族を”ねこじゅうじんぞく”ってそのまま読ませるのも芸がないね。ケットシーとしよう!
ケットシー可愛いっ!! モフモフかわいい!! よし気に入ったから村は京都風にしよう!! 京都っていえば、某ゲーム会社もあるし、ゲームとは切っても切れない縁だしね。
ああ、それからエルフは外せない!! ああハーピィはどういう設定にしよう。もちろん悪役の魔族も凝ったものにしよう。
……こうして、ティエアは作られていった。
そして、街を作りながら、私はあることに気が付いた。
この世界の住人はみんな意志を持っているという事。彼らには、紛れもなく命があるんだ。生殖活動もするし、食べ物がないと死んでしまう。
なんと生活の知恵も自分で作り出すこともあるらしい。最初に作ってそのままにしていたエストが、食糧難をいつの間にか池で釣った魚で飢えをしのいでいた。
でも、さすがにこのままだとかわいそうだから、小麦の作り方を教えておいた。今では広大な小麦農家が作られていた。
そして、いつの間にか小麦で得た知識と研究が実を結び、いくつもの農家が生まれていた。最初に農業がしやすいようにいい土を選んでいてよかった。
だんだん、この世界のルールについてわかってきた。
まず一つ、創造したものは基本的に取り消せない。
そして、私自身にもスキルが存在する。
神である私に与えられたスキルは創造……そして偽証。継承。転生。神の加護。ルール作成。
創造は無から有を生み出すことができる。やろうと思えば街まで作ることができる。
偽証はこの世界から一部の概念を消し去ったり、騙したりすることができる。やろうと思えば、魔法という概念を消し去ることもできる。
継承は、自分の能力やステータスの一部を与えることができる。
転生は、現実世界で死んだ人間や別の世界の人間を転生させることができる。こちらから送り込むこともできれば、逆にこちらから呼び寄せることもできる。……まぁちょっとめんどくさいルールもあるけどね。
神の加護は基本的に自分の作った世界では絶対に死なないし、状態異常にもならない。
ルール作成も重要な項目の一つだ。この世界の絶対順守のルールを作ることができる。
私は、一部の女性に神としての力の一部を継承して、女神にすることで、私の異世界の管理をより円滑に進めるようにした。
なんで女性限定なのかって? だって……男の子は怖いじゃないか。
こうして、時の女神ノルン、法の女神テュール、戦の女神フレイアが私の配下になったのさ。
楽しい時間は、あっという間に終わりを告げた。
また戦争が起きた。
私は何度か転生者を勇者として送り出したが、魔王による支配も蹂躙も止められない。
勇者といえば聞こえがいい。だが、みんなは一体何体の勇者をRPG内で殺した? この世界は異世界故にコンティニューはない。死ねば骸になるのは私達の世界と同じだ。
一体いつまで勇者達を苦しめればいい?
私は確かに神になったのかもしれない。
だがそれはこの世界の理を捻じ曲げれる万能の力ではない。
なにが神だ。ふざけるな!
私は考えた。どうしたら戦争のない世界を作れるか。
そうだ……みんな弱くなってしまえばいい!
どうすれば変えられる?
……レベルを偽証すればどうだろうか? その上で魔族や魔物のマナを奪う。
そのためにはまだ協力者が必要だ。
魔王サタンは、思いのほかあっさりと承諾した。彼らにとっては暮らしの確保、人間との理解ができればいいらしい。
連合国王も承諾させた。私の言葉に納得している様子ではなかったが、私は神だ。その気になれば蹂躙させ続け魔族だけの国にしてやる事も出来る。
あとは剣聖コジロウ。海の魔女ニョルズ。エルフ族の治癒術師ペルセポネ。魔族最強の男スサノオ。数多の知恵を持ち賢者と崇められる翼人スピカ。連王アーノルド。
男の子と話すのはちょっと怖いから、その時だけ青年のふりをして怖がっている姿を隠した。昔も同じようなことをしてたし……案外何とかなった。
それに、ここにはスピカがいる……彼女がいれば、私にも勇気が湧いてくるのだ。
––––––––––––––––この六人なら任せられる。きっと今から生まれる平和を守れる。
連王が裏切るなんて……一体いつ私の力を掠め取った!
スピカもスサノオも殺された。ニョルズはもう戦える年齢ではないし、継承者のウンディーネは……とても戦える状態ではない。
どうすればいいと悩んでいた所、ペルセポネが女神候補になってくれた。
そうだ、まだ諦めちゃいけない……きっとまだやれる事がある。
アーノルドはコジロウが封印した。あとは彼の手先さえなんとかすれば……。
なぜ“ ”がここにいる! ノルン! 君は誰を転生させたか、わかってるのか!!
ペルセポネが転生させた勇者も、あっという間に死んでしまった。……ステータスは高かった。だが最初っからアーノルドの手先によって狙われていたようだ。
ははは……こんなのあんまりだろ……
君が私の世界を壊すなんて、めちゃくちゃだ……あんまりだよ……。
ノルン? 一体何を?
……やめろ! その継承はしてはいけない! 君が壊れるぞ!!
やめて……やめてよノルン……私はあなたの事……。
本当の……親友だと思ってたのに…………。君がいなくなったら、この世界で私一人…………生きていけないよ。
ノルンーーーーーーーーッ!!!!
––––––––––––––ノルンに継承された能力は時間遡行。
それは彼女の存在意義そのものであり、彼女を形作る全てだった。それを私が継承してしまったため、ノルンはこの世界から完全に抹消されてしまった。
託された思いは、絶対に私が叶えてみせる!!!
時間よ!! あの時まで戻れ!!!!
私の世界を……いや、僕の世界をもう一度作り直す!! 今度こそ正しい姿に!!!
「創造の神の名をもって命ずる!! この世界を救う者よ!! 今再びよみがえれっ!!!」
「我が過ちを正すことができる真の勇者をここにっ!!!」




