第二十四話「クソゲーの正体はクソゲー」
「ケケッ……ケケケッっかっこいいぃ~~~ねぇ~~~!!」
「……かっこいい……か」
……とりあえず、間に合ってよかった。
いや……何が間に合っただ。何がっ!! どこが間に合ってる!!!
結局……修行しても、俺はまだ未熟なままだ。
だけど、それでも戦うのが……俺達の使命なんだな? アトゥム。
「……影ノ手か、便利なゲーム外スキルを持ち込んだもんだな」
「……ほう」
こんなスキル……こんなところで使うもんじゃねぇな。
「どんなスキルでも好きなだけ使え……どちらにしてもテメェの命運はかわんねーからよ」
俺は刀を抜いた。白銀の刃が雲間から漏れた、僅かな月明りを反射する。
そして鞘もベルトから外し、逆手に持つ。
「来いよ。下衆野郎。……遊んでやる」
「…………てめぇ、上等だ!!! 俺の影ノ手でひねりつぶしてやるよぉ!!!」
「……どうやってだ?」
俺はさっきから近づいていた細い影ノ手を、風の加護で切り刻む。
「なっ!!!」
俺の風の加護は近づいた敵を無差別に細断する。
「そんな腕、届かなきゃ意味ねぇよ」
「そんなんありかよ……」
俺は鼻で笑って見せる。
「テメェ……」
「さて、最後のチャンスだ。元の世界におとなしく帰るってんなら……見逃してやるよ」
この世界ではこいつを捕まえたところで意味はない。影ノ手は影があればどこへでも腕を生み出すことができる。この世界の軍では捕まえておくことは不可能だ。
「……わかってて言ってんのか?」
「さぁてね」
まぁ、わかってんだけどな。
『ルールブック 1-4:転生先で死んだ場合。魂は消滅し二度と蘇らない』
つまりこいつに自殺するか、俺に殺されるのか選べってことだ。……それだけじゃないけど。
「ふざけんな! テメェがどんな力を持っていようが関係ねえ!! 俺は、俺の好きなようにやらせてもらうぜ!!」
無数の影ノ手が男の体をつかむ。
「テメェとは戦わねぇ!! 他の村でまた楽しませてもらうさ」
「そうか……まだわかってねぇようだな」
だが、その無数の影ノ手は一瞬で掻き消える。
「な……に……」
男が空中で支えを失い、乱暴に地上に放りだされる。
「飛翔旋」
風の加護と俺の空気の刃“鎌鼬”それを組み合わせた技。間合いの外でも刃を届かせる一閃。切れ味も鎌鼬とは桁違いだ。
俺の……このゲーム内で作った……このゲームには存在しないスキル……ゲーム外スキル。
この世界だからこそ生まれた反則技。この世界の住人には物理的にも魔法学的にも不可能の技。
「テメェはもう、逃げることも許さねぇ」
「ひっ!!」
ああ……そうだ。
お前は、そうやって怯える人間たちを殺してきたんだ。
「最後のチャンスだ。俺には、スキルを消し去ることができる唯一の男を知っている。そいつに全スキルを消去させ、全ステータスもこの世界の平均値に合わせてひっそりと暮らせ」
そうすれば、こいつを殺さなくて済む。
「あ……うぅ……」
「死にてぇなら素直にそう言え……どうなんだ?」
「……俺には選べない……その選択しなんぞ、とっくに消去されてんだよぉ!!!」
奴の隠し持ってた短剣が、俺の心臓を捉える。
「タクミ!!!」
……結局、こうなるのか……畜生。
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「タクミ……わしの蛇翔撃は条件は厳しい。しかもかなり至難の技じゃ」
……じいさんの言う通りだ。このカウンター攻撃は条件が限定的且つかなり難易度が高い。
「じゃが、わしは決まれば必殺などと言うつもりはない。そも剣術はすべてにおいて決まれば必殺でなくてはならない。故に、確実に決める戦術とそれを実現させる能力が不可欠じゃ」
「……技を使うこなすと言うことは、やたらむやみに技を使えばいいと言うわけではない。……そう言うことだな」
「使えば必殺なぞ、剣術の世界において当たり前の話じゃ。そんなことを自慢する輩は弱い。技を極めるということは、そんな単純なことではない」
……俺の既存の技も、そもそも使えば必殺だ。
「その技を使う状況を引き寄せてこその剣術家……そう言うことだな」
「そうじゃ。……今お主が手に入れたワシの技とて、歴戦の戦士達のが作り出した技の中の一粒でしかない。それは、どんな技でも同じことじゃ」
俺は、静かに頷いた。
「……よし。お主の力で、ワシの技を自分のものに昇華させてみせよ」
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––––––––––––––双竜 蛇翔撃
奴の短剣を俺の鞘に納刀させ、俺の刀で奴の左肩から袈裟の一閃を加えた。
蛇翔撃……相手の突きを無効化し、動きを封じて絡めとる。
「蛇翔撃は少しでも狙いがズレれば失敗し、左腕を切ることになる危険な技じゃ。じゃが、極めれば問答無用で相手を剣を完全に無効化することができる……見事、己の技に極めたようじゃの」
間に合わせだったがな。だがまぁ、何とか自分の技にできた。
「タクミ……」
俺を心配そうに見つめる視線。
刃の血をはらい、納刀された短剣を鞘から抜き取って捨てる。
「君が無事でよかった」
俺は振り返らず、端的に話す。鍔が終了の鐘を鳴らすかのように静かに鳴った。
「タクミ……っ!!」
スピカの腕が後ろから包み込んで抱きしめる。
「なんだよ……俺は無事だぜ?」
「ううん。無事に見えないよ……もう雨……止んでるんだよ?隠せてないよ……」
「ばーか。頭まだ濡れてんだよ……それだけだ……それだけ」
ウンディーネが呼んだ雲はすでに晴れ、いつの間にか黒と白のコントラストを描き出していた。
その月明りが妖艶に輝いているのを睨みつけ、俺は手に持った刀を強く握りしめていた。
「……あんたがエルフの長老か」
思ったより若い。ペルより少し上くらいの見た目で嫌味ったらしい金髪ロン毛の男は不機嫌そうに答えた。
「……礼を言おう。タクミ=ユウキ。私は、このエルフの森の長老。エルサリオン=サイロスだ」
確か、例の大戦でほとんどのエルフが死に絶えた。しかもその後例のマナ消失の一件でさらに死亡率が増えペル以外の大戦時からの生き残りはもういない。だから、エルサリオンは大戦後にすぐに生まれた子供……まだ齢百にも満たないエルフとしては若い男。……おそらくは、そういう事になってんだろうな。
……だが、エルサリオンの本当の年齢は……おそらくはペルより上だ。
「だが……貴様には失望したぞ。ペルセポネ」
「…え?」
急に非難の声を上げるその男の矛先は俺ではなくペルだった。
「エルフの面汚しめ。よくぞおめおめと帰れたものだな! このエルフの里に」
「……それは」
「女神堕ちだと? ふざけるんじゃない……お前を女神にするために、どれだけのエルフが協力したと思ってる!!!」
「ごめんなさ……タクミさん?」
謝ろうとしたペルの口に手を当て、止めるように促す。
「ペルは謝る必要はない。ペルは女神堕ちなんてしてねぇからな」
「「「えっ!?」」」
その場にいるほとんどの人間が驚きで目を見開いた。
「そう……この世界は俺の最初望んだとおりの超ハードモードの世界なのさ」
俺の推理にスピカが反論する。
「ちょ、ちょっと待ってタクミ!! 確かに転生者って例外が発生しているけど、この世界は基本平和だよ? 大体それなら私は平和な世界に行けなかったって事じゃない」
そう、それが説明がつかない部分だった。……だがようやくわかった。
「スピカが今危険にさらされているのは、スピカ自身が事件に首を突っ込んだからだ」
「え?」
そもそも、アーノルドの一件も、スピカがアイテムの複製なんてやらなければ巻き込まれていない。今回の二つの襲撃事件も、スピカが関与しないでエストにいれば平和的に暮らせていたはずだ。……世界の終焉までな。
「ふふ……どうやら、答え合わせの時が来たようだね」
やっと来たか……クソゲーの神様。
霧が晴れるように現れた少年は、にこやかにそう答えると、各々驚いたり騒いだりとわかりやすい反応をしている。
だが俺だけは平然として、まるで事前に打ち合わせたかのように振舞っている。
「つまんない答え出さないでよね」
「……お前が言えた口か? アトゥム」
俺が平然とアトゥムと喋ってるのを見て、ペルとエルサリオンが驚き慌てふためく。
「ちょ、ちょっとタクミさん!」
「み、み、身分をわきまえろ!! そのお方をどなたと心得る!!」
「どなたって、アトゥムだろ? 創造神の」
笑いながら言ってみせると、流石に怒った創造神が言葉を投げ返す。
「笑う事ないじゃないか。ちゃんと僕だって神様してるんだよ? 君だって逆らったらどうなるかわかってるかい?」
「ああ、そうだったな。確かにこの世界からしてみたら神様だよ。あんたは」
「もー! まだ笑ってる! しょうがないなぁ君は」
と、談笑してる姿にペルもエルサリオンも開いた口が塞がらない。ウンディーネはため息をついてやれやれと言った様子だ。
「ちょっとタクミくん。いくらその子が子供っぽいからって神様なんだから。もうちょっとそれらしい態度があるんじゃないかしら」
「そ、そうよタクミ。いくらなんでもその態度は……」
「まるで友達みたい……か?」
スピカに対して俺はその言葉を投げ返す。その言葉に、何か気づいたようにハッとする。
「フフッ……どうやら、満足出来る答えが聴けそうだね。さて、ここでは些か風情に欠ける。場所を変えようか」
––––––––––––心理世界。一度俺が死にかけた時に来たのと同じ場所だ。
だが、その神秘的な世界も、今にして思えばこの場所はわかりやすいくらい単純な構造だ。……当然だ。何も作ってないだけなんだからな。
「さて、全員集まったね」
近くにいるのは、俺、ペル、スピカ、ウンディーネ、じいさん…………あれ?
「エルサリオンは?」
「彼は呼んでないよ。僕は彼があまり好きじゃないんだ」
俺達の会話に、ウンディーネが割って入る。
「で、こんな所で何を話そうってわけ?」
「大方この世界の正体って所だろう」
じいさんは俺が先にこの世界の正体を教えている。だから、即座に答える。
「その口ぶりだと、剣聖さんは知ってるようね」
「あくまでタクミ殿の推理が正しければだけどな。……にわかには信じられんが」
「……さぁ、聞こうか? まず率直にこの世界の正体はなんだい?」
アトゥムの問いに答える。
「この世界はRPGを元にした異世界だ。おそらく俺達のいた世界だけだったのが、創造の魔法によっていくつもの世界に分岐した」
「ふぅ……がっかりだよ。ありきたりでつまんない答えだね」
そう答えるだろうと思っていた俺は、ニヤリ笑みをこぼした。
「ああ、それだけだったらな」
「それだけ……どう言う事?」
「もしこの世界がRPGを元に作られた世界なら、あるものが足りないんだ」
「あるもの?」
スピカは俺がステータスカードを見ていたことを思い出したのか、自分のステータスカードを確認する。
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体力値:2436
筋力値:680
耐久値:1064
魔力値:1853
魔耐性:1724
俊敏性:1057
動体視力:1963
料理
錬成
創造
身体強化
治癒
炎適正
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「……あれ?」
どうやら、スピカも違和感に気付いたようだ。
「それはRPGにおいて一番重要視される数字。他のどんな数字よりも意識されるまさにゲーム世界においての最重要項目」
その存在がない事はあり得ない。
異世界転生もののアニメや漫画でも重要視され、主人公たちの行く末を見るために必要な数字となる。そして、本当に失われたのはこの世界のマナではない。おそらく、この世界の本来根幹を担ってきた最重要項目––––––––––––。
「レベルだ」
「あっ!!」
ようやくスピカが気付き、慌ててステータスカードを見直す。
だが、当然レベルの項目はない。そして、その概念がない事は周りの反応を見ても明らかだ。
「タクミさん……レベルってなんですか?」
「……海の魔女はどうじゃ」
「私も知らないわ」
この通り、この世界にいたものはすべてその存在に気付いていない。
「本来ペルやじいさんは、このレベルの存在は知っていたはずだ。だが、それはアトゥムによって抹消され隠匿された。そうだな」
「……バレちゃったか」
てへっとでも言いたげに舌を出して見せる。
「そう、僕がこの世界で一番最初に偽証したのは、レベルさ」
「ちょ、ちょっとまってタクミ!!」
スピカが、慌てた様子で手を挙げる。
「なんだ?」
「レベルがないってのはわかったよ? だけど、そんなRPGってあるの? アクションゲームとかじゃあるまいし」
「……いいところに目を向けたな。スピカ」
「いいところも何も、滅茶苦茶じゃない! それじゃあRPGの根幹にかかわることよ。この世界がゲーム世界ってのも怪しくなってくるわよ!」
「だが、それがあり得るRPG世界がたった一つだけ存在するんだな」
「……どういうこと?」
そう、結局はこれが最大の謎だった。
「今までのキーワードを集めれば、何のことはない」
だが、その答えは意外にもくだらない。だが、その答えがこの世界の本当の謎。
「転生先を選べるほどの数多の世界が存在し。レベルを隠すかどうかも……存在するかどうかすら自由自在」
「あ……」
「それはRPGにもなり、アクションゲームにもなり、ノベルゲームにすら変貌する」
「ああっ!!」
「その無限の世界を有した……だが本質はあくまでRPG。そして、フォーマットが同じだから自由に転生もできる」
「た、タクミ……まさかこの世界って!!」
「RPG作成ツールの世界だ」




