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第十九話「クソゲー主人公は魔王城で跪く」

第三章までのあらすじ(しつこいようですがタクミの妄想です)


 エストギルド主催フィッシング大会でも俺は無敵! 軽々と大物を釣り上げ見事優勝! その優勝商品の旅行券で水の都シーファトに観光に来た俺達。


 潮風が気持ちいい海岸で、海水浴、ビーチバレー、とどめのバーベキューを楽しんだ俺たち。スピカの力もあってまた一人美女が俺達の仲間になった!


 だけど、スピカも俺も、あの事故が忘れられないでいた。お互いに罪の意識を持つ二人。様子が気になってたウンディーネがスピカに声をかけるが、俺が死んだのは自分のせいだと逆に追いつめてしまい失踪する。


 だぁがぁ! そこは俺! タクミの冴え渡る頭脳がスピカの居場所を推理! 見事俺達は恋人になったのだ。……ちなみに某女神は迷子になっていたところを六歳児に助けられていた。


 そんな時、シーファトが襲撃された。俺は怒りに震え、謎の集団を撃退。シーファトは戦いの爪痕を残すこととなった。


 己の無力さに沈む中、創造神は語る。「この世界の真実に辿り着かなければならない」


 この世界は本当にただのゲーム世界なのか?

 それとも……?

 俺達はついに魔王城にたどり着いた。


 広い黒鉄の間は冷たく淀んだ空気を生み、張り詰めた緊張感がナイフのように突き刺してくる。深紅のカーペットが血の色のようで不気味な雰囲気をさらに高めていく。


「贄の準備を」


 闇のせいで顔がよく見えないが魔王が指を鳴らし、配下に命令をする。頬杖をつきニヤニヤと贄の登場を待ちかねている。


 だが俺もスピカも、女神であるはずのペルですら跪き、向かっていく事をしない。一切逆らうことなく、屈服し、配下のようにただひたすら頭を下げる。


 ついに贄が登場する。白目を向いた頭蓋がギョロリと見つめているようで不気味だ。


 その肉塊は赤々としていて、ただ贄を刻んだだけの単純なもの。


 それを鷲掴みにして、魔王はくちゃくちゃと食べる。


「あ……っ!」


「タクミ! ダメ……!!」


「けど……けどよ……クソッ!!!」


「タクミさん! ダメです……今は我慢ですっ!」


 だが、こんなのあんまりだろ?


 俺達を無視しているのか? 魔王はニヤニヤと赤身の肉にかぶりつき、にちゃにちゃと不快な音をたてる。


「やっぱ……限界だ……!!」


「タクミ……!!」




「食べる時は口を閉じろぉーーーーーーー!!!!」


「むにゅ?」


 視界が暗闇に慣れてきて、さっきから寿司をくちゃくちゃ食べていた魔王の姿がはっきりしてくる。


 濃いめの緑髪、思ったより小さなツノ、大きな目、褐色の肌、悪魔の翼、そして何より……フォルと負けず劣らずのロリっ子。


 そうロリっ子だ。


「なんじゃ? 主も食いたいのか? ほれ近うよれ」


「違う!! 食べる時は音をたてるなぁ!!」


「ダメです! タクミさん!! ……まだこんなに小さい子なんですからぁ」


 どこかほんわかした様子で、ペルが俺の腕を掴む。


「そうよタクミ! こんな幼い子なら仕方ない事なのよぅ」


「いーや! 三つ子の魂百まで! 今教えてやらないと一生そのままだぞ!」


 マナーは幼い頃に学ぶべきだって親父も言ってた! 今この子に教えないとずっとぺちゃくちゃぺちゃくちゃ音をたてて食べちゃう子に育ってしまう!!


「むう。妾はそんなにうるさいか? マモン?」


「いいえサタン様。うるさいのはそこの小僧にございます」


 俺はマモンと呼ばれた紫肌の執事を指差す。


「こらそこの付き人! 礼儀を教えるのも大事な事だろう!!」


「わきまえろ小僧! 魔王様の前であるぞ!!」


 いやわかってるけどさ……魔王とはいえ、ティエア連合国最北西のディスペラの国王だ。この世界では別に魔王も悪人ってわけじゃねぇから礼儀はわきまえないと……だけどさ。


 勇者目指してここまで来ただけに、魔王にこうして膝を折ってるのも結構辛いのに……畜生。


「よいよい。にしてもスピカとやら。この寿司とやらはなかなかに美味いぞ! このおっきな頭の魚は何という?」


「はっ! マグロと呼びます。魔王様」


 まるで臣下にでもなったかのように報告する。


「ほう! マグロとな? この黒のソースに酸っぱいライス。うーん実に美味じゃ! あむっ」


 そしてまたくちゃくちゃと……。


「んぅ……ふぃーまんぷくじゃぁ」


 満足そうに指についた米を舐めとる。


「して、聞きたい事があると言ったな? 申してみよ」


 俺はマナーの件を置いといて、本来の要件を伝える。




「ふむ……アトゥムがそんなことをのぅ」


「って、魔王様はアトゥムを知っているのか? ……のでありますか?」


 マモンとか言う臣下が睨みをきかせてきたので敬語に戻すが、魔王様はけらけらと笑う。


「よいよい。話しやすい言葉で話すがよい。マモンもあまり客人を睨むな」


「むぅ……サタン様がそうおっしゃるのであれば」


 納得してない様子で不服そうに答える白の短髪の執事。


「して、転生者の話じゃったか……」


 アトゥムの話にはいくつか疑問がある。


 シーファトを襲った集団が全員転生者であるという偶然。これはあり得るのかと言う事。


 次にアーノルド。偽アーノルドと言ってたが、どういう意味なのかという事。


 そして、最後にこの世界の正体。一体この世界は何なのか?


 俺はこの世界をゲームの世界なのではないかと推理している。だが、ただそれだけなのか? 俺は大きな見落としをしているのではないか?


「……まず最初の質問じゃが、お主らを襲った奴らが転生者である可能性は高い」


「そうなのか?!」


「むしろ、この世界の住人では剣聖コジロウ、魔女ウンディーネ、そしてそこの女神ペルセポネ。そやつらが例外なだけで、シーファト襲撃のような真似ができるものはまずおらん」


「いない? ……いやいや一人くらいはいるんじゃないのか?」


 ふざけてるのかとすら思ったが、あくまで真剣に答える。


「おらん。この世界は大昔……ちょうど百年前じゃったか。その頃の大戦以来すべての種族が力を失っておる」


「力を?」


「神の怒りに触れてな……。二度と戦争が起こせんように、力の根源であるマナが消滅したのじゃ。おかげで人間はともかく、マナ頼りなところが強かった魔族の力は激減。妾自身も力を失ってしもうて、降参するしかなかった」


 マナが消失……? マナってよくあるゲームの設定なら魔法の根源とかだよな? 一応マナとは何かを確認してみる。




 魔王様の話を要約するとこんな感じだ。


 マナとは言い換えるなら生命力と言えるらしい。この世界の住人は空気中のマナを使い、力を得ていた。魔法はもちろん、物理ステータスも空気中のマナを使って強化していた。


 RPG風に言うと、空気中のマナが経験値を担っており、戦闘や修行、はたまた運動などをすることによりマナを経験値として吸収。ステータスを一気に上昇させる仕組みらしい。


 だが、マナの発生源であるクリスタルが消失。それによって、ある一定以上のステータスを得ることが極端に難しくなったそうだ。それが、この世界で戦闘系のクエストが少ない理由らしい。


 要するに、犯罪をしようにも鍛えることができなさすぎて、盗みも簡単に防がれてしまう。当然殺人やテロなんかもステータスに個人差がほとんどないこの世界では、数に物をいわせる軍にかなうわけもなく激減。


 ちなみに魔法については自身の体内のマナにより発動できる。なお、生命力(マナ)と体力値……いわゆるHPは関係なく、これまたゲームに例えるとMPが隠しステータスのようになっているらしい。なので、ステータスの魔力値、魔耐性が高い人間でも魔法が使えないという事はあるそうだ。


 さて、ここまで話すといくつか疑問が出るだろう。


 人間、と言うよりほぼすべての生命は成長をする。ならばこの世界の成長とは何か?


 これについては俺達の前の世界の成長システムと大まかな部分は変わらない。ただ筋トレをしてもある一定の数値まで行くと成長しなくなる。


 まるで各種族で限界値が設定されているような状態らしい。


 次の疑問はコジロウ、ウンディーネと言う例外である。


 コジロウについては単純だった。百年前の大戦から生きていたからだ。ペルセポネについても同じ理由だ。だが、百年前から生きているのは、もうこの地上では何故かこの二人だけらしい。


 ウンディーネについては魔王様でもわからないそうだ。これは本人に聞いてみよう。


 さて、ここまで説明すれば、この問題がいかに深刻なのかがわかるのではないだろうか?




『ルールブック 1-1:原則として、筋力や基礎体力、骨格、外観、素質は転生前の能力が引き継がれる』




「つ……つまりこの世界の住人は転生者についてほとんど無力に等しいって事か!?」


「そういう事じゃ。コジロウとウンディーネ、あとは数名のこちら側の転生者によって平和は守られていたが、基本的に転生後は何をしてもよい事になっておる」


『ルールブック 3-1:転生後転生者が何をしようとも女神の意志で世界に直接干渉してはならない』


「つまり、世界征服などというバカげたことを考えても、一切不思議ではない。その証拠がこれじゃ」


 魔王様は何かを投げつけてくる。それはこの世界の実情を知るにはあまりにもたやすいたった一枚のカードだった。


 ========


 体力値:400

 筋力値:500

 耐久値:500

 魔力値:650

 魔耐性:650

 俊敏性:600

 動体視力:500


 ========


「妾のステータスカードじゃ。特殊能力については伏せさせてもらったが、お主のステータスと比べてみよ」


 ========


 体力値:3454

 筋力値:2984

 耐久値:2735

 魔力値:150

 魔耐性:300

 俊敏性:2357

 動体視力:2684

 特殊能力

 風の加護

 錬成

 見切り

 夜目


 ========


 こんなの比べるまでもない。


 魔力値、魔耐性が俺の場合この世界の平均値だ。だから、魔王より低くて当然だ。


 だが、それ以外は……。


「妾のステータスはこれでも魔族随一じゃ。わかったじゃろ? この世界の異常性が」


 もし、転生者の中にこの世界を支配しようとする奴がいれば、いつでも支配できる………そのレベルの危険に拳を握る力が強くなっていく。


「すでに転生者からの被害は少なくはない。その最たるものはお主の戦った偽アーノルドじゃ」


「そ、そうだ! 偽アーノルドってどういうことだ?」


「言葉通りの意味じゃ。奴はアーノルド=シュレッケンではない」


「なん……だと……?」


 俺は愕然とする。あれだけ苦労して倒したアーノルドが偽物?


「奴は配下の男で、自らアーノルドを名乗り暗躍していた。本名が不明じゃがな」


「なら、本物のアーノルドは……」


「………奴の洗脳魔術の力は異常じゃ。もし、お主が対峙したのが本物なら、お前の意志とは関係なく洗脳されていたじゃろうな」

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